324:いつの間にか罹患していたようです!



■シャルロット 17歳

■第500期 Bランク【女帝の塔】塔主



「――というわけでこれアデルさんからです」


「まぁわざわざありがとう。アドバイスというほどのものでもなかったですけどね。お役に立てたのであれば良かったわ」



 レイチェルさんにアデルさんからのお礼の品をお渡ししました。代わりに渡しておいてくれと言われましたので。


 中身は美容品ですね。

 レイチェルさんにお礼の品をあげるといっても金銀財宝を渡したところで何も嬉しくないでしょうし、だったら例の美容品しかないだろうと、そういう結論になったみたいです。


 一応私のほうから色々と説明をしました。乳液の使い方ですとか。

 レイチェルさんが使うかは分かりませんけどセラさんは使いそうですしね。



「――というわけですので、もし今後も入りようなら私に連絡を下さい。代わりに仕入れますので」


「そうですね、ではその時は……いえ、それは危険かもしれないですね」


「危険、ですか?」


「ええ。私の所にいる人型はかなりの数になるのですよ。大風呂も四つほどありますし、それが全員使ったとしたら石鹸だけでも一日数個単位で必要になってきますから」


「あー、なるほど……それは考えものですね……」



 そういえば【世界の塔】はSランクでした。第一位でした。

 そりゃ人型の魔物もいっぱいいるでしょうし、お風呂に入る魔物も多いでしょう。

 天使がセラさんだけなわけもないですしね。天使部隊だけで数百人規模じゃないですか? 分からないですけど。


 とりあえず頼めそうな分だけ発注して、レイチェルさんに渡せる分だけお裾分けという感じですかね。

 今後たくさん生産出来るようになるかもしれませんし。その時にまた相談ということで。



「それにしてもアデルさんが勝てたようで安心しました。あまり他の塔のことをシャルロットさんにお聞きするわけにはいかないと思いますが、【赤の塔】は攻め込んで勝ったのですか?」


「はい。相手は完全に防衛で、こちらは機を見て攻撃に、という感じですね。レイチェル様のお手紙のとおりの展開になったと思います」


「そうですか。であれば良かったです。互いに完全防衛策というのは負けづらいですけど勝ちづらくもありますから。アデルさんが守りに入らなかったのであればそれは成功でしょう」



 そこら辺の駆け引きは私には分かりません。

 でもクラウディアさんもお手紙で同じようなことを仰っていたんですよね。やはり経験の差なのでしょうか。


 私もアデルさんも、なんならドロシーさんだって最初は「【黄神石】は防衛重視だからこっちも守りが有利になる」と思っていましたし。攻め手が限られますからね。向こうは。


 しかしお二人曰く、それは違うと。

 難しいですね。バベルの塔主戦争バトルというのは。



「【影の塔】のほうはどうだったのです? あまり心配はしていなかったのですが」


「そちらは色々とあったのですが、まずその少し前に諜報型限定スキルで――」



 【影の塔】戦に関しては詳しく話して大丈夫ですね。私のことですし。

 ただスカアハさんの能力などに関しては伏せます。今や私の眷属なので。

 <影潜り>や<影魔法>には触れず、斥候に特化したSランク固有魔物だったと。



 今回の塔主戦争バトルはあれこれと試す機会を多く設けました。そうするのに丁度いい機会と、丁度いい相手だと思ったからです。


 【女帝の塔】に攻め込ませるのも、ロイヤル小隊をぶつけるのも、海の神殿で戦闘するのも、エメリーさんが防衛に回るのも、バートリさんが総指揮をとるのも、斥候なしで挑むのも……細かいところを挙げればきりがないですが、とにかく色々と試したわけです。


 その結果、多くの課題を発見できたのでそれは良かったのですが、思っていたよりも深刻で致命的なものだなと感じたのです。

 それは今後ずっと考えさせられるものだとは思いますが、できれば早めに、そして同盟全体で考えたいと。



「――というわけで、今は危機感を持っているという感じです」


「なるほど。遅まきながらの『Cランク病』というわけですね。まぁ今まで無茶をしながら駆け抜けてきたので気付く暇もなかったのでしょうが」


「すみません、Cランク病とは?」


「その様子ですと今はあまり一般的ではないのですかね。Cランクの塔にありがちな、侵入者と塔主戦争バトルの差異に悩まされるものです。昔はそう言われておりましたよ」



 レイチェルさんが言うには、Cランクの塔主が塔を創る時に同じような悩みをよく抱えるのだそうです。


 Cランクの侵入者を相手にするにはボスをAランクの魔物にして、Bランクの魔物を数体くらいが目安となる。

 しかしCランクの塔相手の塔主戦争バトルを考えるとその戦力では絶対に勝てない。

 だから塔の難易度を上げたいが、TPもないし、下手に上げると侵入者が入らなくなる……と悩むわけです。


 これがDランクの塔の場合ですとまだ侵入者に対する塔構成と、塔主戦争バトルを意識した塔構成でそこまで差異が出ることはないらしいですね。それは塔主戦争バトルの頻度や相手にもよるのですが。


 そしてCランクになって悩み始め、BランクAランクと上がれば上がるほど悩みは増すそうです。

 それだけ侵入者と塔主戦争バトル相手に差異が出て来るということですね。



 私の場合、Cランクの時は塔主戦争バトルのことばかり考えていました。

 延々と格上の相手ばかりと塔主戦争バトルする感じだったので、とにかく塔を強くしなければいけないと、侵入者どうこうなど気にせずに戦力強化に努めていたと思います。


 それにCランクでいる期間が一年しかなかったですからね。それもあって余計に『Cランク病』など気にしなかった。



 そして今、Bランクとなり、Bランクの侵入者が入っている一方、戦う相手も【轟雷】【影】とBランクが続いているわけです。

 今後Aランクの塔と戦うことになるかもしれませんが、やはり今の私にとってAランクというのは単独で戦いたい相手ではありません。せめて戦うのならBランクとなるでしょう。


 ですから『Cランク病』が顕著に出てしまっている、ということだそうです。



「レイチェル様も罹られたのですか、Cランク病に」


「もちろんです。塔主戦争バトルを見据えない塔主ならまだしも、誰だって抱えて当然の悩みですからね」


「どうすればいいのですかね」


「多くの塔主は侵入者を優先します。高ランクの塔ともなれば塔主戦争バトルの機会は極端に減るのですしね。そうなれば焦点を侵入者に当て、どうやってTPを得るかを考えるのが普通です」



 なるほど。それもそうですか。しかし……



「しかしシャルロットさんは塔主戦争バトルを意識したいのですよね?」


「そうですね。今後、いつになるかは分かりませんが″敵″は残り続けますので……」



 例えば【節制】同盟や【聖】同盟ですね。

 【節制】がアデルさんを斃したいと思うかは分かりませんが、メルセドウ的に考えれば敵であり続けるでしょう。

 ランク差も縮まっていますし、いつ塔主戦争バトルとなってもおかしくありません。


 【聖】同盟はとても戦える相手ではありませんが、向こうがこちらを消したいでしょうし、いずれは戦うことになると思います。

 であれば考慮しないわけにもいきませんし、塔を強くしておくべきかと思います。



「ならば塔主戦争バトルを意識した塔構成にすべきでしょう。侵入者にとって難易度が跳ねあがることになるとしても」


「例えば階層によって分けるというのはどうなのでしょう。下層が侵入者向け、上層が塔主戦争バトル向けなど」


「あまりおすすめはできませんね。というのも実際に塔主戦争バトルをすれば感じると思いますが、″意味のない下層″というものが大きな欠点に見えるはずです。敵攻撃陣には蹂躙され素通りされ大した時間稼ぎもできず、ただこちらが不利になると」


「ああ、なるほど……」


「一番良いのは『塔主戦争バトルの時にだけ難易度が跳ねあがるような塔構成』なのですが、そうなるとかなり難しい上にTPが都度莫大にかかるのですよね。それもあって最初から塔主戦争バトルを意識した塔構成にすべきだと思います」



 はぁ~~すごく為になりますね……。これは皆さんに報告しましょう。私だけが聞くのも勿体ないお話です。

 しかし、最近私がずっと悩んでいたことを、こうズバッと解決してもらえることが非常に嬉しい。

 胸のつかえがとれた気分です。



「レイチェル様、その場合、敵の大部隊が攻め込んで来ることを意識して一階層の塔構成から見直した方がいいということですよね」


「一階層の役割をどう置くか、ですね。調査なのか時間稼ぎなのか削りなのか。削るにしてもどういう魔物を削りたいのか。斥候なのか後衛なのか。あるいは魔力や薬の類を削りたいのか。それによって塔構成や罠、魔物も変わるでしょ?」


「そのとおりですね……」


「じっくり考えてじっくり改装すべきです。まずは日々のTPをどう稼ぐかを考えてはどうですか」


「はい、ありがとうございます」


「Cランクでも急いで、Bランクになっても連戦しているのがおかしいのですよ? 本来は数年、十数年をかけてCランク・Bランクの塔を創るのですから。シャルロットさんも少しは落ち着いて塔と向き合ってみては?」



 返す言葉もございません、本当に……。

 ご迷惑をおかけします……。





「――という感じでして」


『あいたたた……さすがレイチェルさんや、ぐうの音も出えへん』



 帰ってから早速皆さんと情報共有をしました。

 とてもいいお話を沢山聞けたのですが、最終的には怒られる感じになったので慰めてもらおうと。



『まぁ確かにシャルはおかしいからのう。レイチェル殿の言が全て正しい』


『レイチェル殿にも怒られるレベルなのですか……やはり私の感覚は間違っていなかったのか……(小声)』


『そらBランクに上がって早々、四塔も消してるんやで? そんなんシャルちゃんだけやろ』


『わたくしはセーフですわね。まだ一塔ですし』


『よ、良かったです、私まだDランクで……』


「いやいやいや、私だけってことじゃないでしょう!? 皆さんだって同じようなもんじゃないですか!」



 最近はそのアレですけど、ほとんど同盟として戦っているのですから。私だけが落ち着いてないってわけじゃないでしょう!?

 駆け足なのはランクとかランキングとかの結果でそう見えるのであって、あとは戦わなきゃいけないから戦っただけですし! いくつか私欲が入ったところもありますけど。



『まぁ冗談はさておきCランク病とは初めてお聞きしましたわね』



 一部の人は冗談には聞こえなかったですけどね。



『言われてみれば確かにと思わされるところもある。皆同じように悩んでおったのじゃなぁ』


『大抵の塔主が侵入者優先にするちゅうのも分かる話やで。ウチらが斃した塔なんかほとんど同じ感じやったからな』


『侵入者に対して難しくと調整した結果、私たちは攻めやすくなったということですか。確かに皆さん殲滅戦を多くできていましたからね。それだけ塔主戦争バトルに向かない創りをしていたとも言えます』



 そうなのですよね。

 こちらからすれば攻略しやすい塔構成。だからこそスルスルと攻略していき、上層には大広間があって、そこに主力の魔物の大群か巨大な魔物がいると、そういうものばかりだったのです。


 高ランクになったからには強い魔物が欲しいですし、多くの場合、そういった魔物は大きくなってしまう。

 だからその魔物の階層を最終防衛線にして、その強い魔物で守りきればいいと。


 逆に言えば、その他の階層は全て侵入者からTPを得るための階層なわけです。



 大抵の塔がそうだったんですよね。最上階の直下とその下ぐらいに主力が固まっているパターンでした。【傲慢】も【魔術師】もどこも同じです。



「私もレイチェルさんに言われて色々と気付かされました。相談して良かったですよ。このままだったら中途半端な塔を創ってしまうところでしたし」


塔主戦争バトルを意識した塔構成にするちゅうことやな? めっちゃ大変そうやけどウチもそっちのが好みや』


『デメリットも相当ありますけれどね。待ち受けるのは茨の道でしょうし。でもやる価値は十分にありますわ』


「はい。とりあえずTPを稼ぐところからですけど私は案を溜めておいて徐々に改装していこうと思います」



 方針が決まっただけでも良かった。

 でも考えなくてはいけないことが多すぎますし、TPも足りないですからね。少しずつ熟していきましょう。


 ……TP不足を塔主戦争バトルで補うっていうのは、ダメですよね。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る