第十六章 女帝の塔は相変わらず戦ってます!

304:新年も女帝の塔は賑やかです!



■セフロス 26歳

■Bランク冒険者 パーティー【九極幻想】所属



 新年が明けて、バベルはまた賑わいを見せている。

 大抵の冒険者が「今年は頑張ろう」と意気込んで、新年祭の翌日から群がるのだ。

 華やかなパレードに感化されて無駄に力む若者も多い。低ランクの塔もそれなりに賑わっていることだろう。



 我々はと言うと【女帝の塔】がBランクに上がってからずっと挑戦を続けている。

 当然今年一発目の探索も【女帝の塔】になったわけだが……なるほどこれが【女帝】のパレード効果か。


 Bランクに上がった時も賑わっていたが最近は少し落ち着いていたのだ。

 だというのにこの混みよう。

 景気づけとばかりにCランクパーティーも入っているに違いない。大人しく【忍耐】や【輝翼】に行けばいいものを。


 まぁ軍旗を掲げたパレードであるとか、【世界】のレイチェルと談笑しただとか、【狂乱】のゼーレに襲われたとか、そういった諸々の話題性が爆発しているのだろう。

 普段から挑んでいる我々からすると、一過性の賑わいであって欲しいと思うのだが……どうだかな。



 何しろこの塔は落ち着きがない・・・・・・・

 Bランクに上がった時もそれまでの塔からかなりの変化があったと聞いているが、それから数ヶ月、常に変化を続けているように感じる。ここまで落ち着かない塔は初めてだ。


 魔物や罠の配置、ルートの変更など毎日何かしら新しい発見がある。

 それはどの塔も多少なりとも動かすものなのだが【女帝】の場合は、いつも「若干難しくなったな」と感じる変化が起きるのだ。



 特に顕著だったのが【轟雷】同盟戦後だな。

 一階層にはサンダーバード(D)が出るようになり、ハーピィ(D)と共に空から強襲してくるようになった。


 ただでさえ一階層の『帝都』はルートの妙と厭らしい罠配置、そして組織立って襲ってくるサキュバス(D)部隊の組み合わせが厄介なところだ。

 それに加えて空、しかも決まって直上や背後から襲い掛かって来る。正面からは決して向かって来ないのだ。


 ハーピィだけであれば接近時に気付きやすいのでどうにかなるのだが、サンダーバードに遠距離から雷魔法を撃たれてはどうしようもない。そこまで威力がないのが幸いだが、下手すれば結構な痛手になってしまう。



 二階層ではボス部屋に入るための証を手に入れるのに苦戦する場合もあるし、ボス部屋に入ったら入ったでCランクのガードナイトとウィッチが隊列を成している。

 三階層では罠の凶悪さが一段と増しており、ボス部屋にはついにラミアクイーン(B)まで出始める。

 いくら【女帝の塔】の特徴だからといってクイーンが出て来るのが早すぎだろう。


 四階層ではより困難な罠階層となってボス部屋には案の定アラクネクイーンだ。

 そこまで何とか戦い抜いて、やっと往復転移魔法陣のある五・六階層へと行ける。



 俺たちはと言うと、挑戦開始から約四月、最高到達地点は七階層となっている。ほぼ最前線だろう。

 毎回五・六階層から挑戦をしているが、七階層に行けるのは二回に一回といったところだ。


 どういうことかというと、五・六階層が一番落ち着かない・・・・・・・階層なのだ。

 日々の変化がおそらく一番変化の多い階層。しかも魔物の配置の変化だけでそれだ。



 これもまた【轟雷】同盟戦後から徐々に情報が出始めたことだが、やたら魔物の種類が増えたらしい。

 俺たちが出会った魔物は十種類程度だが、おそらくその倍の種類の魔物がこの森に生息している。


 平野にはユニコーン(B)が駆けまわり、空を見上げればヒポグリフ(C)やペガサス(C)。

 森からロックアント(E)やアイアンアント(D)の群れ、サンダーリンクス(C)やサンダーキャット(D)の群れも見かけた。

 さらには鳥だ。ホワイトクロウ(D)やエアリアルクロウ(D)が森の中に巣食っている。



 どこかのパーティーがこの階層の中央部、森の中に泉を見つけたらしいが、その周りにはユニコーンやヴァルキリー(B)、サンダーファング(A)なども見かけたそうだ。速攻で逃げ出したらしいが。


 つまり、普通に平野部を駆け抜けたとしても出て来る魔物が千差万別なので、突破できたり撤退したりとなるのだ。だから二回に一回くらいしか七階層に行けていないと。

 もう少し楽に進めるルートが確立できればいいのだが……誰も好き好んで森の探索をしたがらないからな。今のところそういった情報は出ていない。



 七階層も七階層でひどいものだ。庭園を模した連続中部屋の迷路といった感じなのだが、下手な部屋に迷い込むと途端に強力な魔物が出て来る。

 ビークイーン(C)やアルラウネ(D)などはマシなのだが、一度ミミックファング(A)とクリアリンクス(C)に襲われたのだ。

 擬態する獣など想定にないし、その強さはボス並みといっていいだろう。かなりのダメージを負ったが逃げられただけ幸運というものだ。


 この分では七階層の最終地点がどのようになっているものやら……嫌な予感しかしない。

 早く八階層まで到達できればいいのだがな。出来れば俺たちが最前線を更新したいものだ。



「!? おい、雷精霊チャク(C)の群れだ! 雷貴精トール(A)までいやがる!」

「チッ! このルートは失敗だ! 撤退!」

「「おう!」」





■シャルロット 17歳

■第500期 Bランク【女帝の塔】塔主



 新年一発目。やはりと言いますか、大盛況を迎えています。ありがたいことに。

 侵入者の皆さんの気合いも違うのでしょうが、やはりパレードのせいもあるかと。

 私が想像していた以上に軍旗の反応が良かったみたいですからね。



『シャルロットさんいやらしいですわ! わたくしたちに黙ってそのような人気取りに動くだなんて! 一言くらい相談あってもよろしいでしょう! そうしたらわたくしもジータに旗持ちさせましたのに!』



 そんなことを後から愚痴られました。アデルさんから。

 本当に申し訳なかったのですが私もクイーンの皆さんからサプライズ的に渡されましてね……どうやらエメリーさんもグルだったみたいですが。


 笑顔で渡されて「これでアピールしてこい」みたいに言われればやるしかないじゃないですか。無下にはできませんよ。

 とりあえず皆さん用の軍旗をアラクネクイーンに頼んでおきますのでそれで勘弁して下さい。



 軍旗どうこうの他にも、またレイチェルさんと話していたとか、ゼーレさんの襲撃も冒険者ギルドで話題に上っていたらしいですね。フゥさん調べですが。

 どこから話が漏れるんですかね。まさかバベルの職員さんが塔主の不利になるようなことを言いふらすわけがありませんし……。


 いずれにせよ結果として同盟全体が話題に上ることになり、私以外の塔にも侵入者がよく入っているようです。

 どこも盛況なようで新年始めから嬉しい悲鳴ですね。



 私の【女帝の塔】は現在の最高到達地点が七階層の『庭園』です。

 でももしかすると今日明日くらいで八階層に行けるかもしれません。そんな期待をしています。


 Bランクに上がってからしばらくは、五・六階層の往復転移魔法陣を使えるCランクの侵入者の方々が最前線だったのですが、一階層から攻略を始めたBランクパーティーが徐々に追いつき、七階層で追い抜いた格好です。


 さすがにCランクとBランクでは違うのですね。

 シルビアさんも以前に「Bランク冒険者は塔に慣れるのが早い」と仰っていましたが、まさしくその通りだと思います。



 私も日々、階層を弄って楽に攻略はさせないように、なるべく討伐TP・ダメージTPが狙えるようにしているのですが、さすがにBランクパーティーは手強いですね。


 塔攻略に慣れていると言いますか、よく頭を使って攻略していると言いますか、もちろん斥候がちゃんとしているとか攻撃も防御もパーティー編成がちゃんとしているなどもありますけど、やはりCランクパーティーとは一線を画すように感じています。



 私としてはそんな侵入者相手にどうしたものかとあれこれ悩み、六女王会議でよく話し合って営業後に修正したりしている日々です。


 まぁ楽に攻略させたくない反面、早く八階層や九階層に行って欲しいとも思っていますけどね。

 欲を言えば十二・十三階層の『海の神殿』を早くお披露目したくて仕方ありません。とはいえ秘密兵器でもあるので情報が広まっても困るのですが。悩ましいところです。



 侵入者の中で現在″難関″とされているのがやはり五・六階層と七階層。

 五・六階層の『城裏の森』は中央の泉の周りに森、その周りに環状の平野部、その周りにまた森となっています。


 左右の森にはビークイーン(C)の蜂部隊、クイーンアント(B)の蟻部隊、アラクネ(D)の蜘蛛部隊などがいます。

 中央部の森にはサンダーファング(A)の猫部隊と泉を中心に平野部で駆け回るユニコーン(B)とスレイプニル(C)。時々ヴァルキリー(B)も乗馬しています。

 森全体に【空白】と【轟雷】の鳥・虫部隊を広く配置しまして、空にはフェアリー(E)、ペガサス(C)、ヒポグリフ(C)といった感じ。


 召喚報酬の魔物に関してはヒットアンドアウェイや遠目からの魔法のみで攻撃するよう指示をしています。

 従って侵入者とまともに戦うのは【女帝の塔】のリストにいる魔物ばかりですね。



 侵入者の方々はほとんど森に入らず、平野部を小走りで駆け抜けようとしています。やはり見通しや移動のしやすさ重視ということでしょう。

 しかし魔物からも見通しがいいことになりますから、結構な頻度で襲い掛かられます。やはり飛行系魔物が多いですね。


 時にはユニコーンや猫部隊の散歩に出くわすこともあり、そうなるとBランクパーティーでも撤退するパターンが多いです。引き際の線引きが徹底しているのもBランクパーティーならではという印象ですね。



 そういったわけでCランクパーティーが五・六階層に挑むことはほぼなくなりました。

 別の塔に挑むか、一階層から攻略するかという感じで落ち着いています。


 ですので七階層『庭園』に挑むのはBランクパーティーしかいないのが現状です。

 迷路は毎日順路を変えていまして、その順路だけを選べればアルラウネ(D)、サキュバス(D)、バーゲスト(C)くらいしか接敵せずに最奥のボスエリアまで行けます。そこにはサキュバスクイーン(B)の部隊ですね。


 ただ順路を外れた区画に入ってしまうと、ビークイーン(C)の蜂部隊、クイーンアルラウネ(B)、雷貴精トール(A)+雷精霊チャク(C)、マーダーカメレオン(B)、ミミックファング(A)+クリアリンクス(C)という強敵に当たってしまうと。


 今のところそういった強敵とぶつかっては逃げるパーティーばかりなのですが、そこまで複雑な迷路ではないのでいい加減突破するパーティーが出て来てもいいんじゃないかと思っています。



「もしくは逃がさないための工夫が必要なんですかね」


「確かに。五・六階層にしても七階層にしても早めに退散されるとダメージTPも稼げませんし」


「追撃用の部隊を編制するか? 妾のヴァンパイアを使ってもよいぞ」


「強い子たちを転移魔法陣あたりに隠しておくのはどうでしょう~」


「ん……逃げるやつを空からハイウィッチの魔法で斃す……」


「単純に地形や構成の見直しも手かと存じます」



 そんな感じで六女王会議は踊ります。皆さんとても優秀で助かりますね。


 いずれにしてもなるべく多くのパーティーに先に進んでもらいたい反面、TPは稼ぎたいということで、そこら辺のバランスが今の課題ですね。


 あとはまぁ斥候系魔物の課題があるのですが……新年の盛り上がりが落ち着いたあたりで考えましょうか。



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