264:六花の塔、防衛戦です!



■メロ・イェロ 22歳

■第494期 Cランク【黄砂の塔】塔主



 氷河に浮かぶ氷のブロック。それを地面・道と見立てて進まなければならない階層。

 そしてその道の先には洞窟の入口が三つ見える。


 ゴブリンジェネラル部隊が乗る先頭のブロックは、右端の洞窟に繋がっている。

 しかし氷河の流れは自然のそれを無視して左右へと不規則に流れるのだ。

 中盤のゴブリンキング部隊は真ん中の洞窟に行くかもしれないし、後衛のゴブリンジェネラル部隊は左端の洞窟に行くかもしれない。



 出来れば同じ洞窟に入れたいところだが……先頭が右の洞窟の入口で待ち続ければ集合できるのか?

 時間をかけてそれを試すか、それとも分散させても先を急ぐか……悩ましい。



 ……よし。小隊ごとの指揮はゴブリンジェネラルやゴブリンリーダーで出来るのだから今は急がせるか。


 敵攻撃陣はすでに七階層まで上ってきている。

 九階層の防衛陣で斃せるはずだが、だからといって攻撃の手を緩めるわけにはいかない。【六花の塔】の攻略も相応に進めるべきだ。


 であればスフィンクスたち飛行部隊はどうすべきか。これはどの洞窟に行くこともできる。

 ゴブリンキングと一緒にしたほうが厚く安全に進めることはできるだろう。真ん中の洞窟に入る部隊は盤石となる。

 しかし左右の洞窟に入る部隊の危険度は上がる。眷属伝達もできない部隊が二つになるということだ。それは見殺しと同じ。



 私は悩んだあげく、飛行部隊も三分割させ地上部隊と共に行かせることにした。

 そしてスフィンクスは右端の洞窟へと行かせる。ゴブリンジェネラルの部隊と共に。

 これで右の指揮官にスフィンクス、中央の指揮官にゴブリンキングとなり、左の洞窟はゴブリンジェネラルに任せる形となった。



 最初に入ったのは右のスフィンクス部隊。

 そこは三階層の洞窟のように氷筍とツララが大量にある狭い通路だった。

 しかし三階層とは違い、迷路ではなく一本道。その上罠の数がより多い。


 デザートアサシンが生き残っていればある程度は避けられたはずだ。だがもういない。

 仕方なくゴブリンナイトやステュムバリデスを一体ずつ先行させるような形で進軍させた。

 スフィンクスの神聖魔法も使ったが被害は免れない。ここでまた十体ほど喪った。



 ゴブリンキングの部隊が入った中央の洞窟は右側とは打って変わって普通の・・・『氷の洞窟』といった様子。

 幅も高さもそれほど狭くはない。ただし迷路状になっていて罠と魔物が配置されているという、至ってよくある創りだ。


 魔物にしてもスノーマン(D)を引き連れたウェンディゴ(C)であったりアイスボア(C)の群れであったりと十分に対処できる強さ。

 しかし当然無傷とは言えないし、罠にも掛かる。

 スフィンクスの神聖魔法がないというのもあって五体ほど喪った。



 残りのゴブリンジェネラル部隊が入った左の洞窟は通路の先に扉があった。

 それを開ければ――大部屋の中には魔物の大群。

 EランクからCランクまで様々な魔物が五十ほどもいる。さらにはイエティ(B)とブリーズサーペント(B)も一体ずつ見えた。


 これは下手なボス部屋よりたちが悪い。明らかなハズレルート。

 ゴブリンジェネラルたちは奮闘したが多勢に無勢。敢え無く全滅した。



 結局、三分岐の洞窟を抜けた魔物は三十五体ほど。


 そしてその先に見える景色に私は愕然とした。



 足元は氷河、左右に流れる氷のブロック、その先には三か所開いた洞窟の入口……また先ほどの繰り返しだ。

 四十体も喪ったばかりの分岐構成。それが再び出迎えている。

 私はそれを忌々し気に見やった。画面を睨みつけた。



 もうこれ以上、数を減らすわけにはいかない。無理矢理にでも部隊を固め、同じ洞窟へと行かせる。これ以外ない。


 じゃあどこの入口を選ぶ?

 先ほどは中央がアタリ、左がハズレだった。次も同じか……いやそれは一番ありえない。弄るに決まっている。

 となれば右はアタリかハズレ、中央は普通かハズレ、左はアタリか普通……つまり左一択になる。


 本当にそうか? そんな単純な仕掛けをするか? ここまで散々厭らしい罠を仕掛けておいて。

 こちらがそう読むと見て逆張りをしているのではないか?

 いや、その逆ということも……。



「…………全員で左に行きなさい」


『分かりました』



 結局はどれを選んでも賭けにしかならない。ならば多少なりともハズレの可能性が低いほうを選ぶ。


 氷のブロックを渡り、ルートが動くのを待ってから全ての魔物が左の洞窟に飛び込んだ。

 入った先の景色は――狭くもない洞窟、扉も見えない……おそらく″アタリ″に違いない。私は心の中で「よし!」と吠えた。

 とは言え魔物もいるだろうし罠もあるはず。油断はならないと改めて指示を出した。



 案の定、そこは迷路状になっており、アイスボア(C)などの魔物も出てきた。

 罠も相応にありゴブリン部隊に負傷者を出した。斥候がいない状態だから仕方ない。

 それでもゴブリンリーダー一体を喪っただけで何とか乗り越えることが出来た。


 通路の先に洞窟の出口が見える。

 また氷河の分帰路になっていたらどうしようか。いや、階層の広さを考えればもうあれほどのギミックは置けないはず。


 六階層へと向かう階段があるに違いない――そう思いつつ洞窟を抜けたのだが……



「!? ボス部屋か!!」



 三つの洞窟を抜けた先の大部屋、そこには魔物の群れが待ち受けていた。

 群れの背後には階段が見える。やはりここはボス部屋に違いない。


 ウェンディゴ(C)、イエティ(B)、ブリーズイーグル(B)、アイスボア(C)、ブリーズサーペント(B)。


 そして最後尾には――氷貴精レーシー(A)が二体もいる。


 フェンリル、クロセルの他に二体もAランクを抱えているなど一年目Dランクの塔ではありえない。

 仮に【魔術師】戦の報酬が予想以上にあったとしても五階層に配置していい魔物ではない。

 まさか上層にはSランクの魔物がいるとでも言うのか……!?


 いや、それ以前にこの戦力では――





■シルビア・アイスエッジ 22歳

■第501期 Dランク【六花の塔】塔主



 今のところ塔主戦争バトルは順調に進んでいる。

 【黄砂】のメロが私を侮っているというのもあるだろうし、私怨で視野が狭まっているというのもあるかもしれない。

 いずれにせよ私が想定していた以上の戦果を挙げている。


 敵の戦力は確かに精強だ。私もTPを使って色々と召喚はしたが総合的に見れば劣っているのは間違いない。

 それを覆すにはメロの心理状態を利用し、諸先輩方が考案した階層を利用し、その上で私も策を練る。


 それが私の――【六花の塔】の塔主戦争バトルだ。何も恥じるところはない。



 侵入者は三階層まで到達しているがかなりの手応えを得ている。

 それが塔主戦争バトルの大部隊を相手にどれほど有効かを見る。

 そういう意味では今回の塔主戦争バトルは私にとって非常に有意義なものだ。

 おまけに相手は格上のCランク。だからこそ戦う理由がある。



 二階層の『迷いの樹氷林』ではかなりの時間稼ぎができた。

 敵の斥候、デザートアサシン(B)は厄介な亜人系魔物だったがどうやら地面の罠の察知や<気配察知>が得意なようで、三階層の特殊な罠は結構見逃していたし、『迷いの森』の探索には向かないようだった。


 鳥を飛ばして森の上を抜けさせるのが一番簡単な攻略法だと思うが、相手は地面付近に部隊を固めていた。おそらくそういう指示を出したのだろう。


 メロが『迷いの森』に関して詳しくないのか、もしくは視野が狭まっていただけか。

 いずれにせよこちらはその様子を見ることができた。これは今後にも活かせる。



 三階層でもある程度の収穫はあったが、もう少し改良の余地がある。

 罠の配置が甘かったり、狙いがズレていたりと。これは私の反省点である。

 あまり難易度を高くしすぎると五階層の罠ルートとの差がなくなってしまうのでそこも考え所だ。


 滝に関しても良かったと思う。四階層での撃破率が高かったのも一因はあの滝にあると思っている。

 しかし侵入者相手と考えると一度体験されれば対策されてしまう類のものなのでそこは改善点だ。

 やはり滝つぼに魔物を配置するなどしたほうがいいだろう。



 四階層の『氷雪の丘』は特に言うことはない。満足のいく結果が出た。

 まだ魔物は弱いものしか置いていないが配置や動きでかなりの戦果を得られた。

 遮蔽物や罠を置くかどうかが悩みどころだがとりあえずは現状維持で行くべきだろう。



 五階層『氷河の分岐路』も想定以上だったと言えるだろう。

 まずノノア殿考案のギミックがちゃんと稼働するかどうかが不安だったがとりあえずは問題なかったようだ。

 まだ氷河の動きに納得のいってない部分もあるから微調整は必要だがな。一応、やりたいことはできたと思う。


 なぜか相手が分散させたことで各個撃破もできたが、仮に分散できなくても削ることはできたはずだ。

 ただデザートアサシンが生きている状態で分散させずにルート選択していたらどうなっていたか。それを見てみたかった気もするが贅沢は言えまい。



 どちらにしても想定以上に敵部隊を潰したことで私の予定も変わった。

 ジャックフロストジャックに伝えて、急ぎ六階層の戦力を五階層のボス部屋に集め、大ボスとしていた氷貴精レーシーも同様に配置した。


 もう五階層で決着をつけようと、そう思ったのだ。


 いくらゴブリンキングとスフィンクスが残っていようが目に見えて消耗しているし数の上でも勝っている。

 ならば無理に長引かせる必要もない。

 攻撃陣に注力し、【黄砂の塔】を攻め落とすべきだと。



 そうして防衛は成った。敵部隊は殲滅させた。

 あとは策どおりに攻略するのみ。

 私はフェンリルシルバクロセルクロウにその旨を伝えたのだ。



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