123:バベリオの街にお出掛けです!



■シャルロット 16歳

■第500期 Cランク【女帝の塔】塔主



 極端に増えた侵入者の数が少し収まったタイミングで、私はエメリーさんとバベリオの街に出ました。

 今回は同盟の皆さんと一緒ではありません。目的が塔運営に関するものだけですしね。


 そうして朝、二の鐘すぎにバベルへと出れば、当然のように侵入者の方々は沢山いまして。



「じょ、【女帝】じゃねえか!?」

「うわすげえ……なんかホントに【女帝】って感じだな」

「今日は【女帝の塔】休みか。珍しいこともあるもんだ」



 途端に周囲がザワつきます。しかし何食わぬ顔で歩かなければなりません。イメージはアデルさんです。


 もちろん私とエメリーさんにも【付与魔法】をかけ、ターニアさんにファムで見張ってもらっている状態です。

 【限定スキル】に対する予防とまでは言いません。やらないよりマシというレベルですね。



 勝手に割れる人混みを抜け、バベリオの街へと。


 【無窮都市バベリオ】――バベリオの街はほとんど円形に近い自治都市です。


 中央にバベルがありその周囲に街並み。環状の大通りをはさみまた街並み。その周りに外壁。

 バベルの南には広場があり、そこから南門に向かって一直線の大通りがまたあります。

 パレードの時はその大通りから環状の大通りに出てぐるっと回ったわけですね。


 南側は商業区や高級住宅地が並び、最北に共同墓地があります。

 これから向かうのは西の果て、鍛治屋街です。やはり音の関係で住宅街から離れ外壁寄りになってしまうのでしょう。



 大通りへと出ればまた注目の的です。塔主総会ほど気合いは入れていないですがドレスですからね。やはり【女帝】として人前に出ていると意識しなくてはなりません。


 近寄って来るような人はいませんね。むしろ道を開けてくれます。

 時々、子供がパレードの時のように声援をくれるので軽く微笑む程度です。

 あとは威勢のいい屋台の店主さんとかが「【女帝】さん寄ってってくんな!」みたいに言ってくるくらいですか。

 本当は寄って買い食いしたいですが自重します。



 そうして歩くことしばし、目的の『鍛治スマイリー』に着きました。辺鄙な場所にあるボロ屋という感じですね。相変わらず。

 くたびれた扉を開け呼びかけます。



「おお? 【女帝】さんやないか、珍しいな。パレード見たで? すごかったな!」


「お久しぶりです。沿道にいらしたのですか? 気付きませんでした」


「いや人が多すぎて遠目で見たわ。気付かんのもしゃあない。しっかしすごい人気やったなあ」



 そんな感じで少し世間話を。

 武器のメンテ自体は二度ほどお願いしています。クイーンの皆さんの魔竜剣を塔主戦争バトル前に、とか。

 ですがその時はエメリーさんだけで来ていたんですよね。私が来るのは二度目です。



「そんで今日はメンテか?」


「ええ、エメリーさん」


「はい。こちらなのですが」


「うおぉぉ……なんじゃこりゃぁぁ……」



 マジックバッグから出したのは【炎岩竜の小盾】という真っ黒のバックラーが二つ。

 マモン戦で【魔剣グラシャラボラス】を防いでいたおかげで腐食の痕が酷いです。元はツルンとした黒曜石のように綺麗な盾だったのに。


 これは魔竜剣と同じ竜素材で出来ているそうで、エメリーさん曰く、「この盾ならば魔剣相手でもある程度は防げる」くらい硬い代物なのだとか。

 まぁそんな盾をここまで傷だらけにしてしまう魔剣が恐ろしいという話です。



「復元は無理ですのでせめて傷痕を整えるくらいはできませんでしょうか。おそらくアダマンタイトの工具であれば加工はできますので」


「いやアダマンタイトを打てる言うても工具をアダマンタイトにしとるわけやないんやけど……しかしこれはやりがいあるな。よっしゃやらせてくれ! なんとかしてみるわ!」



 チャレンジしてくれるということでお願いすることにしました。

 ちなみにメンテしたものはスマイリーさんがバベルの職員さんに渡すという段取りになっています。



「それともう一つお願いしたいものがあるのですよ。スマイリーさん『飾り盾』って作れますか?」


「『飾り盾』? まぁやろうと思えばやれるな。ものによるが」


「こんな感じの『飾り盾』を作って頂けないかと」


「なんじゃ絵があるんか……うおぉ、こりゃまた複雑な……これは?」


「【塔章】です」


「とうしょう?」





 話はエメリーさんとクイーンの皆さんが訓練していた時にさかのぼります。


 小隊を組み、軍として戦うことに気をよくしていた皆さんは、やれ「【女帝の塔】に勝利を!」とか言い出したのですが、さらに「軍旗が欲しい」とか言い出したのです。旗を持って進軍したいと。



 しかし旗持ちなどいたらそれで戦力が一人分減るわけで現実的ではないと却下になりました。


 そこから「でも謁見の間に旗とかぶわーって垂れ下がってたらかっこよくない?」となりまして、「【女帝の塔】の旗を作ろう」となりまして、「旗の中央に国章みたいな紋章が欲しい」となりまして、「じゃあ【女帝の塔】の【塔章】つくろう」となりまして、デザインを皆さんで相談しまして――となったわけです。



 塔章のデザインは国章にありがちな盾をモチーフにしたもの。

 その中を四つに区切り、「女帝を表すティアラ」「四本の黒いハルバード」「旗の垂れ下がる塔をイメージした縦線柄」「五色の重なる輪」を組み込みました。


 全体的には青・白・金をベースに所々別の色が混じります。五色の輪などがそうですね。

 【彩糸の組紐ブライトブレイド】で私は青担当なので基本色が青ということです。



「んー、こんな感じかなー」


「「「「おお」」」」



 デザインをまとめたのはラージャさんです。思わぬ才能にびっくりしました。

 絵を描くだけならエメリーさんが得意なのですがデザインとなると別なようで、そこをラージャさんが補った形です。


 ともかくそうして【塔章】のデザインが出来ました。

 旗は糸だけ用意すればヴィクトリアさんが織ってくれます。白い糸は自前でお願いします。



 で、そこから「どうせならこの塔章を飾り盾にして飾ろう」という話になりました。

 玉座の後ろとか、なんならバベル側の転移門の脇とかに飾ったらお城っぽくてかっこいいかも、という意見もありこうして依頼にきたわけです。今ここ。





「こりゃすごいわ。下手な国より豪華やないか? でもここまで細かくなるとわしの手には余るかもな」


「やっぱり無理ですかね」


「いや知り合いに偏屈細工師がおるからそいつに手伝わせるわ。これやったら魔法契約書いらんやろ?」



 魔剣や魔竜剣については口外できないよう契約しています。私たちの情報とかも。

 でも『飾り盾』を部分的に製作依頼するくらいなら問題ないでしょう。



「ではとりあえず一つお願いします。もしそれでいけそうなら追加で発注しますので」


「素材とかは指定しなくていいんか?」


「飾りですしそれも侵入者の方の手の届くところに飾ると思うので、見栄えさえよければ安物でも構いません。拘るならそれでもいいですし」


「悩むなぁ。予算は?」


「とりあえず前金でこれくらい」


「めっちゃ多いやん! とんだ富豪やないか!」



 今はお金持ちなんですよ。ちょっと宝物庫をまるごと頂く機会がありましてね。





 結局スマイリーさんは作って下さるということで出来上がりを楽しみにしたいと思います。


 さて、続いては家具屋さんでちょっとした机が欲しいんですよね。

 いつも玉座に座りながら右手を宝珠オーブに乗せて画面を見るのですが、それだとメモがとれないのですよ。

 なので宝珠オーブを左手側に移動し、玉座にいながらメモできるような簡易的な机が欲しいと。


 ついでに日用品店に行って紙とペンも買いたいです。

 いつもはTPで買っていますがお金も余っていることですし補充しておいて損はないだろうと。

 どうせ日用品店に行くのであれば雑貨も欲しいですね。


 あとは時間が余ればお洋服屋さんにも行きたいです。アデルさんにドレスを買ってもらったところ。

 普段使いの楽なドレスがもうちょっと欲しい……というか普段使いのドレスって何? という感じなのでお店で色々と聞きつつ選びたいなと。



 そんなことを考えつつ大通りを目指して歩いていると、こじんまりとした日用品店を見つけました。

 大通りに行けばそれこそなんでも揃いそうな『商会』がいくつもあるのですが、こうした小さな『商店』というのは裏道ならではの醍醐味でもあります。

 私としては実家が小さな商店だったこともあり、こちらのお店のほうが安心感はありますね。



「ちょっと入ってみていいですか?」


「かしこまりました」



 と、扉を開けるエメリーさん。こんなとこでもしっかり侍女なんですよね。

 ギィと開ければ所狭しと棚に並べられた雑多な商品。思いの外、種類がありますね。

 そして手工芸品が多いんですかね。木材の暖かい感じと穏やかな雰囲気がとてもいいです。



「はい、いらっしゃ……ええっ!? じょ、【女帝】様!? ちょ! ソフィア! ソフィア―!」



 店主さん大混乱。すみません、今『女帝さんぽ』やってるんです。



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