70:双方共に二層目に突入です!
■ラージャ ラミアクイーン
■【女帝の塔】塔主シャルロットの眷属
『ラージャさん、敵方が二階層に上ってきました。作戦通りにお願いしますね』
「おおっ! やっと来たのよ! あたしに任せておくのよ!」
『むやみに仕掛けないでいいですからね。くれぐれも安全重視で』
「了解なのよ!」
さあ、やっとあたしの出番! 待ってたのよ!
【女帝の塔】では配下に指示するくらいであたしが前に出る機会なんてなかったけど、せっかくエメリーさんに鍛えてもらってるし、実戦で戦ってみたかったのよ!
まぁなるべくあたしが戦うような事態にならないようにってシャルロット様に言われてるけど。チャンスはあるのよ。
【輝翼の塔】は二階層と三階層がつながっていて高さがとんでもない。
階層の構成は『霧の森』だそうで、二階部分が丸々霧に覆われている感じ。
三階部分は広々とした空。ここを鳥系魔物が飛び交い、地上の侵入者に襲撃するといった戦い方をしているのだとか。
侵入者からすればかなり厄介な階層なのよ。普通に探索するにしても森の中は戦いにくいし、方向感覚を失いやすい。
霧で見通しが悪ければ尚更なのよ。
まっすぐ進むのは難しいし、奇襲も罠もかかりやすい。警戒しながら遅々と進むしかないのよ。
一方で鳥系魔物からすれば非常に
木々の上を止まり木にして、空を自由に飛び、侵入者を狙う。
攻撃はしやすく、逃げるのも容易い。森を飛ぶことに慣れていればね。
で、そんな階層にやってきたのは大部隊。一塊で進むのはまぁ無理なのよ。
ある程度はまとまって進むだろうけど視界が悪いから、少し離れた味方の位置もよく分からない。
バラけたところを各個撃破できれば最高なのよ。
厄介なのは風魔法で霧を飛ばされること。晴れるってわけじゃないけどある程度は見通し良くなるし、攻防一体の手段でもある。
特に【風の塔】の眷属がどれも厄介なのよ。
地上後衛部隊の
こちらの戦力は元々【輝翼の塔】に配置している鳥や妖精のほか、あたしのラミアとフォッグスネークの部隊が地上の後方に。
空にはアデル様のブ
あとは森の途中に隠れて、ノノア様の
空中戦はメェメェに任せるとしてあたしの狙いは地上。前衛のダンピール。
数が多いし、
「部隊から離れたダンピールを狙うのよ。端のヤツらね。フォッグスネークは地面から強襲、ラミアは水魔法で釣るのね。数で当たるのよ」
『シャー!』
「くれぐれもセイレーンとかヴァンパイアには近づいちゃダメなのよ。もし気付かれたなら速攻で逃げるのよ」
あたしはラミアが釣ったダンピールを順々に始末するのよ。
もしヴァンパイアが釣れちゃったら……ちょっと戦ってみたい気持ちもあるのよ。
その時はシャルロット様にお願いしてみようかな……。
■ノノア 15歳 狐獣人
■第500期 Fランク【
私にとって初めての
しかも相手はヴォルドックさんたちの同盟……私が助けてもらおうと泣きついたお相手です。
それが断られ、散々バカにされ、結果シャルロットさんたちに助けて頂けました。少し複雑な感情があります。
でも
皆さんが知恵を出し、情報を集め、策を練り、戦力を集結させる。
主導はフゥさんとアデルさんのようですが、本当に戦争の軍師さんみたいで、私はただ言われるがままに動くしかできません。
これが本当の
これが皆さんの″実戦″なのかと、これが皆さんの本気なのかと。
改めてそう思わされました。とても同期とは思えませんし、同じ塔主と名乗るのも烏滸がましく思ってしまいます。
それでも私も一応同盟に加入しているわけで。微力ではありますが何かしらしたいと、私もペコ以外に眷属を創りました。
アシッドスライムのジル。Cランクですがスライムの中では上位です。
他にもアシッドスライムを十体召喚しジルを部隊長としました。
ペコと合わせてたった十二体ではありますが、これが今の私にできる精一杯です。
ジルの部隊が配置されたのは二・三階層の『霧の森』。
霧に紛れ、木の上から酸の雨を降らせると、そういう作戦だそうです。
これ以降、私の魔物の出番はないですから――ペコは最上階での奥の手だそうですし――頑張って欲しいところです。
「フ、フゥさん、敵が近づいてきましたぁ!」
「そのまま何もせずに通してよいぞ」
「えっ、い、いいんですか!?」
「先頭のヤツを狙っても後続に潰されるだけじゃ。最後尾のヤツを背後から狙えるようなら狙ってくれ」
「わ、わかりましたぁ!」
な、なるほど。私にはよく分かりませんがフゥさんのお考えでしたら最後尾だけ狙うようにジルに指示を出しておきます。
「それよりもノノアは肩の力を抜け。お主が緊張してどうする。ジルの指揮官なんじゃぞ?」
「は、はい、すみません……」
「わし達の命が懸かっておるから力むのは分かるが、実際に戦わせるのは配下の魔物じゃ。塔主はどっしり構えてなければならんぞ」
……仰る通りですね。私が不甲斐ないままではジルたちに申し訳ないです。
フゥさんなんか自分の塔を戦場に使っているわけですし、すでに何体もの魔物が敵にやられています。
それでも冷静に、全体を見ながら情報を集めて指示をしている。本当に尊敬します。
シャルロットさんやドロシーさん、アデルさんにしてもそうです。
ずっと冷静ですし、よく戦況を見て、よく考え、指示出ししているのが窺えます。
慣れも多少はあるのかもしれませんが、それ以上に皆を信頼しているようにも見えるのです。
何が起こるか分からないのが
それでも私のようにオドオドせず、塔主の貫禄というものを見せているのです。
「わしの魔物はともかくシャル、ドロシー、アデルの配下を見てみろ。こんなもんいくらBランクの【風の塔】の同盟だろうと勝てるわけないじゃろ。はっきり言って過剰戦力じゃよ。案ずる必要はない」
「はい……そ、そうですね」
ジルと同じ二・三階層にはシャルロットさんのラージャとアデルさんのメェメェがいます。どちらもBランク。
さらに上の階層にはAランクやSランクの眷属まで……。
本当に私と同期なのかと疑わしくなってしまうほどの戦力です。
それを考えれば確かに安心感はあります。
相手にもSランクはいるのですが、案外簡単に斃してしまうのでは……そう思ってしまうほどです。
「よし、よくやりましたわメェメェ。あとは無理せず雑魚排除しなさい」
「おっ、キラーオウルやったんか! よおやったな! さすがメェメェ!」
「魔法に強い飛行部隊というのは素晴らしいですね。アデルさんさすがです」
「シャルロットさんのラージャも戦果は挙げていらっしゃるでしょう。独り占めはさせませんわ」
いやー、本当にすごいです。キラーオウルは【暁闇の塔】の眷属ですね。指揮官の一体のはずです。
CランクだからBランクのメェメェを当てたとは思うのですが、それでちゃんと危なげなく勝てるというのがすごい。
相手はキャリアのある塔主、その眷属なのですから。
「出来ればストームイーグルを狩っておきたいところですが……」
「アデルよ、それは欲をかきすぎじゃろ。無理してBランクを狙う必要はないぞ。上層までとっておけ」
「分かっていますわ。序盤で余計に警戒させても面倒ですしね。ある程度進ませておきませんと」
「敵方が動き出したらエメリーさんたちにも迷惑かかるかもしれんからな。まぁあの三人なら問題なさそうやけど」
……本当に余裕そうです。
油断するわけにはいきませんが油断してしまいそうです。
■エメリー ??歳
■【女帝の塔】塔主シャルロットの
【甲殻の塔】の六階、『浜辺』から探索を始めたわたくしたちは順調に攻略を進めています。
フッツィル様が与えて下さった情報はほぼ完璧。
階層の構成は大していじっていないようですし、元々配置されていたであろう魔物も変わりません。
新たに配置されている他の二塔の魔物が変化と言えば変化なのですが、それも直前に渡された資料に書かれています。
おそらく昨日か今朝に決められた相手方の陣容をファム経由で聞き取って書き記したのでしょう。
そしてお嬢様には見せずにわたくしに、と。
大変な作業だったとは思いますがそのおかげでどの階層にどの眷属がいるのかも分かります。
しかしお嬢様に何かしらのスキルを使ったらしい【風の塔】の塔主は許せませんね。
お嬢様の情報が盗み見、盗み聞きされているらしいと、そうフッツィル様からお聞きした時には憤慨しました。
塔のルールがなければ即座にわたくし一人で乗り込んで殺しているところです。
とは言え、それ以上に怒りを覚えるのはわたくし自身です。
主であるお嬢様にスキルを使われたことに気付けなかった。これは侍女として許されざること。
察知系のスキルばかりに頼っていた弊害でしょうか。感覚が疎かになっている節があります。
経験と反省、そして【風の塔】塔主への断罪。
今回の
ジータ様、ゼンガー様とのパーティー戦闘というのも経験の一貫です。
連携をとるのも久しぶり。ましてやわたくしにとってのパーティー戦闘とは侍女たちと共に戦うものでしたから。
力量も違う、戦闘方法も違うお二人ですからそれに合わせる為には慣れが必要でしょう。
まぁお二人とも稀有なお力を持っているのは確かですしね。あまり心配はしていません。
そしてわたくしが斥候役というのも中々ない経験です。
わたくしは能力に特化した部分がないのでパーティーとなりますとバランサーやサブアタッカーという立ち位置でした。
斥候は専門の侍女たちに任せていましたからね。
しかし今はわたくしがやらざるを得ません。力を尽くすとしましょう。
「ゼンガー様、右後方です」
「了解ですぞ!
「おいおい、今のは【暁闇】の眷属のアサシンリンクスじゃねえか? よく分かるしよく当てるもんだぜ……」
わたくしはあの魔物が何なのか分かりませんでしたが、どうやら眷属だったようですね。暗い毛並みの大ヤマネコといった感じでしたが。
さすがにこの世界の英雄は魔物のこともよくご存じなようで助かりますね。
【甲殻の塔】の七階は『岩石地帯』。岩山の中を進むような感じです。
足元は石だらけで歩きにくく、非常に戦いにくい。障害物も多く見通しも悪い。そんな階層。
【甲殻】特有の防御力の高い魔物、岩に擬態しているような魔物が配置されていますが、【暁闇の塔】の眷属二体も配置されているようで、その配下も合わせて邪魔をしてきます。
CランクのアサシンリンクスとEランクのキリングキャットの部隊。
そしてBランクのダークボアとDランクのシャドウヴァイパーの部隊。
どちらも本来は闇に紛れて強襲するような魔物だとか。
この階層は暗いわけではありませんが、岩山の影に隠れて襲ってきます。
まぁ<気配察知>に引っ掛かるので問題はありません。
お嬢様にスキルを使われた一件を考えればわたくしもスキルに頼ったことはしたくありませんが、今のところ問題なし。
しかしそのうち<気配察知>が効かない魔物が出てくるかもしれません。
この世界の魔物やスキルをよく分かっていない以上、懸念は持っておくべきでしょう。
今度ジータ様にご教授願ったほうがいいでしょうか。
……っと、また来ますね。
「ジータ様、前方左右、岩山の上です」
「待ち伏せで挟撃かよ。俺は右に行く。姉ちゃん、左頼むぜ」
「かしこまりました。右の方が強そうですのでお気を付けて」
「マジかよ! いやもう行くしかねえけどよぉ!」
もしかしたらダークボアかもしれませんね。指揮官たる眷属は潰せる時に潰しておくべきです。
六階のカルキノスに続いてジータ様にお任せしましょう。
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