207:魔術師×青の会議は踊ります!
■ケィヒル・ダウンノーク 50歳
■第483期 Aランク【魔術師の塔】塔主
【女帝の塔】へと
同盟で話し合ったにしては″即答″と言っていい早さだろう。
そして即答であるならば「却下」が濃厚だと思っていた。
いかに自分たちがランク以上の戦力を持っていようとも私の【魔術師の塔】は遥か上。以前に斃した【傲慢】とランクは同じでも歴然の差がある。
ましてや【霧雨】と同盟を結んだとほぼ同時に
どう見ても「お前らを潰すために【霧雨】と組んだぞ」と見えるだろう。これでは臆しても仕方ない。
しかし私は手紙で「反貴族を謳うアデル・ロージットを貴族として討伐する」と書いた。明確な敵対意思だ。
向こうからすれば逆に斃しておきたいと思うだろうし、これを機会とも捉えるだろう。高ランクの塔相手には戦う機会自体が貴重だからな。
もしかしたら「【傲慢】と同じAランクだから」と思ったのかもしれない。
【輝翼】がエルフと繋がっていたと言うから、私たちがエルフの塔に
いずれにせよ早々の返答は「却下」ではなく、「条文の修正案」であった。
つまりは「戦う意思はあるけれどこのまま戦う気はない」と。
「さすがにあの条文のまま受けるような浅慮ではなかったか」
『逆にこの早さで修正案まで出してくるのですから、やはり非常に優秀なのでしょう』
より優秀であるならば「却下」だとは思うがな。
もしくは条文をガラリと変えて自分たちの有利となるような提示をしてくるかだ。
しかし上がって来た条文は数か所の修正のみ。
私たちが提示した条文がこれで
=====
・
【魔術師】【青】【宝石】【霧雨】の同盟vs【女帝】【赤】【忍耐】【輝翼】【世沸者】【六花】の同盟。
・互いの上位四塔を使用し、四塔対四塔での
・攻め入る塔は四塔のうち自由に選べる。どの順で攻めてもよい。
・最終的に四塔全てを攻略した陣営の勝利とし、その勝敗は同盟全てに適用される。
・
=====
向こうの修正案がこれだ。
=====
・【魔術師の塔】は十一~二十階層を使用し、【青の塔】【霧雨の塔】は六~十五階層を使用する。
入口の一階層には各階層への転移魔法陣を設置しなければならない。
また転移魔法陣に乗る前、一階層での迎撃は禁ずる。
・四塔対四塔の
例えば【女帝】は【魔術師】、【赤】は【青】、【忍耐】は【霧雨】、【輝翼】は【宝石】と攻め込む塔をバラけさせなくてはいけない。
・【世沸者の塔】【六花の塔】の戦力は【女帝】【赤】【忍耐】【輝翼】の四塔のうち、いずれかの塔に属するものとする。
例えば【六花】を【女帝】戦力とした場合、【女帝の塔】の防衛か、【女帝】の攻め入る塔に侵入できる。
・一塔を攻略後ならば他の塔へ援軍という形で入ることができる。
その場合は属する塔を一つとし、バラけさせてはいけない。
例えば【魔術師の塔】を攻略し終えた【女帝】が【赤】に属した場合、【赤の塔】の防衛に回るか、【赤】が侵入している【青の塔】にのみ侵入可能となる。
防衛援軍に関しては一階層の転移門からの合流となる。
=====
階層数制限については指摘が入ると思っていた。
見逃してくれるならばラッキーと思っていた程度だ。だから問題ない。
他にごちゃごちゃと書いてあるが大事なのは『一塔対一塔を四か所同時』という一文のみだな。あとはそれに付随する内容だ。
『つまり同盟で戦力を集めてどこかの塔から順に攻略……というのをさせたくないということですな。加えて言えば【宝石の塔】の防衛力が上がるのもやめてくれと』
「後者よりも前者に重きを置いているのだろう。防衛力に難があると見える」
『鉄壁の【世沸者の塔】が使えませんからな。そう考えるのも分かります』
自分たちに絶対有利な条文にするならば【世沸者の塔】を入れて【輝翼の塔】を外した四塔にしてもおかしくはないと思っていた。戦力はともかく防衛力だけ見れば天地の差だからな。
しかしそうはしなかった。
あの『神童』アデル・ロージットはそんな分かりやすいミスをしない。
そうせずとも戦えると思っていたからに違いないのだ。それは何か――。
「……あのメイドか」
『ええ。考えうるのはガチガチに防御を固め、メイドの力で攻略させるというものですかね。それが【魔術師の塔】からなのか【宝石の塔】からなのか……といったところですが』
メイドが英雄ジータ以上の強者であればその力に依存するのが当然。
となればその強みを活かして戦略を練るはずだ。
その結果できたのが、この修正案と見て間違いない。
『おそらく″最初の一塔″が重要になるはずです。例えばこちらがどこかの塔を落とす前に【女帝】が【宝石】を斃してしまうと、【女帝】戦力は【赤】【忍耐】【輝翼】のいずれかに属する。
それが【輝翼】であるならば、【輝翼】は【女帝】戦力をまるごと取り入れて優位を築くでしょう。おそらく【輝翼】は防衛を継続し、攻撃を【女帝】に任せるといった策でしょうが』
となれば最初に【女帝】がどこに攻め入るのかを見るのが重要だな。
【女帝】が侵入する塔は仮に私の【魔術師の塔】であっても徹底して防衛し、他の三塔に攻めさせるといった策が有効だ。
メイドを足止めしつつ、こちらがどこかの塔を攻略すれば断然有利になる。
私が足止めし、例えばコパンが【赤】を仕留めれば【青】の戦力を【魔術師の塔】に入れて全力でメイドを殺す。
この場合は一階から入る【青】の戦力が挟撃する形となるだろう。これならば問題ない。
メイドさえ斃してしまえばあとは何も不安要素はない。
英雄ジータもそうだし、仮に【輝翼】の
ジータが【赤】の軍を率いてきても問題はない。
コパンの言う″最初の一塔″が重要というのは正しいだろう。
「コパンよ。この修正案、そのまま採用してよいと思うか?」
『このままでも我々の優位は変わらないと思います。さらにこちらに有利な案を再度提示することもできますが……下手に弄って逃げ腰になられても困るのでは』
そうだな。せっかく向こうから首を差し出すような真似をしているのだ。
大人しく狩ってやるのが情けというものだろう。
『しかし……こちらに有利すぎるというのが気掛かりでもあります。メイドの力に依存するとしてももっと向こうに有利で戦いやすい条文もあるでしょうし』
「確かにな。だが向こうは<青き水鏡>の存在を知らぬ。塔構成や戦力を私たちが把握しているとは知らぬのだ。それを考えればこちらに有利と思わせたまま条文を確定させ、実際はメイド頼りの戦略をとってもおかしくはない」
『……そうですね。ええ、私にもそれ以外考えられません』
怪しんでいるのは私も同じなのだが、それを考えればどことも
戦う機会が最も重要で、そこに勝機を見出せれば全力で突くべきなのだ。
それが高ランクの塔における
コパンとて同じように考えているだろう。ヤツには大商人としての目敏さがある。機を逃すわけがない。
不安要素はあれど圧倒的に戦力で勝り、策もすでに持っている。
ならば戦わないという選択肢などないのだ。
よし、ではこれを最終案とし条文を作って申請をしてみるか。
その前にノービアと【霧雨】にも伝えなくてはな。
ノービアには何と言うべきか。【宝石の塔】に私の戦力を貸すこともできなくなってしまったからな。
仮に【女帝】に攻め込まれても大丈夫なように防衛案を授けるべきだろう。
まぁ【宝石の塔】が斃されたところで痛手はないのだがな。
最初に落とされるのだけはまずい。それだけは阻止しなくては。
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