新米女帝の塔づくり！～異世界から最強侍女を喚んじゃいました～

275：なかなか話はまとまらないようです！

■ファモン・アズール　35歳

■第493期　Ｂランク【轟雷の塔】塔主

「限定スキルと神授宝具（アーティファクト）の使用を禁止！？」

　【女帝】からの返答が来たが、その内容は修正案ではなく条文の追加だった。

　それをもってカラーダイス殿、ドミノ殿と改めて協議をしている。

『我々が限定スキルに関する条文を追加したから、でしょうな』

『こちらばかりでなくそちらも使うな、と。これで向こうに塔主戦争（バトル）に使えそうな限定スキルがないのは確定しましたが……』

「我々にとっては手痛いですね」

　私たちが懸念していたのは【女帝】以外の同盟塔が何らかの形で介入してこないか、ということだ。三塔vs一塔という構図を確かなものにするために。

　実際に戦うのは【女帝】だけで間違いない。

　しかし仮にも同盟戦（ストルグ）を謳っている以上、同盟塔が【女帝】のサポートをする可能性はある。条文の隙を突くような真似は反則と言えないのだから。

　魔物をはなから【女帝の塔】の援軍として譲渡したり、限定スキルや神授宝具（アーティファクト）で援護したり、何かしらの方法でバフをかけたり……そういったものを総合して『限定スキル等（・）による参加戦力の強化も禁ずる』としたのだ。

　それを【女帝】が修正しなかったということは「同盟塔にそのような術はない」ということだ。

　もしくは「持ってはいるが使う気がない」という可能性もあるがそちらは限りなく低いだろう。

　いずれにせよ【女帝】は単独で戦うという意思を見せている。

　その一方で『限定スキルと神授宝具（アーティファクト）の使用を禁止』という条文を追加してきた。

　【女帝】自身も塔主戦争（バトル）で使えそうな限定スキルがないと告げているのと同時に、こちらが不利になるように仕向けてきたのだ。

　カラーダイス殿とドミノ殿が神授宝具（アーティファクト）を持っていることはリストを見れば分かる。

　そして限定スキルを持っていると疑われている。加えて言えば限定スキルの恐ろしさを知っているということだ。

　今まではこちらの条文をほぼ受け入れていた【女帝】でも、自分ばかりあれこれと条文で縛られる現状というのはさすがに看過できなくなってきたということだろう。

　敵方――つまり私たちにも何かしらの制限をしなければ危うい。

　自分にとって不利にならず、敵方だけが不利になるような条文を……と考えた結果が『限定スキルと神授宝具（アーティファクト）の使用を禁止』となったに違いない。

　さすがにこれを受けることはできない。

　見事なまでにこちらの急所を突いてきているのだからな。

　私の限定スキル＜伝導雷針＞は諜報型だが塔主戦争（バトル）ではほぼ使用不可だから問題ない。

　神賜（ギフト）も神造従魔（アニマ）なので私個人で考えれば何の痛痒もない。

　ドミノ殿の神授宝具（アーティファクト）【召喚の書】は特定の塔主の魔物召喚リストを見ることができる効果だが、調査目的で使うものなのでこちらも塔主戦争（バトル）には関係ない。

　限定スキルも持っていないのでドミノ殿も全く問題はない。

　しかしカラーダイス殿が痛すぎる。

　神授宝具（アーティファクト）の【真空の刃】は風魔法＜風の刃（ウィンドカッター）＞の強化版を剣から放つようなものだ。

　これでＳランクの魔物を斃せるかと言われると難しいが、最終手段や自衛のためには必要なもの。

　そしてカラーダイス殿が持つ限定スキル＜白昼夢の空＞。

　最近取得したばかりの限定スキルだが非常に強力で、これがあるから【彩糸の組紐（ブライトブレイド）】を狙おうとも思ったのだし、【空白の塔】は次には間違いなくＢランクに上がるだろうと思える要因でもある。

　効果は『自陣の指定箇所の空間を幻覚とする』というもの。

　ようは階層指定やエリア指定をして敵を″幻惑状態″にするということ。超広範囲に闇魔法のデバフを掛けるようなものだ。

　敵は順路も分からず、魔物が近づいてもそれが魔物と認識できない。

　強力すぎるため侵入者相手の通常営業では大っぴらに使えないが塔主戦争（バトル）となれば話は別だ。おそらくカラーダイス殿は本気で使うだろう。

　何よりありがたいのが『自陣』という点だ。『自塔』ではない。同盟塔にも有効だということ。

　だからこそ最初に代表塔を私の【轟雷の塔】にしたのだし、【女帝】が三塔を攻略すると言ってもそれを認めたのだ。

　＜白昼夢の空＞を使った塔が三塔にもなればそれを全て攻略するなど不可能。

　消費するＴＰの関係上、三塔の全階層に＜白昼夢の空＞を掛けることはできないと思うが、それぞれの塔の適した階層に掛ければより効果は増すだろう。

　それを必勝の策としていたわけだが……。

『追加となった条文自体を破棄したいところですな。百歩譲って神授宝具（アーティファクト）の禁止は受け入れるにしても限定スキルの禁止は頂けません』

『ただそうなると「こちらは限定スキルを塔主戦争（バトル）で使う」と言っているようなものですぞ』

「そう思われても対策のしようもないのでは？　いずれにせよ戦うのならば限定スキルは必須です」

　議論は続いた。

　この機会を逃さず、私たちが全力を出せて【女帝】を負かすことのできる方法を模索し続けた。

　返答を出すには時間がかかりそうだ。

■シャルロット　16歳

■第500期　Ｂランク【女帝の塔】塔主

「えっ、諜報型以外にも限定スキルを持っていたのですか！？」

　ターニアさんからそう聞かされて驚きました。

　私からの返答、条文の追加の反応を知りたかったのでターニアさんに探ってもらっていたのです。

　すると向こうは「神授宝具（アーティファクト）の禁止は許せても限定スキルの禁止は無理」というようなことを話していたとのこと。

　私はてっきり「限定スキルの禁止は受け入れるが神授宝具（アーティファクト）は使わせてくれ」という感じで返答がくると思っていたので、全く逆になってしまいました。

　その限定スキルがどのような効果かは分かりません。

　しかし【空白】のカラーダイスさんが持っていることは分かりました。

『Ｃランクでよく取得できたもんやな。【空白】も上位には違いないけども』

『シャ、シャルロットさんやアデルさん以外にもいるんですね……そんな無茶なことする人が……』

『【反逆の塔】もＣランクで取得していたそうですしありえないことではないのでは』

『【轟雷】が近くにおったからではないか？　限定スキルの強さを身近に見れば早くに取ろうと動いてもおかしくはないじゃろ』

　【空白の塔】はランキングで75位でした。

　九年目のＣランクではありますが早いとも遅いとも言えない感じだと思います。

　塔の特徴としてはいわゆる『鳥の塔』ではあるのですが飛行系魔物しかいないというわけではなく、天使がいるほか、擬態を使う魔物が多いようです。ミミック系とか透明な魔物とかゴースト系とか。

　侵入者からすると斃すのが難しい魔物ばかりなので正直あまり人気が出そうに思えません。

　それで限定スキルを早期に取得というのはなかなかリスキーなことだと思います。

　ＴＰをかなり使いますから強い魔物とか召喚できませんしね。実際【空白の塔】にＳランク固有魔物はまだいませんし。

　せめて取得するなら内政型だと思うのですが、塔主戦争（バトル）に必須であるとのことですから……やはりバフっぽい能力なのですかね。

『考えられるのは同盟全てに適用されるようなバフ、というのが一番有力でしょう。でなければそもそも同盟戦（ストルグ）で戦わないでしょうし』

『【魔術師】の持っていた限定スキルのようなものですか？　あれを同盟全てに適用となればさすがに強力すぎるのでは』

『なんとも言えんのう。ありえんとは言えぬところが限定スキルの恐ろしいところじゃ』

　その限定スキルを使うと決めていたから私からの申請を即却下とはしなかった。

　そして三塔vs一塔の同盟戦（ストルグ）を提示し、私が三塔攻略を言ってもそのまま受け入れた。

　つまりその限定スキルは三塔分の戦力全てに適用されるようなものなのだろうと。

　それは【轟雷の塔】に配置される防衛戦力であっても【空白の塔】にいながら行使できるということなのでしょう。

　だから同盟戦（ストルグ）に拘った、ということですか。

　確かに交塔戦（クロッサー）よりも勝算はありそうですしね。

『それで向こうはどう返答しますの？』

「まだ分かりません。結論を出すにも難航しているようで」

『そらそうやろな。下手な返答もできんしそのまま受け入れるわけにもいかん』

『単純に「限定スキルは使わせてくれ」とは言えないでしょうね……手の内を晒すようなものですし』

『な、なら「こっちの追加条文を削除するからそっちの追加条文も削除してくれ」というのは……』

『それをするくらいなら【女帝】と戦うこと自体を諦めそうじゃがのう』

　困りましたね。私にはどうすることもできないのですが。

　あまり悩まれるとフゥさんの言うように塔主戦争（バトル）そのものが出来なくなりそうです。

　危険を冒すくらいなら撤退するでしょうしね。

　うーん、変な条文を追加しちゃいましたかね……素直に受け入れておけば良かったです。