392:とりあえず申請してみましょう!
■シルビア・アイスエッジ 23歳
■第501期 Dランク【六花の塔】塔主
【熱線の塔】との
Cランクに上がるため、固有魔物をもう一体手に入れておこうと思ったのだ。
同盟の皆とも相談し私自身色々と悩んだが、結局はマンティコアフレイム(★A)を選んだ。
やはり【六花の塔】の魔物が氷属性に偏り過ぎていていることが気掛かりだったし、マンティコアフレイムならば
一体だけではどうかと思い、マンティコア(A)三体も同時に召喚した。
マンティコアのほうは風属性なのだが一応四体で一部隊という換算だ。
今は最上階に四体の寝床を創り、そこに置いている。さすがに氷雪階層には置けないだろう。
それでTPはほぼ使い切った感じだな。
眷属枠もいっぱいなのでマンティコアフレイムの眷属化もしていない。
ジャックとは塔主となった初日からずっと共に【六花の塔】を盛り立ててきたのだ。私も随分助けられてきた。
それを処してまで眷属枠を開けるというのは……。
いや、塔主としてその決断が必要だというのは分かる。
塔のランクが上がっているのに眷属のランクが低いままではいけない。相応の眷属を創らねばならないと。
アデル様も同じようなことをされたとは聞いている。同時に「あまり勧められない」とも言われたがな。
おそらく今の私と同じように決断を迫られ、それでも決行したのだろう。
アデル様の目標はあくまでバベルの頂点。
その為には時に苦渋の決断も必要なのだと、そう決心されたに違いない。
私もAランクの塔となって【氷槍群刃】の連中を迎え入れるという目標がある。
その時にCランクの眷属などいるはずがない。そもそもAランクの塔にCランクの魔物自体が稀なのだ。
いずれ眷属化を解く必要があるのならば早いうちに……とも考えてまた悩んでしまう。全く優柔油断な塔主だな。
今はまだ急ぎというわけではないが、Cランクに上がった時には必ず決断することになる。
今のうちから心構えだけはしておこう。
さて、話は次の
狙いは502期の新塔主、【竜牙の塔】と【正義の塔】。
【
ならば早めに斃すか、ある程度の成長を待ってから斃すかといったところ。
これは同盟内でも意見が割れて、【竜牙】は後者、【正義】は前者が多かった印象だ。
【竜牙】は育てば確実に竜を有する塔となるし、魔物の召喚報酬という観点で見ても美味しい塔になると思う。
まだどことも同盟を組んでもいないし、だったら育ってから斃したほうが得だろうという考えだな。
しかしドロシー殿が斃した【竜翼】よりも成長は遅いだろうという見解もある。それは塔主の力量差を考慮してのことだ。
はっきり言って【竜牙】のヴィラは塔主として優れていない。
ならば当然育つにも時間が掛かるであろうし、その間にこちらがランクアップしたら益々戦いづらくなる。
そういう理由で「早めに斃すべし」という声もあるのだ。
【正義】に関しては【聖】同盟の一塔というのがネックになっている。
時間を掛けるのは愚策。【大軍師】シュレクトの手で【正義の塔】が難攻不落にされたら堪らないからな。
しかし「そもそも
今の【正義】を斃すのは訳ないだろう。
だがその後の【聖】同盟との戦いを視野に入れれば、あまり手の内を見せたくはない。
【春風の塔】や【風雷の塔】に仕掛けさせるという案も出た。
かたやエルフ塔主、かたや
ただ【白雷】を利用して【女帝の塔】に仕掛けさせたという一件でシャルロット殿が珍しく怒っている。自分たちの手で斃したいと。
シャルロット殿も
どうせ申請したところで受理はされないと分かっている。ただ何もせずにはいられないから申請だけでも、ということらしい。
【竜牙】にせよ【正義】にせよ、おそらく戦うのは私になる。
向こうが【
ランクが近く、一番後輩で、同盟でも六番手である【六花の塔】が狙い目に違いない。だからこそ私が申請しようということだ。
申請の順番や時期については私に一任されているのだが……さてどうしたものか。
正直私は明日が
ただ順番に関しては……やはり【正義の塔】が先だろうか。
早めに斃したいのは【正義】のほうだからな。
そうと決まれば善は急げ。同盟の皆に報告し、早速申請するとしよう。
■アレサンドロ・スリッツィア 64歳
■第472期 Sランク【聖の塔】塔主
『やつらめ、この儂を愚弄しおって! 亜人同盟の分際で我らが同盟に喧嘩を売るとは何事だ! やはりあのような同盟などさっさと斃しておくべきなのだ!』
画面の中の肉豚は今日も今日とて喧しい。迷惑なことこの上ない。
どうやら【正義の塔】に
相手は【女帝の塔】と【六花の塔】。どちらか選べとでも言うつもりか。
今まで直接的な争いはしてこなかったが、互いに敵意を抱いているというのは分かっている。
こちらは亜人同盟の存在など許すわけがないし、向こうは人間至上主義のこちらを斃そうとしている。それはヤツらの今までの
このたび満を持してヤツらは
それはなぜか――答えは【女帝】の申請に添付された手紙に書かれてあった。
どうも【女帝】はアダルゼア大司教が【白雷】のアドミラを利用して【女帝】に仕掛けさせたという事実を掴んでいるらしい。
【白雷の塔】を斃した時にアドミラから聞いたのか、それとも諜報型限定スキルか……というところだろう。
いずれにせよ私たちにとってかなり手痛いのは間違いない。肉豚は理解していないだろうがな。
【女帝】と【白雷】の戦いを『反差別主義vs創界教』という風に捉えられている者もいる。
結果【女帝】が勝ったことで、反差別主義の評判が上がり、創界教の評判は下がった。
そこへ持ってきて「【正義】が【白雷】を利用した」と吹聴されたらさらに下落するのは間違いない。
こちらが「それはデマだ」と言っても愚かな民衆は勝者である【女帝】の言葉を信じるだろう。
民を利用した情報戦ではすでに土台からして負けている。
ならば口封じするしかないのだが……
今戦えるチャンスがあるのは申請された【正義の塔】しかないのだ。
だが、【女帝】はもちろんのこと【六花】が相手であっても【正義】の勝ちなどありえない。100%負ける。
そうなればまた「反差別主義が創界教を斃した」となり評判の格差は益々大きくなるだろう。
八方塞がりとはこのことだ。
この状態にした張本人である肉豚がそのことに気付いていないのがまた腹立たしい。
私は肉豚の喚き声を聞き流しつつ頭を悩ませていると、隣に立つシュレクトが声をあげた。
「アダルゼア大司教様、ご安心下さい。僕に妙案があります」
『なにっ! それは本当か、シュレクト!』
「ええ、必ずや亜人同盟を打ち倒し、【正義の塔】の名を世に轟かせることが出来るでしょう」
『おおっ! なんとそれほどの案が!』
……なるほど。シュレクトはすでに割り切ったわけだな。
肉豚はここで
すでに亜人同盟の調査くらいしかその利用価値はないと。
例えそれで評判の格差が広がろうとも、それを受け入れ、次戦で勝つことを指針にしたということだ。
一度勝てば評判などすぐに覆る。
特に今まで連勝続きで来ていた亜人同盟に一敗でも刻めれば、途端に愚かな民衆は手のひらを反すだろう。
評判が下がっている時ほど上がり幅もまた大きい。
その為に一時の恥を受け入れようというのだ。
ただ問題は、それでどの程度の情報が得られるかというところだが……。
■シャルロット 17歳
■第500期 Bランク【女帝の塔】塔主
=====
【正義の塔】が
=====
「はあ!?」
思わず大きな声が出てしまいましたが……え? 私の申請を受理したのですか? シルビアさんのではなく?
混乱したままとりあえず同盟で通信を繋ぎ、皆さんに相談します。
『残念ですね、てっきり私が戦うものだと思っておりました』
『普通はそうですわよ。Eランクの【正義】がBランクの【女帝】と戦うわけがありませんもの。わたくしも誤算でしたわ』
『シャルちゃんからしたら損やろ。一日休塔日にする代わりに得られるのがEランクの討伐報酬だけやで?』
『い、一日の塔運営分よりTPは多いでしょうけど……代わりに色々失いそうですしね……』
『ふふっ、わしはファムで覗いておったがなかなか面白い同盟会議じゃったぞ』
フゥさんが言うには、どうやらシュレクトさんが焚きつけたようです。
【女帝】に確実に勝てる策を出すから安心して受理してくれ。それで【正義】のアダルゼア大司教は著名な英雄になれると。
それに乗っかるアダルゼアさんもアダルゼアさんです。
まぁシュレクトさんは【聖の塔】をSランクに引き上げた実績もありますし、プレオープンでも【正義の塔】のお手伝い――と言うか塔主代行のようなものだそうですが――をしていたそうですから、アダルゼアさんもシュレクトさんに信用があったということでしょう。
しかし、だからと言って私の申請を受理するというのは……ちょっとありえませんね。
『つまりシュレクトの狙いは【女帝】の情報なわけですね。【六花】よりも【女帝】を優先したと』
『それしかあるまい。【六花】相手なら勝てるかも、という希望を完全に捨てたわけじゃな』
『だとしたらまず考えなくてはいけないことがありますわ。例えば――』
うーん、思いの外面倒な話になってしまいましたね。
【大軍師】シュレクトさんですか……やっぱり一筋縄ではいかない相手のようです。
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