325:ランゲロックさんと相談します!
■シャルロット 17歳
■第500期 Bランク【女帝の塔】塔主
後日、ランゲロックさんと奥さんのソフィアさんがバベルまで納品に来て下さいました。
いつもの通り『会談の間』で受け取って清算という感じなのですが、今日はここにアデルさんも来ています。
例のドナテアさんの件ですね。説明しておかないわけにもいきません。
「――というのがドナテアの話ですわね」
「ま、まさか【色欲】のドナテア様がそのような……畏れ多いと言いますか何と言いますか」
「ようは自分も買いたい、使いたい、その為には何でもしますよというだけですわ。実際に買いたいというお客様は他にも多いのでは?」
「そうですね。確かに多くいらっしゃいますし、塔の関係者の方もたまに……それこそ【黄神石】のオーレリア様であるとか……」
「ええっ!? そうなのですか!?」
それは初耳でした。詳しく聞けばオーレリアさんから依頼された別のお店の方が来た、ということだったようですが。
まぁオーレリアさんはお貴族様ですしね。良い美容品と聞けば飛びつくのも分かる気がします。
……まさか美容品目的で仕掛けてきたわけじゃないですよね?
ランゲロックさんは少し前に増産体制を整えたというお話をしていました。
その結果、店に並べる分も多くはなったそうなのですが、それでもお客さん全員に行き届くほどにはなっていないそうです。
私たちのほうに優先して卸し、余剰分を店に並べる。それは今も変わらないのだとか。
「確かに商業ギルドに委託生産すれば量は作れます。しかしそうするとエメリー様から伺った製法を教えることになってしまいますので私が勝手に動くというのも……」
「エメリーさん的にはどうなのです? ランゲロックさんだけに留めておいたほうがいいですか?」
「わたくしはどちらでも構いません。わたくしからしても
「でしたら仮にギルドを通すことになっても製法については秘密保持をしてもらったほうが良いでしょう。生産委託するならば魔法契約が必須ですわね」
となればドナテアさんに頼むというのは無理ですね。
ランゲロックさんにお金は沢山入るかもしれませんが、あの方の口を塞ぐのは無理難題でしょう。
「しかし、それほど売れますかね……? いえ、売れるのは分かっているのですが塔主の方々が動き出すほど大々的に売れるというのも想像がつかないのですが……」
「実はうちの同盟のフッツィルが知人に広めたらしく、四人の塔主からも買い付けを依頼されているのですわ」
「ええっ、そうなのですか!?」
「実は私もレイチェル様からも頼まれそうだなと思っています」
「「レ、レイチェル様ぁ!?」」
ランゲロックさんとソフィアさんが腰を抜かしそうになっていました。
そりゃあ【世界】のレイチェルさんから依頼となれば驚きますよね。バベリオの民にとっては神のような人ですし。
自分が作った薬剤をレイチェルさんが使うとか……私だったら怖くなりますね。
「シャルロットさん、そうなのですか?」
「アデルさんのお土産を渡したら食いつきが良かったのですよ。レイチェル様はともかくセラさんは間違いなく食いつくと思います」
「まぁそれはお渡しして正解でしたわね」
「ただ【世界の塔】には人型の魔物が多いらしくてですね、大風呂も四つあるそうですし、一日で石鹸を何個消費するかも分からないと。ですので私が代わりに買い付けするとは言ったのですが頼みづらそうな感じでした」
「なるほど……【世界の塔】を甘くみておりましたわね……うかつでしたわ」
おそらくあのお土産はレイチェルさんとセラさんだけで使うと思います。
でもセラさんはおそらくもっと使いたくなるはずですし、そうなるとセラさんの配下の天使部隊も使いたくなるはず。
うちのアラエルさんが同じ感じでしたからね。天使は綺麗好きなのだと思います。
「わ、わ、私の作った薬剤が、その、レ、レイチェル様に使われるのですか……」
「そこは慣れてもらうしかありませんわ。シャルロットさんと繋がった時点でレイチェル様とも遅かれ早かれ接点は持つことになったはずです。諦めて下さいな」
「は、はぁ……いえ、ありがたいお話なのですが、その、いきなり感じたことのないプレッシャーが……」
ご愁傷さまです。本当に。でもアデルさんの言うとおり慣れてもらうしかないです。
貴族塔主の依頼を断っていたくらいですからランゲロックさんも心の強い人だと思うんですよね。
それでも恐縮してしまうのがレイチェルさんという存在のすごいところなのですが。
「となれば余計にギルドを通したほうがいいのでは? ランゲロックさんお一人に背負わせるのも酷に思えてきましたわ」
「私としてはランゲロックさんがやりやすい方法、儲けられる方法というのが第一です。まず店の経営を優先ですね。その上で私たちに必要数納品できるのであればそれに越したことはないと。ただそれだけです」
「わたくしも同じですわ。作るにしても売るにしてもお店の負担になってしまうのが一番いけませんから」
「……ありがとうございます。本当に感謝しかありません、私どものために……」
元は丁度良く見つけたお店がたまたま良い店で、そこがたまたま妙な輩に絡まれていたという所からですからね。
せっかくエメリーさん依頼の美容品も作ってもらったし、そこを潰すわけにはいかないと。
それがここまで話が大きくなってしまっただけなのです。
根本にあるのはお店の存続、ランゲロックさんの負担にならない、儲けさせる、それに尽きます。
私も小さな商店の出ですからね……その辛さは分かるのですよ。
「……でしたらギルドを通して委託してみようかと思います。せっかくのお話を無駄にはできませんし、私個人の力ではどうにもできませんから」
「生産に関しては魔法契約の上で委託するとして、売るのはどうしますか? やはりギルドに属している小売店ですかね」
「そうなるとランゲロックさんのお店の売上が落ちますわよ。立地で負けているのですから」
「あはは……耳が痛いですがそのとおりですね……」
あの路地裏ですと″穴場″という感じは拭えないですからね。どう見てもそこいらの小売店のほうが客入りは多そうです。
となれば委託する旨味がほとんどなくなりますね。契約次第でランゲロックさんがマージンを得ることも可能だとは思いますがギルドがそもそもマージンを得るでしょうし。
まず間違いなく値上がりするのでしょうが、それがどれほどのものになるか……何とも言えません。
「でしたら移転はどうですか? それこそ私が大通り沿いにお店を買ってもいいですよ」
「ええっ!?」「シャ、シャルロット様!?」
「ああ、それなら安心ですわね。【女帝】の店が出たとなれば評判でしょうし客入りは問題ありませんわ」
「いえいえ、私は買うだけであくまで『ランゲロック商店』には変わりありませんよ。住むのも経営するのもランゲロックさんですから」
「つ、つまりシャルロット様がパトロンになると……そういうことですか?」
パトロンですか。言い方は何となく嫌ですけどそういう感じですね。あくまで後援に留めます。
しかし私がパトロンとか……三年前には想像もできなかった事態ですね……。
「手出しをしないのは結構ですけれど、お店を任せるのであれば何かしら目に見える援助は必要ですわよ。客入りに響くのですから」
「例えばどういうのです?」
「ランゲロック商店にシャルロットさんが関与していると見せるわけですから……例の旗を店に飾るですとか、薬剤の瓶に塔章か″六つの輪″を入れるですとか、商品の名前に【女帝】を入れるですとか……」
「ああ、なるほど。それもアリですね」
「ええっ!? よ、よろしいのですか!?」
小売店のほうには今まで通りの薬剤などを流すわけですね。
そうすれば他の小売店との差別化も出来ます。売上が落ちるようなことにもならないでしょう。
「……と、勝手に話してしまっていますがランゲロックさんはどうですか? 今のお店に愛着があるようでしたら何かしら別の方法を模索しますが」
「い、いえ、正直夢のようなお話でありがたいとしか言えないのですが、その、本当によろしいのでしょうか、私などで……他にも優秀な薬師や経営者がいると思うのですが……」
「私はランゲロックさんを優秀な方だと思っていますよ。それにせっかく出来た縁なのですから大切にしたいじゃないですか」
「シャルロット様……」
それは正直な気持ちです。ランゲロックさんが誠実な方だからこそ、こうしてずっと贔屓にしているのですしね。
これが変な人だったら私は別のお店に浮気していますよ。
いい人には甘くなる……これは私も両親の血を引いているからに違いありませんね……気を付けなければ。
「……でしたら、そのお話、受けさせて頂こうかと思います。精一杯やらせて頂きます」
「はい、よろしくお願いします」
「そうしましたら商業ギルドに話を通しておくのが先ですかね。わたくしも行きますわよ。シャルロットさんお一人ではいいようにされてしまいますもの」
「アハハ、すみません、よろしくお願いします」
「その代わりに薔薇入りの薬剤をアデルスペシャルとでもして売り出してもらおうかしら。それくらいの役得はあってもいいですわよね」
「それはもう是非! やらせて頂きます!」
アデルスペシャル……相変わらずのネーミングセンスですね……まぁランゲロックさんがいいのであればそれでいいですけど……。
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