329:脱Cランク病に向けて考えています!



■ドロシー 25歳 ドワーフ

■第500期 Cランク【忍耐の塔】塔主



「お疲れさん、パルテア、ウリエル。全然測れんかったな」


「残念でしたね。まぁ目的は達せましたが」


「やはりAランクというのは間違いなのでは?」



 偽Cランクのパーティー六人は無事……と言うか何と言うか討伐できた。

 TPはもちろん美味しかったんやけど、最後に試そうと思ってたことが今一試せなかったな。



 一つはスクイッシュドラゴン(★A)にパルテア(★S)を乗せること。

 スクイッシュドラゴン自体はあいつらと何度も戦っていて勝ち続けている。

 でも一戦ごとの時間も徐々に長くなっていき、敵が順応してきているのが分かっていた。


 固有魔物のAランクには勝てないまでも善戦はしていると。まぁ何度も戦えば慣れるにしてもや。

 このままだとスクイッシュドラゴンも斃されてまうってことで今回討伐に踏み切ったんやけどな。

 ホントはもうちょっとTPを稼ぎたかったが仕方ない。


 で、そのスクイッシュドラゴンにパルテアを乗せるとどうなるのか。それが見たかった。

 スクイッシュドラゴンがどうこうではなく、どちらかと言えばパルテアの騎竜能力の確認やな。それが見たいと。



 結果、ウチの目から見ても明らかにスクイッシュドラゴンが強くなっていた。別にステータスが変化するわけじゃないけど、パルテアが乗ることでここまで変わるかと思わされた。


 竜の力を引き出すのが上手いのか、相手に合わせて竜を扱うのが上手いのか、そこら辺は分からん。

 でもそれまで善戦していたあいつらを一瞬で崩壊させるまでいったんやから相当なもんやろ。



 とは言え、や。スクイッシュドラゴンがパルテアを乗せてSランク固有魔物相当にまで引き上げられたとしても不足やねんな。

 パルテア一人でSランク固有魔物やねん。むしろAランク一体分損しとる。別々に戦わせたほうが得や。


 だったらパルテアの騎竜はせめてSランク固有魔物にするべきだし、もっと言えば竜部隊の指揮官としてパルテアの乗った竜を配置すべきやろ。

 それでも押し込まれた時にはパルテアを下ろし、Sランク固有魔物一人と一体と分ける。まさしく【竜鱗】がやってたような使い方やな。それが正しいパルテアの使い方やと思う。


 ところがウチの塔には飛竜を置くようなスペースもなければTPもない。

 Bランクにランクアップした時に考えるべき問題かもしれんな。今は構想のみで終わりや。



 それとウリエル部隊を転移魔法陣に待ち伏せさせた件やけど、あれは敵部隊が『罠の一本道』を通っている間にウリエル部隊に魔物部屋経由で回り込んでもらった結果や。そうした動きの面での部隊運用の確認が一つ。


 結果は満足。敵を殲滅するという主目的も達成できたので問題はない。


 ただ如何せん相手が弱すぎた。

 ウリエルも「本当にAランクか?」みたいに言うてたけども、明らかに戦意喪失してたからな。ろくに戦えてない。


 まぁパルテアに三人殺され、這う這うの体で逃げ帰った先にウリエル部隊がおればそら絶望するやろうけど、少しは戦って欲しかったというのが本音や。



 ウリエルは確かにSランク固有魔物やけど防御性能以外は他のSランク固有魔物に比べて劣るはずや。

 天使部隊にしても主天使ドミニオン(A)と力天使パワー(B)やから、あいつらがまともに戦えば一体くらい斃せてもおかしくはない。


 Aランクパーティーが天使部隊と戦った時にどうなるか、それを見たかったんやけどなぁ……残念。



 とまぁ色々と思うところはあるけれど、あの六人が【忍耐の塔】にもたらせた功績は大きい。

 色々と検証させてもらったし、最終的には討伐TPになってくれたんやからな。感謝せなあかん。

 この結果を以って、今後の塔運営にちゃんと活かさなあかんわ。



 取り急ぎ考えるべき問題は『脱Cランク病』という今の同盟のテーマやな。

 塔構成の見直し、罠の見直し、魔物配置の見直し。

 それによって塔主戦争バトルでも安定して守れる塔を創らなあかん。


 【忍耐の塔】の場合は下層が罠と状態異常。上層が魔物という感じで完全に分かれている。

 これだと優秀な斥候が一人でもいれば下層は意味を為さないし、回復役がいれば状態異常も無駄になるわけや。

 つまり塔主戦争バトルどころか、侵入者相手にしても今後不足になるちゅうことやな。


 まぁ足止めとか多少のリソース削りという点で言えば有効かもしれんけど、いかんせん無駄が多すぎる。



 例えば【赤の塔】と塔主戦争バトルしたとしよう。【赤】の攻撃部隊が【忍耐の塔】に乗り込んで来たと。


 罠はブラッディアサシン(B)の部隊で察知され、状態異常はカーバンクル(A)かフェニックスクルックー(★S)で回復。

 するすると下層を突破される一方、こちらは魔物一体も斃せんはずや。魔力を削ることくらいしか出来てへん。


 六階層以降は魔物を斃して戦力を削ることもできるやろうけど、五階層まではほぼ意味がない。むしろ赤字になるちゅうことや。


 これはアカン。とようやく危機感を覚えたのが最近のこと。

 遅かったなー。Cランクに上がって半年。やっとウチもCランク病になったわけやな。



 というわけで下層の修正から始めていくんやけど……まず罠を根本的に見直さなあかん。罠はウチの塔の代名詞でもあるしな。

 今のところ考えているのはこんな感じの罠やな。



①<罠察知>で気付かないタイプの罠


 敵がスイッチを押すことで発動するタイプではなく、自動的に発動するようなもの。例えば六階層の通路の扉とか。

 【赤の塔】で使っている『押し出す壁』なんかも有効やな。攻撃と認識できない罠やから<危険察知>でもバレづらい。

 【世沸者の塔】で使っているギミックも同じようなもんやけど、あれはあの塔独自のものがほとんどやからな。なかなか流用しづらい。


 あとはこちらの魔物にスイッチを押させるとかでもいい。そうすれば敵は嫌でも引っ掛かる。

 ただこの場合はスイッチを押す係がほぼ眷属に限定されるやろうな。ウチが画面を見ながらタイミングを指示する感じになると思う。

 そうなると下層に眷属を置くはめになるし……何とも悩ましいところやな。



②分かっていても対処できない罠


 <罠察知>で判明しているのにスイッチを押さないと進めないようなタイプの罠やな。

 極端な話、地面全てをスイッチにすれば地上戦力の誰かは引っ掛かる。


 あとは【世沸者の塔】にあるような『扉を開けたら毒ガスが噴射する』というようなヤツも同じや。

 扉自体に細工があるちゅうのはスキルで分かるかもしれんけど、塔において扉の向こう側というのは察知不可能。だから探索に慣れた侵入者とかは扉を開ける時に細心の注意を払うんやけど、それでも毒ガスが来たらどうしようもない。


 探索を進めるためには扉を開けないといけないし、開ければ絶対に発動するんやから嫌でも回避はできんちゅうわけや。



③わざと気付かせて利用するタイプの罠


 罠を気付かせて、それを避けるタイミングで魔物をけしかけるだとか、さらに見つかりにくい罠を用意しておくとか。そういったことは今も【忍耐の塔】でやってはいるけども、それをどうにか進化させたいと思っとる。


 例えば目の高さに糸が張られてたら絶対に屈むやろ? そのまま千切ろうとは思わんはずや。

 そんで屈んだところで足元に罠だとか、小さい魔物を強襲させるとか、そんな感じやな。

 まぁそれでも罠としては弱いんで、どうにかして絶対に引っ掛かる罠を開発せなあかん。



 そんな感じで色々と案を出しておいて、まとめて改装しようと。

 言うても一階層ずつとかになりそうやけどな。ちょこちょこ改装するのもアリやけど。



「レイチェル様からアデル様へのアドバイスでゴーレムに油瓶を投げつけるとかもありましたが、そういったものもいいですよね」


「それはウチも思っとった。絶対に油がかかるような罠を用意して、そこに適当に火をぶつければ確実にダメージが入るからな」


「オイルスライム(E)が召喚できれば楽なのですがね。罠のほうがコストも掛かりますし」



 【世沸者の塔】なら召喚できるみたいやけどな。ウチの塔では無理や。

 まぁただのヌルヌルスライムやからな。普通の塔主なら戦力として召喚しようと思わんやろうしレアな魔物ではある。


 しかし罠の一部と考えれば非常に使い勝手が良いんよな。

 塔主戦争バトルで敵大部隊が迫って来てもオイルスライムを大量にけしかけるだけで戦果が見込める。

 まぁ遠距離で殲滅させられたら堪らんから、何かしらの工夫が必要やろうけどな。



「そういった魔物がうちにも居ればいいのですが……うちの場合は毒ばかりですものね」


「ベノムスライム(E)とかな。毒だと耐性の関係で確実ではないからな。大量にけしかけても戦果がコストに見合わんのよなー。まぁ候補の一つには入れておくけど」


「ベノムヘッジホッグ(E)やベノムスパイダー(E)にしても同じですものね」



 弱い魔物を大量に使いつつ罠と併用させる。高ランクの塔としたら正しい低ランク魔物の使い方かもしれん。

 でもそれを有効に使おうと思ったらなかなか難しいんよな。

 だからどの高ランクの塔も低ランクの魔物を使わないんやと思うけど。


 しかし誰も使わないからこそ武器になる可能性もある。

 もうちょっと弱い魔物に目を向けて考えるべきかもしれんな。

 それと罠を組み合わせてどんなことが出来るか……なかなか面白そうやな。





■フッツィル・ゲウ・ラ・キュリオス 52歳 ハイエルフ

■第500期 Cランク【輝翼の塔】塔主



 塔主戦争バトルを意識した塔創りか。なかなか難しい命題じゃな。

 とは言え、わしの【輝翼の塔】に限って言えば、考える部分は少ない。

 元々全十階層を全五階層にした塔じゃからな。普通の塔と同じように考えるのも間違っておる。



 【輝翼の塔】の場合は一、二階層の『霧の森』ですでにCランクの魔物が出る。

 塔構成にしても足止めと遠距離からの魔法攻撃による削り。それを徹底させておるから、それが即ち塔主戦争バトルでも有効な戦術となっているわけじゃ。



 三、四階層の『渓谷迷路』も同様じゃな。ここのボスはガルーダ(A)じゃから実質二階層目でAランクの魔物と戦うはめになる。そんなのはBランクの塔とてありえん。


 途中にある『遮る壁』での部隊分断も踏まえ、塔主戦争バトル向きの階層と言えるじゃろう。

 ただもうちょっと工夫は欲しいと思うがな。削りに関して弱いところもあるとは思っておる。



 五、六階層の『樹氷雪原』。足止めと高ランクの魔物による本格的な掃討が見込める。

 やろうと思えば吹雪の天候にすることも出来るから、ここは特に弄る必要はないかのう。



 そして七、八、九階層の『森奥の広場』。ネクロトレント(★A)、虹竜アイダウェドブリング(★S)、そして回復要員のヴィゾフニル(B)の群れ。防衛に特化した過剰戦力じゃと思う。

 その他に飛行部隊の指揮官となる翼人将イカロス(★A)とゼンガー爺が控えておるわけじゃ。



 問題を上げるとすれば、まず一つ目が実質全五階層という″短さ″。階層数だけで言えばEランクと変わらんからのう。

 例えばエメリーが単独で攻め込んで来たとなれば、わしの塔は一番早く消されることになる。

 まぁこればかりは『鳥の塔』の宿命でもあるし、わしが極端に創り過ぎたせいでもあるがのう。



 二つ目が″遮るものがない″ということ。扉もなければボス部屋もない。

 仮に【強欲】の神定英雄サンクリオや【影】の固有魔物であったスカアハのような暗殺者が侵入して来た場合、最上階まですんなりと到達できてしまう。


 まぁ<魔力感知>には困っておらんが、それすら気付けん方法で来ることも考えられるからのう。そこは検討が必要かもしれぬ。



 三つ目が″罠の少なさ″じゃな。これは塔の特色じゃから仕方ないが、同盟が皆で罠の改善を考えている今だからこそ、改めて【輝翼の塔】の罠に関しても考えたほうがいいと思ったのじゃ。


 少ない罠をいかに効率よく使うか。それにより塔主戦争バトルでどれほどの戦果が見込めるか。ここら辺は考えものじゃのう。



「【人形の塔】の魔物はどうしますかな?」


「それもまた考えものじゃのう。ずっと先延ばしになっておるが」



 地上歩兵部隊と見ればなかなか捨てがたい陣容なんじゃよな。

 人狼王ガストン(★S)のウェアウルフ部隊、パペットマスター(★A)のパペット部隊。あとはゴブリンやオーガか。


 置き場にも困るのでまだ召喚はしていないが、パペットマスターに延々と召喚させておいて、それを敵部隊にぶつけるというのはなかなか理に適っておる。コストがゼロじゃからな。

 そういう意味でも早めに召喚させておくべきか、とも思うんじゃがなぁ……配置する階層がないと。


 悩ましいのう。いっそのことBランクに上がるまで我慢するかのう……。




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