266:塔主戦争の反応が出ています!
■ガーネット 20歳
■Cランク冒険者 パーティー【紅陽千火】所属
「おい、【六花】が【黄砂】斃したってよ!」
「はあ? また? こないだ【黄昏】斃したばっかじゃねえか」
「Fランクの【黄昏】は分かるけど連戦でCランクの【黄砂】はヤベエって」
「つーか【黄砂】と【黄昏】って親子だか親戚だかじゃなかったか?」
そんな話題がギルドの中に飛び交っていた。
新塔主の【黄昏】を斃したことについては特に騒がれなかった。
下位の新塔主が同期のトップに挑むことなどよく聞く話だ。おそらく【黄昏】以外にも【六花】を狙う新塔主はいるだろう。
まぁ【
しかし一日空けた連戦でCランクの【黄砂】を斃したとなればさすがに騒ぎになる。
普通、連戦するにしても期間をもっと開けるものだ。
記憶に新しいのが当時Eランクだった【春風】だがあれも三月か四月で五連戦。一戦ごとの間隔は最低でも一~二週間あった。
それでも騒ぎになったものだが今回は三日で二戦。しかも相手はCランクの【黄砂の塔】。
そこまで強い塔という印象はないが、【六花】より上には違いない。よって騒がれると。
ただでさえ【六花】は後期の総会でランクアップしたばかり。
それに加えて最近は二度目の大改装で大きな変化があったと噂になっていたところだ。
その上で今回の連戦というのは話題になるのも仕方ないと思える。
しかしこれで【六花】は
計六勝というのは昨年の【
まだ年も越していない段階でこの調子なのだから、この分ではどれだけ戦果を挙げることか……末恐ろしいものだ。
ともかくそうしたわけで今日も【六花の塔】は混みあっているはずだ。
DランクやEランクのパーティーはこぞって挑戦していることだろう。
私たちはいつもどおり【赤の塔】に行くがな。どうせ【六花】には入れないし。
【赤】は【赤】で色々と大変なのだ。挑戦している身としては。
Bランクに上がったことで目に見えて難易度が上がり、私たちも身の振り方を考えた。
Cランクパーティーなのだから素直に【忍耐】や【輝翼】に行くべきか。それとも今まで【赤】に挑戦し続けてきた経験値を元に【赤】の探索を続行すべきかとな。パーティー内でもよく話し合った。
その結果、今も【赤の塔】に挑戦しているのだが。
まず一階層の『紅葉樹の森』からして色々と変わっている。
木々の配置がガラッと変わり、密集させて壁に見立てたような森は迷路のような難しさがある。
ずっと一階層の主力として君臨していたレッドキャップ(E)も消えてはいないが数が減った。
代わりにマーダーモス(C)やアサシンスパイダー(D)、ファイアバード(D)などの小さな魔物を多用し木々の隙間や空から襲ってくる。
今までのように「魔物で殺しに来る」といった印象は薄れたが探索の困難さは確実に増した。
それと時折『赤い霧』が出るのも厄介だ。
以前にも赤い雨が降ることはあったが、迷路のような森に霧がかかると順路も分からなくなるし、魔物の発見も遅れる。一気に探索の難易度が増す。
時間さえ経てば霧は晴れるし、赤い塗料とは違って色の付着もないので、その場に留まれば解決する問題ではあるのだがその分探索に時間が掛かるし悩ましいところだ。
私たち以外のパーティーは霧を無視して探索を続ける場合が多い。
斥候の腕がいいか、神聖魔法を持っていて安全性があるか、風魔法を持っていて霧を払えるか、そういったパーティーだ。やはりBランクに多い。
残念ながら私たちはそこまで優れたパーティーではない。
だからこそ大人しくCランクの塔に行くべきだとは思うのだが……今のところは挑戦を続けている。
おそらく現在の最高到達地点は五階層だと思うが、私たちがそこに行けるのはいつになることやら。
まだ四階層までしか行けていないし、それもほとんど探索できていないからな。
四階層の最後にはレッドワーム(B)も出るらしいし、それと出くわせば逃げるはめになりそうだが……。
しかし無理矢理でも五階層まで行ければ往復転移魔法陣が使える。
今はそれを目標に頑張ってみよう。
「よし、今日こそ行くぞ!」
「「「おお!」」」
■ファモン・アズール 35歳
■第493期 Bランク【轟雷の塔】塔主
「【六花】が【黄砂】を……やはり【
『【黄砂】も494期の中では粘っているほうでしたがな。相手が悪い』
『狙いどころはいいのですがね。狙うならば勝算を得てからにしなければ』
画面をつなぐ同盟のお二人――【空白】のカラーダイス殿も【氷海】のドミノ殿も残念そうに口にする。
【黄砂】のメロ・イェロは我々の一年下の代にあたり、その中でも比較的順調に成長していった塔だ。
決して早足というわけではないが人気の出ない『砂漠の塔』で堅実に強くなっていったという印象がある。
無茶な
その中で何年も生存するというのはバベルの塔主として褒められるべきだと。
その【黄砂】がなぜ、とも思ったがおそらく数日前にあった【六花】と【黄昏】の
【黄昏】のマイナイナと【黄砂】のメロは父娘の関係。
父親が討たれたから娘が敵討ちを……と考えるのが一番理に適っている。
それ以前になぜ【黄昏】が【六花】を、とも思うのだが新塔主同士の妬みなのかどうかは分からない。
理由はいくつも考えられるし、結論を出せるほどの情報を得ているわけでもない。
結果、【六花】が【黄昏】【黄砂】に連勝したと、それだけで十分だ。
ドミノ殿が言うように【六花】を狙うというのは良かったと思う。Cランクの塔からすれば正しい判断だ。
ランクは下でありながらDランクの中では最も価値のある塔、それが【六花の塔】だ。
まだ一年目だし、八年目の【黄砂】に分があると見るのが普通、ではある。
しかし【六花】は普通の一年目Dランクではない。【
天才たる五塔主の知見もあるし、【魔術師】同盟で得たTPや魔物もいるだろう。それを加味した上で勝ちを見出さなくてはいけないのだ。
まぁ
私たちにとっても【
今最もバベルで価値のある塔……と言うとSランクの三塔になるが、我々に適したランクで見れば【
一時の報酬を得るのではなく、継続した集客とそれによるTP獲得を狙うべき。
その為には相手を選ぶ必要があるし、それに勝つ為にはきちんとした計画が必要なのだ。
具体的には下調べと策略が。
まずは私の限定スキルとドミノ殿の
「ドミノ殿、【六花】は強化されますかね」
『どうでしょうな。砂漠と氷雪では地形が違いすぎますから使いづらくはあるでしょう。しかし【黄砂】には天翔皇ホルス(★A)という固有魔物……おそらく飛行系の指揮官やスフィンクス(A)などもおりましたからな。そうした魔物が加われば厄介になるでしょう』
『土属性は使いづらいが飛べるならば別と。【黄砂】のリストにはSランクのドラゴンもいませんでしたか?』
『仮に召喚していて【六花】が斃せてもそれを寒冷の塔で使えるか……難しいでしょうな』
いずれにせよ【六花】が強くなる余地が出来たというわけだ。
出来る事なら早めに叩きたいところだが……今は何とも言えないか。機を待つとしよう。
■ゼーレ 29歳
■第489期 Bランク【狂乱の塔】塔主
『神様通信
本日行われた
【黄砂の塔】が消えました! 以上お知らせでした! 神様より』
ほー、【黄砂】が【六花】にねぇ。
【黄砂】はパッとしねえ塔だがCランクの中でも″中の上″ってトコだ。
それをDに上がったばっかの【六花】がよく斃せたもんだ。
まぁ【女帝】同盟に入った時点でランク詐欺は確定みたいなもんだしな。あそこは色々とおかしいし。
一年目や二年目じゃ絶対に斃せない相手を斃してるし、それも一塔二塔どころの騒ぎじゃねえ。どんだけ下剋上すれば満足すんだって話だ。
おそらく【女帝】に何かしら普通じゃねえ理由があるんだろうが、単にメイドが強えってことだけじゃねえだろうな。色々と秘密があるはずだ。
その戦果、恩恵は同盟にも行きわたる。報酬や知識、経験といった形で。
となれば新塔主の【六花】が単独で【黄砂】を斃すっつーのも頷ける話だな。
少なくとも【傲慢】同盟やら【魔術師】同盟を斃したとかよりは普通に聞こえる。……だいぶ毒されてんな、俺も。
俺と同時期にBランクに上がった【女帝】や【赤】なんてどうせ俺より強えだろうし、Cランクにいる【忍耐】【輝翼】だって分かりゃしねえ。
二年目だからってCランクなだけですでに俺を抜いてる可能性もある。
俺が勝っているトコなんて十年以上の塔主経験と限定スキルくらいだからな。
さすがにまだ持っていないだろうが、そのうち持つだろうし、そうしたらすぐ抜かされるだろうな。ランクでも。
出来れば【女帝】同盟のどっかを斃したいもんだけどな。
そうすりゃ名が売れるし俺の塔もグーンと強くなる。
限定スキルを上手い事使えりゃいいんだが……まだ検証は必要だ。
とりあえず侵入者に使ってみたりバベリオの街で適当に使ってみてはいるが、あんまり目立つような真似もできないしな。
何より俺が直接触れなきゃいけねえってのが不便でならねえ。
どうにか別の手段があればいいんだが……。
……ん? そういやあの飲み屋で会ったおっさんはどうなったんだ?
俺のことを知らない様子だったから一般人を装って触ってみたんだが、あのおっさんは新塔主だったからな。俺もよく覚えちゃいねえ。
新塔主全員の顔と名前と塔名なんか覚えられるわけねえんだよな。
なんだったかな、せめて塔の名前だけでも憶えておけば……確か黄色っぽい名前だったと思うんだが……。
酒の席で試すんじゃなかったなー、反省反省。
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