290:どうやら戦いの予感のようです!
■フッツィル・ゲウ・ラ・キュリオス 51歳 ハイエルフ
■第500期 Cランク【輝翼の塔】塔主
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【人形の塔】から
受理 却下
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「うーむ……今さらか……」
「なにかこう……懐かしい感じもしますのう……」
突然の一報は【人形の塔】からの
年始にわしから申請して却下された相手じゃな。
その時は【傲慢の塔】同盟との戦いに備え、TPを蓄えるのが目的じゃった。
結局は【風見鶏の塔】との
【人形の塔】は前期の塔主総会でCランクに上がった。後期のランキングでは79位じゃったのう。
Cランクの中で言えば中位といったところじゃが、わしが申請した時にDランクだったことを思えばたった一年でよく成長したものだと言えるじゃろうな。
まぁ偉そうに言えた義理ではないが。
塔主はディオドール・デオグランデ。元Cランク冒険者。
まぁ所謂脳筋の戦闘好きという感じじゃな。【火】の
当時からディオドールはわしら【
人気を博していた我々を蹴落として、自分が伸し上ってやろうと意気込んでおった。
じゃからわしが申請したのじゃが……いかんせんタイミングが悪かった。
ディオドールはわしらと戦うための準備として他の塔に
それに勝利したのも束の間、501期前期の塔主総会で【人形の塔】はCランクへと上がってしまった。
そうなると今度は塔運営に注力せざるをえなくなる。Cランクへのアジャストは簡単ではない。
今こうしてわしの元へ
【
斃しやすい【六花】ではなくわしに申請してきたのは「以前に申請してきた【輝翼】ならこっちからの申請も受けるだろう」という考えなのかもしれぬな。
安直じゃなぁ……わしらがあれからどのような戦績を収めてきたか知らぬわけでもあるまい。
それでどうして「勝てる」と踏んだのか、わしには理解できぬ。
何かしらの勝算があって仕掛けてきたのだとは思うが……と疑問に思ってファムに探らせてみた。
万が一限定スキルを取得していたら厄介じゃからな。
まぁCランクに上がって半年と少し。それで持っているとは到底思えぬが。
「――と調べた結果がこんな感じじゃな」
「なるほど。単に戦力が揃ったから、ということですかな。しかしこれでは……」
驚くべきことにディオドールは自塔の固有魔物、SランクとAランクの両方をすでに召喚していた。眷属化しているかどうかは分からん。
かなりの無茶をしたのは一目瞭然。
SとAの固有魔物を持つというのはCランクの塔でも上位のごく僅か。それだけ見ればBランクの塔程度と言えなくもない。
だからこそディオドールは自信を得て、わしに挑んで来たと、そういうわけじゃ。
これだけの戦力が揃えば二年目の【輝翼】ごとき相手ではないとな。
しかし、ゼンガー爺が渋る気持ちもよく分かる。
まず無茶な戦力補強を行ったからこそ他の事にTPを使えていない。
限定スキルなどもちろん取得できるわけもないし、塔構成もいまいち、配置している魔物の総数も少ない。
これでよく「Cランクの塔として完成した」と言えるものじゃ。呆れてものも言えぬ。
一応、魔物の数に関しては補える策がある。
Aランクの固有魔物と思われるヤツがパペット系の魔物――パペットソルジャー(D)やパペットナイト(C)あたりを召喚できるようじゃからな。TPをかけずとも時間さえあれば部隊は整うと。
ちなみにパペット系の最下位にいるのが、シャルが愛用しておったウッドソルジャー(F)とかじゃな。あの系統の最上位が【人形】の固有魔物らしい。
ともかく、その固有魔物の能力でもって数を補っている。
一応はCランクの塔として運営できているようじゃ。
もしかしたらわしを狙うのもTP稼ぎと人気稼ぎを兼ねてのものかもしれぬな。まぁどうでもよいが。
それと固有魔物とその配下を優先して召喚した結果、単一的な陣容になっているのも問題じゃ。
【人形の塔】は元々亜人系の魔物が極端に多い。
パペット系もそうじゃがゴブリン系やウェアウルフ系などじゃな。巨人系も一応はいるがオーガ系くらいしかおらぬ。
人型の魔物はバランスもよく運用しやすいものじゃが、どうしても近接に寄りがちじゃ。
もちろん魔法特化の亜人系魔物もいるのじゃが【人形の塔】に限れば近接ばかりが目立つ。
だから当時もわしが狙ったんじゃけどな。
わしの鳥たちが飛びながら魔法を放てばそれで勝ちじゃから。はっきり言って相手にならん。
ちなみにSランクの魔物と思われるヤツはウェアウルフの王様みたいなやつじゃな。
これまた飛べるわけではないし、魔法も使えそうには見えぬ。
そもそも【人形】には飛行系魔物もほとんどおらぬし、回復ができる魔物もいない。
ディオドールはそうした弱点を放置したまま固有魔物を揃えただけで「【輝翼】に勝てるくらい強くなった」と思っているらしい。
これではゼンガー爺も渋るじゃろう。
八年間も塔主をしてきて何を学んだというのか。運良く生き残って来ただけの脳筋にすぎぬ。
「……まぁ、引導を渡してやるかのう」
「TP稼ぎの一貫と考えればよいのではないですかな」
「はぁ……小銭稼ぎにしかならなそうじゃが仕方あるまい」
◆
「――というわけで申請は受けようと思うておる」
『それはまぁ何ともご苦労なことですわね。わたくしからすれば羨ましいですけれどね。相手がどこであろうと申請されるというのは』
『高ランクになるほど
『フゥさん、TP稼ぎだったら私の時みたいに殲滅戦にするのですか?』
「そうじゃな。なるべく被害を減らし、なるべく数多く斃したいとは思っておる」
シャルのような完封めいた真似は無理じゃろうけどな。
あれはエメリーという隔絶した存在がいるからこそ出来るものじゃから。
いくら相手が地上戦力ばかりでこちらが飛行系魔物ばかりといっても何かしらの被害は出るじゃろう。ただでさえ鳥は打たれ弱いからのう。
そうして報告めいた相談をしていた終わり際、ドロシーから声が上がった。
『実はウチも
は? と一同の声が重なる。
なぜわしと同じタイミングで?
まさかディオドールが誰かと組んでいて同時に仕掛けようと?
いやしかし【人形】はどことも同盟を結んでおらぬし誰かと繋がっているという情報などないが……。
そう思案していたところでシャルが聞いた。
『相手はどこなのです?』
『【竜翼の塔】や』
「『『『【竜翼】!?』』』」
完全に想定外の塔の名が突然出てきた。
Cランク65位の【竜翼の塔】。
現存している
Aランク7位の【竜鱗の塔】、Bランク24位の【竜爪の塔】、そして【竜翼の塔】となる。
第497期じゃから五年目じゃな。
それでCランク上位というのはかなり早い。わしらが言うことではないが、一般的に見れば素晴らしい成長速度と見て間違いないじゃろう。
竜を冠する
当然魔物は強力じゃろうし、知名度もあるから人気がある。侵入者には事欠かないじゃろう。
しかしドロシーが不安気な表情をしている要因は別じゃな。
確かに【竜翼の塔】は強い。Cランクとは言えぬほどの力を持っているかもしれぬ。
だが問題はそこではない。
【竜翼の塔】の塔主、ジュリエット・ローゼンダーツはスルーツワイデ王国の伯爵令嬢……典型的な貴族なんじゃよな……。
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