17:女帝の塔、オープンしました!



■サリード 21歳

■Dランク冒険者 パーティー【旋風六花】所属



 バベリオの冒険者ギルドに依頼票が次々に貼られる。

 やっぱり新塔主の塔が一斉にオープンだからな。しかも一気に100塔もだ。

 若手のパーティーは我先にと依頼票に群がった。


 ……いや、99塔になったんだっけか? 確か二十神秘アルカナである【正義の塔】が消えたはずだ。同じ二十神秘アルカナの【女帝の塔】に負けて。



 俺のパーティーはDランクだから、本来なら群がる必要はない。

 だって新塔主のランクはほとんどがF。ごく僅かにEがあるって程度だからな。例年そんな感じだ。


 しかし今年は違った。Dランクが二つも出たらしい。

 であれば俺たちも入れる。新塔主の情報は誰もが欲しているから報酬も割高だ。

 そんなわけで俺たちも依頼票に飛びついた。



「【女帝の塔】の調査依頼ですか……。【赤の塔】よりマシだとは思いますが危険性が高いですよ? 既存のDランク塔の方がまだ安全だと思います。皆さんがDランクでも上位であるとは私も思っていますが」



 受付嬢はそう言う。

 俺からすれば既存――第499期以前の塔――のDランクより、塔管理のノウハウもない新塔主の塔の方が攻略はしやすいと思うのだが、受付嬢の印象は違うらしい。



「新塔主でDランクになるというのは異例です。それこそ英雄ジータを擁する【赤の塔】のように特別な何かが必要なのでしょう。プレオープンでも【女帝の塔】に挑んで亡くなったFランク冒険者も多いですし、最近でも【正義の塔】を破ったばかり。強い塔なのは確定していて、尚且つ不確定要素が多いという印象です」



 なるほど、とも思ったが依頼を受けないという選択肢もなし。

 くれぐれも安全に、引き際を弁えて、そんな忠告を受けつつギルドを後にした。



 同じように【女帝の塔】を調べる依頼はいくつもあった。それを受ける全員に同様の忠告をしているんだろう。

 依頼人は高ランク冒険者だったり、どこぞの国の関係者だったり、塔主が堂々とギルドに依頼している場合もある。

 敵である冒険者ギルドに依頼するっていうのは高ランクの塔主にありがちだ。余裕を見せているのかどうか知らないが。


 内容はどれも似たようなものだが調べたものによって報酬は少し異なる。

 何階層まで調べたらいくらとか、マップを描いて提出したらいくらとか、神定英雄サンクリオの情報にいくらとか。

 まぁ出来高払いの分はあまり考えないようにしよう。行ってみないと分からないし。



 ちなみに俺たちがとった依頼票だと依頼人はAランクパーティー【氷槍群刃】だ。超有力パーティーだな。

 ちゃんと報告できれば【氷槍群刃】にも覚えめでたくお近づきになれるかもしれない。

 浮足立つ気持ちを抑えながら、俺たちはバベルへと入った。



 中央の案内板を見ると……【女帝の塔】十階かよ! 新塔主で十階とかあるのか!


 バベルの何階に転移門があるかってのも、その塔の強さを図る一因だ。冒険者なら常識。

 確かにDランクの塔なら十~十二階にありがちなんだが、十階でオープンっていうのは初めて見る。


 ともかく転移魔法陣で十階に上がり、俺たちは【女帝の塔】へと向かった。

 転移門に着けば、すでに俺たち以外の挑戦者が入っている様子。

 別の依頼票を受けたか、依頼を受けずに入っているか、それとも『冒険者でないDランク挑戦者』か。騎士とか傭兵とかな。

 そんな連中に続いて俺たちも入る。



「おー、これが新塔主の塔とは驚きだな」

「さすが【女帝】って感じだ。コンセプトがはっきりしている」

「こりゃ嘗めてかからねえ方がいいな。気合い入れるわ」



 パーティーメンバーも一目見ただけで警戒し始めた。

 第一階層は【帝都】って感じだろうか。真っすぐ正面の外壁には城の絵が描かれている。横の方の外壁はそのままだが。


 城へと続く大通り、これは途中で塞がれているな。

 大通りの両脇には家や店が並び、その路地や枝道を通って城を目指すのだろう。


 つまりは街を模した迷路だ。


 Dランクの階層は直径700m。そこに街を創っているのだからかなり詰め込んだ感じだ。これは探索しづらい。

 人気ひとけのない街なのに挑戦者で賑わっているように見える。


 新塔主は屋外の構成を避ける場合が多いんだが、【女帝】は屋外の階層を創り、それを迷路に昇華した。

 これだけでも警戒するには十分だ。それだけの頭とTPを持っているって事だからな。



 とは言え、『街』を利用している分、迷路は複雑というわけでもないし、先んじて探索している連中がいるから後に続けばある程度は安全・確実に探索できる。


 出てくる魔物も今のところウッドソルジャーだけ。木の兵士だ。

 ゴブリンに比べて攻撃・防御は高いが、敏捷は低い。獰猛さもない。Eランクでも確実に勝てる相手だ。


 しかし――



「配置が嫌らしいな。集団で奇襲するのが基本って感じだ」

「妙に規律正しいしな。まぁ兵士だからと言われればそれまでだがゴブリンとは勝手が違いすぎる」

「この調子で来られたら他のDランクでもやられるかもしれねえぞ。油断するなよ」



 いくらウッドソルジャーが弱いと言っても群れで奇襲してきて、それが前衛一人を狙うようならノーダメージとはいかない。

 回復にも限りがあるし途中で撤退もありうる。

 木の剣で撲殺されるヤツだっているだろう。Dランクって言ってもピンキリだからな。



「こっちの脇道は……荷台車で塞がれてるな。通れねえ」

「路地が多すぎるんだよな。街だから仕方ないけど……って、うわあっ! あぶねえ!」

「罠か!? また嫌らしい所に仕掛けやがって……」

「街の景観がごちゃごちゃしてるから余計に罠のスイッチを見逃しそうだ。気を付けないと」

「ああ、これはもう『オープンした新塔主の塔』とは見ない方がいい。マジで危険だ」



 これが新塔主の塔とは末恐ろしい。せめて今のうちに出来る限り探っておきたいものだ。





■シャルロット 15歳

■第500期 【女帝の塔】塔主



「……意外と順調ですね」


「ええ、今の所問題ないかと」


「シャルロット様の努力とエメリーさんの指導の賜物でしょう」



 ヴィクトリアさんはそう言ってくれますが、私はドロシーさんを含めて皆さんを頼ってるだけですからね。

 これを努力と言ってよいのか微妙です。


 侵入者の方々の様子を見ると、まず入って来て驚く人が多数。これは正面の外壁に描かれたお城を見てでしょう。


 一階層のテーマが城下街というか王都というか帝都というかそんな感じだったので、二階層のお城エリアに続く事を意識した階層にしたかったのです。


 TPを使って外壁に絵を描く事も考えましたが、エメリーさんが「わたくしが描きましょうか」と一言。何気に<絵画>スキル持ちでした。何でも持ってますねエメリーさん。


 ペンキはTPで出しましたが、おかげでTPの消費が少なくて済みました。

 今後、正面だけでなく一周ぐるっと描きたいそうです。その方が見栄えがいいからと。全面的にお任せします。



「ウッドソルジャーはやられちゃってますけど、TP的には十分黒字ですし」


「何人か斃せたのは運が良かったですね。基本的にはダメージを与えてTP獲得を狙う方針です」


「私の<統率>よりエメリーさんの指導の方が身になっているのが不思議ですわ……あれでも魔物ですのに」



 なぜかエメリーさんの指示にはキビキビ従うんですよね。どの魔物も。

 蜘蛛系ならヴィクトリアさんの<統率>の方が上だと思いますが。


 エメリーさんが侵入者側だったら嫌なパターンというのをお聞きして、ウッドソルジャーには集団での奇襲をさせています。

 多方向から同時に一人を攻めると。これならば少なからずダメージが入ります。


 ただ最初だから通用している部分もあって、情報が広まればどこで奇襲をかけてくるかバレるでしょう。そうなればダメージを与えられず斃されるのみなので赤字もありえます。

 うーん、毎日微妙に配置を変えますかね。



 いずれにせよオープンして今後は、構成変更や配置変更ができるのも営業時間外だけ。

 侵入者が入れる二の鐘から五の鐘の間はそういった変更ができません。休塔日にすれば別ですけど。

 今夜、配置変えをするか、また相談しましょう。



「罠でも結構TPを得られていますね」


「罠は屋内に多いという頭があるそうですからね。屋外でしかも街並みに紛れると分かりづらいみたいです」


「これはドロシー様のお手柄でしょう」



 本当にドロシーさんには助けられています。

 罠の知識を教えてもらう代わりにエメリーさんからアドバイスもしていますけどね。侵入者目線で。探索しづらい構成はこんな感じだと。


 それにマジックバッグに異常な食いつきを見せていましたが、あれはこの世界でできるものではないようですし、何よりエメリーさんが作ったわけではないので技術などは教えられないそうです。

 でもそういった異世界の知識について聞くのもドロシーさんにとっては貴重らしく、その代わりに罠の知識を、と言っていました。


 私は一方的に得をしているだけです。すみません。エメリーさん任せですみません。



『順調そうで何よりやわ! 三階層あたりから罠が本格化するんやろ? 早くその報告が聞きたいわー』



 ……いや、ドロシーさん、何通信してるんですか。そっちもオープン日ですよね?


 ご自分の塔に集中しておいた方がいいと思うんですけど……。



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