323:エルフの互助会も活発です!



■アデル・ロージット 19歳

■第500期 Bランク【赤の塔】塔主



「随分と余計なことを喋っていたみたいですわね」


「ええっ!? かなり口が堅かったと思うんだが!?」



 少なくともわたくしたちは何を気にしていて、何を警戒しているのかは察せられたでしょう。


 ドナテアなんて口が上手い塔主の筆頭みたいな存在なのですから、ジータの言葉や雰囲気の端々からその裏を読み取るくらい普通にやってきます。呼吸をするレベルで。

 伊達にスルーツワイデ随一の娼館主ではありません。貴族社会以上に清濁併せた世界で生きているのですしね。



 しかしそれはそれとして、いくつか情報も得られました。

 わたくしにとって重要なのはクルックーの最小化が見破られたことですわね。


 存在自体はパレードでも見せているのでステータスなどを知る塔主もいるでしょう。あの鳥は【赤】の固有魔物で神獣であると。


 ただ最小化について知る者はほとんどいないはず。

 あの状態のクルックーはSランク固有魔物のランスロットでさえ、見つけるのに苦労したほどですからね。

 何気なく見つけるとなれば、やはりターニア様ほど卓越した<魔力感知>が必要なのだと思います。


 つまり【異界の魔女】プリエルノーラはそれほどに強いと。


 まぁ<魔力感知>が優れているから強いと決めつけるわけではありませんが、魔法技術そのものが優れていないと<魔力感知>も効果は薄いままですからね。強さと巧さは比例していると見るべきでしょう。


 【色欲】がローゼンダーツ伯の依頼を蹴ってくれて助かりましたわ。

 どう見ても【忍耐】に勝ち目は薄いですし。確実に勝つならば【女帝の塔】しかないでしょうしね。

 ああ、わたくしはもちろん勝てませんわよ? 最高戦力のジータが男性という時点でアウトですわ。



 それとランゲロック商店の件ですわね。

 口コミで広まっている気配は感じていました。ランゲロックさんも仰っていましたしね。好評だと。

 ドナテナは手広いですから耳に入るのも早かったのだろうと思います。


 しかしそこまで食いつくとは意外ですわね。

 【女帝】が絡んでいるのはすぐに分かることですし、そうと分かれば手を引くと思いましたが……まぁそれほどまでに欲しいということですわね。女性ならば当然の反応と言えるかもしれません。



『なるほど……どうしたものですかね。私としてはランゲロックさんが助かる方向性であれば何でもいいのですが』


「一度ランゲロックさんと話し合いたいですわね。わたくしも同席しますわ」


『分かりました。近々お会いできるよう伝えてみます。しかし予想以上の反応ですね……』


「むしろ遅いほうかもしれませんわ。それだけ出回る数が少なかったのだと思いますがね」


『あー、最近増産できるようになったって言ってましたからね。そのせいもありますか』



 シャルロットさんとエメリーさんがあのお店を見つけたのが約一年前。

 冷静に考えてみれば、ドナテアが動くにしては遅いほうかもしれないですわね。知っていれば即座に動いたでしょうし。

 まぁジータを通してでも直接頼みたかったから遅くなったとかいう理由かもしれませんが。


 問題はエメリーさんの異世界知識が広まることの危険性。

 ただこれはそれほど気にしなくてもいいかもしれません。武器などならともかく美容品ならば広まっても問題はないでしょうし。


 そうして異世界の神定英雄サンクリオがこの世界に知識を落とすというのも、長いバベルの歴史の中にはありますので。魔導車などがいい例ですわね。



 あとはランゲロックさんの専売でなくなった場合、ランゲロック商店にとってプラスなのかマイナスなのか。

 そして、わたくしたちの手元にちゃんと入って来るのか。これが一番重要です。優先して頂けるようお願いしなければなりません。

 そこら辺を詰めないといけませんわね。



 しかしそう考えるとお礼の品にあの美容品セットを選んだのも良かったかもしれないですね。流行の先取りみたいなものですし。


 喜んで下さればいいのですが。レイチェル様もクラウディアさんも。





■フッツィル・ゲウ・ラ・キュリオス 52歳 ハイエルフ

■第500期 Cランク【輝翼の塔】塔主



「――というわけでこれがアデルからの礼じゃ」


「なんと、わざわざありがとうございます。大したアドバイスもしていないのですが……」


「えっ、クラウディアさんが【赤】のアデルにアドバイスをしたのですか!?」


「まさか先日の【黄神石】戦の!?」



 月に一度くらいの頻度で開催しているエルフ塔主五名による互助会。

 その席でわしはアデルからの手土産を渡した。アデルが直接クラウディアに会う機会などないからのう。代わりに渡してくれと。



「中身はなんです? うわっ! すごい宝石! アクセサリーですか!」


「それとこれは何です? 何かの薬剤ですか?」


「それは美容品じゃな。うちの同盟が懇意にしている店のもので石鹸や髪油、乳液に洗髪剤じゃ」



 アクセサリーはおそらく【黄神石の塔】の押収品じゃろう。クラウディア用に見繕ったのかエメラルドが入ったアクセサリーが多い。まぁエルフは普段アクセサリーなど付けんがのう。持っていて困るものでもあるまい。


 それと美容品じゃな。これは説明がいるがわしも使っているからよく分かる。

 どこにでも売っているものではないし、使えばその良さが分かるじゃろう。これはクラウディアも喜ぶじゃろうな。


 と説明していたら他のエルフたちも興味が湧いたらしい。

 ミケルは石鹸くらいしか使わんと思うがな。ただあの石鹸は石鹸で素晴らしいものだから是非使って欲しいものじゃ。



 エルフがあの店まで買いに行くというのも目立ちそうなので、わしを介して買うことになった。

 ランゲロックが納品のためバベルに来るついでに同盟の分をまとめて発注しているからのう。そこにわしの分も入っておるから数を増やせばよい。



 それから話はアデルに対するアドバイスの内容へと移った。

 特にアリシアなどは気になったらしい。【聖樹の塔】も同じBランクじゃからな。



「私は【赤の塔】も【黄神石の塔】も詳しく知っているわけではないから、一般的なアドバイスしか出来なかったのだがな」


「【赤】は火属性とジータ、【黄神石】は物理防御って感じですけど……」


「そうだな。それは双方の塔主が持っているイメージでもあるだろう。だとすれば【黄神石】は防衛策に出るはずだし、【赤】も同じく防衛をメインに考えるはずだ。【黄神石】の攻撃などたかが知れているからな」


「たかがって言っても強そうですけどね……まぁ防御力に比べればって感じですが……」


「しかし防衛策のぶつかり合いというのは得てして実らないものだ。勝つにしても厳しいものになる。だからこそどう攻めるかが重要になるのだが――」



 そこからクラウディアの考えを話していったのじゃが、これがなかなか面白い。

 わしもそうじゃが、アリシア・ミケル・エレオノーラにしても為になる話だったのは間違いない。


 塔同士の心理戦、硬い魔物に対する仕掛け方、塔の特徴を予想することなど多岐に渡る。


 クラウディアは当然の考えとして話しているが、Aランク塔主と我らを一緒にしてもらっては困る。

 例えば<風魔法>の使い方などは我らのどの塔でも使える知識じゃしな。これらは素直にありがたい。



「はあ~~、じゃあアデルはクラウディアさんのおかげで勝ったみたいなもんじゃないですか。それはお礼も来ますよ」


「いや、そんなことはないだろう。私は【黄神石】の神授宝具アーティファクトや限定スキルについて触れていない。そこを解決しなければ【赤】が攻めることもできないし、負けていてもおかしくはないのだからな」


「フッツィル様、そこら辺はどうだったのですか?」


「ある程度予測は立てて挑み、あとは戦闘しながら確認していった感じじゃのう。まぁ塔の特色を考えれば神授宝具アーティファクトにしても限定スキルにしても防御寄りの性能になる可能性が高い。アデルもそう思っとったらしい」


「その予測自体は誰にでもできる。しかしその予測を元に作戦を立てたり、予測に身をゆだねる決断力が必要なのだ。そこら辺はアデルの力量で勝ったと言えるだろうな」



 それもそれで正しい。クラウディアならではの評価じゃろう。

 アデルは危険を承知で踏み込む勇気と、他人に頼る柔軟さがあるからのう。まぁ後者は滅多に出さないが……シャルに感化されているのは間違いない。


 普通の塔主は「もしかしたら負けるかも」と一歩引いてしまうものじゃ。不確定な限定スキルがある時点で考慮して当然じゃが。

 しかしアデルは「それでも行くしかない」と前に出る。そこが持ち味じゃな。



 シャルも似たようなもんじゃが、あいつの場合は「眷属に全部任せる」という決断力じゃからな。

 これは何も″他人任せ″という言葉で済む話ではない。配下に全てを任せるのはとてつもなく怖い。どうしても自分で指揮をとりたくなるのが塔主というものじゃ。


 しかしシャルは全幅の信頼を預けられる。それは眷属であっても同盟仲間であってもじゃ。他の誰にできることではない。


 信頼を預けることで信頼を得る。結果、シャルの周りには皆が集まる。

 それこそが【女帝】の資質なのではないかとわしは考えておる。



「うわぁ、Bランクともなるとそんな事を考えて塔主戦争バトルをしてるのか……」


「私は全く考えてなかったけどね……まぁ塔主戦争バトル自体ろくにしていないんだけど」


「あたしにとっては雲の上の会話ですけど、アハハ……」


「まぁお前たちも先々機会があるかもしれん。考えておいて損はないだろう」


「その為にも塔を強くしておかんとな。それ、ミケルよ、見せてみい。あれからどう弄ったのか評価しようではないか」


「あーそうですね、えっとこれが今の三階層なのですが――」



 ここからがエルフの互助会の本当の姿じゃな。それぞれ塔運営の悩みや修正点、課題などを持ちより、意見を聞いたり話し合ったり。

 そうして塔を強くしていくのが狙いじゃ。


 今はミケルの【紺碧の塔】じゃな。Cランク67位というのは立派なものじゃが、いかんせん十二年も自分一人で塔運営をしてきているので粗が目立つ。


 それもそうじゃろう。今までそれを正す機会もなく、生き残っているのじゃからな。

 正解ではあるが正解ではない。そんな塔のまま今まで来てしまった。



 しかし二十七年目Aランクのクラウディアや、十五年目Bランクのアリシアからすれば「よくこれで生き残ってこれたな」という話になる。もちろんわしから見てもじゃが。


 アリシアの【聖樹の塔】にしてもクラウディアからすれば同じようなもんじゃ。手直ししたいところは多い。

 エレオノーラはすでに修正されているが、ミケルやアリシアの塔を見るだけでも十分に参考になる。


 そうした互いに利のある話し合いが月に一回行われておるわけじゃ。頑張った甲斐があるのう。



「ミケルの塔は風だけじゃなくて水も使えるのが強みでしょ? だったら風だけに特化させた階層ってやめたほうがよくない?」


「風に特化させる階層ってのが面白いと思ったんだけどな……俺はアリだと思うんだけど」


「私はどちらもアリだと思うが風に特化させるならば塔構成と罠配置が甘い。これでは微々たるダメージを与えてただ通過されるだけだ」


「ほー、全然分かんないですけど例えばどうすればいいんです?」


「わしなら地形ごと見直すかのう。動きが制限される地形で風を使えば効果も上がるじゃろうし。例えば坂道じゃとか橋じゃとか」


「あぁ、なるほど……でもそうした場合――」



 といった感じで活発な議論になる。

 この五名の場合、全員が似通った塔というのも大きい。属性で言えば風じゃな。アリシアは神聖、ミケルは水もあるが。

 そうなると魔物も似てくるし、似たような塔構成も流用しやすい。

 アドバイスを受けやすいし、しやすい、という感じじゃな。


 わしにとっても色々と考えるいい機会じゃ。

 じゃからファムで覗いた情報などは言わん。【紺碧の塔】はよく知っているがのう。言わぬが華じゃな。


 わしも自分の塔をどうにかせんといかんからのう。

 同盟全体で防衛計画の見直しをするという話じゃ。わしもやらんわけにはいかん。

 とは言え色々と悩ましいのう……これこそクラウディアに相談したいものじゃ。



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