379:【白雷の塔】最終決戦です!
■エメリー ??歳
■【女帝の塔】塔主シャルロットの
「さて、どうしたものですかね」
いままで戦った塔でしたら同じように最上層に大部隊を布いていても、最高戦力は後方で指揮官となり、弱い魔物から順に襲わせるようなことをしてきました。
そうしてこちらを疲弊させたところで、最高戦力を当てると。
それはそれで王道な戦い方だと思います。わたくしとしては各個撃破しやすいだけですが。
しかしおそらく【白雷】は違いますよね。
これまでの戦い方を見ていますと、最前線を最高戦力にして大軍で押しつぶすかのように襲い掛かって来るのではないでしょうか。
今までそうして鳥の群れが襲い掛かってきたように。
と考えれば、やはり空が不安ですね。
雷を纏う馬をSランク固有魔物と見た場合、対抗できるのはターニアだけでしょうし、それも確実に勝つとは言えません。
天使部隊は前に出てこないと思いますので後回しになりますが、他は極めて危険です。
一つはペガサス(C)に乗ったヴァルキリー(B)部隊。
全五十騎ですが、そのうち十体はクアッドペガサス(A)ですし、五人はエンシェントヴァルキリー(S)です。
つまりAランクの馬とSランクの騎手という組み合わせが五騎あることになりますので、それに関しては限定スキルによるバフも踏まえてSランク固有魔物と同等と見ていいかもしれません。
もう一つはワキンヤン(S)のサンダーイーグル(B)部隊とサンダーガルーダ(S)のガルーダ(A)部隊。
これもバフにより相当な強さになっているでしょう。
ターニアが雷の馬を抑えても、ベアトリクスや他の飛行戦力だけで抑えられるわけがありません。
本当はわたくしがあまり出しゃばるつもりもなかったのですがね。
クイーンのみの編成でハルフゥを総指揮官とし、戦闘経験をさせたかったところではあります。
しかし、さすがにこの陣容は看過できません。わたくしも全力で戦う必要があります。
となると……
■アドミラ 43歳
■第487期 Bランク【白雷の塔】塔主
敵攻撃陣が十三・十四階層に上がってきました。こちらの布陣はすでに済んでおります。
敵全軍が入口に集結したのを見計らって、ジェンダさんの「行くぞ!」という号令が掛かりました。
数では勝っている。飛行系魔物には<白天の空域>も乗っている。ならば一気呵成に攻めるべしと全軍で突撃を行います。
いかに亜人メイドが強くても、いかに固有魔物が多くても、三百近い魔物の群れ――しかも高ランクばかりの魔物を相手に防ぎきれるわけもありません。
正面から当たれば押し潰せる。
下層へ逃げようとも背後から一方的に屠るだけ。
おそらくそうなるだろうなと、私は強気な気持ちでいたのです。不安を押し殺すかのように。
しかしその不安はすぐに表面化することになりました。
こちらは全軍突撃で、バフの掛かっている飛行部隊が先行するような形。
敵陣は入口から動こうとはせず、待ち構えた状態です。
その中間に突如、黒い幕のような壁が地面からせり上がったのです。
階層は完全に二分され、味方の陣地と敵の陣地に分かれたような形となりました。
誰の仕業か分かりません。魔法なのかスキルなのか、何も分かりません。
おそらくジェンダさんにしても理解不能の壁だったと思います。
私は俯瞰視点で全てを見ることができます。敵の斥候部隊が大きく迂回するような動きをしているのも見えました。
そして亜人メイドがマンティコアに乗りこんで空に飛ぶ姿も――。
しかし私は突然のことに驚き、それを伝えられずにいたのです。
自軍から敵軍の様子が全く見えていないことに気付いていなかったのです。
ただ目口を開け、それを眺めることしか出来ずにいました。
始めは麒麟(★S)とワキンヤン(S)のサンダーイーグル(B)部隊。それが黒い幕に突入しました。
敵の位置を察知していたのか、幕を無意味なものだと判断したのかは分かりません。ただ戦意のもとに突撃を慣行しようとしたのです。とにかく敵飛行部隊を落とそうと。
ところが黒い幕を通り抜けると同時に二つのことが起こりました。
まず、幕から何本もの触手のようなものが飛び出し、ワキンヤンに絡みついたのです。
身動きのとれなくなったワキンヤンはまるで黒い鳥かごに入れられたようになりました。
そして麒麟が幕を抜けた瞬間、目の前には黒い刃――それはメイドのハルバードでした。
マンティコアに乗って飛んだことにも驚きましたが、メイドはその背からさらに跳ねたのです。麒麟が幕を抜ける瞬間を狙って。
そうして振り下ろされた刃は麒麟に当たったわけですが、私は麒麟がその程度で落ちるような魔物ではないと知っています。
すぐに取って返すだろう。むしろ空で自由の効かなくなったメイドを落とすチャンスではないか。そう思ったのです。
ところが……麒麟は悲鳴を上げ、地面に落ちました。そのままもがき苦しみ、光となって消えたのです。
なぜ! 何が起こったの!? 私は内心叫んでいました。
大した傷を付けられたわけでもないのに、あの麒麟がやられるわけなどありません。
毒か、魔法か、スキルか……いや、あのハルバードを纏う黒い靄が原因なのか。
そんなことを考えているうちにどんどんと状況は悪くなります。
まず続けて幕を抜けたサンダーイーグル(B)たちはウィッチクイーン(A)の部隊から集中砲火を浴びました。
捕らえられたワキンヤン(S)にはフェアリーのクイーンが魔法を畳みかけています。
弾幕を抜けたサンダーイーグルもいましたが、そこにはマンティコア(A)とガーゴイル(B)が飛行部隊の壁役として立ちふさがりました。
ジェンダさんは地上部隊を幕へと突入させるのを躊躇いました。さすがに罠だと思ったのでしょう。
しかし幕の手前で陣を止めてしまったことが裏目に出ました。
敵地上部隊の後衛から次々に魔法が放たれたのです。水魔法、風魔法、雷魔法と。
どうやら総指揮官の固有魔物が水・神聖魔法使いだと分かったのがこの時です。
ジェンダさんたちからすれば何も見えない幕からいきなり魔法が飛び出て来るようなもので、テラーナイト(B)やサジタリアナイト(A)たちはそれをまともに受ける形となりました。
ジェンダさんとサグラモール(★A)はさすがに防いだのですが、魔法に続くように幕を突破してきたのはヴァンパイアのクイーンとヴァンパイア(A)たち。
クイーンはその勢いのままジェンダさんに襲い掛かり、ヴァンパイアたちもまた集団でサグラモールに襲い掛かりました。
『さあやろうか【雷鳴卿】! 其方の相手は妾だ! 光栄に思え!』
『抜かせ吸血鬼風情が!!』
クイーンの爪とジェンダさんの剣が「ガキン」と硬質な音を響かせ、その戦いは始まりました。
同時にサグラモールも戦い始めています。しかしこちらは多勢に無勢。どこまで持つかという感じでしょう。
サジタリアナイトの部隊を掩護に回したいのですが、敵の魔法は的確に部隊を捉え続けています。
あの固有魔物の指示によるものだと思いますが……どれだけ察知能力が高いというのですか。
一方で大きく迂回していた敵斥候部隊もすでに幕を抜けており、そのまま後衛の精霊部隊を狙う……のかと思っていたのですが、私の予想は全く間違っていました。
ロイヤルジェスター(A)とクラウンスカウト(C)の部隊が向かった先はラミエルの天使部隊。
飛行部隊の後方に控えさせた回復部隊の真下に向かおうとしていたのです。
もちろんラミエルが迎撃しないわけがありません。天使部隊に神聖魔法による攻撃を命じます。
しかしその時、天使たちが何体もまとめて地面に落とされたのです。まるで真上から見えないナニカに押しつぶされたように。
闇魔法の<
そんなのは【女帝】の攻撃陣にもいないですし――
――と考えた次の瞬間、私の目に入ったのは、飛んでいるラミエルの背後……そこには恐ろしい女性の姿が。
私は思わず「ひぃっ!」と声に出してしまいました。
その女性はラミエルの首をナイフで貫くと、そのまま落下し地面に降り立ったのです。
今までいなかった敵がいきなり現れた。なぜか空中でラミエルの背後をとり、一撃でラミエルが殺された。
何が起こったのだと私はパニックになりました。
冷静に考えれば固有魔物に違いありません。それも斥候に長けたSランク固有魔物だと。
おそらく黒い幕も、ワキンヤンを捉えた鳥かごも、この魔物の仕業に違いない。
しかしその時の私は何も考えられずにいたのです。
ラミエルを殺したその魔物は、地面に立つや否や、再び<
指揮官を喪った
たった一体の奇襲で、天使部隊は壊滅させられた。そのことに頭が追いついていませんでした。
ワキンヤン(S)とサンダーイーグル(B)の部隊が次々に討ち取られて行く中、エンシェントヴァルキリーのペガサス部隊はジェンダさんと同じように幕を抜けるのを躊躇っていました。
幕を抜ければワキンヤンと同じように捕らえられるかもしれない。そういう判断だったのだと思います。
しかし躊躇して止まっている間にも戦況は悪いほうへと変化している。
地上ではヴァンパイアが乱戦し、魔法がどんどんと放たれナイト部隊の被害が大きくなっている。
背後に控えていたはずの天使部隊もなぜか壊滅の危機にあっている。
目の前には幕、下も後ろも戦況不利。ならばどうすべきか、エンシェントヴァルキリーの葛藤があったはずです。
そこに幕を抜けて出てきたのは――マンティコアに乗った亜人メイドでした。
いつの間にまたマンティコアに乗ったのか、いつの間に飛んだのか、私も目を離した隙のことでした。
エンシェントヴァルキリーは即座に迎撃を命じました。ペガサス部隊全軍でメイドに当たれと。
麒麟がメイドの手によって殺されたと知っていたのかは分かりません。幕の向こうで起こったことですから。
しかし全軍で潰さなければならないと、そう判断したのでしょう。
的確な指揮のもと、見事な包囲陣を展開し、ペガサスとヴァルキリーたちは一斉に襲い掛かったのです。
――そこから先は、私にはよく分かりません。
メイドはマンティコアに跨りながら空を飛び、次々に武器を持ち変えては多彩な魔法を放ち始めたのです。
時にはナイフを無数に投げてペガサスを落とし、分銅のようなものを投げてはヴァルキリーを落とす。
亜人特有の四本腕、その動きは私には見えませんし、何をどうやって魔法を放っているのか、私には理解できません。
高ランクであるはずの魔物が、私の自慢の精鋭たちが、ただただ蹂躙されるのを見ることしか出来なかったのです。
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