351:エルフ塔主にも動きがあるようです!
■クラウディア・コートレイズ 127歳 エルフ
■第475期 Sランク【緑の塔】塔主
「ではクラウディアのSランクと、二人の新塔主内定を祝して……ご愁傷さまかもしれぬが、乾杯としよう。乾杯!」
「「「乾杯!」」」
エルフ七名が集まっての互助会は塔主総会の数日後に開催された。
二人の新塔主――【清泉の塔】のエルメリア・ファンデワース、【守り人の塔】のキーリオ・ホルレイク――には私からエルフの互助会に関する誘いを手紙で送ったのだが、二人とも即日で返信があったのだ。
やはりプレオープンは厳しいものだったようで、一週間後に迫ったオープンに向けてアドバイスが欲しいとか、助けて欲しいとかそういった内容だった。
そう聞くとアリシア、ミケル、エレオノーラを放っておいてしまって申し訳なかったなという気持ちになる。
やはり互助会を立ち上げたフッツィル様は酔眼だったというわけだ。
一方で私のことも皆に心配された。私自身驚いたからな、Sランクというのは。
まぁ半分は神の悪戯が含まれているのだろうが、私は別にSランクを目指していたわけではないからな。むしろ「あー、ついになってしまったか」と溜息を吐いたほどだ。
AランクとSランクでは全く世界が違う。
塔の規模も違うし、創りかえる量も違う。最初は貯蓄TPにものを言わせ強引に創るしかない。
侵入者にしてもAランクとSランクではかなりの差がある。化け物ばかりだ。
【火】の
塔もそれに準じたものにしなければならないということだ。
そういったわけで私も今は忙しいのだが、こればかりはすぐに完成する話でもない。じっくりと塔を創るしかないのだ。
取り急ぎ下層だけを修正してあとは徐々に改装していく感じだな。
だから互助会については通常通りに行うことにした。新塔主二人のためにも。
「改めて、【清泉の塔】のエルメリア・ファンデワースです。よろしくお願いします」
「【守り人の塔】のキーリオ・ホルレイクです」
「皆は二人と面識があるのか?」
「エルフの里の者は大抵知った顔ですよ」
「なんじゃまたわしだけ除け者か」
私が里にいたのは二十八年も前のことだがもちろん私も二人のことを知っている。
一番若いエレオノーラにしても五十二歳だからな。フッツィル様も同年らしいが。
そのフッツィル様に関しては互助会のこの場で初めて伝えた。アリシアたちの時と同じように呼んでから「実は【輝翼】のフッツィルはハイエルフなのだ」とバラす形。
さすがに事前に手紙で伝えることはできない。こうする以外にないだろう。
エルメリアとキーリオにとってもハイエルフなど伝説のような存在だから大層驚いていた。
無理もない。私とて未だに違和感を覚える時がある。
精霊に最も近しいエルフというのは神にも等しい存在なのだ。それがこんなにも身近にいるというのは信じがたいと。
しかしフッツィル様はいつも通り、新塔主の二人にも気軽に話しかけておられる。
特別扱いを嫌う御方だからな。気楽に和気藹々とやるのが正しいのだろう。
少し前までは考えられん光景だがな。エルフ塔主がこうして集まり、皆で談笑するなど。
本当にフッツィル様には感謝してもしきれないな。
最初にこの互助会の目的と気を付けるべきことを教えた。
エルフ同士で助け合って強い塔を創ろうだとか、共に生き抜こうだとか、情報共有しようだとか、あとは普通にお茶でもしようだとかそういうのが目的だな。
今の二人には特に必要なことだろう。今回の互助会はオープンに向けた二塔の確認が主となる。
あと気を付けるべきこととして、塔の外であまり目立たないようにするだとか、あまりエルフ同士で接触しないだとかもあったのだが……。
「えっ、この互助会は大丈夫なのですか?」
「その説明をするのに限定スキルというものを話しておかねばならぬ」
「あっ、あのスキル取得リストの中のすごく高価なやつですか」
限定スキルは高ランク塔主であれば誰でも取得しているものだが、その性質は千差万別。
中でも諜報型限定スキルと呼ばれるものは、塔主が入ることのできない他者の塔の中までを覗き見できたりもするわけだ。
そうなると秘密が秘密でないのと同じだし、わざわざ隠れる意味合いも薄くなると。
実際フッツィル様がハイエルフだと知っている塔主もいるだろう。この互助会を覗いている者は私たちの関係性も知っているはずだ。
それはエルフにとっての危機となりうるのだが、一番危険なのはハイエルフであるフッツィル様に違いない。私たちとは存在価値が違いすぎる。
だからこそフッツィル様は自らを餌に、この互助会を開くことにした。
エルフにとっても利点は大きいし、エルフを狙う輩を釣りだすことにもなりうるとして。
「はぁ~なるほど……なんかすごく大変なんですね、バベルって……」
「塔主になってみないとそういったことは分からんからな。外からは輝いて見えても中に入れば悍ましいものだ。だからフッツィル様もご愁傷さまと仰ったのだが」
「その、互助会を開く理由は分かったのですが、なぜ同盟としないのですか?」
それは私に責がある。必要以上にエルフ同士の繋がりを恐れてしまったことで同盟を悪手だと断じてしまった。
同盟通知は塔主全体に行きわたるし、そうなれば欲深い人間の標的となってしまうとな。
実際に【魔術師】同盟や【霧雨】同盟はその通りだったのだが、他にいてもおかしくはない。
それが今も同盟を組んでいない理由なのだが……一方で不利益もある。
情報共有は少なくなるし、回り回って塔を危険に導くこともあるのだ。
エレオノーラがいい例なのだが、距離を開けることを意識しすぎた結果、塔運営さえもままならなくなってしまった。
「――というのが理由なのだが、私としては今一度改めるべきかとも思う。皆の意見を聞きたい」
「えっ、組んでいいのですか? その場合はクラウディアさんも?」
「例えばエルフ全員が同じ同盟に入ったとして、利点は確かに大きい。一方で他塔主から狙われやすくもなると思う。
「それこそ限定スキルとかですね」
「そうなった時に狙われるのは低ランクの塔からだろう。防ぐ術を持たないからな」
諜報型限定スキルの対処法は防御型限定スキルが一番だが、限定スキル自体、持っているのはアリシアだけ。
他の対処手段――例えば<悪意感知>や<魔力感知>にしても魔物が充実していなければ揃えることなどできない。
エレオノーラすら怪しいものだ。新塔主の二人が防げるはずもない。
完璧に覗き見・盗み聞きができるヤツならばフッツィル様を狙うだろうが、単にエルフを狙うだけのヤツならば間違いなく新塔主を狙うだろう。
そう考えた時、注目度を低くする意味で、私を同盟に入れないという選択肢も出て来るのだ。
「――と色々考えてみたのだが私だけでは答えが出んのだ」
「わしは同盟を結ぶべきじゃと思う。もちろんわしは入らぬが、六塔同盟とすべきじゃろうな」
「フッツィル様もそうお考えですか」
「確かに危険な面もあるが昨年に比べればマシではあるし、それよりも利点のほうが大きい。わしはすでに同盟に入っておるが、毎日画面を共有し相談しながら塔運営をするというのは、間違いなく大きな支えになる。それは保障しよう」
「それほどですか……」
「特に新塔主の二人やエレオノーラに関しては、疑問や悩みがすぐに解決できる環境というのが望ましい。今のままじゃと悩んだところで月に一回の互助会を待つだけじゃからのう。それでは遅いと思うのじゃ」
エルフの身からすると月に一回というのは随分と早いのだが、フッツィル様はあの同盟と深く関わっている分、時間の感覚が私たちより鋭敏なのだ。
だからこそ動いたり考えたりが他の者より速い。なにもハイエルフだからというだけではないだろう。
「皆はどう思う?」
「私は賛成です。今さら感もありますけど私も助かるのは変わりありませんし」
「俺も賛成ですね。でもクラウディアさんに負担が掛かりそうで、そこだけが不安です」
「あたしはもちろん賛成です。あたしにとっては利点ばっかりですし」
「私はまだよく分かっていないのですが助けて頂けるのならありがたいです」
「俺もエルメリアと同じです。正直まだ知らないことばかりなので教えて頂きたい」
なるほど、塔運営に関する不安が大きいのだな。互助会では足りないと思うほどに。
「であるならば是非もない。六塔同盟として結成しよう」
「「「おお!」」」
「互助会は開いてくれよ? でなければまたわしが除け者になるからのう」
「それはもちろんです。こちらこそよろしくお願いします」
同盟か。まさか二十八年目にして私が同盟を組むことになるとはな……なんとも不思議な気持ちになるものだ。
塔に帰ったら早速申請するとしよう。
■フッツィル・ゲウ・ラ・キュリオス 52歳 ハイエルフ
■第500期 Cランク【輝翼の塔】塔主
『神様通信
【緑の塔】【聖樹の塔】【紺碧の塔】【春風の塔】【清泉の塔】【守り人の塔】が同盟を結びました!
以上お知らせでした! 神様より』
「おおー、壮観じゃのう」
「【緑】同盟ですか。SBCDEF、かつてない幅広さですな」
「Aランクがもう一塔欲しくなるのう。そうすれば全制覇じゃ」
などとゼンガー爺とふざけてみたが、めでたいことには変わりない。
クラウディアは今まで二十八年も一人でやってきたのじゃ。同盟を組むことに不安もあるじゃろうし、一人のほうが安心できる部分もあるじゃろう。
しかしそうした気持ちを抑え、同盟に踏み切ってくれたことに関しては感謝せねばならん。
Sランクに上がって忙しいのに申し訳ない気持ちもあるんじゃがな。素直にありがたい。
他の者たちにとって同盟は大きなプラスになるじゃろう。間違いなく塔は安定するじゃろうし、強くもなる。
クラウディアにも利点がないわけではないしな。それは実際に塔運営をし始めてから気付くじゃろう。
何にせよ、特に新塔主の二人にとって助力となったのは間違いない。
話を聞くに、やはりプレオープンでは死に目にあったようじゃからな。エルメリアは実際に殺されるまでは至らなかったらしいが。それでも恐怖を感じるには十分だったらしい。
オープンには自信を持って臨みたいじゃろうからな。
今の不安な状態のままでは厳しかろうし。
わしからしても実は六塔同盟というのはありがたい。ファムで色々と覗き見する手間が省ける。
今まではあっちを気にしてこっちを気にしてとやっていたからのう。
同盟の画面通信は互いに監視できる体制を整えるということじゃから、わしがどうこう言う必要もなくなると。
それに互助会が純粋にお食事会みたいになりそうじゃしな。
なんなら『会談の間』ではなくバベリオの街で食事する未来もありえる。
……さすがにエルフの皆で街に出ることはあっても、わしがそこに付いていくわけにはいかぬか。
まぁそこは妥協するしかあるまい。いつまでもフードを被っていたくはないんじゃがなぁ……。
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