265:六花の塔vs黄砂の塔、決着です!



■メロ・イェロ 22歳

■第494期 Cランク【黄砂の塔】塔主



(くそっ! くそっ! くそっ!)



 私の攻撃陣が全滅した。たった五階層までしか進めず。

 Aランクの指揮官が二体もいる精鋭を組んだつもりだ。それが……。



 一方で敵攻撃陣は【黄砂の塔】を破竹の勢いで攻略していた。

 迷路にも迷わず、罠にも掛からず、魔物は次々に斃された。


 なぜこんなにも易々と……訳の分からない進軍に私の苛立ちは増した。



 高ランクの魔物を九階層に集めたせいもある。

 それにより最終決戦場の勝ちは揺るぎなくなったが、その代償に八階層までは蹂躙された。

 サンドワーム(B)を地中から襲わせるなどもしたが……フェンリル(A)とクロセル(A)が相手では分が悪すぎる。


 ともかくこちらが時間を掛けて五階層まで行ったのに対し、敵方は怒涛の進軍速度を見せていたのだ。

 やがて八階層も攻略され、残りは九階層を残すのみというところまで迫られていた。



 今、敵攻撃陣がいるのは八階層のボス部屋。

 普段はアヌビス(A)をボスとしたウェアウルフ部隊に守らせているが、今は九階層に戦力を集めているため空だ。

 そこで準備を整えて九階層に昇って来るのだろう、そう思えた。


 クロセルがフェンリルに飲ませているのはおそらく魔力回復薬だろう。

 一年目の新塔主が魔物に大量の回復薬を持たせるということにも驚かされたが、考えてみれば【六花】はメルセドウ貴族だ。金の力で強化を図るとは……くそっ! これだから貴族派は!



 しかし仮にフェンリルが全快したところで九階層に布陣した戦力で勝てる。

 大広間にはすでに包囲陣が布かれているのだ。敵方が昇って来ればまとめて叩く、その準備はとっくに出来ている。


 いつでも来い。即座に殲滅し、今度はこちらが乗り込んで殲滅してやる!


 と、身構えていたのだが……一向に昇って来ない。

 いつまで経っても八階層のボス部屋から動こうとしないのだ。



 どういうわけだと焦れていた時、別の所で一つの変化が起きた。


 転移門から第二陣が送り込まれてきたのだ。

 それも氷貴精レーシー(A)二体を指揮官とした飛行部隊。

 おそらく五階層にいたヤツだ。それが砂漠の空を飛んで来ている。


 そうか……! フェンリルたち先陣は待って合流するつもりなのだ。だから八階層に留まり続けているのか。


 今まで急いで攻略しているように見えていたから九階層にもすぐ来るものだと思い込んでいた。

 しかしそれは策だったわけだ。

 八階層で援軍を待つことで体力を回復する猶予もできるし、援軍が来るための露払いもできると。


 このままではまずい。みすみす合流させてはいけない。

 こちらには天翔皇ホルス(★A)、アヌビス(A)、タイラントスコーピオン(A)という三体のAランクと、それが率いる大部隊がいるが、氷貴精レーシー部隊が来れば戦力差がひっくり返ってしまう。


 Aランクの数だけ見ても三対四だ。

 ホルスが固有魔物ということで頭一つ抜けてはいるが、向こうのフェンリルは神造従魔アニマ。その差はないと言っていいだろう。

 おまけに氷貴精レーシーが神聖魔法を使えることを考えれば……おそらく負ける。


 くそっ! くそっ! くそっ!



「ホルス! アヌビス! 全軍を引き連れて今すぐ八階層に向かいなさい! さっさとフェンリルたちを斃すのよ!」


『ぜ、全軍ですか!? タイラントスコーピオンなど大型の魔物では階段が――』


「じゃあ連れて行けるのだけでいいわよ! とにかく速く斃すのよ! 援軍が合流する前に!」


『わ、分かりました!』



 私は急いでそう指示を出した。

 時間を掛けることは悪手だ。一刻も早くフェンリルたちを斃さなければならない。

 待っているだけでは向こうに有利になるだけだと。


 ホルスとアヌビスは九階層に広がる軍勢にすぐに通達し、部隊を階段へと向かわせる。

 まずはウェアウルフリーダー(B)率いるウェアウルフ(C)の部隊をいくつも。同時にヘルコンドル(C)やステュムバリデス(C)らも階段に突っ込ませた。


 しかし――。



 ――ドドドド!!!



 階段を下り始めると同時に、その下――八階層から魔法の雨が降り注いだ。いや舞い上がったと言うべきか。


 空気すら凍らせるほどの氷魔法が階段目掛けて次々と撃たれ、ウェアウルフは階段を下りることすら許されない状態。


 鳥部隊も同じだ。ウェアウルフの上を抜けて八階層へ突入しようと試みたがそこにはクロセルが待ち受けていた。

 同じように魔法の餌食となる。



 でも――それでも――



「怯むな! 突っ込ませなさい! 何とか部隊を送り込んでフェンリルとクロセルをヤるのよ! 急いで!」



 ――私は叫び続けるしかなかった。





■シルビア・アイスエッジ 22歳

■第501期 Dランク【六花の塔】塔主


 敵の戦力はこちらより上。しかしフッツィル殿により【黄砂の塔】の地図や戦力の詳細は伺っている。

 そうした諸々を考えて出した攻略案はいろいろとあったが、途中で変更を余儀なくされた部分も多かった。


 それは敵攻撃陣の進軍が想像以上に遅かったり、四階層や五階層で想像以上に削れたり、その結果五階層で殲滅するといった防衛面のことに起因する。


 私としては殲滅するにしてももう少し上層でと考えていたし、進軍ももう少しスムーズになるだろうと思っていたのだ。

 それもあってフェンリルシルバたちを急がせた。早めに八階層まで攻略しようと。



 八階層のボス部屋に陣取るというのは予定通りだ。

 敵の主力のほとんど全てが九階層に集められるというのは多少予想外であったが、それが作戦を変更するまでは至らない。

 フッツィル殿から九階層に集められた戦力の詳細を聞き、それをシルバとクロセルクロウに教えただけだ。ただ心するようにと。


 ところが防衛が早めに終わったので【黄砂の塔】攻略の第二陣に氷貴精レーシーを組み込むことができた。これは大きい。

 本当ならば鳥系の魔物だけで急いで行かせるつもりだった。それだけでも十分な圧力になったはずだ。


 しかし氷貴精レーシーを入れればAランクが四体、【黄砂の塔】に入ることになる。

 それは【黄砂】の防衛戦力を上回るということだ。だから突っ込ませるだけで価値がある。



 案の定、メロは九階層の防衛陣を解いて八階層へと向かわせた。

 ただ階段を下りた先、八階層のボス部屋はすでに我々の支配地だ。獣が待ち受ける巣穴に等しい。


 いくら向こうの数が多くても九階層からの階段となれば軍勢で一気に攻め込むような真似はできない。

 極端に狭い洞窟のようなものだ。その入口目掛けて我々は魔法を放つだけ。


 これが風魔法や水魔法ならば無理矢理通ることができたかもしれない。

 しかし魔物も階段も凍らせる氷魔法となれば話は別だ。

 足止めをさせたまま各個撃破することができる。九階層から下りて来る者を順々に斃せばそれでいい。


 こうなることを見越して魔力回復薬を持たせた甲斐もある。

 まぁこれは【魔術師】ケィヒルの資産扱いだったものだが。譲ってもらえたことに感謝しなければならない。

 ともかくそれにより道中消費したシルバの魔力も回復させたし、クロウの魔力も十分。

 あとは順次斃すのみとそういうことだ。



 とは言え向こうにはBランクも多くいるし、果てにはアヌビス(A)とAランク固有魔物もいる。

 それが少し不安だったが、身動きのとれない階段の入口で氷魔法を撃たれ続けるというのはさすがに効いたようだ。


 シルバとクロウの出番が多くなり、かなり働かせる形となってしまったが、それでも危険と思えるような場面はなかったと思う。



 あらかた殲滅し魔石を回収し終えたあと、氷貴精レーシーたちを待つことなく、私はシルバたちを九階層に上げた。


 そこに残っていたのはタイラントスコーピオン(A)率いるスコーピオン部隊だけだった。

 普段はこのスコーピオン部隊が地上を、固有魔物の鳥部隊が上空を守るようにして九階層に配置されているそうだ。

 アヌビス(A)のウェアウルフ部隊は八階層に配置されていたらしい。それが九階層に上げられたと。


 スコーピオン部隊だけで我々の攻撃陣を止めるなど、結果は火を見るよりも明らかだ。

 地上部隊が守りを固め、クロウたちが上をとればそれで終わり。あとは氷魔法の的となる。



 かくして【黄砂の塔】の攻略は為した。

 唯一の不安要素として残ったのはメロの持つ神授宝具アーティファクトの外套だったが、最上階でも使わなかった様子を見るに攻撃的な特殊能力は持っていなかったということだろう。


 玉座に座るメロはただただ怒鳴り、怨嗟の声を上げ続けていた。

 耳を塞ぎたくなるほど悲痛な叫び。命を削り、魂を消耗させるような絶叫だった。


 私はシルバとクロウに近づくことも許さず、遠くから攻撃するよう言いつけた。それで終わりだ。



『はい、しゅ~~りょ~~! シルビアちゃんの勝ち~~!』



 満面の笑みを浮かべる神の姿が画面に映る。

 私はとても笑えないのだが。事務的な相づちを打つくらいしかできない。


 ともかくこれで三日間に及ぶ二連戦は終わった。乗り越えることができた。

 私が自分でやると決め、そうして受け入れた戦いだった。


 報酬もそれなりにある。新階層の検証もできた。収穫もあるし経験にもなった。

 しかし私の胸には虚しさばかりが残った。


 切っ掛けは【黄昏】のマイナイナの気が触れたことだが、それが果たして誰かの手によるものなのかは分からない。

 誰かの策だとしてもそれが今後私の前に立ちはだかって来るのかも不明だ。


 【黄砂】のメロは巻き込まれたようなものだが、それを同情するのもおかしい。

 私に殺意を向けてきたのがメロなのだから。塔主として対応するしかないのだ。



 いずれにせよしばらくは塔主戦争バトルする気にならない。

 とりあえずは日々の運営を頑張ろう――また明日から。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る