330:ノノアさんはあれこれ試しているようです!



■ノノア 17歳 狐獣人

■第500期 Dランク【世沸者よわきものの塔】塔主



 脱Cランク病のため、塔主戦争バトルでも有効な塔を創る。

 私たちの同盟【彩糸の組紐ブライトブレイド】の目標のようなものです。


 特にシャルロットさんの【女帝の塔】、アデルさんの【赤の塔】、ドロシーさんの【忍耐の塔】が直面している問題なのですが、同盟のトップ3ですからね。必然的に同盟全体の目標になると。



 フゥさんも私も塔自体が特殊ですし、シルビアさんに関しては元より皆さんの知恵が結集していますからね。

 おそらく塔主戦争バトルの数を熟すか、Cランクに上がってからより問題が表面化するのではないでしょうか。


 なにせ『Cランク病』ですからね。Dランクの私たちがあまり考えることでもないのかもしれません。



 私の塔に関してはそもそも塔主戦争バトルで使われること自体が稀なんですよね。

 同盟戦ストルグで使おうにも相手は真っ先に「【世沸者の塔】は使わない」と条文に入れてきますし、交塔戦クロッサーに関しても相手が相当甘く見ていないとそもそも戦えません。


 もう世間的にはすでに特殊な塔構成が知れ渡っているでしょうから、この先交塔戦クロッサーが出来るとしても、よく知らない新人塔主くらいしかいないのではないかと思うのです。



 中には謎解きに特化した限定スキルなどもあるのかもしれませんし、それを取得した塔主が狙って来るとも考えられますが、そうなると「なぜBランクの塔が私に申請してきたんだ?」となりますからね。馬鹿な私でも分かります。ああ、限定スキルを持っているのかと。

 ですから余計に交塔戦クロッサーを行う機会が減ると。



 このままじゃいけないとも思っていますので、今度は攻塔戦アディケイトを仕掛けてみようかとも考えています。

 私が『攻撃側』で。

 相手からすれば私の塔は攻略したくないでしょうし、守るだけなら問題ないと考える塔主も中にはいるでしょうから。


 世間的にはまだ私の塔は「フェアリードラゴンとスライムしかいない」と認知されているようです。

 まぁ侵入者にそれ以外の魔物一体も見せていないので仕方ないのですが。


 同盟戦ストルグでAランク同盟を斃しても「攻撃面は【女帝】や【赤】が中心だろう。【世沸者】は特殊な塔構成で防衛に使ったはずだ」と思われているんですよね。そんな簡単に私の塔が使えれば苦労はしません。


 とにかく私の塔が「攻撃面でも強い」とは思われていないので、逆にチャンスかと思うのです。



 実は今の【世沸者の塔】はかなりの数の魔物を抱えています。


 一つはスライム。これはすでに色々と召喚済みです。一応戦力は整えておこうと。

 斥候・壁役・回復・魔法・状態異常と多種多様なスライムが部隊として存在しています。これが約三百ですね。


 二つ目はアンデッド。リッチディーゴ(A)と配下のリッチ二体に眷属召喚を行ってもらっていますが、そのスケルトンたちが溢れかえっています。全く消費しないので増える一方なんですよね。


 スケルトン(E)スケルトンソードマン(D)スケルトンガードナー(D)だけで五百近く。

 ディーゴはスケルトンナイト(C)も召喚できるのでそちらを優先してもらい、百五十ほど。

 その他にデスリーパー(A)とレジェンダリスケルトン(B)もいるので、数だけで言えばもはや一番の主力と言えるかもしれません。


 スライムにしてもアンデッドにしても今は何もない六階層に置いているだけです。六階層が倉庫状態ですね。



 そしてこの度、三つ目の戦力としてヨグ=ソトースヨギィ(★S)が加わりました。

 時間をかけて色々と調べましたが、どうやらとんでもない魔物らしく私も驚きましたし、同盟の皆さんにも驚かれました。


 エメリーさん曰く「おそらく同盟で一番の単体戦力」らしいです。エメリーさんも苦戦すると。本当ですかね?



 まず特筆すべきは防御性能なのですが、物理攻撃も効きませんし、魔法攻撃は吸収します。もうこれだけで反則ですね。ちなみに多分ですが状態異常も効きません。


 例えば剣で斬ると、ヨギィの身体は斬れるのですがダメージにならないのです。そしてすぐに再生して元通りになると。

 巨大な魔物に潰されても問題ないと思います。スライムですので身体の変化は自在ですし。


 魔法攻撃は四属性魔法と闇魔法、神聖魔法しか試していませんが、これも魔法を魔力と変換して身体に吸収するようです。むしろ元気になると。

 まだ雷魔法などは試していませんが、おそらく同じような感じかなと思います。魔法に関してはほぼ無敵だろうと。


 ただ酸とかは苦手みたいですね。アシッドスライムの酸液とかは無理なようです。

 それと竜のブレスとかは未確認です。ブレスはおそらく魔法と異なるので効くかもしれません。



 もう一つの特徴として、<分裂>して手のひらサイズのヨギィを沢山作り出すことができます。私の知る限り百体くらいのミニヨギィが作れました。


 これの何がすごいかと言うと、全てのミニヨギィの情報をヨギィ自身が把握できるということ。

 つまりミニヨギィを偵察に出したり、斥候的に使ったり出来るわけです。


 ミニヨギィ自体は普通のスライムとほぼ変わらない性能らしいので簡単に斃されてしまうかもしれませんが、ヨギィがまた作り出せますからね。ヨギィの回復さえ怠らなければほぼ無限の偵察部隊が出来るということです。



 あとは自分の身体の中に隔離空間のようなものが作れるようですね。アイテムを渡しておいてそれを身体の中に飲みこむ・・・・のですが、それを保管しておくスペースのようなものがあるようです。ヨギィの中に。


 かなりの収納量らしいので、例えば敵の塔に攻め込んだ時などは魔石の回収や、最上階の接収に役立つのではないでしょうか。

 天然のマジックバッグのようなものと認識しています。



 ただ攻撃面に関してはそこまで秀でたものはないらしいです。

 硬質化した触手を伸ばして剣や鞭のようにも使えますが、そこまで攻撃力が高いわけではないと。


 あとは<溶解>などもできますから、触手で捕まえた敵を溶かせます。なんなら身体に入れて吸収するといった感じです。

 その場合は隔離空間にはいかないようですね。ヨギィの身体の中がどうなっているのか全く理解できません。



『本当にとんでもない化け物を生み出しましたわね……』


『もう全部ヨギィに任せればいいんじゃないかのう……』


『私もSランク固有魔物を召喚すべきですか……』


『それでもエメリーさんなら……エメリーさんなら斃してくれるはずや……!』



 な、なんでエメリーさんに斃されなくちゃいけないんですか! 味方ですよ味方!

 かわいいじゃないですか! 見た目はかわいい女の子ですよ!



『エメリーさん、苦戦するというのはどの程度なのですか?』


『一対一で見れば勝ち目は薄いですね。相性が悪いですので。しかし無敵の魔物などおりませんから斃そうと思えば確実に斃せます。あまり過信してはいけませんよ、ノノア様』


「は、はい、気を付けます!」



 ですよね。私が分かっているだけでも酸が苦手って弱点がありますし、エメリーさんの持っている知識を誰も知らないという保障はありません。


 そもそも誰も勝てないような魔物を神様がリストに入れるとも思えませんしね。

 あのエメリーさんでさえアンデッドが苦手という弱点があるのですから、ヨギィにだってきっと負ける要素はあるのでしょう。


 信頼は置くべきですが信頼しすぎてもいけない。私も塔主として配下のことはしっかり見てあげなければいけませんね。



『とは言うもののヨギィの力を見ておきたくはないか? わしらも把握しておいたほうがよかろう』


『それはそうですわね。どこかCランクあたりの塔に攻塔戦アディケイトの申請をしてみては?』


「えっ!? し、Cランクですか!?」


『Cランクなら楽勝やと思うで。Bランクは無理やろうけど』


『まさかヨギィ単体で攻め落とすおつもりですか? Cランクの塔を?』


『それも出来るでしょうけど時間が掛かりそうですからね。パルクやディーゴの部隊を連れて行ってもいいんじゃないでしょうか。あくまで最前線はヨギィ一人ということで』



 Cランクの塔と攻塔戦アディケイト、ですか……。

 いやまぁ私もこれだけ皆さんの塔主戦争バトルを見ていますので、出来そうだなという予感はしてます。

 限定スキルを持っていなさそうでファムで探れる塔を選んで申請すればいいだけなので。


 でも私が一対一で戦った相手というのはFEEの三塔だけなんですよね。

 そこからDランクを飛ばしていきなりCランクというのも……。



『ちなみにノノアさん、【世沸者の塔】で欲しい魔物はいますの?』


「え、えぇと、そうですね……」



 今は特別欲しい魔物というのはいないのですよね。

 斥候も充実してきましたし、回復部隊もあります。小型・人型の魔物のほうが運用しやすいとは思いますが階層が余っているので連結階層を創ってもいいですし、そうなると大型の魔物でも問題はないかと。


 同じ理由で鳥などの飛行系でも問題はないです。うちにはほとんどいないので運用するいい機会かもしれません。


 強いて言えば物理攻撃が得意な魔物か、魔法攻撃が得意な魔物でしょうか。部隊はすでにありますが別段秀でているというわけでもありませんし。

 そう考えるとシャルロットさんの所のバートリさんとかターニアさんとかが思い浮かぶのですが、さすがにそこまで贅沢は……。


 ――というようなことをお話しました。



『なるほど、フッツィルさん、どこかおすすめなどあります?』


『いくつかあるのう。ただまぁ数が多いので、順位をつけて手当たり次第に申請する感じじゃな』


『中でも一番ってのはどこなん?』


『そりゃもちろん――』





■セリオ・ヒッツベル 24歳

■第499期 Cランク【審判の塔】塔主



=====


 【世沸者の塔】から塔主戦争バトル申請がありました。

 形式:攻塔戦アディケイト 攻撃:世沸者の塔 防衛:審判の塔


   受理   却下


 ――手紙添付なし――


=====



「……は?」



 いきなりの通知に驚いたわけだが、その内容にも驚いた。


 なぜ【世沸者】が僕を狙う?

 なぜ攻塔戦アディケイト

 なぜ【世沸者】が攻撃?

 訳の分からんことばかりで頭が混乱する。



「まだ狙われていたのですね。さっさと同盟申請しておけばよろしかったものを……」


「そういう問題ではないし、僕はヤツらに近づくような真似はしない」



 【忍耐の塔】から塔主戦争バトル申請が来たのはもう一年以上前だ。

 当然のように却下したわけだが、まだ僕の塔を狙っていたのか……凶報以外の何物でもない。

 僕としてはあの同盟となるべく距離を置きたいのだが。


 しかし、改めて通知を見れば【世沸者】が攻塔戦アディケイトの攻撃側ということにかなり違和感を覚える。


 あの塔は鉄壁の防衛力がウリだろうに。まさかその実は攻撃力にも自信があると?

 可能性としては高い。そうでなければこのような申請などしまい。まぁイメージとは程遠いが。



「それで当然受けるんですよね?」


「受けるわけないだろう。却下以外の選択肢はない」


「残念ですね」



 なにが残念なものか。この申請が来た時点で残念じゃないか。

 このような申請を受ける気はないし、ヤツらに関わるつもりもない。


 そんなことより僕は伯母上の面倒を見なければいけないのだからな。それどころではないのだ。




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