214:赤と忍耐も攻め込まれています!
■シルビア・アイスエッジ 22歳
■第501期 Eランク【六花の塔】塔主
「これが【魔術師の塔】……さすがにAランクの軍勢ですね……」
私は並んで座るアデル様に思わずそうごちる。
こうしてアデル様と並び、共に画面を広げ、共に戦う。
これもまた同盟に入ったからこそ出来ることなのではあるが、残念なことに感傷に浸る余裕はない。
【赤の塔】へと侵入してきている【魔術師】の軍勢が平穏を許してはくれないのだ。
今回の特殊条件による
私はてっきり【輝翼の塔】に配属されるものだと思っていたのだが、会議の末に【赤の塔】配属と決まった。
理由としては様々あるのだがその会議の内容は緻密にして濃厚。私はただ圧倒されるだけだった。
『心理誘導による未来予測』とでも言えばいいのだろうか。
二手三手先を読んでそういう方向に持っていこうとする、相手を動かそうとする、そういった類の作戦会議だったのだ。
特にアデル様、ドロシー殿、フッツィル殿。
これは軍師が三人いるようなもので私は聞いているだけで恐ろしく感じたものだ。
こちらがこう動けば相手はこう出る。そこでこう動けば相手はこう動く。
そういった思考を延々とやっている。それに沿った作戦が計画されていく。
私には理解するだけで精一杯だったが、シャルロット殿やノノア殿は理解した上で時々口を挟むようなことをしていた。
後からノノア殿に聞けば「慣れですよ」と苦笑いで返されたが、私にとっては同盟に入って初めての
おそらく日頃の塔運営でも侵入者に対する心理誘導めいたことをしているのだろうな。だからこそ頭がそれに慣れているのだと思う。
私も見習って心掛けていけなければならない。
ともかくそうした会議の果てに私の配属も決まったわけだが、配属と言っても持ってきた魔物はたった四体しかいない。
ジャックも戦闘には使えないとは思うが眷属伝達のできる伝令要員として一応連れて来た。
諸先輩方に比べれば本当に微々たる戦力。これで力添えになるのかと心配になるほどだ。
しかし「それでいい」と言われれば止む無し。
元よりこれが私に出来る精一杯なのでどうしようもないのだが。
私の魔物は九階層『赤の居城』で待ち構えているが、いざとなれば八階層『血の沼地』か七階層『サンゴ草湿地』まで出張って迎撃に当たるという。
それは敵の侵入具合を見てアデル様が指示を下さるそうだ。
そしてその敵の侵入というのが画面に映っているわけだが、私にとっては冷や汗の流れる恐怖の絵面でしかない。
思わず「さすがAランクの【魔術師の塔】」と言ってしまうほどの軍勢であった。
指揮官はおそらく地上のエルダーリッチ(S)と空のウィッチクイーン(A)。
エルダーリッチはノノア殿が眷属化しているリッチ(A)のさらに上位種。
これだけでも恐怖の対象だが、配下としてリッチが五体、ネクロマンサー(B)が二十体いて、そいつらが召喚したであろうスケルトン部隊が五十以上もいる。
その上で飛行部隊だが【女帝の塔】でも重用されているクイーンが【魔術師の塔】にもいたらしい。
当然のようにハイウィッチ(B)部隊を従え、さらにその周りにはこれまた【女帝の塔】でも馴染みのハイフェアリー(C)やAランクの高位精霊――
スケルトン系とハイフェアリー以外は全てBランク以上。
そしておそらく神聖属性以外の全属性の魔法を行使できるであろう陣容だ。
こんなものが【六花の塔】に侵入してくれば鐘一つ分も保たせることは不可能だろう。そう言い切れる。
さすがに【赤の塔】でもこれを守り切るのは……と不安になったのだが
「エメリーさんを警戒しているからこそこの程度で済んでいるのですわ」
と、アデル様に慌てた様子はない。
無論、余裕というわけではないだろうが真剣な眼差しで画面を見る様子は
「この程度……ですか……」
「それはそうですわよ。この中には固有魔物もおりませんし、Sランクも一体だけ。【魔術師の塔】の戦力を想像するならば十分の一以下といったところではないでしょうか」
「じゅ、十分の一……!? これだけの軍勢で、ですか……!」
元より
巨大な魔物や大ボスなどは自塔から動かせないし、攻撃陣は必然的に絞られるものだと。
しかし今【赤の塔】に侵入してきているのは、それだけでCランクかBランクの塔の全戦力に匹敵するほどの強さだと思える。
アデル様の仰ることも分かるのだが……一体どれほどの戦力を抱えているというのだ。【魔術師の塔】は……!
「ダウンノーク伯は【赤の塔】の情報をお持ちですし、攻略が可能となる最小限がこの陣容ということでしょう。一方でそれほどエメリーさんを恐れているということの表れでもあります。【魔術師の塔】の攻略は骨が折れるでしょうね」
眷属、固有魔物、Sランク、一体どれほどの軍勢が待ち構えているのか想像もつかない。
エメリー殿のお力は私も訓練でも見てきたし、今現在も画面でその規格外の戦闘力を見せつけている。
しかしそのエメリー殿でさえ苦戦するのが目に見えている。少なくとも私はそう思っている。
ただ【魔術師の塔】の攻略を考える前に、【赤の塔】を守りきれるのかという不安が大きい。
「こちらの戦力が割れていると言っても
「……それはつまり厳しいということでは」
「知られている戦力だけで見ればそうですわね。こちらの戦力を打ち破れるだけの陣容で間違いないですわ」
知られている戦力、か。
確かに二日前とは違った戦力になっているのは間違いない。
「ただわたくしの【赤の塔】は元々魔物だけで戦っているわけではありませんからね。地形の問題もありますし、何より<赤き雨の地>の詳細を知るはずもありません。それと魔物の配置を組み合わせて初めて″防衛陣″となるのですから」
そうだ。【赤の塔】で最も困難たらしめているのはジータ殿でもクルックーでもない。
<赤き雨の地>を使った″探索阻害″だ。
なるほど限定スキル、地形、塔構成、魔物、その全てを使って迎撃すると。
それは正しく″塔主としての防衛″だ。
「あとはシルビアさんの戦力もありますしね。期待しておりますわ」
いや、うちの四体でどうにかできるとは思えないのですが……。
■ノノア 16歳 狐獣人
■第500期 Dランク【
「や、やっぱりあの有翼亜人と鳥部隊が厄介ですね……」
「罠はいい感じに作用しとるけどな。飛びながらの指揮とヴィゾフニルの神聖魔法で回復されるのが困りもんやな」
私は隣に並ぶドロシーさんと画面を広げて戦況を見つめます。
【忍耐の塔】に入ってきているのは【青の塔】の攻撃陣。
有翼亜人が総指揮官で地上部隊の指揮官はスキュラクイーン(A)だと思います。
百体以上いて半分弱がBランク以上といった感じでしょうか。とんでもない軍勢ですね。
これでもエメリーさんの″圧″で戦力を絞っているはずですから、さすが【青の塔】と言いますか、Bランク上位は伊達ではないと言いますか。
【青の塔】には防衛陣として数々の魔物を控えさせているでしょうし、一体どんな魔境なのかと恐ろしくなります。
それに対しドロシーさんはまず下層の罠で対処しています。
かなりの数の罠を弄ったようで、大部隊に合わせた設定にしているほか、飛行系魔物を狙ったり、普段以上に凶悪にしたりと、これぞドロシーさんの【忍耐の塔】といった仕上がりになっていると思います。
その成果はもちろん出ていまして、回復されたり回避されたりもしてはいるのですが、足止めと魔力削りは出来ていますしコボルトリーダー(C)などは即死で数を減らしています。
五階層までの罠地獄でどれだけ削れるのかが一つの鍵になるでしょう。
そして六階層からは魔物をぶつける形になりますので、私の出番もそこら辺からとなります。
私は事前準備として
【死屍の塔】の
もちろん
あとはデザートアサシン(B)の斥候部隊もですね。使うかどうかは微妙ですが一応。
今回は配置する魔物の数に制限はないので、使う可能性のある魔物は出来るだけ持ちこみました。
これをどう使うかはドロシーさんにお任せです。色々と策は練ってくれているらしいですが。
「出来れば飛行部隊をどうにかしたいけど一番厳しいのもソコやな。魔力は削れるけど決定打にはならん」
「じゃあ逆に地上部隊狙いにしますか?」
「せやな。ウリエルとぶつけるまでにどれだけ地上部隊を削れるかが焦点になると思う」
【忍耐の塔】の戦力で飛行部隊となるとウリエルさんの天使部隊かガーゴイル、
私なんて全く持っていませんし。
相手の指揮官、有翼亜人が固有魔物であると考えればウリエルさんを当てるのが一番良さそうです。
ただ地上部隊は地上部隊で精強なんですがね。
六階層の『砦』に元々配置している
「わ、私の部隊を六階層とかでもいいですからね? どうぞ遠慮なく」
「分かっとる。ゲストちゅうて遠慮してたらウチら二人ともヤバイしな。そん時はすまんけど頼むわ」
「い、いえいえ、大丈夫です」
「六階層を固めるのも一つの案やけど、そこまでの相手の減り具合とエメリーさんの殲滅具合にもよると思う。せやから今は用心だけしとって」
「わ、分かりました」
エメリーさんの殲滅具合って……いえ、そのとおりですね、全く。
今も画面共有で映していますけど、これは……想像以上に速くないですか?
ちょっと【宝石の塔】が可哀想になる感じですね……ご愁傷さまです。
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