69:最初からヴィクトリアさんの出番です!



■ヴォルドック 26歳 狼獣人

■第490期 Bランク【風の塔】塔主



 【輝翼の塔】に攻め込んだ部隊はダンピールたちを先頭に一塊となって進む。


 地上は前衛にダンピール、中ほどに指揮官のヴァンパイアとセイレーン、後方に風精霊シルフだな。

 それより断然多い鳥と虫の部隊がその上を飛んでいる。

 吸血鬼以外は飛べるのだがな。今のところセイレーンも風精霊シルフも地上付近にいる。



 情報は仕入れているが【輝翼の塔】もなかなかどうして厄介な塔だと感じる。

 これで一番マシ・・だというのだからこの同盟はタチが悪い。



 一階層は『平原と森』という感じだが、その森が中央の円状に広がっている。

 森の中では蝶や蛾といった虫系の魔物が群れており、死角から強襲されたり状態異常を仕掛けてきりするようだ。

 二階層への階段は入口の対面にあるので森を突っ切れば一番早いのだが、侵入者の中では避けるのが当然という認識らしい。


 ならば森に入らず平原を進むべきなのだが、左右の外壁沿いの道で、狭い上に遠回りになる。

 侵入者のパーティーであっても左右が森と壁に挟まれているのだ。さぞ戦いにくいことだろう。


 大部隊で通るとあってはさらに困難だ。

 二つの部隊にして、入口から左右に分かれて進むという手もあるが……分散は避けたい。

 だからといって一塊でも縦に長くなるからどっちもどっちだがな。飛行部隊がいるだけマシか。



 【輝翼の塔】の最大の特徴は鳥系の魔物だ。上空からの奇襲、遠距離魔法攻撃、おまけに素早い。

 塔を運営する側からすれば嫌厭される部類だが、侵入者からすれば厄介な魔物だ。


 しかしそれを武器としているのは【輝翼】だけではない。俺の【風の塔】も同じだ。

 向こうの飛行戦力はこちらの飛行戦力で対抗できる。

 侵入者ほど手間取るということもない。


 そう思って平原の道を進ませていたのだが……。



「!? 森から奇襲! 糸……蜘蛛か!」


「アラクネだ! 【女帝】の魔物!」



 すぐ脇の森の中からの奇襲。それは部隊後方の風精霊シルフに襲い掛かり、すぐさま森に引き返す。

 ヒットアンドアウェイ……もしくは″釣り″か? 森に引きずりこもうとでも?

 大部隊で森に入るわけにはいかない。それこそ標的になるだけだ。



「セイレーン、警戒しつつ前進しろ。一階層を抜けるのが優先だ」



 そう指示するしかない。

 しかし……あれは【女帝】の眷属であるアラクネクイーンの配下だろう。一階層でもう出てくるのか。

 下手すれば森の中にクイーンが待ち構えているかもしれない。

 危険を冒す必要はない。確実に仕留められる時に仕留めればいい。スルーできるのならそうすべきだ。






■アデル・ロージット 17歳

■第500期 Cランク【赤の塔】塔主



「さすがに釣れはしませんわね。シャルロットさん、削れるようなら後方のをいくらかお願いしますわ」


「わしの鳥を上から向かわせる。囮にするからそれに合わせてくれ」


「分かりました。ヴィクトリアさん聞こえますか――」



 一階層は様子見程度のつもりでしたが多少の戦果は稼げそうですわね。

 これで森に入ってくれれば万々歳でしたが、そこまでおバカさんではないようです。


 敵がバラけてくれれば各個撃破。戦列が伸びれば後方狙い。今回は後者となりました。

 少しずつ削ってある程度は進めさせるという全体の展望もありますので無理はしません。

 こんなところでシャルロットさんの眷属を失うわけにもいきませんしね。


 何より敵方にはSランクのセイレーン、Aランクのヴァンパイアとミスリルヘラクレスがいるのです。

 それらとアラクネクイーンが当たれば、例え森の中であっても敗北は必至でしょう。

 ここで無理をする必要はない。あれらは適切な場所で的確に相対せばいいのです。



「フッツィルさん、かなりの数の鳥を使っていますけど大丈夫ですの?」


「問題ない……とも言い切れんが使い捨てのようにするつもりはない。牽制するのが今回のわしの仕事じゃからな。仕留めるのは皆の魔物に任せる」



 通常【輝翼の塔】の一階層に配置している数よりも多くの魔物を使っているようです。普段は上階に配置している魔物まで。

 一番多くの魔物を配置しているのは当然、自塔が戦場となっているフッツィルさんですし、この塔主戦争バトルの為に消費したTPも相当でしょう。


 それでいて自分の魔物は囮に使い、討伐するのは我々が持ち寄った魔物に任せると。

 戦術上有効ではあるのですが、今回はフッツィルさんの負担ばかりが大きくなる一方ですし。

 どうにか手助けして差し上げたいところですわね。



「フゥ、あんまり突っ込ませんても大丈夫やで。四階から六階が主戦場やろ。ウチの眷属の出番も残しとってな」


「ふふっ、ああそうじゃのう。この日の為に用意したんじゃったか?」


「50,000はさすがに冗談やけどな! 期待してええで!」



 ドロシーさんの気遣いもさすがですわね。ごく自然に力を抜かせました。

 まるで昔からの友人のようで。少し羨ましくも思えます。





■ヴィクトリア アラクネクイーン

■【女帝の塔】塔主シャルロットの眷属



『ヴィクトリアさん、敵部隊の後方から仕掛けられそうなら仕掛けて下さい。風精霊シルフを数体削れれば大丈夫です』


「かしこまりました」


『くれぐれもヴィクトリアさんは森を出たりしないで下さいね。命大事に、でいきましょう』



 私の召喚主は得難い御方ですね。

 召喚してすぐに名を与え、無暗に命を散らすのを許さない。


 それがシャルロット様の気質だとは分かっていますが、塔主としては甘いとも言えます。

 敵を斃すためならば魔物を武器として扱う。それが塔主としての戦い方なのですから。



 私としても力を示したいという気持ちがあります。魔物としての本能のようなものですね。

 せっかくエメリーさんに特訓を施して頂いていますし、武器もお借りしているのですから。


 この森の中で戦うのであれば私は戦いやすい。

 Aランクのヴァンパイアやミスリルヘラクレスでもまともに戦えそうな気がします。

 まぁセイレーンまで来てしまったら確実に負けますので、シャルロット様のお言葉に従うのみですが。



 うーん、部隊を分散させてくれれば良かったのですがね。もしくは森を突っ切るルートをとるであるとか。

 それなら何倍もの働きができたでしょうに。

 一階層はあくまで様子見と削りのみ、というお話でしたから仕方ありませんね。

 もし上層から撤退する部隊があればそれを狙いましょう。


 ああ、第二陣が侵入してくる可能性もありますね。それ狙いというのも手です。

 私はそれを期待しておきますか。



 ……エメリーさんが攻め込んでいるので、向こうに第二陣を送り込む余裕なんてなさそうですがね。





■ジータ・デロイト

■【赤の塔】塔主アデルの神定英雄サンクリオ



 【甲殻の塔】へと攻め込んだのは俺と姉ちゃんと爺さんの三人。

 こんな少数で攻めるなんて過去の神定英雄サンクリオの経験を入れても初めてだ。

 馬鹿げてると思う反面、これ以上ないパーティーだなとも思っちまう。



「では僭越ながらわたくしが斥候役を務めさせて頂きます」


「儂は後ろを。いやはや久しぶりに純粋な後衛ですな。足を引っ張らないようにしませんと。ほっほっほ」


「前は任せてくれ。盾くらいにはなるからよ」



 爺さんは本来回復職ヒーラーのはずなんだが魔法アタッカーとしても優秀すぎる。魔力の桁が違え。

 普段から【輝翼の塔】で侵入者を斃しまくってるらしいんだが……どんな回復職ヒーラーだよそれは。


 ともかく懸念は連携のみ。それもすんなり対応しそうだけどな。



 姉ちゃんはフッツィルの嬢ちゃんから預かった資料を片手に斥候役を買って出た。まぁ俺も爺さんも斥候能力はねえから姉ちゃんがやるしかねえんだが。


 前衛としても俺よりはるか上の腕を持ってるのに<気配察知>やら<罠察知>やら斥候系スキルまで色々持っているらしい。

 マジで次元が違え。異世界の侍女は恐ろしい。



 世間的には俺が一番有名らしいが、その俺が一番足手まといになりかねないという……とんでもないパーティーだな。

 ま、向こうが俺を警戒してくれればそれでいい。

 その為には道中なるべく俺が率先して斃していかねえとな。



 【甲殻の塔】は″硬さ″重視の塔だ。

 【忍耐の塔】と似たようなもんだが、罠が少なめで防御力特化の魔物の種類が多めらしい。

 ただ硬いだけなら俺たちの敵じゃねえ。

 俺の剣でも姉ちゃんの武器でも斬れるし、爺さんの魔法の前では無意味だ。


 とは言え今回は【風】と【暁闇】の戦力もいるからな。

 それだと俺が戦いにくい魔物が多くなる。



 一階の転移魔法陣から六階へ。そこから攻略開始だ。

 階層の右半分が海。左半分は足場の悪い丘陵の砂場――『浜辺』だな。


 海に近づけば硬い魚が水魔法を撃ってくるらしい。

 じゃあ海から離れた左側を行きたいところだが、そっちには蟹やらヤドカリやらが待っていると。


 おまけに本来ならもっと上層にいるはずの【甲殻】の眷属、Bランクのカルキノスが今回の塔主戦争バトルのために配置されているらしい。



「どうする? やっぱ左側に行くか?」


「カルキノスは前回の塔主戦争バトルで斃しましたが、ただの大きな蟹でした。特に硬くもなかったですし。真っすぐ直進で問題ないでしょう」



 そりゃ姉ちゃんの力と武器がありゃ蟹の甲羅なんぞ屁でもねえだろうよ。

 ま、斥候がそう言うのであれば従うしかねえな。

 こっちにカルキノスが来たら俺が戦わせてもらうか。



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