186:浄炎の塔は戦う気まんまんです!
■エキル 19歳
■第501期 Eランク【浄炎の塔】塔主
はぁ、なんで僕なんかが塔主に選ばれちゃったんだろ。
何の取り柄もないし剣を握ったこともなければ魔法も使えない。
英雄なんて烏滸がましいにも程がある。
でも選ばれたからには周りは英雄扱いしてくるし、その上
ダリアがいなかったら僕なんてとっくに殺されてただろう。
だって内定式の時から周りの新塔主を見れば強そうな人がいっぱいいて、プレオープンが始まれば侵入者が大量に押し寄せて僕の命を狙って来る。
魔物に迎撃させてそれを斃したりもするんだけど人が何人も死んでいくんだ。
僕は画面でそれを見て、泣いたり吐いたり騒いだりとしばらくは忙しかった。
自分でも情けないとは思うけどだって怖いじゃないか。なんでみんな平気な顔して戦っていられるのか僕には理解できないよ。
「ったく、だらしないねぇアンタは。こんなんじゃすぐにヤられてお終いだよ」
「そ、そんなこと言われても……」
「いいからさっさと修正しな。ここの魔物はこっちに移動だ。あとファイアウィスプを五体追加で召喚しとくれ」
「は、はい」
オープンしてからもそんな調子。ダリアに頼りっきりになってしまう。
プレオープンの時からそうだったけど塔の構成や魔物、罠に関しても全部をダリアの知識に頼ってしまっている。
過去二回も
新塔主なんてそんなの知ってる訳もないし、知ろうと思えば先輩塔主に聞くくらいじゃないかな。
そこへいくとダリアが身近にいる僕の環境はとても優遇されているのだと思う。
僕の【浄炎の塔】はプレオープン二位、Eランクでのオープンを迎えた。こんな好成績は全てダリアのおかげだ。
でもダリアは不服みたい。一位を狙っていたらしい。僕からすれば二位でも分不相応なんだけど。
「酒場でいろいろと聞いてきたけどねぇ、あの【六花の塔】のシルビアってのはバベリオの元Aランク冒険者らしいね」
「えっ、そうなの? じゃあやっぱり強い人なんだ……」
「それだけじゃなくて貴族のご令嬢でもあるらしいね。今をときめく【
「ぼ、冒険者で貴族? そんなことあるんだ……」
なんでもその同盟は500期の上位塔主が集まった五塔同盟で、ここ一年でBランクの塔とかを斃しているのだとか。
Bランクを斃せる新塔主ってのは想像もつかないけど、とにかくすごいことを成し遂げたからその同盟は大人気らしい。
そしてその同盟には貴族がいて、シルビアさんも同じ国の貴族ってことかな。
きっと僕がダリアに教えてもらっているように、シルビアさんもその先輩に教えてもらっているのだろう。でなきゃ一位なんてとれるわけないよ。
でも同期の上位塔主同士で同盟を結ぶってこともあるんだね。
だったら僕もシルビアさんと同盟を結んだりも――
「ふざけんじゃないよ。【六花の塔】はあたしらにとって目の上のたんこぶだろう。第一に斃すべき相手じゃないか」
「す、すいません……」
だそうです。塔主と塔主は常に争う関係であり、同盟を結ぶということは利害関係の一致を意味する。
ダリアからそう聞いてはいたんだけどね。
でも協力し合える関係を築ければいいなって……まぁそんなことダリアには言えないけど。
その【六花の塔】はオープンして早々にFランクの新塔主の二塔と
「一位なんて狙われて当然さ。下位の新塔主なんてみんな今も死に目に会ってるんだ。一発逆転を狙うなら【六花の塔】が最初に目を付けられる」
「うちにも申請はきてるけど、そうか……どこも大変なんだね……」
「ここも狙われやすいはずだけどね。あたしがいると知られている分、狙われにくくなっちまってるね」
「じゃあダリアのおかげで助かってるってわけか」
「馬鹿言いなよ。カモが減ってると嘆いてんだ。もっとバンバン申請してくりゃいいのに」
ダリアは基本的に戦いが好きなんだよね。それで助かっている部分もあるし、だからこそ英雄と言えるのかもしれないけど。
【六花の塔】が
僕は嫌だったんだけどね、
でもダリアが速攻で落としてくれたから助かった。
そうこうしているうちに、今度は例の【
二年目が始まったばかりでもうAランクを斃すって……500期が異次元すぎて困惑する。僕は501期で良かったかもしれない。
どうやらその中の【赤の塔】がメルセドウ王国の大貴族らしい。つまりシルビアさんもメルセドウ貴族ってわけだ。
メルセドウは『魔法の国』ってイメージだから多分すごい魔法使いなんだろう。ダリアには劣ると思うけど。
少し落ち着いてきた頃、今度は【六花の塔】が【死滅の塔】を斃したという通知が来た。
今までは501期の新塔主が相手だったのに、ついに500期まで相手にするようになったのだ。
【死滅の塔】はFランクらしいけど一年の差は大きいと思う。戦力的にも経験的にも。それでも【六花】が勝ったと。
それを受けてダリアは結構考えていた。
どうにかして【六花の塔】を追い越さなければならない。
本当は【六花の塔】に
こちらが申請してそれを受けるのは、切羽詰まっている新塔主か、ダリアがいても勝てると思っている僕らより上の人。それくらいだろうと。
シルビアさん以上の戦果を狙うならば後者、それもインパクトがあって絶対に勝てる相手じゃないといけない。とダリアは言う。
「やっぱり【
「えっ、それって【世沸者の塔】っていうあの……」
「ああ、『謎解きの塔』さ。どんな謎解きなのかはある程度掴んでる。あたしなら全然問題ないね」
ダリアの頭の良さは僕もよく分かっている。元々宮廷魔導士長だったらしいし相応の学力も必要なんだろう。
でも……。
「あ、相手はAランクを破っているんだよ? きっとすごい魔物を持ってるとか……」
「【世沸者】で確認されてるのはスライムとフェアリードラゴンだけだ。そんなんでAランクを相手にできるわけがない。
つまり魔物は他の四塔を主力にして、防衛を【世沸者の塔】にしたんじゃないかねぇ。武力で攻略できない塔だってんならAランクの戦力から守り切ることだって可能なはずさ」
「な、なるほど……」
そう考えると前線で戦えて尚且つ謎解きができるダリアという存在は【世沸者】の天敵と言えるかもしれない。
魔物やそこいらの塔主より頭がいいのは確実なんだし。
と言うか【世沸者】の塔主よりダリアの方が頭はいいんじゃないか? であればダリアに謎解きが出来ないはずがない。
「ただ念の為、数はそれなりに連れて行くよ。早く攻略するためには散らばったヒントを探して集めないといけないらしいからね。あたし一人で攻めるわけにもいかない」
「じゃ、じゃあ防衛はどうするの?」
「そもそも向こうにまともな攻撃陣がいるのか微妙なんだが……まぁ一応ボスとしてファイアジャイアント(B)は残すし、ラヴァゴーレム(C)もいるからねぇ。
というか先んじてあたしが向こうの攻撃陣を潰すってのが一番手っ取り早いんだが」
そういう手もあるのか。攻撃陣を斃してから攻略を始めると。
それなら僕も安心だ。万が一向こうがAランクの魔物とか持っていてもダリアなら斃せるだろうし。
「分かったよ。じゃあ【世沸者の塔】に申請してみるね」
「ああ、頼んだよ」
■ノノア 16歳 狐獣人
■第500期 Dランク【
会議中にいきなり
しかも相手は【浄炎の塔】。
501期の新塔主でプレオープン二位。著名な
私は知りませんでしたが【荒天の魔女】ダリアさんという人は亡国の宮廷魔導士長で、戦場では大魔法を使い前線に立っていたという英雄です。
謎解きができるかどうかは分かりませんが、少なくとも頭は良さそうですし、ひょっとするとゼンガーさんほどの魔法の使い手かもしれません。
そんなすごい塔がなんでいきなり私の塔に申請などしてきたのでしょう。
これはさすがに受けるというわけにも……
『まぁ受理の一択やろ』
『良かったですわね、TPの足しになって。羨ましいですわ』
『すでに【浄炎の塔】の情報は得ておるぞ』
『これで501期は【六花の塔】の一強ですか。シルビアさんの手助けにもなりますね』
えぇぇ……いやもうちょっと危機感を持ってほしいと言いますか何と言いますか……。
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