327:同盟で情報共有しておきます!



■シャルロット 17歳

■第500期 Bランク【女帝の塔】塔主



『うわぁ……なんかものすごく大事おおごとになってきたなぁ。ランゲロックさん大丈夫やろか』


『間違いなくビズレイズさんが手綱を握るでしょうね。それが関与しすぎると問題ですからやりすぎないようにわたくしとシャルロットさんで見張りませんと』


『ある程度は手綱を握ってもらったほうがランゲロックとしても楽かもしれんがのう。おそらく変化が大きすぎていっぱいいっぱいじゃろうし』



 でしょうね。今はビズレイズさんが率先して動いて下さっているので甘えてしまっている格好です。

 それほどの商機と見ているのでしょう。


 まぁ自分で言うのもなんですが、今一番人気のある【彩糸の組紐ブライトブレイド】が商業に関与するとなれば全力で乗っかりに来ますよね。気持ちは分かります。



 しかしビズレイズさん主導で経営に口を出したり、勝手に動かれても困ります。

 そこは一応言っておきましたがね。ランゲロックさんが置いてけぼりになっている現状ですので下手な契約とか結ばれたら困るのですよ。やりかねないですからね、ビズレイズさんは。


 ただバベリオの商業ギルド長という立場もありますので、塔主の私たちを敵に回すのは得策ではないとも思っているでしょう。

 それは今後のギルド運営にも関わりますし、街民からの評判にもつながりますし、ビズレイズさんご自身の破滅にも成りうるわけで。だから下手な真似もできないと。


 やるかやられるかのせめぎ合い。単に商売のことだけでしたらそこら辺の機微はビズレイズさんの十八番でしょう。

 それに飲まれないように注意しなければなりませんね。私たちもランゲロックさんたちも。



「アデルさん、あの時の質問なのですが、商業ギルドに誰かが関わっているのですか?」


『ああ、最初の確認ですか。あれはビズレイズさんが信用に足る人間かを見たかっただけですわ。誰かしらの塔主が絡んでいるのは間違いないのですしね』



 商業ギルドに絡んでいる塔主はいるに違いない。ドナテアさんは確実に絡んでいるでしょうし、それ以外にも間違いなくいる。


 アデルさんはそれを分かっていてビズレイズさんに「それは誰か」と聞いたそうです。

 答えは「いない」と。そんなわけがないのに。


 そして「私たちとの会話内容を吹聴するか」と聞き、その答えは「自分から発するような真似はしない」と。



 つまりビズレイズさんはギルドに関わっている塔主の情報も漏らさないし、私たちのことも漏らさないと言っているわけですね。

 あえて「自分から」と言ったのは「盗み聞きされても自分は知りません」と釘を刺したということ。

 ということは諜報型限定スキルにも詳しいに違いない。やはり塔主が身近にいるのも間違いない。


 ……ということだそうです。よくあの短い会話だけで判断できますね。私には無理です。



『そんでウチらはどうする? 何か手伝ったほうがええんか?』


『特に何も。出掛けた時に新店舗の様子でも見て下さい。あとはわたくしのように新商品のアイデアを出したりですとか。まぁご自分の商品を売るのであれば、ですが』


『面白そうやけどハードル高いなぁ』


『うむ、わしはお前らに全部任せる。わしのトコの旗や名前は好きに使って良いがのう』


『わ、私も同じです』『私も同様に』



 じゃあ店に並ぶのはアデルスペシャルだけですか。

 私の商品はどうなるんですかね。パッケージに【女帝】が入るだけなのでしょうか。

 そこら辺はランゲロックさんと詰めたほうがいいかもしれません。


 私は色々とあるんですよね。ランゲロックさんとの打ち合わせや新店舗の確認。

 あとはアラクネクイーンに頼んで同盟の旗を作ってもらわないといけません。

 塔章はスマイリーさんに頼もうか……あっ!


 そういえばスマイリーさんのことも聞かれたのですよ。ビズレイズさんから。


 塔主の鍛治は商業ギルドが選抜したバベル専属鍛冶師に一任されます。塔主はバベル職員に武器や防具を渡し、それが専属鍛冶師に渡る。そして職員の元に戻ると。

 塔主からすれば職員に頼むだけで受け渡しが済むので、そちらを頼るのが一般的だそうです。


 しかし私たちの同盟は誰もバベル専属鍛冶師を使っていないので、おそらくどこかの鍛治師に依頼しているのだろうとビズレイズさんも思っていたそうです。

 塔章の件でエメリーさんが「鍛冶師にお願いしている」と言ったことも新聞に書かれましたからね。それが決め手になったのでしょう。


 とは言えその鍛冶師を見つけることができない。

 ただでさえ鍛冶屋街の端っこのボロ屋で暮らしているドワーフですし、スマイリーさんはギルドにあまり関与していないという話でした。

 その上、私たちは魔法契約も結んでいるのでやたら口外もできない。まぁ口外する相手も限られてそうでしたが。


 そういったわけで「どこの鍛冶屋を使われているのです?」と聞かれたのです。



『まぁ言っても問題ないですかね。鍛冶屋街の端にあるスマイリーという人の店ですわ』


『スマイリー? …………ああ! あのドワーフの店ですか!』



 よく知っていましたね。さすがギルド長です。あまりピンとはきていなかったようですが。

 ビズレイズさんも「よくあんな店見つけましたね」といった感じでした。そりゃまぁ優秀な諜報員がいますからね。

 でも「ドワーフ鍛冶師ならば専属にするのも納得です」とも仰っていました。


 そう評価するならギルドでも待遇良くしてくれればいいのですがね。別に人間至上主義というわけでもないでしょうに。



 私たちの武器を一手に手掛け、塔章も作っている鍛冶師ともなればギルドで注目されるかもしれません。

 そうなればスマイリーさんにもバベル専属になる可能性が出てきます。

 神授宝具アーティファクトを触りたがっていましたからね……上手くいくことを願っています。



「アデルさん、塔章はどうします? スマイリーさんに頼んでおきましょうか」


『そうですわね。一応早めに頼んでおきますか。六枚分ですし』


『なんじゃ塔章まで飾るのか。まぁ別にいいがのう』


『随分と豪華な店になりそうですね……いえ、売っているものが高級品ですからいいのかもしれませんが』


『な、なんか強盗とか入っちゃいそうじゃないです?』


「そこは商業ギルドのほうで警備員を雇うみたいですよ」


『かぁ~っ! ホンマに高級店やん! 今までのランゲロック商店と違いすぎるわ!』



 そこなんですよね。経費も沢山かかって商品は益々値上げしそうですし、今までのお店との差がありすぎます。


 平民でも滅多に立ち寄らないこじんまりとした店から、一気に高級店へ。

 立地も違う。店の規模も違う。客層も違う。客足なんて天と地ほども違いますよ。

 それにランゲロックさんとソフィアさんが順応できるのか……心配になりますね。



『とりあえずわたくしとシャルロットさんは営業時間外に街に出たり、休塔日にすることもあるかと思います。特に内定式の間近は忙しそうですわね。それ以外は塔の運営に努めると、それに尽きます』


『下手に塔主戦争バトルを仕掛けず、ということじゃな。喧嘩を売られればまた別じゃろうが』


『脱Cランク病の改装案も考えなあかん。それも同盟のみんなでまとめて共有したいしな』


『私も出来るだけ考えてみようと思います。より良い塔を創りたいので。……しかしノノア殿は……』


『わ、私は塔の方向性が一人だけ違うので……アハハ……で、でも三階層以降は同じような罠を使いますのでそこら辺で協力したいと思います』



 新店舗のことばかりにかまけている暇はありません。Cランク病をどうにかするために塔主戦争バトル用の階層に創り直さなければならないのですから。


 おそらく今までで一番大掛かりな改装になると思いますし、一回で終わるものでもありません。

 じっくりと考え、皆さんで話し合って、徐々に改装していくことになります。


 そしてその時の為にTPを確保しておかなければなりません。

 つまり日々の塔運営をしっかりやれと、そういうことです。



「ドロシーさんのところの偽Cランクの方々はどんな感じなのですか?」


『まだ六階層やな。挑んではスクイッシュドラゴンと戦って逃げ帰るって感じが続いとる。一回、魔物部屋にも行ったけど無理矢理通り過ぎて逃げ帰ったし』


『そうしたらダメージTPは入っとるか。美味そうじゃのう』


『かなり美味いで。やっぱAランク下位ともなるとTPの入りが違うわ。目に見えてわかるからな』



 【忍耐の塔】の六階層『砦』は多少の改装を行いました。


 今までは入口から三つの扉の一つが開いていて、それぞれ『罠の一本道』『魔物部屋』『普通の迷路』と分かれ、その先にボス部屋があるという形。そこにはスクイッシュドラゴン(★A)とリザード系(B)がいる感じです。


 一度道を選んでしまうと引き返せなかったのですよね。ボス部屋に行くしかないと。


 ただこれは封鎖していることになり、『道は繋がっていないといけない』という塔のルールに抵触します。

 ですので本当は引き返せるのです。閉まった扉の内側に隠しスイッチがありまして、それで扉を開け逃げることも可能だと。


 でもそれだとAランク並みの斥候職の前では無意味ですから、入った扉からは逃げられないとし、『別の通路を使って帰る分には普通に帰れる』としたのです。


 つまり『魔物部屋』のルートに入った侵入者はそのまま帰れません。

 なんとか魔物部屋を通り過ぎ、大ボス部屋まで抜けて、『罠の一本道』か『普通の迷路』を抜けて帰るしかないのです。


 結果、どこから入ってもスクイッシュドラゴンと相対することになります。

 そのほうがダメージTPや討伐TPを狙えるということですね。



 偽Cランクパーティーはその六階層に何度も挑んでいるということですから、おそらく誰も斃されずに何度もスクイッシュドラゴンと戦えていると。


 つまりAランク固有魔物に勝てないまでも、ある程度戦えているということですから、やはりAランク程度の力量があるということでしょう。

 そうなればダメージTPだけでも結構多そうですよね。



『ただもうしばらくしたらスクイッシュドラゴンはやられてまうと思うから、そこが考えもんやな。普通に斃させるのも癪やし、だったらそろそろ全滅してもらおうかな、とも思っとる』


『成果は十分ですものね。罠の良し悪しが見えただけでもすでに役目は果たしておりますし』


『す、すぐにやっつけちゃうのも勿体ない感じがしますけどね……』


『スクイッシュドラゴンを失うほうが勿体ないのでは? 私は討伐に賛成です』



 相手が何回もスクイッシュドラゴンと戦っているのなら斃されるのも時間の問題ですよね。

 であればもう討伐に切り替えるべきかと。私もそっちに賛成です。


 スクイッシュドラゴンと戦っているところにウリエルさんかパルテアさんを投入すればいいだけですしね。

 ただ逃げられないような工夫は必要でしょうが。ドロシーさんなら言わずとも考えているでしょう。



 偽Cランクの方々が【忍耐の塔】に侵入してくれたおかげで色々と問題点も見えました。

 ドロシーさんの罠は私たちの同盟の生命線でもありますからね。そこを「改良する必要がある」と分からせてくれただけでも大戦果でしょう。


 それを元にドロシーさんはどのような罠を創るのか。

 私たちは私たちで色々と考えなければいけません。

 とりあえず八女王会議で皆さんと話し合ってみますか。



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