205:非常に悩ましい展開になりました!
■シャルロット 16歳
■第500期 Cランク【女帝の塔】塔主
あと一週間程度でメルセドウに動きがある。
そのタイミングで起きた【霧雨の塔】の【魔術師】同盟加入。
そして――私たちへの
焦りや混乱に乗じて仕掛けるはずだった私たちは逆に混乱させられる事態となったのです。
『ひとまず整理しましょう。【魔術師】は私たちに仕掛けるつもりで【霧雨】を同盟にいれた、ということですわね』
『そのようじゃな。ノービアにはほとんど事後報告のような形じゃったらしい。通信ではケィヒルに従順だったようじゃが通信を切れば荒れておったようじゃ』
『そら何も聞かされんでこんな動きされれば心中穏やかではいられんやろ』
『下位貴族と見ればそれらしい態度と言えますがね』
【霧雨】ザリィドさんは【魔術師】同盟のエルフ拿捕の動きを掴んでいた。それはドナテアさんからも言われていたことです。
そして【霧雨】同盟の壊滅に伴い、【魔術師】ケィヒルさんに近づこうとした。
ケィヒルさんはそれを受け入れた形なのですが、本来それはありえない決断だったはずです。
貴族派上位のケィヒルさんからすれば同盟に入れたいような人ではないでしょうしね。
ではなぜ同盟に入れたのか、と考えていた矢先に
つまりケィヒルさんは私たちと戦う為に、近寄って来たザリィドさんを同盟に入れたと見るしかありません。
ではなぜ【魔術師】同盟は私たちと戦おうとしていたのか。
事前に攻めようとしていなければ【霧雨】を入れる意味がありませんし、同盟に入れてすぐに申請など出来るはずもありません。
前々から計画していてタイミングを窺っていたと見るべきでしょうか。私たちと同じように。
まさかメルセドウの動き――ゼノーティア公爵が捕まりそうだというのを察知して、だから王国派であるアデルさんを狙ったということなのでしょうか。
そう思ったのですが……思いもよらない言葉がフゥさんから飛び出したのです。
『どうやら向こうはわしがエルフであると掴んでおるようじゃ。そしてこちらの塔の戦力なども把握しておる』
『なんやて!? 情報筒抜けかい!』
ケィヒルさんはノービアさんに「
私たちがファムで色々と覗き見しているのですから、どこの誰が同じようなことをしていてもおかしくはありません。そう心掛けてきたつもりです。
しかしそれが【魔術師】同盟の誰か――間違いなくケィヒルさんかコパンさんですが――だとは思いませんでした。正直、かなりの衝撃です。
『フッツィルさん、それはメルセドウの動きやわたくしたちが【魔術師】同盟を狙っているのも知っていて、それで先手を打ってきた、ということですの?』
『いやおそらく違う。もしそうならわしらがヤツらを討とうと動いているのを全て把握しているはずじゃ。わしらのことなど二の次でメルセドウの方をどうにかしようとするじゃろ』
『それはそうですわね……』
『つまり何らかの手段で″視た″のだと思う。わしの顔や塔の様子、その戦力をな』
だから私たちが話している内容までは知られていない。
私たちの動きを受けて【霧雨】と同盟を結び
エルフの塔を探っていた何かしらのタイミングでフゥさんがエルフであることを突き止めた。
しかし【輝翼】に仕掛けようにもその同盟にはアデルさんがいる。こちらは貴族としての大敵です。
『本当はわしを
『ヤツらにとっちゃアデルちゃんが斃したい第一候補やもんな、本来なら。今はエルフ狙いなのかもしれんけど』
『ならば
『じゃ、じゃあ【霧雨】は
なんとなくそれが正しそうな気がします。
他のエルフ四塔には申請しても却下され続け、五塔目の【輝翼】を狙うために
そこにザリィドさんからの打診があり、同盟に引き入れることで戦力を確保したと。
都合のいい解釈かもしれませんが、それが一番しっくりきます。
こちらの塔の情報を仕入れていたならばCランクやDランクにしては過剰な戦力であるとバレているでしょう。
おそらく一対一であれば勝つと見込めるでしょうが
私たちも、だからこそ
そう考えればBランクの【霧雨の塔】というのは考えうる限り最高の戦力補強ですね。私たちにとっては最悪ですが。
『それでどうするのですか? 受けるのか断るか……受けるにしてもメルセドウの動きが出るまで引き延ばすという選択肢もありますが』
元々はこちらから仕掛け、申請を受けさせる為にメルセドウを動かしたとも言えますが、逆を突かれた格好です。
向こうから申請してきたことで『受けさせる為に手段を講じる』必要はなくなりましたが、【霧雨の塔】という戦力を補強し、こちらにとっては苦戦する要素が増えたのです。
ではこちらはどうしようか、というのを考えなくてはいけません。
『まずはお手紙を確認しましょう。シャルロットさん、
「はい、読み上げます」
手紙にはまずアデルさんの″反貴族宣言″に対する声明文のようなことが書いてありました。
メルセドウ公爵家の人間でありながら貴族という立場を放棄するとは許し難い、同じメルセドウ貴族として粛清する、などといった書き出しです。
つまり名目上は「アデルさんを粛清する為」の
実際はそれを隠れ蓑にした「フゥさん拿捕、エルフの里の場所を吐かせる」というのが主目的のはずです。
そして私たちがそれを知っているとは知らないと、この手紙からも読み取れます。
以下、向こうが提示してきた
【霧雨】の同盟加入後すぐにこれを出してきたということは、念入りに計画されていたということの表れですね。
=====
・
【魔術師】【青】【宝石】【霧雨】の同盟vs【女帝】【赤】【忍耐】【輝翼】【世沸者】【六花】の同盟。
・互いの上位四塔を使用し、四塔対四塔での
・攻め入る塔は四塔のうち自由に選べる。どの順で攻めてもよい。
・最終的に四塔全てを攻略した陣営の勝利とし、その勝敗は同盟全てに適用される。
・
=====
『うわ、なんやねんこれ……』
『え、こ、これってつまり私とシルビアさんは戦わないってことですか……?』
『戦わないが同盟だから負ければ一緒に消えろと。私がアイスエッジだからですかね』
『シルビアさんには申し訳ないですがそれは
酷い話です。下位二塔――【世沸者の塔】と【六花の塔】は使わせず、なのに勝敗は適用される。
アデルさんの仰る通り、向こうが第一に避けなければならないのは普通の
【世沸者の塔】ならば【魔術師の塔】の全戦力が相手でも守り切れますからね。
塔の構成を覗き見していたならば、それはよく分かっているでしょう。
『いや、塔は使えないってだけで戦えないってこととは違うやろ。自塔戦力を他の塔で使う分には問題ないんやし』
『あ、そ、そういうことですか……』
「これ例えば私の魔物を【赤の塔】に配置する、とかでもいいんですかね?」
『極論そうなってしまいますわね。おそらく防衛力の低い【宝石の塔】に【魔術師】の戦力を送り込みたいのでしょう。申請を受けるとなればこの条文をそのまま適用するわけにはいきませんわよ』
これは圧倒的強者の【魔術師の塔】があるから活きる手ですね。
【魔術師】の戦力を多少他に回しても大した痛手ではないでしょうが、こちらが同じ事をすればただ弱体化するだけです。攻めも守りもギリギリの戦力しか持っていないのですから。
もし条文を修正するのなら塔の防衛戦力を自塔戦力に限定したほうがいいでしょう。
欲を言えば魔物の最大総数も定めたいですし、その上でノノアさんとシルビアさんの戦力を有効に使えるような条文にしなければなりません。
『向こうの第一目的は【輝翼の塔】を攻略してわしからエルフの情報を聞き出すこと。第二目的はアデルとシルビアを殺すこと。その上で
「【赤の塔】より先に【輝翼の塔】を落とすつもりですよね」
『【宝石】や【霧雨】はよくこの条文を承諾しましたわね。口車に乗ったのでしょうけれど頭が悪いとしか言えませんわ』
防衛は四塔それぞれ。攻撃は一塔集中にできる。
であれば弱い塔から順々に攻略していくのが普通の考えです。
仮に最初に【輝翼の塔】を攻略すれば、私たちの攻撃陣にいるであろう【輝翼】の魔物も消えるのですから。
そうやって徐々に戦力を削った上で、最難関の塔――【女帝】か【赤】でしょうが――を攻略したいはずです。
そうなると私たちは【宝石】【霧雨】【青】【魔術師】の順で攻略していくことになります。
つまり一番危険なのは【宝石】のノービアさん。いくらケィヒルさんに従うしかないとは言え、これでは捨て駒同然です。
ザリィドさんだって同じようなものです。よくこれで
私たちとしてはおそらく最初に狙われるであろう【輝翼の塔】を捨て駒扱いするわけにもいきませんから、条文の修正は必要です。
……と言いますか
「ちなみに条文はどうあれ、この
『わたくしは受けるべきだと思いますわ。しかし受理するタイミングを悩んでおりますわね』
『わしも受けるに一票。正直、四塔となった時点で
『え、わ、私には厳しそうにしか思えないのですが……でも皆さんが大丈夫と仰るなら、わ、私も大丈夫です』
『私は身命を賭して助力すると決めておりますので是非はありません』
『重いわ! ああ、ウチも賛成やで。ただ条文の修正ちゅうか、手紙のやりとりを何度かして、それから受理って感じにして欲しいけどな』
皆さん意外と乗り気ですね。事前に会議していた時のほうが渋っていたくらいです。
敵が四塔になり、不意打ちのように
厳しくなったはずなのにこうも前向きだとは……少々意外ですね、私は。
ああ、いえ、私も是非はありませんよ。皆さんと一緒に頑張るだけですから!
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