132:反逆のダンザーク!です!
■パゥア 40歳
■第489期 Bランク【純潔の塔】塔主
「ラグエル、大丈夫か」
『全く問題ありません。手応えがなさすぎるのが少々気掛かりなところくらいです』
「確かにな。でも順調ならそれでいい。こっちは大丈夫だ」
「これしきの力で我々に歯向かって来ようなどと本当に愚かなこと。これだから知恵のなき獣は」
【反逆の塔】はアーマー系やゴーレム系など物理攻撃・物理防御に偏った魔物で構成されている。
それに対しこちらは植物系が主。そして天使系だ。
特にラグエル率いる天使部隊は、光・神聖属性の魔法が主体であるからして、それが敵によく刺さる。
向こうの攻撃陣も指揮官がミスリルゴーレム。Bランクの魔物だ。
周りを固めるのもCランクやDランク。この陣容ではろくに戦えない。
足も遅いから未だ四階層までしか迫って来てはいないのだ。
一方でラグエルたちは最上階目前。さすがにこれは――
『パゥア司教、最後まで油断はせぬように』
「っ! はい、申し訳ありません、アレサンドロ枢機卿」
『最後に獣に噛み付かれたなどあってはならぬ。駆逐は念入りに行わねばな』
「はい。分かりました」
アレサンドロ枢機卿に釘を刺されてしまった。
油断するつもりはないが気が抜けていたのは確かだ。
と、そんなところでアレサンドロ枢機卿の画面からシュレクト殿の声がした。
『しかし妙ですね。ここまで
『シュレクト、どういう意味だ』
『いえ、攻めも守りもしていないでしょう? 適当に配置した魔物を遊ばせているだけだ。まるで
何やらぶつぶつと呟くシュレクト殿も気になるが、わざとだろうが何だろうが負けてくれるのなら大歓迎だ。
ミュシファの「獣に考える脳がない」という言葉がしっくりくるほどの優勢ということだ。
このままでは私の【限定スキル】<高潔なる領域>も出番がないまま終わりそうだ。
自塔内範囲限定の永久回復効果だが、まぁ上層まで上っても来られないのであれば効果のほどを見ようもない。
そんなことを考えているとラグエルは早々に大ボス部屋に辿り着く。
扉を開ければ――ミスリルゴーレム五体。
画面のお歴々から溜息と失笑が出た。これが大ボスか。これで十一年目のCランクかと。
当然のように鎧袖一触で斃し、ラグエルたちはいよいよ最上階へと辿り着いた。
そこには玉座の前に立つ狼の獣人、さらに前にはミスリルゴーレムが五体。
なるほど大ボス部屋のゴーレムを自身の守護に使ったのか。……なんと頭の悪い。
もはや呆れを通り越して見苦しい。ラグエルもそう思ったのだろう。
ひとおもいにゴーレムごとあの獣を――
――とその時、キランと一瞬の剣筋が見えた。
次の瞬間、画面に映っていたのは……真っ二つにされたラグエルが光へと消える様だった。
■ダンザーク 33歳 狼獣人
■第490期 Cランク【反逆の塔】塔主
耐えに耐えた。
何年間も、ろくな魔物を創らず、ろくな階層変更もせず、最低限の戦力だけでやりくりしてきた。
まともにやっていたら生き残れない。まともにやっていたら伸し上れない。バベルとはそういう場所だ。
だから耐えて、TPを溜めこんだ。ひたすら地道に。
そうしてようやく目的の
見つけた隙、そして手繰り寄せた
【純潔の天使ラグエル】が攻撃側であったことに一抹の不安を覚える。
それでも耐えた。耐え続け、待ち続けた。やつらが最上階へと来るのを――。
やがてやつらの姿が見える。それはもうご立派な天使部隊だ。
ふわふわと近づいてくるやつらを十分に引き付けてから――。
「だりゃああああ!!!」
――ズバーーッ!!!
俺の剣――高いTPを使って手に入れたアダマンタイトの剣は、Sランクの大天使を一撃で仕留めたのだ。
「よっし!」と心の中で叫びつつ、周りの天使を一人残らず始末する。
おそらく従来の俺であれば『線』でしか見られないほどの速度で。
最上階を片付け終わった俺は背後に隠れていた眷属に声をかける。
「
俺は相棒の
向かう先は当然、【純潔の塔】その最上階だ。
◆
俺がTPを溜めて取得したものはアダマンタイトの剣ともう一つ。それは【限定スキル】だ。
本来ならばBランク頃になって初めて取得を狙うだろうそれを、俺はDランクの頃から見据えていた。
これだけバカ高いTPを要求するのだ。高ランクの塔以外に取得できるやつなんていない。
逆に言えば早いうちから取得できれば、それは高ランクと渡り合える力になるんじゃないか。
この地獄のようなバベルで浮上するにはそれしかないんじゃないのか。そう思ったのだ。
狙ったのはこれだ。
=====
□反撃の狼煙/350,000TP:攻められるほどに能力が上がる
=====
最初の説明にあったのはそれだけ。しかしこれなら侵入者に攻略されそうになっても、高ランク塔主との
一発逆転――それは塔主として常に夢見ていた響きだった。
耐えに耐え、極貧生活を何年も続け、そうしてやっと取得した。
念の為テストとして適当な侵入者に攻め込ませてみる。
=====
名前:ダンザーク
種族:狼獣人
職業:【反逆の塔】塔主
LV:35 ⇒ 72
筋力:B- ⇒ S
魔力:E- ⇒ C-
体力:C- ⇒ A+
敏捷:C+ ⇒ S-
器用:E+ ⇒ C+
=====
とんでもない上昇量をこの目にした。
しかし欠点もあった。この膨れ上がったステータスで戦うと武器がもたないのだ。
だからアダマンタイトの剣も必要だった。冒険者時代に愛用していたロングソードの形状で。
おまけに<反撃の狼煙>には取得してからでないと判明しない効果があった。
まぁ元から説明不足ではあったのだが、取得してから改めて
=====
□反撃の狼煙/350,000TP:攻められるほどに能力が上がる
効果①:敵が
効果②:敵に侮蔑されればされるほどに塔主と指定した一体の眷属のステータスが上昇する。同時に感覚も調整される。この効果は戦闘終了まで継続する。
=====
つまり俺をバカにするやつに攻め込ませればそれだけ強くなれるということだ。
獣人である俺にはぴったりのスキルだと思った。
今までどれほど差別され、侮辱されて生きてきたか。獣王国を一歩出ればそこは偏見の目ばかりだ。
じゃあこのスキルをもって誰を狙う――ちょうどいいのがいるじゃないか。
人間至上主義の創界教。その中でも最初に狙うのは【翡翠の聖女】しかいない。
誰より亜人差別をし、誰より人間に愛され、誰より教会で大切にされる存在だ。
おまけに一つ上のBランク。おまけに
もし聖女が獣人に殺されたとなればどうなるか。当然弔い合戦になるだろう。
今回の
それを今後は一人ずつ狙っていく。
あの同盟にはSとAの他にBもCもいる。最初こそヘイトが最大値であろう【純潔】にしたが次からは下位の塔主が狙いだ。
さあ見ていろ高ランクども。見ていろ人間ども。
――反撃の始まりだ。
◆
俺は相棒の
こうしている間にもステータスが上がるのを感じる。
おそらく聖女と塔主が今頃俺を罵っているのだろう。怒っているのだろう。いいから存分にやってくれ。
このスキルで戦うと決めた時、ネックになるのは『斥候』だと思っていた。魔物は斃せるが罠には嵌るかもしれないと。
だから
Cランクではあるが斥候技能をもった魔物であることは間違いない。
<反撃の狼煙>の効果で
俺にしても<聴覚強化><嗅覚強化><危険察知>くらいは当然持っている。獣人の元Aランク冒険者だから当然だ。
だから<反撃の狼煙>状態の俺たちであれば二人だけで攻められる。
Bランクの塔だろうが関係ない。Sランクの大天使で手応えは十分に試せた。
今さらどんな魔物がいようが関係ないのだ。
俺を侮蔑し、俺の塔に攻め込んだ時点で、俺の勝ちは決まっている。
【純潔の塔】は植物系の魔物が基本だ。当然、屋外地形ばかりになる。それも走りやすいポイントだ。
ただ上層になると天使系が増え、階層構成も神殿を模したものになる。おそらく創界教としての拘りだろう。
所々「巧い」と思わせる創りや罠の配置を見かけるが、思うに【大軍師】シュレクト・ササーの監修が入っているに違いない。
こう言ってはなんだが【純潔】のパゥアは頭の良いやつではない。
だからこそ違和感を覚えるのだ。不細工な塔構成の中にある芸術品のような創りに。
十四階――おそらくいつもは【純潔の天使ラグエル】がいるであろうそこには大木のようなトレントの化け物が居座っていた。
こんな魔物を配置するなら屋外地形にしろとか、天井高9mじゃ足りないだろとか思いつつ、アダマンタイトの剣で滅多切りにした。
不自然に回復し続けるやつだったが目に見えぬ速度で斬り続ければやがて木も伐れる。
そうしてやっと最上階に到着する。
「ひいっ!?」
「この獣がっ! 汚らわしい獣めがっ! 人間である私たちに盾突こうなどと――」
怯える塔主。罵倒する聖女。これ以上ステータス上げてくれる必要はないんだけどな。
まあいい。俺は画面で見ているであろう創界教の連中に一言だけ言わせてもらう。
「地獄に落ちろ。弱っちい人間どもが」
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