364:【赤の塔】vs【氷牙の塔】始まります!
■ザゥラ 38歳
■第486期 Bランク【氷牙の塔】塔主
【赤の塔】に勝つ為にはジータと火対策が欠かせない。それはもう二年前から分かっていた。
ジータは竜を斃したという伝説がある。本当か嘘かは知らないが。
仮にそれが真実だとすると、Sランク固有魔物の竜がいたところで確実に勝つとは言えない。
単純に考えれば有効なのは魔法だろう。ジータが近接物理型の剣士であるのは事実なのだから。
しかし、だ。遠距離から魔法を放ったところでジータが距離を詰めて来ればおしまいだ。
魔法特化の魔物というのは防御力が低い。ジータからすれば紙切れ同然だろう。
じゃあジータ以上に素早いSランク固有魔物ならばどうか。それならジータの剣は届かない。
それで尚且つ遠距離攻撃の手段を持っていれば尚さら良い。一方的に攻撃できる。
そんな魔物がいるのか――【氷牙の塔】にはいる。俺が持っている。
【氷牙の塔】の固有魔物は三体いた。なかなか見ないレアケースらしく、俺は非常に運が良かった。
マナガルム(★S)スコル(★A)ガルム(★A)という三体だ。どれも狼系で統一されているのが難点だが、その分運用はしやすい。
俺の塔のリストには他にも狼系が多い。フェンリル(A)やアイスウルフ(C)とかだな。
これらを主力とし、大部隊を形成している。総指揮官兼大ボスがマナガルムだな。
これらと相対せば、いかに【英雄】ジータと言えども敗北以外にありえない。
高ランクの冒険者だって狼の群れには敵わんのだ。そこに固有魔物の狼が加わっていたら、もう死しかありえない。
だからこそジータには俺の主力を当てるつもりでいる。
あとは火魔法だが、これも一応の対策がすでにある。
俺が取得した限定スキル<氷牙の装>だ。
これは自塔内の寒冷系魔物の攻撃力上昇と、確率で<凍結>を付与する効果がある。所謂バフ型限定スキルだ。
相反属性同士の
であるならば、仮に【赤】が想定以上の戦力を持っていたとしても、寒冷系の魔物を強化した【氷牙】が圧倒的に有利となるのだ。
問題は″自塔内限定″というところだな。【赤の塔】を攻める際には限定スキルが乗らない。
だからなるべく【氷牙の塔】に引きずり込んで数を削らなきゃならない。攻めるのはそれからだ。
攻撃陣にはジータや眷属が数体はいるだろう。それをまずは斃す。
戦力を削ったのちに【赤の塔】を攻略し、最終的には――アデルを甚振って殺す。
もうすぐその顔が見られると思うと今から興奮してくる。
待っていろアデル・ロージット。時間をかけてそっちに行ってやるからな。
■アデル・ロージット 19歳
■第500期 Bランク【赤の塔】塔主
何やら悪寒がしますわね、武者震いでしょうか。
――カラァン――カラァン――
『二人とも準備はいいかなー?』
「はい」『はい』
『じゃあ始めようか!
何はともあれ
わたくしは画面を注視します……が、転移門から入って来る敵攻撃陣の姿はありません。
やはりそうでしょうね。【氷牙】の魔物が【赤の塔】の攻略に苦戦するであろうことは明白。であるならば防衛を優先するでしょう。
【赤】対【氷牙】。共に完全防衛策をとりたい両者。
ということは、また
ただ【氷牙の塔】の場合、【黄神石の塔】とは大きく違うところがあります。
まず屋内階層も含めて全てが白や銀の世界ですから、火の粉のようなクルックーでも見つかりやすいということ。
そして【氷牙】の魔物の多くが水・氷魔法や氷のブレスという攻撃手段を持っているので、一撃でももらえばクルックーが危険だということ。
下手すればジャックフロスト(C)程度の魔法でも死にかねません。
かと言って、相手が引き籠っているならばこちらが攻め入るしかなく、その為には偵察が必須。
せめて「これ以上は危険だ」と思える範囲までは見ておきたいと思うのです。
懸念点としては【氷牙】のザゥラが諜報型限定スキルを持っていた場合、クルックーの偵察作戦が筒抜けであることが考えられるわけですが、これは同盟の皆さんとも話し合った結果、諜報型である可能性は低いだろうと結論付けました。
仮に諜報型限定スキルを所持していた場合、【赤の塔】の塔構成を見て挑もうとは思わないはずです。実力差が開いているならともかく。
それか魔物の詳細を知るようなものであれば、火属性でない眷属――
盗み聞きするタイプの諜報型という可能性もありますが、それだと【赤の塔】の塔構成が不透明なままなので、やはり申請してくるとは思えません。それなら別の塔に挑むでしょう。
というわけで諜報型限定スキルは持っていない。
おそらくは攻撃型かバフ型、デバフ型であろうと予想しています。内政型ならば良いのですがね、それは考えないでおきましょう。
そうした限定スキルの場合、「魔物に効果があるもの」と「階層・エリアに効果があるもの」で分かれます。
どちらにせよこちらの攻撃陣を送り込まないことには判断できませんので、その前にクルックーの偵察で判明できれば……というところですね。
いずれにせよ、レッドキャップ(E)を随時投入しつつ、クルックーの視点を注視いたしましょう。
◆
展開としては【黄神石の塔】戦と大体同じになりました。
わたくしは数体の低ランク魔物を送ってはすぐにやられる、というのを一定間隔で続けます。
ただ今回は【氷牙】側もアイスウルフ(C)を送り込んで来たりもしてきました。
勢いよく入って来てとにかくまっすぐ走らせるという手です。
それによって一階層に布陣している攻撃陣はいないか、一階層の様子は平常通りかと見ているわけですね。塔主はアイスウルフの付近を俯瞰で見られますから。
わたくしはそうして送られてくる魔物を無視しました。一階層であればいくらでも見て下さいと。
どうせ【氷牙の塔】への攻撃陣は直前まで入口に行かせませんしね。それこそ諜報や斥候が怖いですから。
一方でクルックーは順調に【氷牙の塔】を進みました。全速力で飛べば鐘一つ分程度(約三時間)で最上階まで行けるのですがね。じっくりと丁寧に探索するつもりで行かせました。
【氷牙の塔】は屋内階層も少ないですし扉で区切られているような場所もほとんどないのでクルックーは飛びやすいのですが、白い景色と魔物が厄介です。
特にウルフ系が多いのですが、狼は嗅覚が優れているものが多いですからね。
もしかすると見つかるかもしれないということで、なるべく高く飛ばせて通り過ぎるようにしていました。
問題はやはり上層ですわね。Aランクの魔物が出始めます。ブリーズナーガ(A)やフェンリル(A)など。
しかし思いの外弱いと言いますか、数も少ないように感じます。
わたくしは嫌な予感がだんだんと増していたのですが……その正体は十四階層を見れば一目瞭然でした。
広大な雪原に集められた魔物の数々。
中央に壁役となるアイスマンモス(A)とシールドマンモス(B)の群れ。
その周りにアイスウルフ(C)とフェンリル(A)の部隊がいくつもあり、回復役兼魔法攻撃役の
最後尾にはわたくしの知らない三体の大狼……固有魔物に違いありません。
「明らかにフェンリルの上位種ですわね。三体とはまた豪勢な」
「ノノアの嬢ちゃんのトコだけじゃねえんだな。あそこはスライムばっかでこっちは狼ばっかだけどよ」
なかなか珍しいらしいですけどね。となると一番大きな狼がSランク、他の二体がAランクでしょう。
もし【世沸者】と同様であるならばSランクの固有魔物は見た目以上に恐ろしい可能性もあります。さすがに
なるほど、だからわたくしに挑んできたということですか。
この魔物たち、もしくはこのSランク固有魔物を持っていたから。
仮にヨギィほどの化け物でないとしても相当強いであろうことは伺えます。
少なくとも【黄神石】戦の時のようにジータ頼みでは蹂躙されますわね。
さて、どうしたものでしょう……。
「皆さん、クルックーは最上階に行かすべきだと思われます?」
『私だったら嫌ですね。あの狼の近くを通って階段に抜けるというのは難しいように感じます』
『わ、私もですね……』『同感です』
『ザゥラの様子を見たい気持ちもあるんやけどなぁ……でもクルックーの安全が第一やろ』
『そうじゃな。わしならこれ以上近寄らせるのも怖い。さっさと引き上げさせるか十三階層に留まらせておいたほうがいいじゃろう』
ですわよね。一応は全階層の塔構成と魔物を把握できたのでそれで良しとしますか。
ではクルックーは十三階層に待機させるとして……攻撃陣はどういたしましょうかね。
少なくともあの軍勢を斃せるだけの戦力を整えなければなりません。
あの狼を抜けて最上階の
どうしたって戦い、そして勝つというのが命題になります。
十三階層までの寒冷階層を無事に突破する、というのも加わりますけれどね。
「ジータ、ランスロット、パタパタ、今一度攻撃陣を見直しますわよ」
「おう」「「はい」」
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