新米女帝の塔づくり!~異世界から最強侍女を喚んじゃいました~
藤原キリオ
第一章 女帝の塔、オープンします!
01:新しく【塔主】に内定しました
――後世の歴史家は語る。
「あの塔は歴史に名を残して当然と言える。幾千、幾万の塔の中でも最も栄えたうちの一つである事は間違いない」
――吟遊詩人は語る。
「あれほど美しく華のある塔はない。細部まで拘り、全てを魅了するそれは他の塔と一線を画す。それでいて力強く、堅牢ともなればそこにあるのは必勝のみ。我々、吟遊詩人がこぞって唄うのも分かるだろう」
――冒険者は語る。
「あれほど詐欺まがいの塔はないぜ。【女帝】とか嘘だろ。絶対【死神】とかだって。例のメイドに殺されたヤツなんて数えきれないほど居るんだからな」
――死神呼ばわりされた彼女は語る。
「メイドではありません。侍女です」
――冒険者は語る。
「あ、はい、すいませんっした」
■シャルロット 15歳
■第500期 塔主内定者
「うわぁ……」
初めて訪れた【無窮都市バベリオ】。
そこはまるでどこかの王都のように広大で、人通りも多く賑やかです。小さな街出身の私は王都など行った事もないのですが。
意図せずに漏れた感嘆の声は、大通りのはるか先に見える
王都であればお城が見えるのでしょうがここでは違います。
天を貫く巨大な塔――【無窮の塔バベル】。
どれだけ離れていようが目立つランドマーク。
神が造ったとされるそれは、幾百もの『塔』の集結地でもあり、全ての『塔』の入口でもあると言います。
――そして私がこれから向かうべき場所。
適当な宿で一泊し、翌日の祭事に備えました。
これが『人』として最後の夜になる。
義務と決意、そして恐怖と不安。色々と混ざって、涙が延々と出てきます。
私は毛布に包まったまま、ろくに眠る事もできずにその日を迎えたのです。
翌日、バベルの入口前の広場は街中の人が集まったかのような賑わいを見せていました。
ステージに立つ男性が拡声の魔道具で周囲に呼びかけます。
「塔主内定者は近くに集まって下さい! 青い線に沿ってお並び下さい! 観衆の皆様は白線から中に入らないように!」
ステージから離れて円形に描かれた白線。街の人は騒ぎながらも行儀良く、その中に入ろうとはしません。
私は「すみません、通して下さい」と人の隙間に身体を通しながら前へ。
やっとの事で白線を越える事が出来ました。
「お、あの嬢ちゃんも塔主かよ。さすがに今期は多いな!」
「おめでとう! お嬢ちゃん!」
白線を越えた私を見て塔主内定者だと分かった人たちから声が投げかけられます。
おめでとう、か。
内心、どこがおめでたいものなのかとげんなりしました。一般的に見ればおめでたい事なのでしょうけど。
ともかく私も他の内定者の人たちと同じように、ステージ手前の青線に並びます。
人数までは知りませんでしたが、どうやら私と同じ境遇の人が沢山いるようで少し安心しました。
老若男女、本当に色々な人がいます。私と同じような若い女性も幾人か見えました。
農民のような人もいれば、貴族のような人もいる。痩せこけた病人のような人、いかにも大商人というような太った人も。
しばらく待っているとステージには先ほどの男性の他に、もう一人登壇しました。
青く立派な法衣を纏った老人。
白くて長い髪と髭。眉毛まで長いせいで目も口も見えません。
周囲の観客の声で、その人が【無窮都市バベリオ】のトップ、フランシス都市長だと分かりました。
「静粛に! これより第500期塔主内定式を執り行う!」
拡声の魔道具が司会の男性からフランシス都市長に渡されました。
静まり返る広場。都市長はコホンと咳払いをしてから低く通る声で話し始めます。
「【無窮の塔バベル】が誕生してから五百年の月日が経った。『塔』は民に栄華をもたらせ、攻略せんと挑む者には富と栄誉を、時に代償としてその命を奪い続ける。今も尚、挑戦者の命が散り、同時に塔と街とが栄えていく。それを繰り返すのが【無窮都市バベリオ】であり【無窮の塔バベル】である」
挑戦者の命を奪う『塔』。
挑戦者に富と栄誉を与える『塔』。
私は今日から″奪う側″。
その事実が重く圧し掛かります。
「長年に渡り繁栄を極めた塔もあれば、瞬く間に消える塔もある。この五百年、泡のように生まれては消える塔と挑戦者を、バベルはずっと守り続けて来た。現在、バベル内にある塔は【375】。そして記念すべき第500期の塔主として選ばれたのが100名。この数は私の知る限り、最も多い」
100人もいるのですか、私と同じく並んでいる内定者の人たちは……。
例年だともっと少ないという事なのでしょう。それが良い事なのか、私には判断できません。
いずれにせよ合計475もの塔がバベルに内包される事になると。そのうちの一つが私の塔になるのでしょう。
フランシス都市長は、これを″繁栄″と捉え、声を大にして語ります。
周囲の人々――街の住人や挑戦者である冒険者の人たちも居るでしょう――も盛り上がり、お祭り騒ぎの様相を呈してきました。
並んだ内定者の人たちも、誇らしげな顔の人がちらほら。
そうして語り終えた都市長は、これからが本番とばかりに声を上げ、騒ぎを静めました。
「新しき塔主へ、神からの祝福を。まずはレイサル、前へ」
青線に並んだ中から一人の男性がステージに上がります。二〇代半ば、細身の冒険者のような風貌。
彼は都市長の指示に従い、片膝をついて両手を胸へ。祈りの姿勢です。
そこへ都市長が祝詞を唱えると、天から一筋の光がレイサルさんに降り注ぎます。
周囲からは「おおっ!」という歓声。私も初めて見るその光景に目を見開きました。これはまさしく神の所業だと。
レイサルさんを包んだ光は凝縮し、集束し、形作られていきます。
それは短剣のように見えました。剣先が二股に分かれた大振りのダガーのような。
少なくとも店売りのような代物ではないと、戦いに身を置かない私でさえ分かります。
レイサルさんは空中に浮かんだそれを両手で受け取りました。まるで王様から武器を下賜されたかのように。
騒めく観衆をよそに、フランシス都市長が言います。
「彼の者はこれより【暗月の塔】の主となる」
それでまた観衆が騒ぎます。
レイサルさんは、係員のような人に連れられ、ステージを下りてバベルへと向かって行きました。
都市長はそれを見送る事なく、次の内定者を壇上に呼びます。
これが一連の流れなのでしょう。
100名の内定者に順々に『
挑戦者でもある観客へのお目見え、周知、紹介を兼ねると。
出来ることなら目立ちたくない私は、心の中で溜息を吐きました。
それからも次々に内定者へ
多くが武器や防具といった
しかし
魔物を受け取った人もいます。
道具系の
存在は知っていましたが、いざ眼前で光が魔物に変わる瞬間を目にすると驚きます。
ちなみにその人の場合は、自分の身長ほどもある大きな青い鳥でした。多分コーラッドウィングという魔物だと思います。
私が事前に調べた限り、
二割程度が
ほとんどがそのどちらか。
しかし
「次にアデル・ロージット、前へ」
二〇番目に呼ばれたのは私と同年代に見える女性でした。
緋色の髪は綺麗なウェーブを描き、歩く姿勢は胸を張った堂々としたもの。真っ赤な羽扇を口元に当てたその様子は一目で貴人であると想像できます。
「おい、ロージットってメルセドウ王国の公爵家じゃねえか?」
「アデル・ロージットってお前、『メルセドウの神童』だろ!」
「とんでもないのが新塔主になったもんだな……」
観衆の声が聞こえます。ヒソヒソからザワザワへと。
どうやら著名な貴族の長子のようです。
私はエルタート王国の出身なので、メルセドウ王国の事などほとんど知りません。
彼女は意気揚々と登壇すると、倣ったように祈りの姿勢に入りました。羽扇は持ったままですが、一応閉じているようです。
フランシス都市長が祝詞を唱え、天からの光がアデルさんを包む。
その光は集束し、アデルさんの前で『人の形』となっていきます。
光が収まった後には、金属鎧を纏った大柄な男性が立っていました。
剃りあげた頭と髭の生えた顔には傷があり、背中の特大剣は身の丈を越えるほどの大きさです。
いかにも歴戦の戦士と言えそうな風貌でした。
「来たっ!
「おいおい、あれってまさか……『英雄ジータ』じゃねえか!?」
「間違いねえよ! ジータ・デロイトだ! まさかこの目で見られるだなんて!」
「た、確か過去にも
過去の英雄を呼び出し、主に従属させる事が出来るそうです。
中には『この世界の過去の偉人』だけでなく『異世界の過去の偉人』が選ばれる事もあると聞きます。
おまけに観衆の声を聞く限り、顕現された彼は何度も
その上で著名な英雄を賜ったのは、やはりそれだけアデルさんが優れているから、という事なのでしょうか……。
無言のアデルさんとジータさん、そして騒ぐ観客を無視してフランシス都市長が続けます。
「彼の者はこれより【赤の塔】の主となる」
「【赤の塔】だと!?
「英雄ジータを引き当てた上に
「こりゃ今期一番の大物になるのは間違いねえな。さすが『メルセドウの神童』と言うべきか」
過去、いずれの塔も強力にして困難な塔だったと調べた書物には書かれていました。
【赤の塔】は空席だったという事なのでしょう。これで現在、十塔の中でいくつ埋まったのかは分かりませんが。
こうしていくつかの塔をまとめて総称されるケースは他にもあります。
有名所ですと『火、水、風、土、聖、闇』の
『傲慢、強欲、嫉妬、憤怒、色欲、暴食、怠惰』の
今現在、そのうちのいくつが残っているのかは知りません。
「ははっ! 【赤の塔】とは、今度の主はずいぶんと優秀みてえだな」
「当然ですわ。わたくしはアデル・ロージット。覇道を共に行きますわよ、英雄ジータ」
「ただのお嬢様かと思ったらとんでもねえな。よし、俺が今日から主の剣だ。よろしく頼む」
アデルさんは英雄の登場にも【赤の塔】に選ばれた事にも全く動じず、バベルへと足を運びました。
英雄ジータ・デロイトを引き連れ、羽扇を広げて胸を張る。自信に溢れた姿勢のまま。
それからも内定者への
私も出来ることなら早くに終えたいと願っていましたが、どうやら最後の方だったらしく、全く呼ばれないまま時間が過ぎていきました。
その間、様々な
敵情視察ではないですけど、こうして新人内定者の
新塔主は灰色のローブを纏ってフードを被った私より若そうな子供。フッツィルという名前。
顕現したのはいかにも魔法使いといった風貌の老人です。
観客の声を拾ってもそれが誰かは分かりませんが、こうして
「次にシャルロット、前へ」
私が呼ばれたのは九九番目でした。
隣に並んだ人の良さそうなおじさんが「俺、最後かよ……」と不安そうな目で見つめてきます。
私は心の中で「すみません、お先に」と言いながらステージへ。
さっさと終わらせたい一心で、私はすぐさま祈りの姿勢をとりました。
そして都市長が祝詞を唱え、光が私を包みます。
一体、私にはどんな
それより何より、大観衆の視線が痛いので早くこの場を切り抜けたいという気持ちが強かったです。
光は膝をつく私の前に集束しました――『人の形』となって。
「お、おい! また
「三人目だと!? どうなってんだ今期の新塔主は!」
驚いたのは私も同じ。思わず祈りの姿勢も崩れ、目口を開いてその様子に魅入ってしまいました。
やがて光は完全に人となり、その姿が現れます。
そしてその姿に、また驚かされたのです。
「はあっ!? メイド!?」
「
「お、おい、しかもあれ見ろよ! 腕が四本あるぞ!」
「どこの地域の種族だよ! あんなの知らねえぞ!?」
四本腕のメイドさん――紺色の髪を後ろに束ね、とてもきれいな顔立ちです。
丸眼鏡の奥では目を瞑ったまま。ピクリとも動きません。
私は私で、目の前の光景が信じられず、動けないでいました。
そんな私に向かって都市長は言葉を続けます。
「彼の者はこれより【女帝の塔】の主となる」
そんな観衆の騒ぐ声が、私には遠く聞こえました。
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※大アルカナは22種類ですが、うち2種類は削除させて頂きます。
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