57:ランクアップの影響が出ているみたいです!



■ガーネット 19歳

■Cランク冒険者 パーティー【紅陽千火】所属



 バベルの塔主総会が終わり、塔のランクが一新された。

 それはバベリオの街にとってもお祭り騒ぎのようなもので、どの塔がランクアップするかと大々的に賭博まで行われていたほどだ。

 塔主総会の翌日には賭け札が大通りに舞う。これは半年に一度の恒例行事のようなものだ。



 もちろん冒険者ギルド内でも大いに賑わう。

 挑戦していた塔がランクアップし挑めなくなったという場合もあるし、逆に今まで塔のランクが低くて挑めなかった塔に挑めるようになったりと、ギルド内はワーワーギャーギャーと騒がしいのだ。


 ランクアップの結果に喜ぶのは私たち【紅陽千火】も同じ。

 挑戦したくてもできなかった『塔』がCランクに上がってきたのだからな。

 まあ想像していたよりも断然早いランクアップで驚いたわけだが。


 言うまでもなく【女帝の塔】と【赤の塔】だ。


 この半年、バベリオの話題をさらい続けた第500期の新塔主。その中でも二強と呼ばれる存在。

 いや二塔だけでなくその同盟そのものが常に注目されていると言っていいだろう。



 【赤帝同盟】――世間ではそう呼ばれている。



 第500期の上位四塔……十色彩カラーズの【赤の塔】、二十神秘アルカナの【女帝の塔】、七美徳ヴァーチュの【忍耐の塔】、初出の【輝翼の塔】……そこになぜか【世沸者の塔】が加わった五塔同盟だ。


 とは言え話題に出るのは【赤】と【女帝】なので一般的には【赤帝同盟】と呼ばれているらしい。

 冒険者が発信したものなのか、新聞社が発信したものなのかは知らん。



 【世沸者の塔】はともかく――何やら妙な塔の創りらしいが――他の四塔はそろってランクアップを果たした。

 【忍耐】【輝翼】が半年でDランクに上がったのも普通であれば称賛され大注目されるものなのだ。

 それが【赤】と【女帝】のせいで霞んでいる……という例年にない事態に陥っている。



 【忍耐の塔】と【輝翼の塔】についても当然調べている。

 これでも若くしてCランクとなったパーティーなのだ。我々は。

 脅威となりうるものは調べるし、調べずして塔に挑戦などしない。


 どちらの塔もDランクに上がって難易度は上がっているらしい。順当に、と言っていいのか分からないが。

 後輩のパーティーにも聞いたし、ギルドに情報も溢れている。人気の塔なら尚更だ。



 【忍耐の塔】は迷路が複雑になり罠が凶悪になったらしい。全体的に″殺意″が高くなったと。

 元々罠で殺しにくる塔として、それこそ【女帝の塔】や【赤の塔】よりも危険視する声もあった。

 それが顕著になっているという。


 少なくとも斥候役のいないパーティーは挑むべきではないということだ。

 EやFランクのパーティーであれば斥候役を設けられないところもあるだろう。寄せ集めの素人ばかりの新人だ。

 そうした輩が【忍耐の塔】に入れば瞬く間に殺される。そう注意喚起されているほどだ。



 かたや【輝翼の塔】は【忍耐の塔】とは真逆で屋外地形の階層ばかり。

 上空から飛んでくる鳥、そして上から放たれる魔法。どれも近接戦闘職の多いパーティーには辛い。

 Dランクに上がったことで戦いにくかった魔物がさらに戦いにくくなっている印象だそうで、魔物のランクが上がり、階層が広くなったことを存分に活かしているという。


 森を歩けば木々の隙間から飛んでくる魔法。奇襲、狙撃、そしてこちらが攻撃しようと思ってもすでに鳥は飛び去っている。

 上に注意を払えば足元の罠だ。

 こちらは【忍耐の塔】ほどの殺傷能力はなくとも確実にダメージを与えられ、撤退に追い込まれるパーティーが後を絶たないらしい。



 Dランクに上がった二塔――これもいずれはランクアップし、私たちが挑むことになるのであろう。

 それはまた想像以上に早いのかもしれない。



 しかし目下警戒すべきは【女帝の塔】と【赤の塔】だ。

 Cランクの私たちが挑めるのはそこなのだからな。


 まず【赤の塔】だが、Cランクに上がったことによる際立った変化は見られないという。

 元々Dランクにしては難易度が高すぎたし、三階層までしか辿り着けていないということもある。特に変える必要はないと判断したのかもしれない。


 もちろん階層は広くなっているし、一階層であればレッドキャップの数が多くなっている印象は窺えると言う。

 あくまで極端な変化は見られないと、そういうことだ。

 まぁまだランクアップして間もないので今後の攻略次第では変化も見られるのかもしれないが。



 【女帝の塔】に関しては魔物のランクが全体的に上がっていると聞く。

 一階層の主力だったウッドソルジャーはウッドナイトに。そして最序盤からピクシーが飛んでいると。

 Dランクにしてもウッドソルジャーは雑魚すぎただろうから納得できる部分もある。

 じゃあCランクでウッドナイトが適切かと言われれば「やはり雑魚だな」としか思わないが。


 今後、二階層、三階層の情報が入ってくればランクアップによる大きな変化が見えるかもしれない。

 最序盤から魔物を強くしたというのであれば全体的に魔物は強化されたと見るべきだろう。



「じゃあ私たちも【女帝の塔】かしら。ガーネット」


「そうだな。【赤の塔】よりは攻略しやすそうな印象がある」


「どうかねぇ。あたしは【赤の塔】より不気味に感じるけど」



 確かにそれはあるな。

 強い魔物、英雄ジータ、十色彩カラーズ――【赤の塔】には直接的に『強い』と感じる要素が多い。


 しかし【女帝の塔】は――妙に凝った階層、微妙に弱い魔物、変なメイド――『んん?』と思ってしまう部分が多いのだ。

 それでいて戦績も実績も並外れている。

 ランクアップもしていることから神がそれほど評価している塔だというのも伺える。


 不気味、というのも頷ける。

 ただどちらが攻略に向いているかと言われれば――



「とりあえず【女帝の塔】に行く。自分たちの目で確かめないことには始まらないからな」


「それもそうか。まぁ異論はないよ」



 少なくとも新階層の情報くらいは持ち帰りたいからな。

 Dランクの時点である程度判明している【女帝の塔】に挑むべきだろう。

 まさか【赤の塔】より危険性が高いとは思えないが……油断はすまい。





■フッツィル・ゲウ・ラ・キュリオス 50歳 ハイエルフ

■第500期 Dランク【輝翼の塔】塔主



『妖精を殺す不届き者め!!! 儂の怒りは妖精の怒りと知るがよいわああああ!!!』


「黙れ。そして身を隠せ、ゼンガー爺。あと20m後方、そこから南方に向かって撃つのじゃ」


『ヒーハアアアアア!!!』



 困った変態じゃのう。

 しかしゼンガー爺が遠くから高火力神聖魔法を放つおかげで討伐TPが入るのも確か。

 魔物や罠だけでは稼げるTPも限られるからのう。これで変態でなければ言うことはない。


 侵入者は上空を警戒するのが【輝翼の塔】の基本。

 だからこそゼンガー爺の攻撃がはまる。

 視界も悪いからのう。そこを遠距離から的確に狙うとなればゼンガー爺くらいにしかできん芸当じゃな。

 わしも出来るが。アデルはどうかのう、微妙かのう。少なくともDランクの侵入者には無理じゃな。



 とは言えゼンガー爺がわざわざ出向くのは『正しい塔運営』とは言い難い。

 神定英雄サンクリオは最上階の防衛に使うべきじゃからな。

 せっかくDランクになったことじゃし何か強い魔物でも召喚しておくべきか……。



=====


□虹竜アイダウェド★/S/65,000TP

□彩鳥シムルグ★/A/24,000TP

□イスバザデン★/S/45,000TP(一回限り)


=====



「固有魔物か……」



 TPは余っておるが果たして現時点でこれほどの魔物を召喚してよいものか、考えものじゃのう。

 眷属を考えずにただ召喚するだけならばよい。

 彩鳥シムルグなどは他の鳥系魔物を統率できるやもしれぬ。


 眷属は今後手に入るかもしれぬ精霊系にとっておきたい気持ちもあるしのう。

 しかし精霊系はランクが低いからのう……眷属にするのも……いや火精霊サラマンダーは眷属にしたが……。


 うーむ、悩ましい。もう少し様子見かのう。

 Dランクの眷属枠は【4】。あと一つしかないのじゃからな。



『むむっ! あんの若造どもが! 儂の妖精たちを! おのれええええ!!!』



 ……ゼンガー爺で一枠使っているのが無駄に思えてくるわ。あの変態のせいで。


 ……というか貴様の妖精ではないぞ? わしの妖精じゃからな?



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