267:バベルの頂点は伊達ではありません!
■シャルロット 16歳
■第500期 Bランク【女帝の塔】塔主
シルビアさんにとって色々と大変な二連戦が終わりました。
【黄昏の塔】から
私たちが考えた階層を
しかし相手は気の触れてしまった同期の新塔主。そしてその娘さんという二塔主。
いくら塔主と塔主という関係が命を奪い合うものだとしても、どこかやるせない気持ちになります。
シルビアさんは覚悟を持って申請を受けました。
自分はバベルの塔主である。501期のトップとなった塔主である。
だからこそ戦わなければならないと決意を固めた目をしていました。
強いですね。アデルさんとはまた違った強さだと私は思いました。
私も見習わなければならないとも思いましたが……どうにも私は甘いようで。
これでも侵入者や塔主を多く斃しているはずなのですがね……女帝としてシャンとしなければなりません。
精神的消耗はどうあれ、シルビアさんは
塔構成の良し悪しも見られましたし、それは今後の塔運営でも活かせるはずです。
侵入者相手の塔構成となるとまた少し違うのでしょうが、それでもあちこち修正はするでしょう。
バベルジュエルから得られたTPはそれほどでもなかったようです。
【黄昏の塔】はFランクの新塔主ですし、【黄砂の塔】はシルビアさんを斃すために無茶な召喚をしていたそうですからね。あまりTPの残高がなかったと。
とは言えランクボーナスなどもありますし三万強はあったようですがね。Cランクにしては少ない方だと思います。
ただ多くの魔物を斃したので魔石のほうは大量で、これで赤字を免れたとのこと。
それに飛行系魔物の召喚権利を得られたのも大きいと思います。
これであの固有魔物――ホルスというそうです――やスフィンクスを召喚できたら、
そうしたシルビアさんの活躍を目の当たりにし、私も頑張らねばと改めて思いました。
差し当たっては日々の塔運営をちゃんとして、目指す塔の形を創り上げたいと。
まだ思い描くBランクの塔には程遠いですからね。
◆
それから数日後、私はまたレイチェルさんとお茶会をすることになりました。
前回は【魔術師】同盟戦のあとでしたからランクアップしてからは初めてですね。
Bランクの塔を創るのに色々とアドバイスは頂いているのですが、今回はその進捗や相談、あとはシルビアさんのこととかもまとめてお話する感じです。
私とエメリーさんはいつものように先に『会談の間』に行きましてレイチェルさんを待ちました。
しばらくするとセラさんを伴ってレイチェルさんが部屋に入って来たのですが……。
「……?」
人差し指を口にあて、静かにと目で訴えて来ます。エメリーさんもご挨拶せず、ただ招き入れる形となりました。
私も不思議に思いながら頭を軽く下げるだけです。
レイチェルさんはセラさんに目配せすると、部屋の中央にあるテーブルを指差しました。
セラさんは軽く頷くとテーブルクロスをめくり、屈みこんで何やら調べています。
私も何事かと不安になってきました。
すぐにセラさんは顔を上げました。そしてその手に持つ……いえ、指につまんだものをレイチェルさんと私、エメリーさんに見せてきます。
それは――針でした。
5cmほどの、ごく普通の針。それが何の意味を持つのか私には分かりません。
エメリーさんを見ても険しい表情のまま、その針を睨みつけています。
レイチェルさんがセラさんの顔を見て頷きました。
それを確認したセラさんが針を両手で持ちパキッと折ります。
すると……折れた針が煙のように消えたのです。また訳が分からなくなりました。
「もう大丈夫ですよ」
レイチェルさんの声で我に返りましたが相変わらずよく分かりません。何が大丈夫なのかと。
促されるまま席に着き、レイチェルさんの言葉を待ちます。
「諜報型限定スキルで間違いないでしょう」
「えっ!? あ、あの針が、ですか……?」
思いがけない言葉が出てきました。
つまりあの針はスキルで出した物だったということですか? ごく普通の針に見えたのですが……。
「針の効果が盗み見なのか盗み聞きなのか、それとも別の効果なのかは分かりません。いずれにせよこの部屋に居る者を探る意図はあったはずです」
「そ、それは私やレイチェル様を狙って……?」
「その可能性は低いですね。この部屋を使うと決めたのは職員の方ですし。針を仕掛けられた部屋をたまたま宛がわれたと見るべきでしょう」
たまたま、ですか……。確かに『会談の間』には部屋がいくつもありますし、どの部屋を使うかというのは実際に来てから職員さんに宛がわれるものです。
私やレイチェルさんを狙って事前に仕掛けるというのは無理……なのですかね。
「で、では、私たちの前に誰がこの部屋を使ったのかを調べればその犯人が……」
「一応職員の方に聞いてはみますが難しいでしょうね。『会談の間』の使用記録は誰にも教えないでしょうし」
それもそうですか……聞いて答えが出るわけもないですね。
例えばどこぞの塔主が誰々と会っていたなどの情報は、下手すると弱みになるわけですし。
職員さんが関与してどこかの塔が有利になる、というような真似はしないはずです。
まぁ一応聞くだけ聞くという感じになるでしょうか。
レイチェルさん曰く、あの針が仕掛けられているのは『会談の間』でもこの部屋だけとのこと。
一本の針で『会談の間』全体を探れるのか、それともこの部屋しか探れないのかは分かりません。
もし後者ならなぜ全ての部屋に仕掛けなかったのか……となるから不自然ですかね。
元々誰かを指定して探るなどができないスキルだからこそ、不特定多数の誰かが掛かればいいなぁという感じでとりあえず仕掛けただけかもしれません。
だとすれば随分と運の無い人ですね。よりによってレイチェルさんに見つかるだなんて。
「でもよくお分かりになりましたね、レイチェル様。ありがとうございます。私には全く分かりませんでした」
「うふふ、こういうことに長けているのですよ。年の功というやつです」
「レイチェル様、わたくしにもその術を教えて頂くことはできますでしょうか」
珍しくエメリーさんが断りもなしに口にしました。
ご自分で見つけられなかったことが悔しいのでしょう。エメリーさんならそう思うはずです。
「難しいでしょうね。エメリーさんにもシャルロットさんにも」
「そうですか……」
「私の<世界を見渡す目>は覚えていますね? あれと<魔力探知>の応用のようなものです。これに関しては斥候系のSランク固有魔物より優れていると自負していますよ」
私が自慢できるのはそれくらいのものです、と笑っていましたが冗談にもほどがありますね。
レイチェルさんの限定スキル<世界を見渡す目>は自塔内の魔力の流れなどが見え、さらに視界に入れた人の本質を見抜くというスキルだったはずです。
つまりは視覚で魔力を見るようなもの、ということでしょうか。
それと<魔力感知>を掛け合わせて応用する……?
よく分かりませんが、部屋に入る前からあの針の存在に気付いたということでしょうから、何かしらの反応を視覚で捉えたということだと思います。
レイチェルさんは何十年も限定スキルに怯え続けていると仰っています。
その対策として生み出された技術、なのかもしれません。
そして今やSランク固有魔物を超える察知能力を身に着けていると……人の身で、塔主の身で、ですか。
何と言いますか、「さすが」という言葉だけでは足りないもののように思います。
レイチェルさんだからこそ成し得たものなのでしょう。それこそ年季が違います。
しかし戦えないはずのレイチェルさんがエメリーさん以上の察知能力を持つということは、私にとっても希望になりました。
塔主としての可能性をそこに見たのです。
いつもエメリーさんやクイーンの皆さんに頼ってばかりの私でも、何か一つ、上回れるものができるかもしれない。そう思えました。
エメリーさんは相変わらず悔しそうな表情を浮かべていますがあとで安心させてあげましょう。
私も塔主として成長しますし、
レイチェルさんに出来たのですから私たちにだって何かしら出来るはずです。
同盟の皆さんやクイーンの皆さんとも共有したいですね。
塔主だって頑張ればこんなにすごい事ができるようになるのだと、私は声を大にして言いたいです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます