14:塔も創りたいけど友人も欲しいのです
「同盟を結ぶにしても最小限に抑えるべきだとわたくしは思います」
「私もそう思いますが、エメリーさんのお考えは」
「塔主と塔主という関係はやはり対立するもの、というのがこれまでのわたくしの印象です」
バベルは命の奪い合いばかり。それは塔主と侵入者もそうですが、塔主同士でも命を奪い合うのが日常とも言えます。
神は
報酬以外でも、ライバルの塔が消えれば自分の塔にお客さん(侵入者)が増える事になり、結果TPが増えます。
それによって塔はまた成長する。
同時に
だから塔主と塔主は根本的な部分で相容れない。それがバベルの中では″普通″なのだとエメリーさんは言います。
私も同じようなものですが、仮に五名、十名の同盟に入ったとして、その中で本当に信用できるのは何名いるのか、と考えてしまいます。人間不信とまではいかないと思いますが、その気があると。
一方でエメリーさん以外にも話せる人が欲しい、同じ塔主の友人が欲しいとも思います。
「私も同盟を結ぶのであれば、最初は二人とか三人とかの小規模のものがいいと思います」
「
同盟を結ぶのであれば最初からある程度信用できそうな人。
裏表のなさそうな人がいいですよね。
「事前に申請してきた中でも高ランクの方々は問題外。おそらく情報戦における強者でしょう。いいように利用されるのが目に見えています」
「はい」
「となれば同期の方々から探す事になりますが……わたくしは助けを求める者、救いを願う者は弾くべきだと思います」
プレオープンで″死″を味わった新塔主の方々。想像でしかありませんが、それはとても辛い経験だったはずです。
力もお金も知識もない。頼れる人もいない。死にたくても自殺できない。
そんな人たちが「助けてくれ」と同盟申請を送って来た。
これを却下するのは心が痛いですし、罪悪感があります。
ラスターさんを斃して何を今さらと言われるかもしれませんが……いえ、【女帝】ならば冷徹に判断しなければいけないのですよね。
「彼らは生きる為ならば情報を売るくらいやってもおかしくありません。仮にお嬢様と同盟を結び、こちらの情報を得たところで、高ランクの塔主が接触し脅されて情報を流す、というのは十分にありえます」
確かに。同盟を結ばなくても塔主同士が接触しようと思えばいくらでも機会はあるでしょう。
同盟申請のようにお手紙を送るだけなら誰でもできるのですし。通信してお喋りとなると同盟が必要らしいですが。
最悪、相手の塔に直接使者を送り込んでもいいのです。
「ならば同期の塔主の方で、ある程度実力を持っている方……こちらの手助けを必要とせずに純粋に同盟を結びたいと思っている方がいいでしょうか」
「はい、わたくしはそう思います。お嬢様は心優しいのでお辛いとは思いますが」
エメリーさんは私の為にわざわざ言って下さっているのだと分かります。
侍女だからこそ主に忠言すると。その気持ちは伝わります。
言われるまでもなく自分で決断できる【女帝】にならなければいけないのでしょうけどね……。
「いえ大丈夫です。そうなると……あ、いっその事【赤の塔】のアデルさんはどうですか? 同期で一番優秀な塔主でしょうし。申請が来ているわけじゃないですけど私の方から申請するとか」
「確かに同盟を結べればいいとは思いますが……総会で見た限り、貴族然としすぎていましたからね。何でも話せる、何でも相談できる関係性というのは難しいのではないでしょうか」
あー、確かアデルさんはメルセドウ王国の公爵家の方でしたね。高位貴族らしい方でした。
そうなると平民の街娘である私には荷が重いです。仲良くなんかできるとは思えません。
「じゃあ申請が来ている中で探すと…………あ、この方はどうです?」
「どれどれ」
=====
こんちわー! ウチはドロシーって言います! はじめまして!
シャルロットちゃんと同盟結びたいなー思うて申請してみました!
これでちゃんと申請できてるのか分からんけど、もしちゃんとできてなかったらゴメンな!
知らせてくれたら助かるわ!
と言うか、塔がお隣さんやから直接遊び来てくれてもいいんやで!
いやまぁ同盟っちゅーかホンマはお喋りできるお友達が欲しいんやけど、同盟になったら塔にいたまま
そんで誰かおらんかなーって総会で探しててん。
そしたらお隣さんの【女帝】がめっちゃかわいいやん!
こら仲良くなるしかないわってすぐに思ったわ!
おまけにDランクとか力もあるみたいやし……ってなんでDランクなんかなれんねん! 【赤の塔】は例外やからいいけどもやな、どんな手使えば撃破率一位とかとれんねん!
ウチかて塔の構成には自信あったんやで? 配置とかめっちゃ考えたし! あ、ウチはドワーフやから罠とか得意なんよ! 同盟になったら色々教えたるわ!
ってまた脱線したな。ともかくウチとお喋り相手になってくれんかなーと思ってます!
これから【正義の塔】とバトんねやろ? まー勝つやろ。あんなしょーもない男、ウチだって勝てるわ。
それを見越して申請しとるんやけど応援しとるでーというのも一応言っておくわ。まー勝つやろけど。
んじゃそういうわけで良かったら申請受理してや!
なんなら同盟じゃなくてウチの塔に遊びに来てもええからな!
【忍耐の塔】塔主 ドロシー
=====
「合格です」
「はやっ!」
どうやらエメリーさんのお眼鏡に適ったらしいです。
【忍耐の塔】って
多分、プレオープンの成績は呼ばれた順じゃないかと。
一位【赤の塔】 、二位【女帝の塔】、三位【忍耐の塔】
四位【輝翼の塔】、五位【正義の塔】、六位【鬼面の塔】
七位【毒針の塔】、八位【水艶の塔】、九位【墳墓の塔】
だと思います。
私はエメリーさんの力で二位になっただけですから、【忍耐の塔】の三位というのは本当にすごい。
同盟を結べるならありがたいとも思います。
「まず裏表がなさそうに思える文章というのがいいですね。実際に会ってみないと分からない部分もあるとは思いますが、これを読む限り好印象です」
「はい」
「それとドワーフ……確か物作りが得意な種族だったと思いますが、そういう人材は貴重です。罠が得意というのもいいですね。これから塔を創っていくにあたりアドバイスが貰えるのではないでしょうか」
「ですね」
ドワーフは背が低くて耳が垂れている長寿種族です。男性はひげもじゃで、女性はチリチリ頭の少女に見えます。
確かドロシーさんも総会の画面で見た時、そんな感じだったかと。
赤茶色のボリュームのある髪をむりやり纏めている少女の印象です。
ドワーフやエルフは人間に比べて非常に数が少なく、国によっては『亜人』と差別される事もあります。
獣人も同様ですが獣人国にまとまって暮らしているので数はそこまで少なくないですね。いずれにせよ人間が圧倒的に多いのですが。
私の住んでいた街では人間以外見た事ないですし、他種族を見たのも【無窮都市バベリオ】に来て初めてです。
私は差別や偏見を持ってないですし、そういった人たちと仲良くなれれば嬉しいな、とは思っています。
「何よりお嬢様をかわいいと褒めていらっしゃるのが一番ポイントが高いですね」
「そこですか!?」
「当然です。主人を褒められて喜ばない侍女などおりません」
どうやらそういうものらしいです。私には未だに侍女の何たるかが分かりません。
とにかくまずはドロシーさんと同盟を結びましょう。
それで上手くいきそうなら同盟の人数を増やすか、ドロシーさんと相談する感じですかね。
では同盟申請を受理……と。
『待ってたで!』
はやっ!
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