第六章 女帝の塔は忙しなく戦います!

100:少しずつ強くなってきました!



■ガーネット 20歳

■Cランク冒険者 パーティー【紅陽千火】所属



 年が明け、そろそろ一月が経とうとしている。

 未だに冒険者の多くは新年パレードの余韻を残したままお目当ての塔へと挑んでいる。


 パレードの印象で攻める塔を変えるなどよくあることだ。


『あの魔物を眷属としているならば自分たちは戦いやすいのではないか』

『今まで攻め続けていたがこんな眷属がいるのでは厳しいのではないか』


 そんな変化が見られるのも新年ならではだろう。



『あの塔の人気ぶりは凄まじい。攻略はできずとも階層突破の一つでもすれば名声が手に入るに違いない。乗るしかないこのビッグウェーブに』


 そう考える者もまた多い。

 民衆の反応が良かった塔は″価値の高い塔″なのだ。それを攻める基準に置くのは極めて正しい。



 そんな人気を多く占めているのは言うまでもなく【彩糸の組紐ブライトブレイド】という新塔主五塔同盟。

 今さら説明するまでもない。


 元々大注目されていた塔がパレードのお披露目でその人気ぶりを民衆に見せつけ、さらに【世界】のレイチェルと談笑していたという不可解極まりない噂がすぐさま広まったことで人気は最高潮に達している、というところだ。



 私たちのパーティーはどうかと言うと、そんな流れになる前から【赤の塔】に挑戦している。

 当初は【女帝の塔】を狙ったのだが……嫌な思い出だ。もうあの塔に入ることはないだろう。

 あの【死神】がいると思うと一階層すら躊躇われる。


 話を戻すが、その五塔は挑戦者が増えたことを受けてか、微妙に塔構成を変えてきているらしい。そういう話は調べずとも勝手に耳に入る。

 大々的な改装というわけではないが、魔物が変わっていたりと総じて難易度が上がっている印象なのだとか。



 【赤の塔】に関して言えば、一階層ではマーダーモスやアサシンスパイダーといった小柄で厄介な魔物が増えた。

 二階層はレッドリザードマンに混ざってファイアウィスプがいたし、三階層はただでさえ難易度の高い渓谷だと言うのにヘルハウンドが闊歩している。


 魔物の種類が単純に増え、より直接的に殺そうとしてきていると感じた。

 ただ全体的に水魔法に弱いのは変わらないのでそこは助かっている。渓谷のインプ部隊以外は。

 ちなみに四階層は我々は未到達だが『赤砂の砂丘』という難所らしい。



 【世沸者の塔】は新年早々に改装があったらしい。なんでも謎を解き明かすと財宝が手に入るとか。

 それに目がくらんだ若者は多い。Fランクらしいと言えばらしいのだが。


 パレードでもフェアリードラゴンを眷属にしていたという情報があったな。

 スライムばかりの塔ではなくなった、ということなのだろう。それもまた話題の一つだ。



 【忍耐の塔】もパレードでスフィンクスを連れていたことで話題になった。バベルに挑む冒険者くらいしか馴染みのない魔物だからな。目立って当然だ。


 塔の特徴としては罠が第一。魔物は防御力の高さと状態異常、という感じのはずだが、二階層の『湿地』と四階層の『沼地』にアラクネが現れたようだ。同時に蜘蛛系の魔物が増えたらしい。

 Dランクの中でもかなり危険性の高い塔ではあるが、それに磨きをかけている印象だ。



 【輝翼の塔】は同盟の中では一番目立たない塔だ。他の四塔に比べれば地味。

 じゃあ攻略は簡単なのかと言われれば決してそんなことはなく、むしろ【忍耐の塔】以上に探索は難しいという評価を受けている。


 鳥系の魔物を多用する塔が攻めづらいというのはバベルの常識なのだが、それを運用する塔側も鳥の扱いは難しいはずなのだ。

 しかし【輝翼】はそれを上手く使い、結果戦果を挙げている。

 目立った変化は見られないそうだが、それが逆に不気味だと言われていた。



 【女帝の塔】にも魔物の変化があったらしい。一階層にカンビオンが出たとか、二階層にサキュバスやリビングアーマーが出たとか、ギルドでも騒いでいる。


 元々の魔物がCランクにしては弱すぎたから騒ぎになるのだろうが、だからと言ってカンビオンやサキュバスが特別強い魔物かと言われるとそうでもない。

 Cランク相応か、むしろ若干弱いのではないかと。少なくとも【赤の塔】より貧弱なのは間違いない。


 じゃあ【女帝の塔】は弱い魔物ばかりなのかと聞かれれば誰もが口をそろえて否定するだろう。

 あのランクで、あの戦果で、強い魔物がいないはずがない。ならばその魔物は何か――【クイーン】しかいない。


 おそらくすでに二体のクイーンはいるはずだ。魔物の陣容を見るにサキュバスクイーンとラミアクイーンか。

 四階層にアラクネが出るらしいので下手すればアラクネクイーンも召喚しているかもしれん。


 その上あの【死神】メイドがいるのだ。

 これで弱いわけがない。


 おそらく弱い魔物を最初に配置して後半になればなるほど戦力が急激に上がっていくはず。

 安全そうな洞穴だったのに奥まで入れば猛獣の住処だったというわけだ。



 【風の塔】や【力の塔】といったBランクを打ち倒したのだから【女帝の塔】はBランク相当なのではないかという話も聞く。


 しかしそれに関して私は何とも言えない。

 確かにCランク上位の実力があるのだろうが――人気で言えば一番だろうが――あれは同盟戦ストルグだったから、と思わなくもない。


 それにCランクには強者と呼べる塔がまだまだある。例えば【強欲の塔】や【審判の塔】や――



「【紅陽千火】のみなさーん」


「ん? なんだ?」


「【女帝の塔】調査の依頼があるのですが――」



 すまん、勘弁してくれ。ちょっと野暮用で私たち【赤の塔】に行かないといけないから、うん。




■シャルロット 16歳

■第500期 Cランク【女帝の塔】塔主



「よっ! ほっ!」


「お嬢様、身体が流れています。重心を保つよう心掛けて動いて下さい」



 日課となっている訓練。

 戦いというよりは護身術のような感じで、杖での防御を中心に鍛えてもらっています。

 私の場合、攻撃手段が杖で殴ることくらいしかできないので、ならば防御だけでも頑張ろうと。


 ただレベルもある程度欲しいということで、召喚した魔物を斃すということもしています。ごめんなさい。

 ちなみに一階層から姿を消したウッドソルジャーは全て私の経験値となりました。ありがとう。

 今はウッドナイトやカンビオンを相手に組手しつつ斃すというところまでやっています。



「カンビオンではもう役不足ですわねぇ。そろそろサキュバスかしら」


「いやいやパトラさん、サキュバスってDランクですよ?」


「Eランクの上がDランクなのですから順当なのでは?」


「それはまあそうですけど……」



 ただの街娘が一人で斃せる魔物じゃないですよ、サキュバスなんて。

 もはやただの街娘じゃないのは分かっているつもりですけども。一応塔主なんで。

 お蔭さまで少しずつではありますが強くなってますし。



=====

名前:シャルロット

職業:【女帝の塔】塔主

LV:10⇒21

筋力:E ⇒D-

魔力:E ⇒E+

体力:E-⇒E+

敏捷:F ⇒F+

器用:E-⇒E

スキル:付与魔法、礼儀作法、杖術(New!)、堅忍不抜(New!)

固有スキル:統率、専心(New!)

=====



 やはり筋力が伸びているのですが……私、付与魔法使いですよね?

 カンビオンとかを杖で殴っちゃってるからなのでしょうか。それとも素質……?


 スキルも少しずつ覚えてきました。<杖術>はいいとして。


 <堅忍不抜>は精神の動揺を抑える効果だそうです。

 <専心>は集中力が増すという塔主用のスキル。同盟の皆さんは持っていらっしゃるんじゃないでしょうか。



「できれば<危険察知>とか覚えて欲しいですわよねぇ。塔主に万が一があってはいけないですし」


「察知系スキルなんて早々覚えられるものじゃないのでは? 斥候職じゃないんですから」



 覚えられるなら覚えたいですけどね。私だって人前に出る時はビクビクしているわけですし。



「一応、覚える方法もございますが」


「あるんですか!?」「あるんですの!?」



 パトラさんもビックリですよ。さすがエメリーさんです。



「わたくしが背後からナイフを投げますのでそれを察知して避ける、というものですが」


「いやいや、それ死んじゃいますよ」


「もちろん最初は耳をかする程度で投げます。そこはわたくしを信頼して頂いて」



 最初はって何です? 最初はって。最終的には心臓狙われるんですか?



「わたくしもお嬢様を傷つけるのは心が痛みます。しかし多少の傷を負うくらいでなければ身に付きません。心を鬼にしなければ。ご安心下さい、回復できるユニコーンが三体もおります。今でしたらそうした訓練も問題なく――」



 えぇぇ……ほ、本当にやるんですか? その訓練方法合ってるんですか? 異世界特有のアレじゃなくて? あれ、パトラさん、なんで引いてるんです? 貴女Bランクですよね? Bランクの魔物が引く訓練ってことですか? うそでしょ? ちょちょちょちょっと待ってエメリーさん――




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