102:世沸者の塔vs千計の塔、始まります!



■ノノア 16歳 狐獣人

■第500期 Fランク【世沸者よわきものの塔】塔主



――カラァン――カラァン――



『二人とも準備はいいかなー?』


「はい!」『ええ、問題ないです』


『じゃあ始めようか! 制限時間は五の鐘(18時)まで! 攻塔戦アディケイト! 攻撃側【千計の塔】! 守備側【世沸者の塔】だ! 塔主戦争バトルスタートっ!』



 神様の掛け声と共に、一階の転移門からぞろぞろと魔物が入ってきます。

 ゴブリンメイジ、ホブゴブリン、ホブゴブリンリーダー、ウィッチ、ハイウィッチ。総数百体ほど。

 恐らく手持ちの人型魔物の中から選抜したのでしょう。知能の高いものだけを。


 中でもホブゴブリンリーダー五体とハイウィッチ一体はBランク。これほどBランクの魔物を……。

 ハイウィッチが眷属らしく、それが指揮官のようです。



 さあどうなるか。私は歯を食いしばって画面を見つめます。

 万が一にも負けられません。最初の私が勝って、皆さんに弾みをつけないと。



 今回、私たちは同盟戦ストルグではなく攻塔戦アディケイト交塔戦クロッサー、つまりは一対一の戦いを仕掛けました。


 大きな理由は『戦えそうな同盟がいない』『狙っている塔が同盟を組んでいない』といったところです。

 それに各々の塔構成が全く違うので、狙いどころの幅を持たせやすいなどもあります。


 そこにフゥさんとターニアさんの情報を持ちより、ここならば狙えるのではないか、塔主戦争バトルを受けてくれるのではないか、と議論した上で申請をしたのです。



 私は最初【猫髭の塔】に申請してみましたが案の定却下。ここが受けてくれれば【傲慢の塔】の同盟を少し削れたと思いますが残念でした。


 それから受けてくれそうなEランクに適当に申請し、受理されたのが【千計の塔】だったわけです。

 フゥさんの調べでも知力の高い人型魔物が多い塔とのことで、これならば以前にできなかった色々なことを試すチャンスだという皆さんのおすすめもあり申請したわけですね。


 ……まぁ私は試すとかチャンスとか言っている場合ではないのですが。負けられないですし。



 ともかく一番始めに塔主戦争バトルの日取りが決まったのが私のところ。しかし同時期に申請していた皆さんが続々と受理されまして、さすがに同日の塔主戦争バトルは嫌だったので日時をずらしてもらったのです。


 観戦目的というよりもフゥさんとターニアさんに相手の情報を見てもらう為です。

 結果、私たちは五日連続で塔主戦争バトルをするはめになりました。自業自得でもありますが。


 そして今日が五連戦の初日なわけです。

 明日以降の皆さんの為にも不甲斐ない戦いはできません。確実に勝つ。


 私は真剣に画面を見つめるしか――



『うひょー、なかなかの数やな! これならヒント探しも楽かもしれんわ』


『情報の集積地が眷属のハイウィッチというのもいいのう』


『シャルロットさん、ハイウィッチはどうですの? 【女帝の塔】でも使ってらっしゃいましたわよね?』


『元気でいい子ですよ。でも謎解きができるかは……眷属化でどこまで伸びているかでしょうね。期待しましょう』



 期待はしたくないです。

 でも皆さんはどこまで攻略できるのかを楽しみにされているようです。


 まぁ私も気にならないと言ったら嘘になります。侵入者の方々は未だ一階層ですし、誰も二階層に足を踏み入れたことすらないのですから。


 せっかく皆さんの知恵を出し合って謎解きを考えたのに、もう半年ほども誰の目にも触れられていない。

 さすがにそろそろ誰かに挑戦してもらいたいという気持ちもなくはないです。



 その点今回の塔主戦争バトルは魔物相手ではあるものの、百体もの目と頭脳によって見つけられたヒントが指揮官に集結するわけで、そこから謎を解くにも指揮官の周りに何体ものリーダー格がいます。


 画面で見ているであろう塔主のインテリーノさんもいます。

 そうした知恵を結集して謎解きに臨めば、そこそこいけるのでは――



 ――ガシャァァァン


『あっ、ホブゴブリンが死にましたわね』


塔主戦争バトル用のギロチンですか……なぜゴブリンメイジに探らせなかったのでしょう』


『ギロチンの配置が巧かったと褒めるべきじゃろ』


『うちのアドバイスを上手い事利用しとるな。ノノアちゃんやるやん』



 いやははは、そ、それほどでもないですよ。




■インテリーノ・メガネクイット 31歳

■第497期 Eランク【千計の塔】



 むむっ。なるほどそうしたトラップもありますか。

 ならばゴブリンと蜘蛛あたりも追加しましょうか。百体ほど。

 細々したところを探すのならば適しています。


 おや、何かヒントを見つけたようですね。ほほう、その模様は先ほどの部屋の天井に描かれたものと酷似していますね。


 それを組み合わせれば……なるほど、そういうことですか。

 ハイウィッチシンシアも気付いたようですね。さすがは私の腹心です。


 この分では私の神授宝具アーティファクトを使うまでもないですかね。



 私の【透過の眼鏡】は全てを見通します。

 破壊不可能な塔の壁や階層さえも透過して覗くことができるのです。


 やろうと思えば女性の衣服だけを透過するなんてことも……いえ、もちろんやりませんけどね、例えですよ、例え。


 籠める魔力の量でその距離が変わるので、壁一枚程度でしたら私でも問題ありません。

 もし先々の部屋なり二階層を確認しておきたいということならばハイウィッチシンシアに渡したほうがいいですね。


 その時は渡しにいきましょう。攻塔戦アディケイトならば私に危害が及ぶこともないのですし。




■ノノア 16歳 狐獣人

■第500期 Fランク【世沸者よわきものの塔】塔主



 ゴブリンや蜘蛛が追加されて一階層はだいぶ混雑しています。

 知能は低いもののこれだけ数がいれば誰かしらは何かしらを見つける。


 それをリーダー格が確認し指揮官に報告する、という流れが安定し始めました。

 罠で死ぬこともあるのですが特に気にすることもなし。探索の手は緩みません。



『なかなかいいペースとちゃうか?』


『謎解きに躓かなければ二階層もかなりの時間探索できるのでは? 数というのは侮れませんわねえ』



 普段見ているFランク侵入者の方々と比べればまるで速度が違います。数もそうですがリーダー格と指揮官の連携、魔物ながらに組織立った体制というのが功を奏しているのでしょう。


 もし人のパーティーが徒党を組んで乗り込んできたら……そう考えると恐ろしいものがあります。

 今のところ「自分のパーティーが先んじて攻略してやる」といった感じで協力体制などは見受けられないのですが。



 そうしていよいよ一階層最後の部屋の前まで辿り着きました。時刻はまだ昼。

 扉は四桁の数字を組み合わせることで開きます。

 数字のヒントは今までの各部屋にばら撒かれ、それらを合わせれば正解の数字になるという仕組み。


 ヒントは集まっています。あとはそれを活かせれば――



『ん? どうやら塔主を呼んだようじゃ。神授宝具アーティファクトを貸してくれと』


神授宝具アーティファクトを?』


『何やら部屋の中を覗けるような代物らしい。位置的にここが一階層の最後と見たのじゃろう。じゃから確認しておこうということじゃな』


『中ボス警戒か。やるやんあの指揮官』



 中ボス用の魔物など私の塔にはいないですが、ここには扉を開けたら向かいの壁から毒矢が飛んでくるという罠が仕掛けてあります。

 もしその神授宝具アーティファクトで気付かれてしまえばTPは狙えないですね。


 その後、転移門をくぐってやってきたインテリーノさんはその場にいたウィッチに神授宝具アーティファクトであろう眼鏡を渡します。


 そしてそのまま待機。返してもらうつもりでしょうか。



『いやずっと預けとったらええやん。そない便利な神授宝具アーティファクトなんやったら』


『いくら眷属でも神賜ギフトを預けっぱなしというのが嫌なのでは?』


『そしたら今後部屋に入るたびに借りることになりますよ? 二階層なんて情報何も出てないんですし。時間に余裕もないのに』



 そう言ってたら一階層最後の部屋の扉は開かれ……なぜかウィッチが毒矢をくらっていました。


 どういう事でしょう。部屋の中は覗けるけど罠を見つけられるものではないと?

 まぁラッキーと思っておきましょう。


 そして神授宝具アーティファクトはインテリーノさんに返却する、と。


 確かにこれは非効率極まりないですね。私でもそう思ってしまいます。

 また貸す時に備えてか、インテリーノさんは入口でずっと待機するようですし。




 ……あれ? これってチャンスなのでは?




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る