378:互いに手札の切り合いです!



■アドミラ 43歳

■第487期 Bランク【白雷の塔】塔主



「さすがに強いな」



 ジェンダさんはそう呟くだけですが、私としてはあれだけ攻めて、たった二十数体しか削れなかったことに愕然としていました。


 【女帝】のSランク固有魔物、フェアリーのクイーンがあまりにも強すぎたのです。


 <白天の空域>によってバフが掛かっているはずの鳥部隊よりも速く飛び、四属性魔法を連発。

 その上、ハイフェアリーの部隊指揮まで行っているのを見れば「さすがSランク固有魔物」と言うだけでは済まされません。


 もちろんウィッチクイーンのハイウィッチ部隊も強力なのですが、フェアリーのクイーンが突出した力を持ち過ぎている。

 一体で制空権を握っているようなものです。



 五・六階層に集めた魔物はことごとく斃され、結果、敵地上部隊を悠々と進ませることとなりました。

 私はその様子をただ画面に見ることしか出来なかったのです。



「しかし飛行部隊の数は減り、あのクイーンの魔力も相当減っただろう。削れているのは間違いない」


「そうでしょうか……魔力回復薬と思しき薬を飲んでいますが……」


「一本程度ではその回復量もたかが知れている。ヤツの魔法一発でこちらにどれだけの被害が出るかを考えれば、魔力の消耗はこちらにとって有利に傾く。見た目以上に戦果を得ていると思っていい」


「なるほど。そうかもしれませんね」



 確かに飛行系魔物の数を削り、あのクイーンの魔法をある程度封じたとなれば、少なくとも制空権はこちらにあると言えるでしょう。

 あとは十一・十二階層までにさらに削ることが出来れば、こちらはさらに有利となります。


 十三・十四階層に集めた最終防衛線。ジェンダさんが率いる大部隊で敵攻撃陣を迎え撃つ。

 その決戦で制空権を完全に掌握できれば、勝ちは揺るぎません。


 何せそこに集めている飛行部隊だけでも


=====


 麒麟(★S)、クアッドペガサス(A)、ペガサス(C)

 エンシェントヴァルキリー(S)、ヴァルキリー(B)

 白雷天使ラミエル(★A)、大天使アークエンジェル(C)

 ワキンヤン(S)、サンダーイーグル(B)、サンダーガルーダ(S)、ガルーダ(A)


=====


 この陣容です。仮にフェアリーのクイーンが万全な状態であってもこちらが有利。

 【白雷の塔】の強みである飛行系で【女帝】を斃す。それは必ず出来ると信じています。


 問題は地上部隊ですが、敵はSランククイーン二体と思われる魔物を中心に要塞のような攻撃陣を布いています。

 これをジェンダさん中心に崩して貰わねばなりません。


=====


 蒼騎士サグラモール(★A)、サジタリアナイト(A)、テラーナイト(B)

 空貴精シルフス(A)、風精霊シルフ(C)、雷貴精トール(A)、雷精霊チャク(C)


=====


 召喚報酬であるサグラモールもジェンダさんの配下として出させます。

 これでもう私に出せる主力は全てですね。

 地上部隊には私の<白天の空域>は適用されませんし、戦力差も若干劣るかもしれません。


 従ってまずはジェンダさんにヴァンパイアのクイーンを斃して貰わねば話になりません。

 あとは地上部隊がぶつかり合っている間に空を制する。

 飛行部隊が敵地上部隊に攻撃できるようになれば、そこでもう勝ちです。



 実際はその後に【女帝の塔】に乗り込まなくてはいけないのですが、ここまで攻撃陣に主力を割いているのですから防衛として残っている主力は相当少ないでしょう。


 亜人メイドと、いてもAランク固有魔物一体。

 あとはロイヤル系統のAランクなどがいるとは思いますが、斃せない相手ではない。


 最上階にいるであろう亜人メイドと対する時、ジェンダさんに加えてどれほどの戦力が残っているかで結果は変わります。


 もしジェンダさん、サグラモール、ラミエル、麒麟が全て残っていたら確実に勝ちです。

 いかにメイドが強いと言っても勝てないわけがありません。



 その為にも、今はこの攻撃陣を【白雷の塔】で完全に斃すことを第一に――



 ――と思っていた矢先、一階層の転移魔法陣に変化が見られました。



「増援か!? ……いや、これはッ!!」



 ジェンダさんも思わず声を上げるほどの光景が私の目にも入ったのです。

 先頭に立つのは防衛の要であるはずの亜人メイド。


 そして……雷貴精トール(A)五体、天貴精マルト(A)五体、フレスベルグ(A)五体、マンティコア(A)一体。


 地上に立つのはメイド一人、あとは浮遊か飛行のみ。

 明らかに速度重視、そして飛行戦力と魔法戦力の補強が目的です。

 目的を絞っているにも関わらずこれほどの魔物をまだ温存していたとは……!



 もう【女帝】は防衛を完全に捨て、とにかく攻め落とすつもりでいるということです。

 メイドも含め、攻撃に回せる高ランク魔物は全部出すと。


 こうなるとさらに十三・十四階層での決戦が厳しいものになる――そんな予感がしました。



「……メイドが出張ってくるならば私が当たるしかない。サグラモールだけでヴァンパイアのクイーンを抑えることは難しいかもしれんな」


「どうにかして空の戦いを早くに終えなければなりません」


「麒麟とラミエル、エンシェントヴァルキリーに期待するしかないな。こうなると分かっていれば決戦場を下層にしていたものを……まぁ悔いても仕方あるまい。今は出来ることをやるだけだ」


「はい」



 敵攻撃陣が第一陣に過ぎないと分かれば、削りではなく殲滅すべきだったということでしょう。

 しかし今から十三・十四階層の主力を中層に下ろすなど不可能です。その前に合流されてしまいます。

 ならば今までどおり十一・十二階層まで削りを徹底するしかありません。


 フェアリーのクイーンの魔力を完全に失くす。飛行部隊を出来る限り削る。その上、地上部隊の数もある程度削れれば……まだこちらの有利と出来るはず。

 それを信じて私は指示に努めましょう。





■シャルロット 17歳

■第500期 Bランク【女帝の塔】塔主



 【白雷の塔】五・六階層『天空の小島巡り』で攻撃陣の飛行部隊はかなり削られました。

 たかが二十数体と思われるかもしれませんが、私にとっては予想以上に減ったという印象です。


 仮にAランクの鳥がBランクの鳥を従えて十体くらいの部隊を組んでいたとして――それでも五・六階層で出るには強すぎると思いますが――それが順々に襲ってくるようなものだったら、ターニアさんお一人でもどうにかなると思います。もちろんハイフェアリー部隊も使って、とはなりますが。


 しかし限定スキルによるバフで敵の魔物は強化され、その上、いくつもの部隊が一気に襲ってくるとなればターニアさんでもどうにも出来ません。


 結果、想定以上の魔物を喪ったと。

 ターニアさんの魔力も想定以上に使いましたがそれはエメリーさんの回復薬で全快できるので問題はないです。


 ……いえ、増産できない異世界産の薬なのでそれが減るのも問題と言えば問題なのですがね。今は置いておきます。



 ともかくそれを受けて、私は早めに第二陣を送り込むことを決めました。

 先行部隊が中層に辿り着いた今であれば、仮に【白雷】が【女帝の塔】に乗り込んで来ても攻略速度で勝つだろうと。

 であればエメリーさんを合流させたほうがいい。【白雷の塔】も攻略しやすくなるはずです。


 第二陣には雷貴精トール天貴精マルト、フレスベルグ、マンティコアというAランクばかりを選びました。少数精鋭です。


 エメリーさんが走って合流することを考えると速度重視になりますし――精霊はそこまで速くはないのですが一応浮遊しているので速いほうです――Bランク以下の者やロイヤルシリーズを連れて行っても足手まといになるでしょう。


 ちなみに天貴精マルトとフレスベルグは【空白の塔】の報酬ですね。普段は『海の神殿』に配置しています。



 そうして十六体と一人、わずかな第二陣が【白雷の塔】に侵入していきました。



「皆さん、エメリーさんが向かいました。雷貴精トール天貴精マルト、フレスベルグ、マンティコアを連れてすでに【白雷の塔】を進んでいます。受け入れをお願いします」


『かしこまりました』


『もうか、随分と早いな』


『五・六階層がアレですとこの先がどうだか分かりませんからね~』



 ターニアさんの仰るとおりですね。

 五・六階層『天空の小島巡り』は明らかに侵入者が不利となる地形。だからこそ高ランク魔物を集めて削りに来たと考えられますが、その分七階層以降の手数が減ったかと言われると、そんな保障もないのです。


 侵入者の情報は九・十階層まで。十一階層以降にもっと厄介な地形があるかもしれませんし、【白雷】がどれほどの戦力を保有しているかも不明です。


 あくまで「普段五・六階層にいなかった魔物が出てきた」というだけ。

 そしてそれによって、私はより警戒が必要になったということです。

 エメリーさんを出したほうがいいだろうと。そう思ったのです。





 第一陣の行軍速度はロイヤルナイト(A)とハルフゥさんに合わせていますので普段よりも遅いペース。

 エメリーさんは精霊の速さに合わせていますが、それでも九・十階層で合流することが出来ました。


 七・八階層でも今までと同じように群れによる強襲を受けましたが、地上戦力もまとまっている状況では大した問題になりません。


 それは九・十階層、十一・十二階層でも同じようなものでした。

 積極的に削りに来ているのは分かりましたが、五・六階層ほどキツイとは感じません。


 斥候のクラウンスカウト(C)に多少の被害が出ましたがその程度です。

 天使の回復も飛行部隊を中心にお願いしましたしね。仕方ない部分もあります。


 結局、約百九十の部隊を維持したまま、私たちは十三階層の手前まで辿り着きました。



=====


 ジェンダさん、雷を纏った馬(?)1、クアッドペガサス(A)10、ペガサス(C)40

 エンシェントヴァルキリー(S)5、ヴァルキリー(B)45

 アラエルさんっぽい天使(多分★A)1、大天使アークエンジェル(C)30

 ワキンヤン(S)1、サンダーイーグル(B)30、サンダーガルーダ(S)1、ガルーダ(A)5

 蒼い騎士(?)1、サジタリアナイト(A)5、テラーナイト(B)40

 空貴精シルフス(A)5、風精霊シルフ(C)30、雷貴精トール(A)5、雷精霊チャク(C)30


=====



『――という感じですね~』


『さて、どうしたものですかね』



 計295体と1人……本当にとんでもない数です。ここまで多いのは【魔術師の塔】以来ではないでしょうか。

 【空白の塔】に【轟雷】の魔物がなだれ込んで来た時もありましたが、あの時は低ランクが多く、陣も何もなかったですからね。


 しかも約半数が飛行戦力。回復と魔法要員も多いと。

 本来はこの戦力を割いて、【女帝の塔】への攻撃陣とする予定だったのでしょう。

 そこを防衛に徹し、最上層へと集結させればこのようになるというわけですか……。


 やはりエメリーさんを出して正解でした。

 出して尚、数の上では負けているのですが、少なくとも固有魔物の数は上回っています。


 【白雷】の固有魔物はおそらく馬と天使でしょう。それがSとA。

 蒼い騎士が仮にSランク固有魔物でもこちらのほうが勝ります。


 あとはもう眷属の皆さんを信じるしかありません。私は歯痒くもただ画面を見つめるだけです。



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