18:オープン直後の反応、あっちとこっち



■シルビア・アイスエッジ 21歳

■Aランク挑戦者 パーティー【氷槍群刃】所属



 ギルドを通して依頼していた報告書に目を通す。

 受けたのは……【旋風六花】というパーティーか。知らないな。

 受付嬢が言うにはDランクの中でもまともな部類だと言う。

 それでこれしか集まらないとは……まぁ皆まで言うまい。


 Aランク冒険者である私たちがこれからランクを伸ばしてきそうな新塔主の塔へと調査依頼をする。それはよくある事だ。

 なにせ自分で調べたくても低ランクの塔には入れないからな。Dランクの塔であればDかEランクしか入れん。



 しかし今回の依頼はそれを隠れ蓑にした別口だ。


 実際に依頼したのは【赤の塔】塔主、アデル・ロージット様。


 正確にはロージット公爵家から私の実家であるアイスエッジ侯爵家経由で来た。私はただの窓口だ。

 アイスエッジ侯爵家はロージット公爵家派閥でもあるし、私としても嫁にも出ずに冒険者をしているという実家に対する負い目もある。そういったものを考慮して受けた依頼だ。



 アデル様は私の四歳年下にあたるが、その神童ぶりは幼い頃から国に轟いていた。

 学問・武芸も優れているが特に火魔法に関しては将来的に宮廷魔導士長となるのも確実だと言われるほど。

 私も剣と水魔法に秀でていたのでこうしてAランクにまで上がれたわけだが、才ではアデル様の足元にも及ばないだろう。


 塔主に選ばれ、【赤の塔】に選ばれ、英雄ジータに選ばれる。

 私からすれば「アデル様ならば当然」と思えるものだった。



 そんなアデル様がわざわざ調査を依頼する同期の塔主――【女帝の塔】シャルロット。

 高ランクの塔を調査するならば分かるが、同期の、それも年下の平民の少女が治める塔など歯牙にもかけないのでは、と。


 危険視するのであれば塔主戦争バトルを仕掛ければいい。

 何かしらの理由を作って戦う事を了承させればいいのだ。英雄ジータもいて負けるはずがないだろう。



 とは言え【女帝の塔】が不可解なのも事実。噂を聞けば聞くほど怪しい存在に思える。


 ただの少女が二十神秘アルカナに選ばれたのみならず、神定英雄サンクリオの四本腕メイドを手に入れた。

 プレオープンでは塔の構成を一切創らず、魔物を一体も召喚せず、メイドに戦わせるだけで数百人を殺した。


 それをもって新塔主としては異例のオープンからDランクに昇格。アデル様と同列の扱いとなる。



 こんな事がありえるのか? 考え、手法、実績、全てが理解できん。アデル様とは別方向の異端さを感じる。

 そういったわけで最終的にはアデル様の元へいく情報ではあるが私としてもその内容に興味があったのだ。



 【旋風六花】は計三日間で二階層まで行ったらしい。

 ただ他の挑戦者への聞き込みも行ったらしく、情報としては三階層まで入手している。

 もちろん詳細なものではなく、調査としては大雑把なものだが。



=====


 【一階層:帝都(仮)】

 出現魔物:ウッドソルジャー、ウッドナイト、アーマービー


 城へと続く街並みを模した迷路。景観を活かした造りで狭いながらも迷いやすい。

 魔物は基本的に複数による奇襲。タイミング、狙い、潜伏場所、共に秀逸。

 特定の家に罠のようにアーマービーが密集している。窓が開いている家は危険。

 罠も発見しづらく的確な配置をしている。魔物以上に危険性が高い。


 二階層への階段手前は城前広場となっておりウッドナイト数体に率いられたウッドソルジャー計三〇体が隊列を成している。

 通常のDランクパーティー一組で挑むのは非常に危険。最悪全滅する。



 【二階層:エントランス(仮)】

 出現魔物:ウッドソルジャー、ウッドナイト、ピクシー、ラミア


 最初は広々としたエントランス。天井のシャンデリアや豪華な柱の影からピクシーが魔法を放ってくる。

 あまりエントランスに留まり続けると脇の通路からウッドソルジャーとウッドナイトが警備兵のごとく駆けつけてくる。


 エントランスの左右に通路があり、左側の通路の先が三階層への階段だが、大扉で塞がれている。

 大扉を開けるには右側通路の先にある部屋でラミアを斃し、鍵となる『証』を入手する必要がある。



 【三階層:牢獄(仮)】

 出現魔物:人面蜘蛛、他不明


 牢獄を模した通路と小部屋の並んだ階層だが、全ての壁が『檻』なので先々がよく見える。

 だからといって順路が分かるというわけではない。(扉も壁も全て『檻』なので)

 遠目で人面蜘蛛が群れているのを見て、探索を諦めたらしい。



 総評


 全体的に階層の構成が上手い。見せる事、コンセプトをはっきりさせる事、挑戦者を撃退する事が共立しているように思う。

 また罠の使い方は新人離れしており、魔物が異常に統率されているように感じた。

 既存のDランクの塔より攻略しにくいのは確実。


=====



 色々と思う所はある。

 一番の疑問は、これほどの塔を創れるのになぜプレオープンでは手をつけなかったのか、という点だ。


 いくら強かろうがメイド一人に戦わせるより、迷路を創るなり、魔物を並べるなりした方がいいに決まっている。

 なのに全く創らず、オープンの段階になって見事な塔を創ってみせた。


 創らなかったのか、創れなかったのか。

 仮にその時はTP不足で創れなかったとしたら原因は何だ。強い魔物か塔主用スキルか。

 いや、プレオープン前にそんな事をする馬鹿にこの塔は創れないだろう。



 悩ましい。アデル様に報告する前に私なりの見解も載せたいところだが……全く理解できん。

 もう少し情報を集めるか、現段階の報告として一度提出するか……全く悩ましいな。





■シャルロット 15歳

■第500期 【女帝の塔】塔主



「うわっ! なんやこのお風呂! 池か! こんなん王族もびっくりや! さっすが女帝様やで!」



 オープンして数日、話し合いと反省会などを兼ねてドロシーさんと会う事になりました。

 場所は私の塔。今日のところは塔内で済ませ、今度改めてバベルの外に出てみようと話しています。


 ドロシーさんとは実際にお会いするのが初めてなのですが、画面を通して散々会っていたのでそれほど感動する事もありません。普通に「ようこそいらっしゃい」という感じです。


 最初はお茶を飲みつつ話していたのですが、ついでに夕食も一緒に、ついでにお風呂に入ります? と今ここです。


 大きなお風呂は今では私もお気に入りで、外に出られない今は気分転換の意味でも大活躍です。

 エメリーさんは元々お風呂好きだったのですが、思いの外ヴィクトリアさんが気に入りまして、大きな身体を器用に湯舟に沈めています。でも下半身は自分では洗えないので私やエメリーさんがお手伝いしたりしています。


 ドロシーさんも気に入ってくれたようで何より。お風呂の中でふぅ~とリラックスしつつ話します。



「やっぱり毎日微妙に改良していかないとダメですよねー」


「せやなー。そっちはDランクの連中が来てたんやろうけど、こっちに来てたEランクもまともなのが多かったわ。Fランクの連中と全然ちゃうもん」



 ランクが上がれば強くなるのが当然ですが、それはレベルや装備に限った話ではなく、本当に重要なのは『経験』だとドロシーさんは言います。


 特に探索に慣れた人ほど、危険を判断する能力が高い。

 それは塔主からすれば一番厄介な部分じゃないかと。



「Fランクのヤツとか危険を感じても『ええい行ったれ!』ってなるやん? でも経験のある連中はこの先はマズイなー思うたらキッパリ撤退すんねん。んで対策練って再度挑戦。したら罠の場所とか魔物の奇襲とかバレとるやん? そんなんこっちが修正していかんとあっという間に攻略されてまうで」



 私も同じように感じました。リピーターが増えれば増えるほどに厳しくなる。

 そうでなくても撤退した人から情報は流れるでしょうし、初見で対策を持った人が来てもおかしくありません。



「ウチは防御力のある魔物と罠の併用がウリやけど、どっちも対策とられたら終わりや。なんかこう、パンチのある攻撃を探さんとあかんな」


「となると強い魔物を主軸にする感じですかね」


「そんなTPあるかい! シャルちゃんみたいに富豪とちゃうねんで! なんや、いつの間にアラクネクイーンとか召喚しとるし! 普通のアラクネかて300TP掛かんねんで!?」


「えっ、こっちだとアラクネは200TPでしたけど……」


「なんやそれ! 贔屓やん! 七美徳ヴァーチュより二十神秘アルカナのが安いってどういう事や!」



 いやーそう言われましても、アラクネに限っては【女帝】の方が安いっていう事なんでしょう。

 間違いなく最高位がクイーンとなっているからってだけでしょうけどね。


 むしろ防御力がさほど高くないアラクネが召喚できる事に驚きですよ。

 逆に【女帝】で召喚できなくて【忍耐】で召喚できる魔物なんていっぱいいそうですし。

 こっちは安くて使いやすい魔物の種類が少なくて苦労してるんですよね。レパートリーが欲しいなーと。



「分かった! 週に一回エメリーさん貸して! そうすれば万事解決や!」


「ダメです」



 それだけは絶対できません。

 というか同盟間で眷属や魔物のやりとりなんか出来ないんですけどね。


 例え冗談でもムリなものはムリです。エメリーさんがいなかったら私が死にますから。



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