326:商業ギルドに乗り込みます!
■シャルロット 17歳
■第500期 Bランク【女帝の塔】塔主
後日、私は休塔日を設け、エメリーさんとアデルさんと商業ギルドに向かいました。場所はバベルにほど近い大通り沿いですね。近くには冒険者ギルドなどもあり、まさしくバベリオの中心地という感じです。
ギルドの前でランゲロックさん、ソフィアさんと合流。随分と緊張気味です。
とりあえずアデルさんを先頭に商業ギルドへと入りました。
「あ、【赤】のアデル様!? 【女帝】のシャルロット様!? ギルド長を呼べ! 急げ!」
速攻で職員さんに騒がれました。ギルド内には結構人が多かったのですが、遠ざかるようにして一気にスペースが空きます。
なんかすみません。アポなしでいきなり。
と心の中で思いつつ、私は【女帝】モードを崩せません。ここは街中ですからね。
それからすぐにギルド長さん直々のお出迎えがあり、私たちは応接室に通されました。
対応もそうですがこの応接室も超一流ですね。おそらく対貴族か対塔主用の応接室なのではないでしょうか。
ギルド長さんはビズレイズさんと仰る初老の男性です。物腰の柔らかそうなおじさんという感じ。
私たちを前にしても臆することなく、緊張もせず、でも礼儀正しく対応すると。さすがはギルド長さんだと思いました。
「皆様のご活躍はかねがね伺っております。まさかこのような場所にお見えになられるとは思いませんでした。対応が不作法になりまして申し訳ありません」
「いえ、こちらが何の連絡もなしに出向いたのが悪いのですわ。突然申し訳ありませんでしたわね」
「しかし如何な御用かと思いましたが、そちらにランゲロック夫妻がいるのを見るに例の美容品の件ですかな」
おお……まずランゲロックさんたちを認識しているのがすごいですね。ほとんどギルドに寄与していないあの店を把握していて、尚且つランゲロックさんの顔を知っていないと分かりませんよ。
そして美容品の件も知っていると。これはドナテアさんが知っているくらいですから商業ギルドが把握していてもおかしくはないかもしれません。
いずれにしても色々と抜け目ない感じで、非常にやり手に思えます。さすがギルド長。
「ええ、そうなのですがその前にお聞きしたいのです」
「何なりと」
「まず、商業ギルドにどこぞの塔主が関与していたりなさいます?」
ええっ!? と顔に出そうになるのを堪えました。アデルさんいきなり何を!?
どこかの塔主が商業ギルドを牛耳っているとそういうことですか!? いつの間にそんな情報を!?
ドナテアさん以外ですか!? まさか【暴食】のピロリアさん!? あの人、スルーツワイデで商業ギルド長だったらしいですし!
「いえ、そのようなことはございません」
「ではここでの何かしらの話がどこかの塔主に漏れるようなことは?」
「少なくともわたくしの口から漏れるようなことはございません」
「なるほど、結構ですわ」
結構なんですか!? 私また置いてけぼりなんですけど!?
「とりあえずビズレイズさんがある程度信用できる方だとは分かりました。お話をさせて頂きますわ」
「ありがとうございます。よろしくお願いいたします」
今の問答で″ある程度の信用″が見えたのですか? 私にはさっぱり分かりません……。
「まずランゲロック商店で売り出している美容品ですが、こちらを委託生産、販売もギルドに加入している小売店にある程度任せようかと思っております」
「ほう、それはありがたいお話です。ギルドにもいくつか問い合わせがありましたからな」
「やはりあったのですか。それは街の方ですか? それとも塔主ですとか」
「街民です、シャルロット様。主に裕福なご婦人方がどこからか噂を聞きつけてギルドを訪ねてきたという形です」
「シャルロットさん、仮に塔主が聞きに来てもビズレイズさんはそれを口外しませんわよ」
ああ、そうですか……変に口を挟まなければ良かったですね。つい気になったもので……。
「生産・販売はランゲロック商店も継続しますが、増産増販したいということですわね。その上で委託生産に関しましては製法の秘密厳守をお願いしたいのですわ」
「では魔法契約書はこちらで用意しましょう。薬師への委託に秘密はつきものですからそれは問題ありません」
「その場合の利益配分はどうなりますの?」
「まずギルドへ売り上げの――委託業者へはギルドから――小売店での売り上げに関しましては――」
そこから細かいお金のお話になりました。アデルさん、商業に関わりなどないはずですのによく分かりますね。私はこれでも商店の娘ですからある程度は分かります。
ようは一つの商品を売ったお金が、ランゲロックさん、ギルド、委託生産者、小売店にそれぞれ分けられる格好です。
ランゲロックさんが作った分に関してはまた少し違うのですが大体はそのような感じ。
となるとやはり値上げは避けられません。ただでさえ高級品なのですがね……まぁ仕方ない部分ではあります。
ターゲットは裕福な街民と塔主が主になるでしょう。しかしバベリオの性質上、他国からの買い付け、輸出も考えられます。
いずれにせよ今のランゲロック商店の立地では圧倒的に不利になりますね。売上ガタ落ちでしょう。買う人が皆、街の中心部で活動している人ばかりなのですから。
「大々的に売り出すのは塔主内定式の頃合いと考えております」
「ほう、随分と先ですな。それまでに準備が必要ということですか」
「生産委託先に製法を教えるというのもありますが、ランゲロック商店を移転させたいのですわ」
「なるほど。それは私も賛成です。本家たるランゲロック商店がこの機に足を延ばすというのは実に理に適っておりますので」
「ビズレイズさん、大通り沿いにいい物件はありませんか? そこを私が買いますので」
「なんと、シャルロット様が出店されると! それはまた良いお話になりました」
ビズレイズさんは単純にランゲロックさんが規模拡大のために移転すると考えていたようですね。
それだけの蓄えがある、それほど美容品が売れている、だからこの機にと。
機を見るに敏。商人として見れば確かにそれが正しいですよね。
でも私が店を買うと言うと目の色が変わりました。そうくるとは思っていなかったようです。
まぁ私のような小娘がパトロンめいたことをするだなんて普通に考えればおかしいですもんね。
ところがそれが出来てしまうのが塔主というものでして……【強欲】のマグドリオさんあたりには感謝しなければいけません。
ジータさんがドナテアさんに「お金を街に落としてくれ」とか言われたそうですが、私もここぞとばかりに使っていきたいと思います。
「余計なマージンをとるつもりも経営に携わるつもりもありません。店名もランゲロック商店とそのままです。ですがお金を出資して店を用意し、私の店であることも周知させるようにするつもりです」
「そうなりますとシャルロット様はただ名前と金を出しているだけでほとんど利にならないのでは……ランゲロック商店としてはそれでも受けると?」
「……はい。色々と話し合いましたがご厚意に甘えようかと思います。せっかくのお話を無駄にもできませんので」
「ふむなるほど……いえ、そのおつもりでしたら分かりました。わたくしも全力でサポートいたします」
ランゲロックさんに利がありすぎる。私に利がなさすぎる。商業的に見てこれは不平等ですね。
しかしそんなことは二の次なのですよ。ビズレイズさんに言っても分からないと思いますがね。これは小商店の小娘の心意気ですから。
ただビズレイズさんが全力でサポートという意味は分かります。
私がマージンを得ようとしないのであればランゲロックさんが売上の大半を得ることになる。
であればそこからギルドに少しでも多くマージンを得るために、ランゲロック商店の売り上げを伸ばすことを考えるでしょう。そのほうが利になるのですから。
となれば――
「ちょうどこの近くに空いている店舗がございます。やや大きいかもしれませんが」
「こ、この近くですか!? 西部の大通り沿いとかではなく!?」
「ええ。バベル通りの真ん中付近、その一階です。シャルロット様の店舗ともなれば興味本位のお客様も多くお見えになるでしょう。少なくとも不足にはならないかと存じます」
ランゲロックさんは環状大通りの西部、つまり今のお店の近くになると思っていたようですね。
しかし提示されたのはバベル通りの中心部。商業ギルドの近く。超一等地です。
バベリオは円状の城壁に囲まれ、南に大きな門があります。基本的にはそこが唯一の出入り口。
そこから中心のバベルに真っすぐ伸びるのが通称『バベル通り』。一番の繁華街で経済の中心部でもあります。
ビズレイズさん的には新しいランゲロック商店はそこがいいだろうと。
【女帝】や【
そうなればギルドに入るお金も確実に多くなる、ということですね。
ビズレイズさんこそ商人らしく、機を見るに敏ということでしょう。
「よろしいのではなくて? シャルロットさん」
「はい。そこを内見などできますか? 中に薬師用と木工細工用の工房も欲しいのです」
「問題なく十分な部屋はあると思います。よろしければこの後ご一緒させて下さい」
ランゲロックさんとソフィアさんが若干置いてけぼりになりましたが、そのような感じで話はまとまりました。
それから六人と商業ギルドの不動産担当員さんとで新店舗予定地になる物件を見に行きます。
ギルドを出てから歩いて……ごく僅か。散歩にもなりません。そこにある五階建て住宅の一階部分ですね。
元は家具屋さんだったそうです。ですので日用品店よりもかなりスペースが広がっています。今のランゲロック商店の何倍ですかね。
広いカウンターの裏にはバックヤード。ここが工房と居住スペース。
元家具屋だけに木工用の工房は問題なし。薬師用の工房は部屋を一つ潰せば問題ないでしょう。
「こ、このような広い店とは……しかし陳列するだけの商品がうちにはないのですが……」
「でしたらギルド経由で商品を仕入れ小売りのようなことをしてもいいですし、シャルロット様のお店だと周知させるのなら【女帝の塔】に
「それはいいですわね。なんでしたらわたくしたち同盟全員の旗や塔章を飾ってもいいですわ。それに則した商品を並べてもいいですし。わたくしの旗の下にアデルスペシャルを並べるですとか」
「おおっ、アデル様、それは名案ですな! そうなれば客足がとんでもないことになりますぞ!」
なんかビズレイズさんが盛り上がってきましたね。確実な商機だから無理もないです。
「そうなると警備員や売り子の補充も考えなければいけませんな。それはギルドで手配いたしましょう。あとは看板、内装の手配。ランゲロック商店のお二人には商品を作り溜めしてもらって……え、ここで売り出す商品は特製の薬瓶を使う!? 同盟の印を使えるのですか!? ならばその瓶も大量生産しなくては! 急がねばなりませんぞ! これを任命式までに――」
大丈夫ですかね? 私はどちらかと言うとランゲロックさんたちが心配ですよ。勢いに飲まれそうで。
これはちょくちょく見に来たほうがいいですかね……営業時間後にでも……。
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