208:神様との立ち会いで決めちゃいます!
■シャルロット 16歳
■第500期 Cランク【女帝の塔】塔主
『ん~~、なるほどねー。なかなか面白い条文にしたねー』
ケィヒルさんに送った修正案。それを受けて条文の再提示があったのが二日後のことです。
その内容は私たちの案をそのまま採用したものでした。
つまり――
=====
・
【魔術師】【青】【宝石】【霧雨】の同盟vs【女帝】【赤】【忍耐】【輝翼】【世沸者】【六花】の同盟。
・互いの上位四塔を使用し、四塔対四塔での
・【魔術師の塔】は十一~二十階層を使用し、【青の塔】【霧雨の塔】は六~十五階層を使用する。
入口の一階層には各階層への転移魔法陣を設置しなければならない。
また転移魔法陣に乗る前、一階層での迎撃は禁ずる。
・四塔対四塔の
例えば【女帝】は【魔術師】、【赤】は【青】、【忍耐】は【霧雨】、【輝翼】は【宝石】と攻め込む塔をバラけさせなくてはいけない。
・【世沸者の塔】【六花の塔】の戦力は【女帝】【赤】【忍耐】【輝翼】の四塔のうち、いずれかの塔に属するものとする。
例えば【六花】を【女帝】戦力とした場合、【女帝の塔】の防衛か、【女帝】の攻め入る塔に侵入できる。
・一塔を攻略後ならば他の塔へ援軍という形で入ることができる。
その場合は属する塔を一つとし、バラけさせてはいけない。
例えば【魔術師の塔】を攻略し終えた【女帝】が【赤】に属した場合、【赤の塔】の防衛に回るか、【赤】が侵入している【青の塔】にのみ侵入可能となる。
防衛援軍に関しては一階層の転移門からの合流となる。
・最終的に四塔全てを攻略した陣営の勝利とし、その勝敗は同盟全てに適用される。
・
・神との立ち会いから二日後、朝二の鐘から開始とし勝敗が決するまで継続する。
=====
これが決定稿です。
本当は魔物の総数を均等にしたり、限定スキルの使用を禁止などにしたかったのですが色々と相談した結果、盛り込むのを止めました。
魔物の総数は制限したところで高ランクの魔物の数は変わらないですし、限定スキルに関しては向こうに不利益が生じすぎるのとレイチェル様からのアドバイスもあり取りやめた格好です。
限定スキルはいくつか持っているでしょうが、おそらく一番危険なのは【青】が持っているであろう諜報型限定スキル。
それ以外に自爆やランク差を大きく度外視するような非常識なスキルは持っていないだろうと予想しています。何かしらはあるでしょうがね。
それは今までの【魔術師】や【霧雨】の戦歴、動き、レイチェルさんの経験からくる予想も踏まえての結論です。
そして向こうはそこに勝機を見出した。
だからこそこの早さ、一度のやり取りだけで条文が確定したのです。
タイミングとしてはギリギリですね。危なかったです。
神様を交えての協議もすぐに行われました。
画面には神様と、向こうの四塔――ケィヒルさん、コパンさん、ノービアさん、そしてザリィドさんが並びます。こちらも六人全員。
皆さん真剣な表情ですね。【傲慢】のシャクレイさんなどは余裕というか嘲笑を含むような表情でしたが今回はそういうこともありません。
唯一ザリィドさんくらいでしょうか。表情から自信が窺えるのは。
『こーゆー形にするなら一階に転移門がぶわーって並ぶ感じになるね。相手側四塔に行くための門と味方の塔へと行くための門、計七つが自塔の転移門と並ぶ感じかな。
まぁそれは僕のほうでセッティングしておくよ。ただ攻略しないと別の塔に行けないって感じにするから最初に入る転移門には気を付けてね』
『神様、例えばわたくしの攻撃陣が間違えて【魔術師の塔】に侵入してしまった場合はどうなりますの?』
『そうなるとアデルちゃんは【魔術師の塔】を攻略するまで別の塔には入れないし、【赤の塔】以外の同盟塔は別の塔を攻略するまで入れないねー。だから注意してねってこと。転移門の上のプレートはよく確認するよーに』
とにかく最初に侵入する塔、その転移門を間違えてはいけないということですね。
入り直しはできないと。
『神よ、私からも一つ確認をよろしいですかな』
『ケィヒルくんかな? どーぞ』
『【世沸者】と【六花】はどこかの戦力として属するとありますが、これは最初から最後まで同じ塔に属するということでよろしいでしょうな。変更はできないと』
痛いところを突いてきましたね。これは戦略に関わる部分です。
例えば【世沸者】が【女帝】に属し、一緒に【魔術師の塔】を攻め落としたとします。
その後【女帝】が【赤】の援軍となる時、【世沸者】は属する塔を【女帝】から【忍耐】に変更する……という手が打てなくなるということですか。
『一塔を攻略後であれば属する塔を変更してもよろしいのでは? わたくし共はそのつもりで解釈しておりましたけれど』
『ふっ、自分で決めた文面だというのに何を言うか。一度属しておいて早々変更など許されるものか。属するという言葉の意味を調べ直してくるのだな』
『あら、属していた塔が援軍扱いになりますのよ? もはや″主塔″としての役割がなくなりますのにそこに属するというのはおかしな話ではなくて?』
『何を言うか。こんなものは一般的な国軍と同じだ。国軍の下に領主軍、その下に傭兵が加わると思えばいいだろう。傭兵は領主軍に付いてしかるべきである』
アデルさんとケィヒルさんの舌戦になりました。さすがですね。
まぁアデルさんも一応突っかかったというだけですね、これは。貴族らしく敵対者らしくと。
本心はどう転んでも問題ないと思っているはずです。
『はいはーい、そこまでー。まぁ僕の見解としては【【世沸者】と【六花】は一度属したら変更不可】としておこうかな。このほうが平等っぽいしね』
『……わかりましたわ』
『承知しました』
思ったとおりの決着になりました。アデルさんの渋々といった表情は演技ですね。私には分かりますよ。
その後も細かいところの確認をいくつか行いました。
ランク差による″不平等感″でどうにか有利なところを作れないかと私も頑張りましたが、結局は「二塔分の差があるし、この条文で受理しちゃってるし、文句があるなら先に修正案出しておけよ」みたいな感じで却下されました。残念。
『んじゃ、これで条文は完成でいいね? 【女帝】側も【魔術師】側も他に聞いておくことないかな?』
『問題ありませぬ』
「……こちらも問題ありません」
『よっし、じゃあ
と、すべて決まったところで、アデルさんが唐突に声をかけました。
『ああ、すみません、神様。最後に一つよろしいでしょうか。
『アデルちゃんかな? いいよー』
『では失礼して一言だけ』
アデルさんは口元を羽扇で隠していますが、その目からニヤリとしたのが分かります。
視線は敵方の四塔主に向けられていることでしょう。
『ゼノーティア公のエルフ闇奴隷の件ですが』
『『『『っ!?』』』』
『すでにお爺様と陛下によって国軍が動く準備ができておりますわ。近日中か下手すれば今日明日にでもゼノーティア家へ査察が入るかもしれませんわね』
『なにっ!?』『バカなっ!』
明らかな動揺。もはや隠す気もないほど驚いていますね。
ザリィドさんは一気に険しい表情になり、コパンさんは頭を抱えるように考え込んでいます。
『まぁ色々と頑張ってみてくださいな。どう足掻いても手遅れですがね。――神様、わたくしからは以上です。お耳汚し失礼しました』
『はははっ! いいよー! 盛り上がってきたねー! じゃあ今日はこのまま解散にしちゃおっかな! また二日後にねー!』
満面の笑みで手を振る神様の姿を最後に、通信はブツンと途切れました。
画面に残るのは私たち六人のみです。
『嫌な余韻を残したままブツ切りしたのう』
『神様、ホントいい性格やわぁ……』
『む、向こうは今どんな気持ちなんですかね……』
『阿鼻叫喚か、言葉にならないか。いずれにしても我々には好都合。アデル様お見事です』
『もうちょっと煽っても面白そうでしたがね。まぁ下手に口を滑らせるよりマシでしょう』
アデルさんもいい性格してますね。こういう時はイキイキしています。
当初はメルセドウが動いてからそれを告げて
おそらくあと数日でゼノーティア家に国軍が踏み入るはずですが、今はまだそこまで進んではいない。
二日後の
現時点で動揺を誘える手としてはアデルさんの言葉は最適だったのではないでしょうか。
多分、向こうは慌てて真偽を確かめるはずですが、普通に手紙を送ったところで遅いですし、仮に諜報型限定スキルでメルセドウの様子まで覗き見できるとしても現段階では確かめようがありません。
国軍が動くタイミングで覗き見できれば確かめられますが、ずっと覗いているとも思えませんし、それが真実だと知ればより動揺することになるでしょう。
だからと言って嘘と断じることもできません。アデルさんがゼノーティア公の件を知っていると告げたのですから。
アデルさんが知っているということは王国派にバレていると同じ。
であればいずれにせよ貴族派にとっては窮地に陥ることになります。
つまりどう足掻いても動揺はするんですよね。きっと
しかし神様が
向こうは貴族派の破滅を感じつつも、私たちと戦わなければならないのです。
……と、同情している暇などありません。
向こうに動揺があろうが戦力が変わるわけではありませんし、私たちにとって厳しい戦いには違いないのです。
私たちは私たちで作戦を練り、二日後に向けて準備を始めませんと。
……まぁ、向こうの心理状態を踏まえた作戦になるのでしょうがね。
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