206:宝石と霧雨はこんな感じみたいです!
■ノービア・ウェルキン 28歳
■第490期 Cランク【宝石の塔】塔主
くそっ! なぜいつも僕を除け者にするんだ!
十年以上もずっとだ! 限られた味方しかいない狭いバベルの中で、忠実な部下を演じ続けてきた!
だと言うのにあのケィヒルは僕を″下級貴族の息子″としか見ない!
平民であるコパンばかりを重用し、僕にはただの事後連絡程度の情報しか入らない! これのどこが同盟だ!
ケィヒルが大貴族であるのは分かっている。【魔術師の塔】もAランクの9位。英雄級と言っていいだろう。
【節制】のシンフォニア伯に後れを取っている形なのは仕方ないが、それでも歴史に名を残すほどの塔主であるには違いない。
貴族としても伯爵位であるし派閥の中でもゼノーティア公の直下にあたる。ウェルキン子爵家から見れば格上の存在だ。
僕だってメルセドウ貴族だ。ケィヒルに対して下手に出なければいけないのも分かっている。父からも厳命されているし。
だからこそ十年以上も従い続けてきたのだ。
しかし今回の一件は度を越している。僕だって声を荒げたくなる。
まず【霧雨】の同盟加入だ。力のあるBランクの塔なのは認めるが、どこの馬の骨とも知れぬ平民ではないか。
新塔主であるランブレスタ子爵を入れるならばまだ分かる。【羽虫の塔】という残念極まりない塔ではあったが。
しかしケィヒルはランブレスタ子爵を蔑ろにし、【霧雨】のザリィドを引き入れた。僕に相談もなしにだ。
なぜ加入させたのかと聞けば、今度は【
内心「何言ってんだこいつ」と呆れてしまった。
それはつまり僕に相談もせず
僕の塔の戦力を使い、僕の命を賭けているのに。こいつは本当に僕のことをただの駒としか見ていない。
おまけに【
二年目にして破竹の連勝。BランクやAランクをも打ち破っている規格外の同盟。
さらには新塔主トップの成績を収めたアイスエッジ侯爵家の【六花の塔】を加入させている。
王国派を叩くというのは分かる話だが、なぜ今なのか、なぜその為に【霧雨】を入れるのか、全く理解不能だった。
詳しく聞けば、まず王国派云々は置いておいて、我々が行っていた″エルフの里調査″の延長戦上の話らしい。
ゼノーティア公に献上する為の情報だな。
これは僕も知っている。エルフの塔に
しかし申請は却下されバベリオの街でもこれといった情報も得られていない。これはケィヒルもコパンも同様だ。
そこに舞い込んで来た情報が「【輝翼】のフッツィルが実はエルフである」というもの。
おそらくコパンの例の限定スキルで覗き見たのだろう。
フッツィルという子供はいつもフードを被り顔を隠していたからな。あの目立つ同盟の中でも最も目立たない存在だった。
それがエルフだと知れたのでこれを捕らえたい。
しかし【輝翼】だけを狙うわけにもいかず【
まぁ王国派を一緒に潰せる機会であるからして、そこに異論はない。
ただ
相手は六塔だが一~二年目のE~Cランク。
噂や戦歴からランクにしては分不相応の戦力を保有しているだろうとは思っていたが、どうやらそれすら超える戦力らしい。
だから【霧雨】を
つまり
なるほどそれならば多少理解もできる。つまり【霧雨】も実質的には敵であり内情は教えないまま戦わせるということだな。
これでは僕の【宝石の塔】が狙われやすいのではと危惧したが、【
そう聞いた時、僕は「これはチャンスかもしれない」と思った。
確かに【宝石の塔】が狙われやすいのには変わらない。戦力を増やして危険性が減ったとは言え安全とは言えない。
しかし【
向こうにしてみれば、なんとか凌いでいるうちにこちらの戦力を大きく削りたいところだろう。
戦力が揃っているうちに【魔術師の塔】を斃せば一気に勝利に近づくと思うはず。そして強い塔から順々に攻略しようと。
ケィヒルを斃してもらえば僕としては万々歳だ。そして【魔術師の塔】が消えても僕らの勝利は変わらない。
なにせ【青の塔】にはベンズナフがいるからな。
あの男にはSランクの魔物だろうが英雄ジータだろうが敵わないだろう。
影に隠れて決して目立つことはないが、その力は何度も見てきている。
僕は【魔術師の塔】より【青の塔】のほうが危険なのでは、と思っているほどだ。
だからこそこの
安全とは言えないが得られるものが大きい。
仕方ない。今しばらくは従順なふりを続けてやろう。
■ザリィド 34歳
■第486期 Bランク【霧雨の塔】塔主
俺は同盟連中を使って得た【春風の塔】の情報を【魔術師】ケィヒルに渡すことで、ヤツに近づくことにした。
実際にエルフを捕らえたわけじゃねえし、エルフの里の情報を得られたわけじゃねえ。
近づく為の手土産にしては弱すぎると思ったが、手詰まりの状況だったからな。それが最善策だと思ったんだ。
この程度じゃ無視されるかも、と思っていたが、予想外に事態は好転した。
早くに届いた返答の手紙にはこんなことが書いてあったのだ。
【女帝】同盟に対し
それに参加するつもりがあるならば同盟に入れてやろう――と。
エルフについては関心なしか? と思ったが【魔術師】がメルセドウの貴族派である以上、【赤】【六花】を要する【女帝】同盟を潰したいというのは分かる。
それで確実に勝つために俺の力を充てにしているってわけだな。
それはつまり、【女帝】同盟が想定以上に力をつけてしまっているというのと、【魔術師】同盟の三塔だけでは苦戦するかもしれないと危惧してるってことだ。
普通に考えりゃ【魔術師】がいる以上、圧倒的優位に違いない。仮に俺と【青】が手を組んだところで【魔術師】を討てるとは思えねえしな。
でも【女帝】同盟が不気味なのも事実。俺も【女帝】と【赤】は直接戦いたいとは思わねえ。
二の足踏んでいたところに俺からの手紙が来た。
内容は【春風】の情報を渡すとそれだけだが、それを「仲間に入れてくれ」と読み取ったわけだ。間違いじゃねえな。
それで一気に【女帝】同盟を叩こうと。
おそらくケィヒルは俺の事をただの駒としか見ちゃいねえ。
【女帝】同盟さえ斃しちまえばあとは同盟破棄でもして俺はお払い箱だろう。
しかしその
【青の塔】に比べりゃ多少は貧弱かもしれねえが【宝石の塔】より断然
だったらこれを足掛かりにして、よりお近づきになるチャンスじゃねえか。
最悪、同盟破棄されたとしてもケィヒルはともかく【青】のコパンと顔をつなぐってだけでも大成功。
ヤツは貴族や平民どうこうよりも商人として″利″を優先するはずだ。
だからこそ力を持つ俺を手放すとは思えない。一度つないだ縁を簡単には切れないだろう。
仮に同盟破棄されても縁は残り続ける。
やっぱり乗るしかねえな。
せっかく向こうから歩み寄ってきやがったんだ。この機会を逃すわけにはいかねえ。
今に見ていろ――これがスラムから貴族への足掛かりだ。
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