15:私の【女帝の塔】が一応完成しました!



『そんでな! 会話できる魔物おらんかなーって探しとってん! そしたらどれも高いんよ! 一番安くて土妖精ノームやで!? いやまぁほんまに喋れるか召喚してみんと分からんけども300TPとか無理やん! ウチ新人やで!? 5,000TPでどないせいっちゅーねん!』


「は、はぁ」


『そんでな! 仕方ないから今はそばにソリッドヘッジホッグ置いてんねん! チュウチュウしか言わんけどな! ウチの話相手になってくれてんねん! ほんまかわいいで! そっちで召喚できるならオススメやで! 弱いけどな! 弱くてもかわいいから!』


「え、えぇ」


『でもな! さすがに一月も人と話さんとかしんどいやん!? ひっさしぶりに人と会話できたのがシャルちゃんやで!? こんなんずっと続くのしんどいわ! 同盟受理してくれて助かったでほんま!』



 怒涛の攻撃、いえ、口撃……これを会話と言っていいのでしょうか。

 いつの間にかシャルちゃんと呼ばれてますし。いやそれはいいんですけど。


 とにかくドロシーさんは人恋しかったようで、今までの暮らしぶりから新塔主に内定され【無窮都市バベリオ】に来るまでの旅、そして塔での生活、その全てをずーーーっと語っていました。

 私はほぼ相づちだけです。


 これ、同盟結んで良かったんですかね? 少し不安になってきました。



「お嬢様、お茶をどうぞ」


「あ、ありがとうございます」



 色々と察してくれたのかエメリーさんが絶妙なタイミングでお茶を持って来てくれました。

 同時に目で語り掛けます。「大丈夫です」と。


 ……ドロシーさんが同盟相手で大丈夫、って事ですよね? 信頼できると?



『ええなー! シャルちゃんずっとエメリーさんと一緒やねんな! うらやましいわー』


「はい。私もエメリーさんがいてくれて助かっています」


『でも四本腕の種族がおるなんて知らなかったわ。どこの地方? もしくは異世界人なん?』


「わたくしは別の世界から呼ばれたのですよ。多肢族リームズという種族ですが向こうでは珍しいというほどでもなかったですね。他言無用でお願いしたいのですが」



 おや、私が教えていいかと悩んでいたらエメリーさんがご自分で話されました。

 やはりドロシーさんにはある程度話しても大丈夫という事のようです。さじ加減はエメリーさんにお任せしましょう。



『もちろん同盟相手の事は他人には言わんで! でもそうかーやっぱ異世界人やねんな! そっちの世界の技術とか聞きたいわ! ……って教えてもらって大丈夫なんかな?』


「言える範疇でしたら今度お教えしますよ。もっともこちらの世界の方が色々と発達していますのでドロシー様のご興味の湧くものがあるかどうかは分かりませんが」


『やったー! そんじゃ今日はアレやけど今度お茶でもしながら色々聞かせてもらうわ!』



 実際に会いましょうと。どこで会うんですかね? どっちかの塔ですか?

 それとも街に繰り出すとか……それは少し怖いですが。いずれは外に出ないといけませんかね。



『あの【正義の塔】のヤツが言うてたけどプレオープンの時、エメリーさん一人で戦ってたってホントなん? 階層とかなんも創ってないとか信じられへんけど』


「恥ずかしながら本当です。全部エメリーさん任せでした。だからDランクとか分不相応なんですよ」


『いやそれで撃破率一位やろ? 相応に強いって事やん。多肢族リームズって種族はそんな強いんやなぁ。異世界怖いわぁ』


「いえ、多肢族リームズは非戦闘系種族なのですよ。戦闘能力があるのは六腕四足くらいある族長クラスだけでして」


「『えっ』」



 そうなんですか!? 強い種族ってわけじゃないんですか!?

 四本腕を巧みに使って器用な攻撃してるのを見ていたのでてっきり強い種族なのだと思っていたのですが。



「わたくしはたまたま仕えていたご主人様に鍛えられまして、戦えるようになっただけです。それでも他の戦闘系種族の侍女たちに比べれば劣っている部分の方が多かったのです」


「えー……」


『いやシャルちゃんも信じてないやん。それでプレオープンで無双したんやろ? たまたま戦えるってレベルちゃうやん』



 確かにエメリーさんの倍、膂力のある侍女の方がいるとか、倍の速さで動く侍女の方がいるとかは聞きましたけど……それでもエメリーさんが劣っているとは思えないんですけど。

 まぁ私は戦闘の事なんて全く分からないので、エメリーさんの感覚の方が正しいのかもしれません。



「それにもうじきオープンですから、そうなればわたくしだけで戦うという事もなくなります。ゆくゆくは私以上に強い魔物を従えるべきでしょうが、今はどういった塔を創るか、どういった魔物を召喚し、どういった罠を置くかを考えていきませんと」


『せやな! ウチも階層増えたし考えんと! シャルちゃんとこなんてまだ真っさらなんやろ? 大丈夫なん?』



 おっ、さすがエメリーさん! ドロシーさんを上手い事誘導しました。

 私が同盟を結んだのも塔の構成や罠などについて相談したかったからです。もちろんお友達も欲しかったのですが。

 ドロシーさんに色々聞いておかないと!



「色々考えていますけどドロシーさんにも相談したかったんですよ。罠とか得意ってお聞きしましたし、塔の構成についても」


『任せとき! 同盟は持ちつ持たれつ! かわいいシャルちゃんの頼みなら尚更や! 何でも聞いてくれてええで!』





 それからドロシーさんとは毎日通信して色々と話しました。


 ドロシーさんの【忍耐の塔】もEランクに上がり全三階層から全五階層へ。広さも天井高も多少大きくなりました。

 そこら辺を創ったり調整しつつ、こちらにも相談したりといった感じでオープンを迎えようとしています。


 私の方がドロシーさんにお聞きしたい部分は多いのですが、通信はもっぱらドロシーさんから入ってきます。

 やっぱり人と喋るのが好きなようで、用事もないのに通信してくる事が多い。私は助かっていますが。



『罠っちゅーてもただ置いただけじゃあかんで。大抵の新塔主は通路の通り道だとか、死角になってる曲がり角とか、部屋入ってすぐとか、宝箱の手前とかに置くと思うけど、そんなん素人丸出しやから。探索になれた侵入者は絶対引っ掛からんて』


「私はそういう所に置くものだと思ってました……」


『罠はいかに意表を突けるかってトコが重要やから。魔物と戦った直後に疲れて壁に手を当てたら発動するとか、強い魔物に追いかけられて逃げ込んだ先とか、罠を回避した所でまた罠とか』


「うわぁ……」



 とっても勉強になります。

 なんでそんなに詳しいのかと聞けば、ドワーフの方というのは戦い方が偏っているらしく


 ①パワー系の前衛 ②土魔法使い ③道具を駆使して戦うタイプ


 と大きく三つに分かれるそうです。


 狩りでも罠を使う事が多いので、そういった集落の中で生活していれば自然と覚えるものだとドロシーさんは言います。


 ドロシーさんは本格的な戦闘職というわけではないそうですが、それでも狩りの経験はあると。

 ちなみに十~十二歳くらいに見えて、二三歳だそうです。ドワーフ恐るべし。



「エメリーさん、自分が探索するとしたら、やっぱりそういった罠の方が危険ですか?」


「そうですね。ドロシー様のおっしゃる事は正しいかと」


『せやろ!』


「ですがわたくしの場合<罠察知>と<危険察知>で分かってしまいますので」


『うそん! 前衛物理職って言うてたやん! なんで斥候スキル持っとんねん!』



 あはは……まぁエメリーさんですから、と言ってしまえばそれまでです。ドロシーさんにはそこまで明かしてないですけどスキルの多さが異常すぎますからね。


 普通の人でも二~三個。多い人でも十個もないと思います。

 それが何十個もあるんですよ? 異世界の侍女さんというのは本当に恐ろしいです。



「そういったスキル持ちに対応できる罠などはないのですか?」


『使い方次第やな。例えば罠を発動するスイッチ……を押す為のスイッチを離して創っておく。そうすれば<罠察知>も<危険察知>も意味ないやろ。TPは余計にかかると思うけど』


「おお! さすがです、ドロシーさん!」


『まあな! これでも七美徳ヴァーチュに選ばれたドワーフ塔主やし! これしき当然や!』



 非常に扱いやすくなってます。エメリーさんが「ドロシーさんは大丈夫」というのも分かる気がしますね。


 ドロシーさんとは直接会ってお話する機会が欲しいと、これは私もドロシーさんも思っています。

 ですが今はオープンまで時間がありません。

 オープンして少し落ち着いたらどこかでお茶なりご飯なりしましょうと計画しています。

 バベルの外に出るのはちょっと怖いので、どちらかの塔ですかね?


 あ、そうそう、ドロシーさんが「お隣さん」と言っていたのは、どうやらバベル側の転移門が隣同士だったという事のようです。

 私は入る時に隣まで確認しませんでしたし、入ってから一度も出ていないので分かりませんでした。


 ドロシーさんは一度出たらしいです。バベルからは出ずにぐるっと周りを確認しただけのようですが。で、隣が【女帝の塔】だと分かっていたと。


 バベルの一~三階くらいは新塔主100人の塔への転移門が並んでいたそうです。

 で、ランクが上がれば上の階に行けると。


 今ですと【忍耐の塔】はEランクですから七階だそうで、Dランクになった【女帝の塔】は確認したところ十階になっていました。


 いつの間に移動されていたのかも分かりません。

 とにかく、ドロシーさんと会うにしても『お隣さん』ではなくなってしまったので、少なからず移動しないとダメですね。





「よし! これで一応完成ですかね!」


「お疲れさまです、お嬢様お茶をどうぞ」



 オープン前日、やっと私の【女帝の塔】が完成しました。



=====

・七階層:【城設備】謁見の間+居住エリア

・六階層:【城内】大通路+中部屋いくつか

・五階層:【城設備】ダンスホール+小部屋いくつか

・四階層:【城内】小通路と小部屋の迷路

・三階層:【城設備】牢獄

・二階層:【城設備】エントランス+小部屋いくつか

・一階層:【街】城門前広場

=====



 まだ魔物や罠が不十分だとは思いますが、形だけは整えた感じです。

 細かい部分――装飾や家具、レイアウトなど――も機を見て少しずつ手を入れていくつもりです。

 とりあえず大まかな部分は終わったので、これでオープンに臨もうと思います。



「大丈夫ですかね、これで……」


「やってみない事には分かりませんが、最悪でも七階でわたくしが迎え討ちますのでご安心を」



 ほんと頼りになります。エメリーさん最強すぎます。すいませんがその時はお願いします。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る