305:忍耐の塔への復讐が始まるようです!
■ルチアーノ 26歳
■Aランク冒険者(バベルCランク) パーティー【萌芽流麗】所属
俺たちはスルーツワイデ王国で活動している六人パーティー【萌芽流麗】だ。
王都のギルドでもAランクというのは数える程度しかいない。
高ランクとなれば貴族関係の指名が増え、報酬も上がると。なかなか良い思いをさせてもらっている。
約一月前、また新たな指名依頼が入った。依頼人はローゼンダーツ伯爵。大物だ。
一体何事だと驚いたわけだが、その依頼内容にも驚いた。
――バベルに出向き【忍耐の塔】を攻略してくれ、と。
どういうことかと詳しく聞けば、ご息女が塔主を務める【竜翼の塔】が【忍耐の塔】によって消されたらしい。
【忍耐の塔】のことは多少知っている。昨年から大活躍を見せている500期同盟の一塔だろう。
それくらいの噂はバベリオから離れたスルーツワイデでも話題になっていた。
伯爵が言うには、その同盟は平民・亜人の混合同盟で、中には隣国の公爵令嬢もいるらしいが自らを「塔主となったからにはもう貴族ではない」と公言し、反貴族主義を謳っているのだとか。
伯爵からすれば「貴族の誇りを捨て平民や亜人と組むなどどうかしている」とご立腹だ。
まぁ俺たちは平民だからして本音を言えばその公爵令嬢に同意なのだが、伯爵の手前下手なことは言わない。これもAランクの処世術だ。
ともかくそんな連中に愛しい我が娘を殺されたと伯爵は憤慨しており、その復讐の手段として俺たちに依頼してきたわけだ。
まぁバベルの塔主を潰そうと思ったら冒険者が攻略するか、塔同士で戦わせるしか方法がないからな。至極真っ当な方法だと思う。
俺たちは数年前、バベルに挑戦したことがある。その時はまだCランクの若造だったが。
それからスルーツワイデに戻って依頼をこなし、順調に強くなって冒険者ランクを上げたというわけだ。
伯爵は俺たちのバベルカードがCランクのままだというのも知っていた。だからCランクの【忍耐の塔】を落とすために俺たちに声をかけたのだと。
数年前には攻略できなかったCランクの塔。今の俺たちならば確かに攻略も容易いだろう。
俺たちはその依頼を受けた。高額な報酬に加えて旅費やらバベリオでの滞在費も出るらしいからな。おまけに伯爵に覚えめでたくなると。こんな美味い依頼はない。
そうと決まれば善は急げと俺たちはバベリオに向かった。
到着したのは年の終わりだ。
そこで改めて【忍耐の塔】の情報を集める。情報収集を怠ってバベルに挑むような馬鹿ではAランクなど務まらない。当然だ。
「【忍耐の塔】に挑戦するのか? まぁ人気があるから行きたい気持ちも分かるけどよ。とりあえずちゃんとした斥候と解毒薬の準備はしておくんだな」
「あれを普通のCランクと思ってると痛い目みるぞ。Bランク上位程度と思ってかかったほうがいいだろうな」
「塔主はドロシーって娘だよ。ドワーフだからなのか分からないが罠が秀逸でよ。『罠の塔』とか言われてるぜ」
「【
少し聞き込みしただけで出て来る出て来る。情報の山だ。
それにスルーツワイデで聞いていた噂より百倍評価が高い。
【忍耐の塔】だけじゃない。そこが所属する【
冒険者ギルドで情報も買ったが、現在の最高到達地点は六階層。大まかな階層の情報はあるが、迷路などは地図の意味もないだろうな。おそらく日々変えているはずだ。
しかしどのような塔なのか、どのような地形でどのような魔物が出るのかというのはイメージできる。
どうやら聞き込みの話は真実らしい。その裏付けがされたようなものだ。
【
魔物は弱いがとにかく罠と状態異常が苛烈。
警戒していても罠にはまるとか、解毒薬を持ちこんでもそれが足りなくなって撤退するはめになるパーティーが後を絶たないらしい。
そんな塔によく挑むものだと思ったが、それはバベリオで一番と評される人気の高さ故だろうな。
困難な塔であろうとも名声のためには挑むと。正しい冒険者の姿であると思う。
まぁCランクパーティーなんてどこも無茶してなんぼみたいなところもあるしな。俺たちも経験があるからよく分かるが。
ともかく【忍耐の塔】に挑むのは新年祭の後だ。
ということで新年祭は大人しくパレードの観客になることにした。俺たちだって高ランクの塔主や眷属には興味がある。
【世界】のレイチェル、【聖】のアレサンドロ、【黒】のノワール……錚々たる顔ぶれだ。まるで英雄譚を実際に見ているような気分になる。
なぜか軍旗を掲げたメイドがいたが、話を聞くにあれが例の同盟のトップ、【女帝】らしい。とんでもない歓声を受けていた。
その中で【忍耐の塔】の魔導車もじっくり見させてもらった。
二年目で54位というのはとんでもない早さだ。【女帝】が25位で【赤】が30位だから薄れるが、普通に考えれば異常極まりない。
話には聞いていたが、それほどの戦果を挙げたという証拠でもあるのだろう。
塔主は情報通りドワーフの少女。それに眷属としてスフィンクス(A)が乗っていた。
Aランクの魔物が眷属で、それを代表して″お披露目″していると。
やはり塔にいる魔物自体はそれほど強くないのかもしれないな。
まぁ同盟に
気になるのは【忍耐の塔】が
二年目のCランクの塔でSランクの固有魔物など召喚できるわけがない、と俺たちは思ったわけだが、戦果や魔導車の順番を見ると一概に否定もできないから困る。
「スフィンクスくらいならばどうにでもなるがウリエルがいるとなれば話は変わるぞ」
「俺たち全員で当たればSランクのウリエルだろうが斃せる。しかし天使部隊を率いているとなるとな」
「だったらその時点で撤退して報告するほかあるまい。増援を頼むなり伯爵から援助してもらうなりすればいい」
「それもそうだな。しかしウリエルがいるとすればお披露目で出すと思うんだけどな……」
その方が注目を集めるし、より人気が出るだろう。現に【聖】のアレサンドロなんかは天使を連れていた。
まぁ警戒しつつ探索を進めるしかない。どうせウリエルなんかいても最上階付近だろうしな。
■ドナテア 43歳
■第484期 Bランク【色欲の塔】塔主
本国のローゼンダーツ伯爵から直々に手紙が来た。
内容は見なくても分かるんだが一応目を通すと……案の定【忍耐】を斃せとさ。
スルーツワイデ関係者の高ランク塔主には軒並み同じような手紙を送りつけているんだろうが、馬鹿だねぇ。言われて
バベルのことを何も分かっちゃいない
「報酬は一千万スーア(約一億円)だってさ。受けちゃえばいいのに」
「馬鹿言ってんじゃないよ、プリエルノーラ。TP換算したらたった十万TPだよ。固有魔物を一体眷属化したらそれでお終いじゃないか。それで【忍耐】が斃せるわけもないだろうに」
「そりゃそうだ! ヒャヒャヒャ!」
「まぁこんなはした金で受けるとすれば低ランク塔主くらいだろうね。そもそも伯爵が低ランクに依頼なんぞしないと思うが」
伯爵が【忍耐】をただのCランクと思っているならCランクやDランクの塔に依頼を出すのかもしれないが……普通に考えればBランク以上の塔にしか依頼しないだろう。
Cの【忍耐】を斃すためにはB以上って考えるのが普通だからね。
まぁ愛娘の塔がCランク最上位で負けたって考えれば必然的にBランク以上になるんだが。今は冷静さなんて失っているだろうし、どうなることやら。
あたしだったら仮に十倍の報酬があったところで受ける気にはならない。
実際にあたしが戦えば八割方勝つだろう。こちらにはプリエルノーラと【色欲の悪魔アスモデウス】、それに限定スキルもあるからね。
向こうの戦力を相当高く見積もったとしてもあたしの勝ちになるはずだ。
ただ【忍耐】に勝ったところで【
【
あたしは安心・安全に塔のランクを上げられればそれでいい。
化け物どもとやり合う気はないし、目をつけられるのもごめんだね。
第一、高ランク塔主にとっちゃ金なんてほとんど価値がないんだ。そこんところを伯爵は分かっちゃいない。
【竜翼】のジュリエットは結構有能な塔主だった。それは間違いない。
貴族らしい選民思想は持っていたが、それは家庭や周囲の環境がそうさせただけで別に欠点じゃない。
少なくとも頭はキレるし、
第497期トップ、五年目で65位というのは素晴らしい数字だ。他の誰に真似できるものじゃない。
その優秀さを伯爵はよく分かっていないんだろうね。娘がどれほどの塔主だったのか、塔運営のことも、バベルのことも。
遠く離れたスルーツワイデにいたんじゃ理解できないのかもしれないが、あたしはジュリエットが不憫でならないよ。
だからそれを斃した【忍耐】の恐ろしさも分かっちゃいないのさ。
あの【竜翼】を二年目で斃したことがどれほどの異常なのか。
まぁあの同盟は全員が異常なんだが、二年間を身近で感じてきたあたしと本国の連中とじゃ感じ方が違うんだろうね。
「【忍耐】は最低でもSランク二~三体は抱えていると見ていいだろうね」
「そだねー。少なくともウリエルだけじゃ【竜翼】は落とせないだろうさ。下手すりゃSランク固有魔物が二体もいるんだし」
「限定スキルは持ってるかね」
「おそらくまだ持ってない。ただ【女帝】と【赤】は持ってるだろうから時間の問題かもしんないねー」
あたしもプリエルノーラと同意見だ。
新年祭、【狂乱】のゼーレの襲撃はあたしも見ていた。
それを防いだのがジータとメイド。そしてアデルは「面白そうな限定スキルをお持ちですのね」と言った。
察知し、防いだのも防御型限定スキルの可能性があるが、それ以前にアデルが限定スキルのことをよく知っていたということのほうが重要だ。
おそらく常日頃から警戒しているからこそ出た台詞。警戒するほど限定スキルを危険視しているということは、限定スキルそのものに詳しいということだ。
それは自分も限定スキルを持っているということに他ならない。
話で聞いたり、リストで確認するだけでは情報が足りないだろう。それは取得したことのある塔主なら誰でも分かることだ。
結論、【赤】は限定スキルを取得している。
【赤】が持っていて【女帝】が持っていないとも考えられないので、こっちも取得しているに違いない。
で、【忍耐】以下の四塔はまだ持っていないだろう。それはランク差からみても可能性が高い。というわけだ。
「まったく……二年目で限定スキルなんて考えもしないもんだがね、普通は」
「普通じゃないから面白いんじゃないか、あの連中は! ヒャヒャヒャ!」
こっちは面白くなんかないんだよ。毎回毎回変な騒ぎばっか起こすから迷惑なもんさ。
あのパレードだってあたしの魔導車なんか全然注目浴びなかったし……一台前の【女帝】のせいで……。
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