363:アデルさんには災難が続きます!
■アデル・ロージット 19歳
■第500期 Bランク【赤の塔】塔主
【六花の塔】は計四日間で【鬼面の塔】と【息吹の塔】の二塔を落としました。
内容としては完勝と言って良いでしょう。
【息吹】の攻撃陣に塔内の魔物を斃されはしましたが、低ランクの魔物ばかりですしね。
補充も全く問題ないということで、翌日からは通常営業に戻りました。
相手が弱すぎたのでインパクトはそれほどなかったと思いますが、やはり二連戦ということで多少話題にもなったようです。
ですが三塔同盟の最後の一つ、【熱線の塔】からは未だに
もし最初から狙うつもりであれば、即座に申請して来そうですけどね。
その方がシルビアさんは大変になるのですから、間をあけるというのは悪手に思えます。
もしくは【息吹】戦を観戦したことで【六花】対策を考える必要が出た、というのもありえますわね。
あるいは怖気づいて【六花】を狙うのをやめた、なんてことも考えられます。
『こちらから申請したほうが良いのですかね』
『仕掛けるんなら焦って申請する必要はないんとちゃう? まぁシルビアちゃんにお任せやけど』
『【熱線】はあの二塔とはまるで違うからのう。出来ることならば準備と対策はしておくべき……でもないのか?』
『単純に【黄砂】より強そうですし【熱線】は火属性の塔ですからね。今度こそ簡単にとはいかないと思います……いや、シルビアさんならいけるんですかね?』
難しいところですわね。今のシルビアさんであればCランクの塔など相手ではない……と言いたいところですが、【六花の塔】が火属性に弱いという事実は変わりませんからね。そこをどう考えるかというところでしょう。
相反属性の塔と戦う際は、もう単純に『力と力』の勝負になることが多いのです。
例えばわたくしが以前戦った【昏き水の塔】などがそうでしたわね。
塔主のリアクアは自軍の戦力であれば【赤の塔】に勝てると思って申請を受けた。わたくしはそれを
強い水属性の魔物でも、それ以上の火属性で当たれば勝てると。
【六花】と【熱線】の関係性も同じようなもので、『氷と火のどちらが強いか』という単純な勝負になると思われます。普通は、ですが。
現状では【熱線】のほうがやや有利。それは【熱線】がすでに固有魔物を召喚していることからも伺えます。
では策を講じてどうにかしようだとか、こちらも固有魔物を召喚しようだとか、色々と考えるわけですね。
そうして有利・不利を逆転しようと画策する期間が必要だと。
であるならば、すぐに申請しないほうがいいのでは? とも思うわけです。
一方で「すぐに戦うことになったとしても現状の戦力と策略でどうにかできるのでは?」とも思いますし、結局はシルビアさんに一任するしかないと。明確な判断基準がないのですから。
どう転んでも勝つは勝つと思います。それが被害甚大の辛勝になるか、被害を抑えての快勝となるか、余裕を持っての完勝となるか、というところではないでしょうか。
『アデル様ならばどうしますか?』
「わたくしならば少し待ちますかね。どちらにせよ【熱線】に『これなら【六花】に勝てる』と思わせなければそもそも
『なるほど……でしたら少し待とうと思います』
「いずれにせよ火対策と飛行対策は必要ですわよ。まぁなくてもどうにかなるとは思いますがあるに越したことはありませんから」
『はい、考えてみます』
シルビアさんにとって本格的な相反属性の相手というのは初めてですしね。
『寒冷の塔』である【六花の塔】にとって火属性の塔・魔物というのはずっと付き纏う課題のようなものです。
それをどうするかと考えるいい機会になるのではないでしょうか。
……と、まるで他人事のように思っていたわけですが。
◆
=====
【氷牙の塔】から
形式:
受理 却下
――手紙添付なし――
=====
「これは少々驚きましたわね……」
シルビアさんの戦いからわずか五日後、わたくしの元へ
相反属性の相手から。
相手はBランクの【氷牙の塔】。十七年目で昨年のランキングでは37位。
塔主はザゥラという男性。大陸最北の小国、カンジア公国出身の元冒険者。
「……なんでこいつは【赤】に喧嘩を売ってきたんだ?」
「それが読めないのが怖いところですわね」
正直、わたくしに仕掛ける理由が見つからないのですよね。
相反属性ではありますが同じBランクですし、ランキングはこちらが30位と上です。
まぁ年期は圧倒的に【氷牙】が上ですから、総合戦力的な意味では分かりませんが。
もちろん貴族主義ではないでしょうし、差別主義でもないでしょう。国絡みの何某があるわけでもない。
ファムでも調べられないので詳しいところは何も分かりません。
「考えられるのはやはり限定スキルですかね。諜報型を持っていて、【赤の塔】のことを知り尽くしている」
「だったら余計に手ぇ引きそうだけどな。どう見たって寒冷の魔物にゃ厳しい塔なんだからよ」
「もしくは火属性に対する強力なバフですとか」
「そっちのほうがまだ現実的だな」
それがあるからランクで近いところの火属性の塔を狙った、というのが分かりやすいですか。
だったら34位の【炎魔の塔】を狙うべきだと思いますがね。ランキング的にすぐ上ですし。
まぁ【赤の塔】のほうが価値はありますから仕方ないのかもしれません。
いずれにせよ受けないという選択肢はないのですよね。わたくしとて
Cランクばかりではありますが申請しては断られ続け、延々と塔運営をすることしか出来なかったのです。
相手がBランクだとは言え、わざわざ申請して下さったものを却下するなど出来ません。
「とりあえずは皆さんにご相談しますか。それから受けるとしましょう」
「何にせよ油断はできねえからな。氷対策も必要だし……俺の服と靴も用意しといてくれ」
「はいはい。分かっておりますわよ」
自分が乗り込む気満々ですわね。まぁおそらくそうなるのでしょうけれど。
本当は街で適当に買って来て欲しいものですが、そうすると寒冷対策しているのがバレバレですからね。仕方ありません。TPで用意して差し上げましょう。
■ザゥラ 38歳
■第486期 Bランク【氷牙の塔】塔主
「愛だッ! これが俺の愛だぞ、アデル・ロージット! 今まで待たせてすまなかったな! やっと準備が整った!」
二年前、500期前期の塔主総会で俺は一目惚れをした。
プレオープンで1位となった緋色の髪の貴人に。
それからも塔主総会や新年祭のたびに目で追い続けた。
今年の新年祭は惜しかったな。七台前の魔導車が【赤の塔】だったのだ。
もう少し俺が頑張っていればすぐ後ろに行けたのに……とかなり悔んだ。
あの強気で堂々とした立ち振る舞い。真っ赤に彩られたその全てが愛おしい。
そうしてアデル・ロージットを見るたびに思うのだ。
――ああ、絶望する顔が見たい、と――
強気で美しいご令嬢の死に際、その苦悶の表情が見たくて堪らない。
泣くのか? それとも最期まで強がるのか? 出来れば後者であって欲しいものだ。
真っ赤なドレスを自分の血で赤く染めたらどうだ。さらに映えるじゃないか。これこそまさに【赤】のアデルだ。
毎夜、そんな妄想をしつつ俺は待ち続けた。
でもそうそう
我慢して我慢して我慢して我慢して我慢して、ようやく準備が整った。
【赤の塔】もBランクに上がり、ランキングでも俺の方が下になった。
今ならばアデルも受けるに違いない。俺の
「さあ受けろ、アデル・ロージット! 俺がこの手で
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