328:偽Cランクパーティーも頑張っています!



■ルチアーノ 26歳

■Aランク冒険者(バベルCランク) パーティー【萌芽流麗】所属



 【忍耐の塔】への挑戦は相変わらず続いている。

 初日に三階層を制覇し四階層の転移魔法陣で帰ったわけだが、そこから先はなかなかすんなりとはいかない。


 まず三階層までをスムーズに攻略出来るようにならないと四階層の探索はろくに出来ないし、その先にある五階層の往復転移魔法陣には辿り着けない。


 しかしそこはAランクの俺たちだ。もうCランクの頃とは違う。

 下層の魔物なんて敵じゃねえし、何より斥候の腕がいいからな。

『罠の塔』と恐れられるこの塔だって怪我一つなく順調に探索を進められた。



 とは言え四階層と五階層はかなり厄介だったがな。

 四階層は洞窟なんだが、岩がゴツゴツしていて歩きにくいし罠の配置が厭らしすぎるらしい。

 ここを突破するまで十日ほどを要した。


 往復転移魔法陣が使えるようになってからは五階層の探索を延々とやっていた。

 なにせ四階層を超える罠の量。

 いくら『罠の塔』と言えどもここまでやらなくてもいいんじゃないかと言うほどの量だ。


 この階層を突破したところで六階層の探索をするにも毎回この五階層を通らなきゃならない。それはかなり辛いだろう。


 だからこそ五階層の探索は入念に行った。

 斥候がこの階層に慣れるためというのもある。ここはかなりの時間をかけて探索をした。



「経過報告は伯爵に送らなきゃならないんだが……援軍はどうする?」


「難易度的にCランクの域じゃねえのは分かっている。当初の予想より【忍耐】が手強いのは確かだ」


「下層は罠ばっかで魔物も弱いが、逆を言えば強い魔物が上層に固まってるってことだろ? そうなると余計に難易度高いぜ」


「やはりウリエルがいるかもな……下層の魔物にTPをかけなくて済むんだからその分固有魔物に回しててもおかしくはねえ」



 探索していても違和感がかなりある。

 調べた【忍耐】と例の同盟の戦績、実際に探索して見えてくる【忍耐】の実力、Cランクとしたら異常な難易度の罠、そして弱すぎる魔物……どうもちぐはぐに感じる。



 【忍耐】は例の同盟の三番手だ。相応の実力、単独でも戦える力がなければ三番手などありえない。

 【女帝】と【赤】がいくら強くても、二塔の力だけでAランクの塔からなる同盟を斃せるわけがないのだから。


 そうなると「高ランクの塔と戦う戦力が上層にいるに違いない」という結論になるのだ。


 真っ先に考えられるのは【忍耐の天使ウリエル】。有名なSランク固有魔物だ。

 塔主が強い魔物を召喚しようと思った時、【忍耐の塔】の目玉とも言えるこの大天使を第一選択とするのが当然だろう。


 となれば十中八九、ウリエルの天使部隊がいると見るべきだ。

 それが俺たちにとって最大の難関になるだろう。



「そう考えると援軍を呼ぶべきなんだが……俺たちみてえな偽Cランクなんて早々いねえだろ。普通のCランクを呼んだって足手まといになるだけだ」


「仮にAランクだって並みの斥候じゃ無理だぜ? うちだから探索できてるようなもんさ」


「じゃあやっぱり援軍はなしか。俺たちだけで攻略しねえとな」


「ああ、そのほうが報酬を分けなくてすむしな。俺は賛成だぜ」



 もし【忍耐の塔】が予想以上に難しい塔であれば援軍を呼ぶか、資金援助を頼むかという話をしていた。

 ローゼンダーツ伯は娘の仇を討つため、意地でも【忍耐の塔】を消したいだろうし、そうなると俺たち以外に頼るすべはないだろうしな。だったら多少無茶な援助もしてくれるだろうと。


 でも援軍を呼ぶのはやめた。資金援助も今は必要性を感じない。

 それは今後の探索でまた測っていけばいいだろう。



 それからも探索を続けたが――六階層で俺たちは壁にぶちあたった。

 五階層までの難易度の高さ、それは『罠』の強さに集約されていると言ってもいい。

 しかし六階層のそれは、完全に『魔物』の強さ。それを前面に押し出していた。


 六階層の最初は三つの扉が開いているだけ。その一つを選んで進むことになる。

 俺たちは最初に右端を選んだが、入ってすぐに扉が閉まる。どうやら引き返せないらしい。ここで嫌な予感がした。


 入った先は罠だらけの一本道だった。ここを通るのは訳ない。五階層と変わらないからな。


 しかしその通路の先、扉を開けるとそこには……見た事もない地竜が待ち受けていたのだ。


 引き返す道はない。ならば戦うしかない。

 そう思って俺たちは向かって行ったのだが……これが強い。

 太い両腕から繰り出される攻撃は強烈で、うちの盾戦士を吹き飛ばすほどだ。


 本当ならどうにか地竜の脇を通り抜け、七階層への階段を目指したかった。

 だが地竜は階段下に陣取っているし、無事に抜けられるとは思えねえ。


 それに今後、八階層・九階層と探索をするにはこの地竜と毎回当たるはめになるんだ。

 だったらやるしかない――と思っていたところに斥候の声が上がる。



「後ろに道がある! 退くことはできるぞ!」


「一時撤退だ! あの扉まで走れ!」



 俺たちが入って来た扉は閉まっていたが、他の二か所の通路の扉は開いていた。

 そこから引き返せるのであれば、無理にここで戦う意味はない。リーダーは即座に退却を決断した。


 その扉の先は迷路状になっていた。入って来た道とはまるで違う、所謂普通の迷路だ。

 魔物もちゃんと出る。それもハイウィッチ(B)だ。遠距離から魔法を撃ってくるだけだが厄介極まりない。

 俺たちは撤退目的だったので、そいつらとは戦わずに走り抜けることを優先して、とにかく通路から抜け出した。



「正直面食らったな。こんないきなり強い魔物が出て来るとは思わなかった」


「今までせいぜいアイアンゴーレム(C)だからな。急に質が上がりすぎだ」


「あれは固有魔物なのか? 俺は知らない地竜だったんだが」


「【忍耐】の固有魔物だとするとSランク確定だぞ。CからいきなりSとか冗談じゃねえぞ」



 誰も知らない地竜だった。確かに固有魔物なのかもしれない。

 【忍耐の塔】は七美徳ヴァーチュだから固有魔物はSランク二体で確定のはずだ。

 あれがSランク魔物……俺たちにとって初めてのSランクだったということか。どうりで強いわけだ。



「ただウリエルと戦うんなら、あんな地竜に遅れをとってるわけにはいかねえぞ。同じSランクでもおそらくウリエルのほうが強いだろうからな」


「まぁ飛ぶ上に神聖魔法まで使うからな。地竜のほうが攻撃力は上かもしれねえが」


「六階層でもう出てきたってのがウリエルより弱い証拠だろ? つまりウリエルと戦いたかったらあの地竜くらい斃して来いってことだろうさ」



 そういった意見を踏まえ、俺たちはその後も六階層の探索を続行した。

 困難な五階層を抜け、六階層で地竜に挑む。それを繰り返した。

 慣れるためには何度も戦わなければならない。実際、少しずつ善戦出来てきていると言う感触もあった。


 一度、右端の通路でなく中央の通路を選んだ時があったのだが、そこは魔物部屋だった。ロックリザード(B)やファイアリザード(B)などが群がっていた。

 こんなのと戦うくらいなら地竜と戦ったほうがまだマシだ。


 俺たちは我武者羅に魔物部屋を通り抜け、通路へと飛び込む。そしてこの状態ではまともに地竜と戦えないと、そのまま左の通路から逃げ帰った。

 それからは右の通路一択だ。そして地竜と戦うと。



 俺たちが【忍耐の塔】に挑戦し始めて一月半が経った頃、この日もバベルへと足を運んだ。

 もちろん連日行っているわけではない。一度探索すれば休みを入れる。

 体調管理や装備の手入れ、アイテムの買い出しなど万全な状態で挑むのが当然だ。俺たちはAランクだからしてそこら辺を怠ることはない。


 いつものように時間をかけて五階層を進み――日に日に時間は短縮されている――六階層へと向かった。

 右の通路を進み、いつものように地竜へと挑む……というところで異変があった。



「な、なんだアイツ! 地竜に乗ってやがるぞ!」


「あの角、あの肌……まさか竜人ってやつじゃねえのか!? そしたらSランクだぞ!?」



 地竜の首にまたがるその美丈夫。

 浅黒い肌、長髪と二本の細長い角、そして腕には緑の鱗が張り付いたように並んでいた。

 確かに竜人という魔物に特徴は似ている。


 竜人とは竜と並ぶほどの強大な魔物と聞いている。伝説級の魔物には違いない。

 仮にSランクだとするならば、Sランクの地竜にSランクの竜人が乗っているということになる。


 Sランク二体をこの場で……? どうする? 戦うか退くか――


 そんなことを考える前に、地竜は襲ってきた。いつものように待ち構える姿勢ではない。

 明らかにこちらを潰そうと、獰猛な気性で襲い掛かって来る。まさにSランクの地竜と思わせるほどの恐怖。

 首に乗る竜人が操っている証拠なのだろう。そうとしか考えられない。


 硬直していた俺たちにぶつかるような地竜の攻撃は殴打と言うか爪撃と言うか、いずれにしても今までに見た事もない破壊力だったのは間違いない。


 ただの一撃で盾戦士と剣士の二人が吹き飛ばされた。

 二人の身体はゴミクズのように放り出され、バウンドしながら床に伏せる。あっと言う間に血が広がった。



 一撃で二人が死んだ――それは確かだろう。信じたくない気持ちと目の前の現実。

 それ以上に支配していたのはとてつもない恐怖。



「退けええええ!!!」



 リーダーの大声が響いた。残った俺たち四人は震えた足を無視しながら一目散に走った。

 しかし今の地竜が大人しく見逃してくれるはずもない。


 最後尾にいた魔法使いがまた飛ばされた。何かが潰されるような音で分かった。

 それでも振り返ることはなく、ただただ通路へと走った。


 扉へと飛び込んだ時、俺たちのパーティーはたった三人しか残っていなかった。

 泣いているのか汗をかいているのか分からなかった。ただ叫び声をあげて走り続けるしかなかった。

 迷路を通り抜け、六階層入口の転移魔法陣で帰る。それだけを求めて。



 ――が、転移魔法陣の前には″絶望″が広がっていた。



「て……天使……ウリエル……」



 扉の先、転移魔法陣に入らせまいと空に浮かぶ軍勢は、誰が見たとてウリエルの天使部隊。

 これを越えて魔法陣に入るなんて……しかし後ろには地竜と竜人が……。


 俺はその場でへたれ込んだ――。



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