177:シルビアさんにも情報共有しておきます!
■シルビア・アイスエッジ 22歳
■第501期 Eランク【六花の塔】塔主
「なっ……! ダウンノーク伯がですか!?」
【六花の塔】のオープンから少し経った。
塔の運営はまだ安定と言えるほどではないと思うが、多少慣れてきた感はある。
時折、情報収集も兼ねてバベリオの街に繰り出し元パーティーメンバーと会ったりもしたが、未だに新塔主の中では私の【六花の塔】が一番人気のようだ。これでもオープン当初よりは人数も減ったのだがな。
【荒天の魔女】ダリアを要する【浄炎の塔】も人気はあるらしい。
だが三位の【重厚の塔】以下は伸び悩んでいるようで、世間的には【六花】と【浄炎】の二強と見られているとか。
アデル様とは事あるごとに手紙を送り合い連絡を取り合っているが、それ以外にも『会談の間』でお茶を飲みながら相談させて頂く機会も多い。
本当に親身になって下さっていると感じる。
そんな中、お話の最中に出た話題で思わず聞き返してしまったのだ。
「ダウンノーク伯と言うよりベルゲン・ゼノーティア公爵を含む貴族派全体と言ったほうがよろしいですわね。ゼノーティア公の指示というより下の者たちが自主的に動いているのでしょうから」
「し、しかし、まさか大貴族が闇奴隷など……」
「確定ではありませんわよ? ただメルセドウ貴族全体を巻き込む動きとなった場合、アイスエッジ侯爵家にも累が及ぶことになりますからこうして事前にお話しているわけですわ」
ゼノーティア公爵家と言えばロージット公爵家と肩を並べる大貴族。貴族派の筆頭だ。
ロージットの領地が国の東端にある分、中央に近いゼノーティアのほうが力を持っていると説く貴族もいる。共に陛下を支える両翼には違いないのだが。
とは言え陛下からすればゼノーティア公は扱いに困る厄介な存在だろう。
王を頂点に置きつつ貴族主体の国運営をすべきと説いてはいるが、その実は自分に権力を集め、自らが玉座に座りたいのだという明確な野心が見えるのだから。
排除したくても国の歴史や貴族派の繋がりが邪魔をする。
アデル様曰く、そのゼノーティア公がエルフの闇奴隷を所有している可能性があるという。
まだ所有していないのかもしれないし、すでに大量に所持しているかもしれないと。
もしそれが真実だとするならば明らかな罪であるし、メルセドウ貴族として汚点どころの騒ぎではない。
大貴族の立場ならばもみ消せるものなのか……いや陛下が直に動けばいかにゼノーティア公と言えどもただでは済むまい。
公爵家の取り潰しは無理だろうが、少なくともベルゲン・ゼノーティア公は爵位を失い継爵することになるだろう。
下手すればゼノーティア家自体の降格もありうる。
そうなった場合、メルセドウ貴族はアデル様の御実家であるロージット公爵家の一強となるだろう。陛下としてもそれが望ましい形のはず。
恩恵を受けるのは当然ロージット派――王国派の貴族となるだろうし、その中に身を置く我がアイスエッジ侯爵家も同じだ。
アデル様が私にこれを伝えたということは「そうなった場合に備えて先んじて動いておけよ」という忠告に他ならない。
他の王国派貴族より先に動けば、ロージット公の覚えめでたくアイスエッジ家の利となるからだ。
アデル様は私の心配だけでなく、私の家のことまで気遣って下さっている。
「この件、シンフォニア伯は……」
「お伝えしていませんわ。わたくしが飴を与えるわけもないですし、シンフォニア伯ならばすでに情報を掴んでいるかもしれませんしね」
「知っていながら動かないということはありえるのですか?」
「ありえますわよ。泳がせた上でどう転んでも甘い蜜を啜るというのがお得意ですから」
【節制の塔】のアズーリオ・シンフォニア伯。中立派の頂点に近い人物だ。
これが王国派、貴族派、どちらにつくかは今後のメルセドウに大いに関わる問題だろう。
アデル様の印象はどうやら相当悪いらしい。しかしその言葉の中には警戒や称賛も見え隠れする。″貴族″として優秀なのは間違いないのだろう。
私が塔主となって、シンフォニア伯からは何回か手紙が届いている。
プレオープンの成績に関する祝辞であったり、他愛ない内容ではあるのだが。
同盟の誘いも一回だけあった。立場上、一度は誘ってみたという感じだろう。
私としてはそれら全てに当たり障りない対応のみをしている。アデル様のように相談したり直接お会いしたということはない。
もし今回の件を受けて貴族派が大打撃を受けるのであれば中立派はどう動くのか。
大人しく王国派の下につくのか、″第二の貴族派″となるべく動くのか。
それによって私からシンフォニア伯への対応も変わる。
私としては貴族であることをとうの昔に捨てたはずだが、塔主となってからのほうが貴族というしがらみを感じてしまう。
アデル様の仰るとおり塔主でありながら貴族でいることなど不可能なはずなのにな。全くままならないものだ。
「調べての結果次第ですが、仮にゼノーティア公が″白″でもダウンノーク伯が動いているならばそれは″黒″。メルセドウから離れたバベリオの地だとしても許されません」
「仕掛けるのですか? Aランクの【魔術師の塔】に」
「メルセドウの法では裁けませんからね。わたくしがやるしかないでしょう」
仮に貴族派が打撃を受ける展開となった場合、ダウンノーク伯爵家にも被害は出るはずだ。
しかし家がどうにかなろうとも【魔術師の塔】の価値は変わらない。
塔主を裁くのは塔主と侵入者のみ。
とは言え【魔術師の塔】クラスになれば侵入者の攻略などほぼ不可能だろう。それは私がよく分かっている。
だからと言ってアデル様に斃せる塔かと言われると首を傾げる。失礼ながら。
確かに同じAランクの【傲慢の塔】同盟を打ち倒したのは記憶に新しいが、そもそも【魔術師の塔】が【傲慢の塔】よりランキング上位であるし、彼の同盟にはBランクの【青の塔】がいる。
Cランクの【宝石の塔】は考えなくてもいいかもしれないが、【青の塔】に関しては別だ。
大富豪な上に
「ですので目下の目標は【魔術師】同盟、そして【霧雨】同盟の撃破ですわね」
「【霧雨】も繋がっているのですか!?」
「まだ分かりません。繋がっているのか、繋がりたいのか。しかし【霧雨】のザリィドがダウンノーク伯かゼノーティア公に近づく目的でエルフを狙っているのは確かなようですわね」
Bランクの【霧雨の塔】もまたAランクに近いBランクとして名を馳せていた。
それでさらに上に行こうと【魔術師】に近づくのか……。
バベルの中はある意味で貴族社会より禍々しい。
冒険者としてただ挑戦していた時には全く見えなかったバベルの内部は、まるで深淵の闇の中のようだ。
「【霧雨】はメルセドウとは無関係だと思いますがエルフを狙っているのであれば、【
「人種差別反対を謳っているからですね」
「ええ。ですのでこちらは塔主として敵対せざるを得ませんわね」
メルセドウ貴族として敵対すべきは貴族派。
塔主として敵対すべきは差別者。
アデル様はどちらとしても対応するおつもりなのだろう。
結局はどちらもバベルの中に集約されるのだろうがな。
「実家に連絡すること以外で何か私にお手伝いできることはありますでしょうか」
「お気持ちと心構えだけで……ああ、そうですわね、【霧雨】の同盟に
「……私はFランクとしか
「ええ。ですのでわたくし達が申請しても受理して下さらないでしょう? ですがシルビアさんからであれば受けてくれそうじゃありませんこと?」
いやぁ……まだ新参の私にそれはちょっとキツイのでは……。
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