131:バベルはやっぱり戦いばかりです!



■シャルロット 16歳

■第500期 Cランク【女帝の塔】塔主



『ジータ、こちらは四階層に行ったところです。全然余裕ですわよ』


『あいよ! こっちも問題ねえ!』



 【赤の塔】対【群青の塔】の塔主戦争バトルはすぐに行われました。


 アデルさんの戦術は攻撃陣を厚く、防衛は地形と通常配置の魔物で十分ということで、【昏き水】戦とほとんど変わらないように見られます。やはり手応えがあったということなのでしょう。


 防衛はバーンレックスチロチロとカーバンクルが大ボス。

 他の眷属は全て攻撃と。まぁ前回より地上戦力が多いですがね。



フェニックスクルックー、右側回るぞ! ブラッディウォーロメェメェックとルサールカルールゥは左を任せた!』


『かしこまりました』



 もう一点の変化は眷属が火精霊トカゲンからルサールカルールゥに変わったこと。

 【昏き水の塔】の眷属だったAランクの魔物ですね。水・闇属性のゴースト。【赤の塔】に足りなかったピースでもあります。


 眷属枠の関係で一体を入れるならばもう一体を外さなければいけない。


 付けた名前を外すことなどできませんので、眷属の外し方とはつまり――。


 アデルさんも相当悩んだそうですが「わたくしが責任をもってやりましたわ」と沈痛な面持ちで言ってくれました。



 これを行う塔主は多いと思います。低ランクの塔で眷属にした低ランクの魔物をいつまでも重用できるほどバベルの戦いは甘くありません。


 高ランクの塔には高ランクの眷属が必要。だからそれに見合った眷属枠を構成すべき。

 それは塔主として極めて正しい姿だと思います。



 しかし――私はできそうにありません。


 アデルさんほど強くはなれませんし、クイーンの皆さんは今や家族と同じなのです。


 アデルさんも火精霊トカゲンに愛着を持っていたのを知っています。プレオープン前からの眷属らしいですしね。

 だからこそ辛いだろうなと思う反面、アデルさんはやっぱり心が強い人だなと尊敬できるのです。



 そうした思いもあってのルサールカルールゥのデビュー戦。皆さん気持ちが入っています。



 ただ当たり前のことですが、水・闇属性のルサールカルールゥと火・神聖属性のフェニックスクルックーは相性が悪いらしいです。

 だから同時に攻撃側で使うにしても、ジータさんとフェニックスクルックーブラッディウォーロックメェメェルサールカルールゥという風に分かれて行動しています。


 これもテストの一貫だそうです。実際に試しておかないと今後の運用に困るからと。

 アデルさんはどこまでも先を見据えているのですね。


 まぁ相手が弱いからできることでもありますが。同じCランクでも【昏き水の塔】の何倍も弱く感じます。


 【群青の塔】は十三年目だそうですし、それでもCランクに留まっていたというのはそれ相応の理由があると。

 逆によく十三年も生き延びることができたと、それは褒められるべきだと思いますが。



 何にせよ【赤の塔】にとっては危なげない戦いですね。

 アデルさんも余計に魔物を斃させて魔石集めをさせたりと、前回の私のようなことまでし始めました。体力と魔力に余裕が見えるということでしょう。

 様々なテストをしながら次の為の戦いをする。そんな雰囲気にすでになっています。



 ここまで来れば問題ないでしょうね。先におめでとうございますと思っておきましょう。



 ――しかし、私たちの知らないところで全く別の戦いが始まろうとしていたことに、その時は誰も気付いていなかったのです。





■パゥア 40歳

■第489期 Bランク【純潔の塔】塔主 七美徳ヴァーチュ



「司教様、あの獣たちをほうっておくわけには参りません。なぜ討滅しないのですか。本来であればこの神聖なるバベルに住まうことすら許されないはずですのに」



 画面に向かう私の横で彼女――【翡翠の聖女】ミュシファはそう言う。

 彼女は人を慈しみ、人を助け、人を愛する、まさに聖女と呼べる存在だ。


 しかし神定英雄サンクリオとなって召喚されてしまった。


 そうなったからには塔を守護する一員なわけで、塔としては侵入してくる人々に対し剣や杖を向けなくてはいけない。

 彼女が直接戦うわけではないが、それでも私は魔物に指示し、人々を傷つけ、屠り続ける必要がある。


 心優しき彼女は毎日祈り、毎日涙を流していた。

 それでもこれが(創界神様の副神であるバベル)神の意思でありそれに逆らうことは聖職者としてありえないと強い心をもって塔を維持し続けてきた。


 闘争の日々を、やがて安寧の時に変えられるように。



 ただそんな彼女も亜人・・に関しては容赦がない。

 侵入者の中に混じる獣人などを見つければ率先して斃すよう口酸っぱく言われる。

 塔主の中にはエルフやドワーフもいるが、どうにかしてその塔を潰せないものかと思案する。


 人の手による世界の調和がバベルの、そして世界の本来の姿であると、そう言い続けている。


 私としても思うところがないわけではないが、実際問題として世界は人間が制している形であり、それが安定しているのも確か。

 アレサンドロ枢機卿も私と同じ考えをお持ちであり、その崇高な意思の下、同盟に入らせて頂いたという経緯がある。


 彼女は少々極端なところもあるがおおむね正しいことを言っているし、極端に見える精神こそが聖女たる所以なのかとも思うのである。



 さて、そんな彼女が言う「獣」の件だが、先日私宛てに届いた手紙、及び塔主戦争バトル申請に関するものだ。



 差出人は【反逆の塔】塔主のダンザークとかいう獣人。

 手紙の内容は私たち、特に聖女が先日バベリオの創世教会で行った説法についてだ。


 要約すればでたらめ言うなとか、人種差別がどうとか、獣人をなめるなとかそういった類のくだらないもの。


 これが普通の手紙であれば燃やして肥溜めにでも放り投げたいところだが、残念ながら宝珠オーブで送られる手紙にそのような真似などできるはずもない。

 問答無用で受理なり却下なりしてもよいのだが立場上報告しないわけにもいかず、ミュシファや同盟のお歴々にお話した。


 それでミュシファはずっとお怒りというわけだ。早く受理して獣退治しろと。



 ただ私が少々気掛かりなのは、ヤツらが獣人ばかりの三塔同盟ということだ。


 気に食わないというのであれば同盟戦ストルグでよいではないか。それで一網打尽にできる。

 ところがなぜか交塔戦クロッサー。一対一だと。これでは獣を二匹取りこぼすことになってしまう。

 それで受理していいものかとアレサンドロ枢機卿にお伺いを立てているというところだ。



「おちつきなさい、ミュシファ。アレサンドロ枢機卿も色々とお考えなのだろう。お忙しい身だというのに急かしては申し訳ない」


「……そうですね。申し訳ありません。つい気持ちが急いてしまいました」


「パゥア様、敵方の情報などは入っているのですか?」



 別方向から声を上げたのは【純潔の天使ラグエル】。七美徳ヴァーチュが誇る大天使でありSランク固有魔物でもある。

 塔における守り神のような存在であり、さすがの聖女ミュシファもラグエルを前にすれば膝をつくほどだ。


 私からすればどちらも雲の上の存在なのだがあくまで塔主として振る舞わせてもらっている。



「【反逆の塔】十一年目のCランク。塔主は狼獣人のダンザークという雄。元Aランク冒険者。三塔同盟で他の二塔もCランクだ」


「こう言ってはなんですがそれでよく申請してきましたね」


「ちなみに神造従魔アニマはシャドウアサシンでこちらもCランクだな。正直ラグエルと同じ気持ちだよ。頭がいかれているとしか思えない」


「獣の考えることなど理解する気もおきません。汚らわしい」


「何か強力な固有魔物でも抱えているのでしょうか。十一年目のCランクであれば何かしらいそうに思いますが」


「侵入者は八階層までしか進んでいないそうだがその時点では確認されていない。もしかしたら九階層にいるのかもしれないな」



 どうもこの塔の評価は「Cランクの中でも下位」と見られているらしい。魔物にしても全体的に弱く、探索のしやすい塔だと。


 それでこちらに喧嘩を売って来たのだから相当頭が悪い。

 同盟の二匹も愛想をつかして同調しなかっただけかもしれないな。だから交塔戦クロッサーになったと。



「まぁ私たちはいつでも戦える準備をしておこう。アレサンドロ枢機卿のお返事次第ではすぐに討滅する」


「「分かりました」」





■ダンザーク 33歳 狼獣人

■第490期 Cランク【反逆の塔】塔主



『さすがに【純潔の塔】はやりすぎじゃないの?』


『向こうの返答も遅いからな。変に勘繰られてなければいいが』



 画面の中で喋る同盟の二人は少々不安気な表情を浮かべる。

 【響界の塔】塔主、兎獣人のジュヴァ。そして【剣士の塔】塔主、虎獣人のクーロゥ。

 同期というわけではないが一応同じセブリガン獣王国の出身で気の合った仲間だ。



「そうは言ってもやるしかない。一番狙いやすく価値が高いのが【純潔】なのだからな。作戦に変更はないし、今更できん」


『その作戦が怖いって言ってんだって。一歩間違えたら簡単に死ぬよ?』


『ああ、ジュヴァの言うとおりだ。練習と本番は違う。ただもう気を付けたところでどうにもならんか』



 温め続けた策をここで出す。その為に必要なものは【純潔】に揃っている。

 しかしそれを為すのは困難だと、実行する俺が一番よく分かっている。



「そうだ。まぁダメでもそっちに被害が行くことはない。そういう意味なら気も楽だ」


『ふざけないでよ! 負けたら承知しないわよ!』


「ハハッ、Bランクの七美徳ヴァーチュを相手に負けたら承知しないとは大きく出たな」


『大きく出てるのはお前だダンザーク。こっちに被害が出るつもりで頑張れよ』


「おう」



 ――ピロン



「……そんなこと言ってたら来たぞ。天使様から地獄への招待状だ」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る