第十七章 女帝の塔は病に罹ってます!
322:ジータさんが飲みに行きます!
■ジータ・デロイト
■【赤の塔】塔主アデルの
【黄神石の塔】との
言うて大量に押し寄せるって感じじゃねえけどな。それはBランク塔なんだからそもそも絶対数に限りがあるわけで。
それでも主がご機嫌になる程度には繁盛していたと思う。
TPもそこそこ手に入ったがランスロットの眷属化に使ったり、消費した魔物の補充やら何やらで結局すぐに消えた。
まだ【赤の塔】も完成してねえんだよな。魔物の数が足りねえ。
主はまだ現実的なほうだから【女帝の塔】みたいにとち狂った魔物構成にはしないと思うんだが、それでもシャルロットの嬢ちゃんを意識しているのは間違いねえ。だから目標を高く、難易度のバカ高い塔を創ろうと躍起になってるわけだ。
それはそれでアリだとは思うけどな。いずれは魔物の質を高めることになるんだし。塔運営が間違っているとも思えねえ。
ただBランクの塔として安定させるためにはある程度の完成形を創らなきゃならねえと。
そこら辺の塩梅だな。この分じゃ【赤の塔】も【女帝の塔】もいつ完成するのやらって思っちまう。
おまけに今回の
それは【女帝の塔】に限らず同盟全体で考えるべき問題だ。
具体的には『防衛時の自塔の扱い・戦い方』ってとこだな。塔構成・魔物・罠、その全てを見直す必要があると。
ドロシーの嬢ちゃんも『高ランクの斥候には自慢の罠が通用しない』って言ってたが、それと同じようなもんだ。
なにも対侵入者ってだけじゃなく、対高ランクの塔でも同じことが言える。
だからこそ同盟全体で考えていくべきだと、そういう話になっている。
俺は過去に二回も
Bランクの塔ともなると考え方自体が色々と変わって来るんだなと、今回初めて知った次第だ。
情けねえな。これで
「そんなこと最初から分かっていたことでしょう? 今さら何を言ってますの。ジータからのアドバイスなんて最初の最初くらいしか当てにしていませんわよ。貴方は肉体労働担当なのですから」
「えぇぇ……」
「ほら、さっさとランスロットの訓練でも付き合ってきなさいな。でなければお酒でも飲んできなさい」
そういったわけで考えるのは頭脳担当様に丸投げし、俺は飲み屋に向かった。やけ酒だ。
場所はいつもどおり、例の店だ。
騒がれないし飯も酒も美味いんで結局あの店には何回か通ってるんだが、やはり高ランクの塔関係者に会うのは珍しいんだなと分かったからな。
一番遭遇するのは【火】の
【暴食】は毎回見ているが話すわけじゃねえしな。無視して終わりだ。
「いらっしゃいませ、ジータ様」
「飯と酒を適当に頼むわ」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
これだけでいい。非常に楽だ。【色欲】のドナテアもいい店作ったもんだぜ。
そんな風に思いながら美味い飯と酒を楽しんでいたんだが……
「おや、【英雄】ジータじゃないか。いらっしゃい。よく来てくれてるみたいだねぇ」
「ん? ホントだ! 生ジータじゃん! ヒャヒャヒャ!」
当のドナテアが現れた。チッ、今日は誰にも絡まれずに済みそうだったのにな……まぁいずれ会うとは思っていたが。
隣には
「おう邪魔してるぜ……ってこっち来るんじゃねえよ。そっちで飲んでりゃいいだろうが」
「まあまあ、ジータにはちょっと聞きたいことがあったんだよ。ここは奢るから許しとくれ」
「おっちゃーん、こっちにお酒! 私はご飯も!」
ずかずかと俺の並びのソファーに座り始めた。どうやらここで飲み食いするらしい。
せっかくの至福の時が……高ランクの塔関係者に奢る必要なんてないことくらい分かってるだろうが。金は腐るほどあるんだよ。
しかしそんな声は無視され、なし崩し的に一緒に飲み食いするはめになった。ハァ……ついてねえな。
「ああそうだ、とりあえず【赤の塔】の戦勝おめでとうと祝っておくよ。乾杯」
「ありがとよ。素直に祝われておくわ」
「よく勝てたもんだねぇ。【黄神石】だって強かっただろうに」
「何言ってんだ。どう見ても【色欲】のほうが強いじゃねえか」
同じBランクで【黄神石】は31位。【色欲】は26位。
ランキングの順位は近くてもその差はかなりデカいはずだ。下手したら21位の【影】より強そうだしな。
プリエルノーラに加えて【色欲の悪魔アスモデウス】もいるのが確定してるようなもんだし。それだけで厄介極まりない。
「しっかし貴族ばっかよく狙うもんだ。民衆の受けはいいんだろうが経済的には困ったもんだよ。まぁ向こうから仕掛けたんだろうけどね」
「金使いの荒い貴族が消えてバベリオの店が困ってんのか? お前の店も?」
「少なからずね。だから街に金を落とすよう同盟の連中に言っておいておくれ」
「どいつもあんま金を使うタイプじゃねえんだよな……まぁ一応言っておくが」
この二年間で俺たちの同盟が消した塔主は貴族だけで十数人に及ぶ。その他に大商人やら貴族関係者やらもいるわけだ。
そいつらが数年、十数年に渡ってバベリオの街に金を落とし続けたのは間違いない。
そう考えるとバベリオの街には俺たちの勝利を素直に喜べない連中もいるんだろうな。
特に【竜鱗】【影】【黄神石】は典型的なお貴族様のご令嬢・ご婦人だったとかで、バベリオの街では結構豪遊していたらしい。
男より女の方が金使いが荒い。貴族なんてそんなもんだ。
それが直接ドナテアの店の売り上げに直結するわけじゃないだろうが、回り回って影響が出るってことだろう。
ドナテアがどこら辺まで支配しているんだか知らねえがバベリオの商業に大きく絡んでるのは間違いねえ。
「ああ、そういえばそっちにはスルーツワイデから何かなかったのか? 【忍耐】の件で」
「あったに決まってるじゃないか。ローゼンダーツ伯から直々にお便りがきたよ」
「ほう、んじゃいつ申請するんだ?」
「誰がするかい。手紙なんざ燃やして捨ててやったさ」
やっぱりあったのか。そりゃそうだよな。偽Cランクを侵入させてんだから。
それで塔主に何も依頼しないなんてわけがない。
「そうか、そりゃ残念だ。他の連中には行ってねえのかな。【暴食】とか【猛獣】とか」
「聞いちゃいないけどあっても受けないだろうし、受けたところで【忍耐】が受理しないだろ? 何にしたって無駄だよ。あの伯爵は何も分かっちゃいないんだ、バベルのことなんてね」
「まぁそんなもんだよな、バベリオの民だってろくに知らねえんだから無理もねえ」
今ここで【暴食】に聞きに行きたくはねえな。ピロリアのヤツは永遠に飯を食い続けていてまともに喋るとも思えねえし、何となく近寄りがたい。
ドナテアも放っておいてるみてえだし、下手に聞くこともできねえか。
できればドロシーの嬢ちゃんに情報の手土産でも持って帰りたかったんだけどな。
「ああ、そうそう、バベリオの民って言えばね。その件で聞きたいことがあったんだよ」
「そういやそんなこと言ってたな。なんだよ聞きたいことって」
「ランゲロック商店で出してる美容品の件さ」
ランゲロック……? ああ、鍛冶屋の近くの商店のことか。俺は一度も行ったことはねえんだが。
あの石鹸はうちの塔でも使っちゃいるが泡立ちとかすげえんだよな。俺には美容のことなんか全く分からねえがあの石鹸がいいものだってのは分かる。
「よく知ってんな。奥まった所にある小さな商店って聞いたぞ」
「今や知る人ぞ知る穴場の名店さ。バベリオの裕福なご婦人方はどうしかして手に入れようと躍起になっているらしい。あたしも何個か手に入れてるけどね」
「ありゃあいいもんだよ! 髪の指通りがスルーッといくんだ! あんたは髪がないから分からないだろうけどね、ヒャヒャヒャ!」
「余計なお世話だ。てめえは飯でも食ってろ」
プリエルノーラが飯をがっつきながら茶々入れてきやがった。
しかしあの店がそんなことになってるとはな……これは伝えておいたほうがいいだろうな。
「ただあの店は【女帝】のお手付きなんだろ? おまけに自分の店で作って売ってる。ギルドに流れもしないし他の店も介入できないんだよ」
「ようは手に入れたくても手に入れられない現状ってことか」
「そうさ。だからギルドで買い付けできないもんかってね。そうすりゃ小売店に並ぶし生産を委託できるかもしれない。最悪あたしに横流しでもいいよ。色付けて買うから」
おそらく委託は無理だろうな。あの石鹸とかはエメリーの姉ちゃんが異世界の知識で作らせたって聞いた。
その製法を広めるっつーのはあんまりしたくねえんじゃねえかと思う。
ただ店からすると大量に販売もしたいだろう。俺たちの同盟に優先的に卸して、その余りを店に並べてるらしいしな。
うちの主にしたっていつも大量に発注してるみてえだし。
同じように欲しがる客が群がるようなら店だって何かしら手をうつべきと考えるだろう。
そうなった時にギルドに頼るか、ドナテアに頼るか……どっちも難しいところだな。
「さすがに俺がどうこうは言えねえから主に言っておくわ」
「頼んだよ。あたしだって出来れば余計に買いたいんだからね。あ、なんなら店ごとあたしが買ってもいいよ。それも含めて伝えといておくれ」
「はいはい」
かなりの入れ込みようだな。わりと必死な感じだった。女は大変なんだな……。
それからすぐに俺は店を出ることにした。
最後までドナテアは「美容品の件を頼む」と言ってきた。もはや懇願だ。
そして去り際にプリエルノーラの声が背中から聞こえた。
「じゃーねー、ジータと固有魔物ちゃ~ん! またねーばいばーい!」
チッ……服の中に潜ませていた最小サイズの
<魔力感知>か。それも
ったく油断ならねえな。【異界の魔女】は。
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