413:神様との立ち会いで決めちゃいます!



■マキシア・ヘルロック 50歳

■第477期 Aランク【空城の塔】塔主



 【女帝】との条文のやりとりを進めてから数日後、神の立ち会いの下、合議が行われた。

 思っていたよりもかなりスムーズだったと言っていいだろう。

 私はもっと難航すると思っていたのだ。【女帝】側が思いの外乗り気だったことが嬉しくもあり恐ろしくもある。


 最終的に出来上がった条文がこのようなものだ。


=====


塔主戦争バトル形式は同盟戦ストルグ

 【空城】【潮風】【夢幻】【重厚】の同盟vs【女帝】【赤】【忍耐】【輝翼】【世沸者】【六花】の同盟。


・代表塔を【潮風の塔】と【女帝の塔】としての交塔戦クロッサーとする。

 同盟塔主は魔物を代表塔に集め、代表塔の最上階から指揮するものとする。


神賜ギフトの使用を禁止。

 神授宝具アーティファクトは装備も不可。

 神定英雄サンクリオ神造従魔アニマは戦闘不可とする。


・限定スキルの使用禁止。


・魔物の総数は千体以内に抑えなければならない。


塔主戦争バトル参加者以外は見ることが出来ない。(神以外)


・神との立ち会いから二日後、朝二の鐘から開始とし勝敗が決するまで継続する。


=====



『なるほどなるほど~~、うん、まぁいい感じじゃないかな』



 どうやら神から見ても平等だと言える範疇らしい。やはり代表塔を【空城の塔】にしなくて正解だな。

 本音を言えば限定スキルも使いたいし、神授宝具アーティファクトも使いたい。

 しかし代わりに神定英雄サンクリオを使わせないというのであれば御の字というところだ。


 魔物総数千体というのは条文における定型文なのだが、これも本当は増やしたかった。なにせ私の塔だけで千体は超えるのだから。

 しかし同盟で見た場合、【女帝】側の六塔のほうがバリエーションが多く、こちらの四塔分の魔物だけでは不足に陥るかもしれないということで千体のままとした。

 少ない方が対処はしやすいということだ。



『僕はこれでオーケーだけど、何か確認しておきたいことはあるかな? どっちからでもいいよ~』


『では私から。神定英雄サンクリオ神造従魔アニマは戦闘にさえ参加しなければ私たちと共に最上階にいてもよろしいですね?』


「どこまでが戦闘に関与することになるか、ということですかな? であれば直接的な戦闘はもちろん、魔法やスキルによる支援や回復も含まれるとこちらは把握しております」


『うん、僕もマキシアくんと同じ解釈だね。神定英雄サンクリオが事前にバフを掛けたり、塔主戦争バトル中にアクティブ系のスキルを使用するのも禁止ってとこかな』



 戦闘に参加しなければ何をやっても良いと思われたら困る。これは確認して正解だろう。

 特に異世界人のメイドなどはどんなスキルを持っているのかも分からんのだ。

 【女帝の塔】の最上階にいながら戦闘に関与できるスキルを持っていてもおかしくはない。

 これは神が承認してくれて助かったな。



「神よ、私からも一つ」


『マキシアくん、どーぞ』


神定英雄サンクリオが最上階にいると仰いましたが、我々が【女帝の塔】の最上階に到達した際、宝珠オーブや塔主を守るような動きをすることも考えられます。それも戦闘に関与したと受け取りますがよろしいですかな?」



 こちらが宝珠オーブの破壊を狙って遠距離から魔法を撃っても、神定英雄サンクリオが盾となる可能性があるということだ。

 これを″戦闘″と呼ぶかは微妙なところだろう。はっきりさせておくべきだ。



『それは僕が許さないから安心していいよ。塔主戦争バトルを決定づける攻撃に対する妨害は立派な″関与″だからね』


「ありがとうございます」


『もし神定英雄サンクリオが守ろうと動いたらその時点で僕が消すからね? 神定英雄サンクリオも塔主も。シャルロットちゃんたちも承知しておくように』


『……分かりました』



 それからも細かい部分を確認していった。

 限定スキル、神授宝具アーティファクト塔主戦争バトルが開始となった時点から使用禁止だとかそういった内容だ。


 但し塔主戦争バトル中も効果を継続するようなものは禁止。

 というか仮に効果が残っていても神の力で強制的に解除するという。

 何とも恐ろしい力だ。ここへ来て神の偉大さが分かったような気がするな。



『じゃあこんなトコかなー。塔主戦争バトルは明後日の朝からだからねー。それまでしっかり準備しておくように。そんじゃね~』



 神は気楽に消えていった。【女帝】側の画面も同時に消え、残されたのは同盟の三名だけだ。

 とりあえず塔主戦争バトルは成立した。最初の山場は越えたと言っていいだろう。

 あとはヤツらを斃すため、頭と身体を働かせるだけだ。



「よし、では塔主戦争バトルに向けて最終的な打ち合わせをしておく」


『『『はい!』』』





■シャルロット 17歳

■第500期 Bランク【女帝の塔】塔主



『いやぁ、良かったなぁ。シャルちゃんがいい感じに曖昧にしたのもあるけど、向こうにも救われたわ』


『あれはヘルロック伯のミスですわね。なんと勿体ないことを。わたくしたちはありがたく享受させて頂きますが』


『単純に戦闘員としか見ていなかったということでしょうか』


『ア、アイテムの借用とか同盟内でやったことないんじゃないですか?』


『それならばせめて「最上階から指揮をするな」くらいは言っても良さそうじゃけどなぁ。まぁ何にせよありがたいのう』



 神定英雄サンクリオの関与についてですね。

 神賜ギフトの禁止という条文がどこまでの範囲を指すのかと。


 マキシアさんは「直接的な戦闘はもちろん、魔法やスキルによる支援や回復も含まれる」としました。

 事前にバフ魔法を掛けておくのもダメ。塔主戦争バトル中にスキルを発動させるのもダメ、という感じで。


 つまりアイテムに関する言及はなし。指揮に関する言及もなしということです。

 魔竜剣を魔物に貸し与えるのも、眷属伝達で指揮をするのも問題ないと、マキシアさんは自ら決定付けてしまったのです。

 特に指揮はありがたいですね。ジータさんもゼンガーさんも眷属伝達で指示するでしょうから。



 ぶっちゃけこれだと神定英雄サンクリオ塔主戦争バトルに関与しているのと変わらないと思うのですが。

 神様は分かっていてわざとマキシアさんに賛同したように思いますけど、絶対面白がっているだけですよね。

 本当に大丈夫なのかと逆に心配になりますよ。



 魔竜剣や異世界のアイテムについては想像できないのも分かります。

 だから神定英雄サンクリオからアイテムを貸与するという考えがなかったのだろうと。

 もしくはノノアさんが仰るように同盟内でそういった貸し借りがなかったのかもしれません。

 経験がなかったからそういった発想が出なかった、というところでしょうか。


 ただ指揮については言及して当然だと思います。

 向こうに神定英雄サンクリオはいませんが指揮官となる魔物はいるでしょうし、その魔物が直接戦わなくても指揮をするだけで配下の魔物の動きが変わるといったことは経験されているでしょう。


 まさか指揮=前線指揮という考えなのでしょうか。

 神定英雄サンクリオを最上階に置いても指揮はとれないだろうと。

 だとすればマキシアさんは最上階で画面を見ながら指揮をとっていないということになります。ありえませんよね。


 それかシルビアさんの仰るように神定英雄サンクリオ=戦闘員≠指揮官と見ている。

 ……いや、これもないでしょう。ジータさんが元騎士団長さんだったというのは知っているでしょうし。



『今もファムで覗いておるがどうやらまだ気付いていないようじゃぞ。意気込んで作戦会議をしておるわ』


『はぁ、最早滑稽ですわね。ヘルロック伯は聡明な塔主だと思っておりましたのに』


『人が良くて、塔運営が上手いのは間違いないやろ。ただ交渉事だとか塔主戦争バトルになると弱いんとちゃうかな』


『貴族社会には向いていないということですね。私も他人のことは言えませんが』


『た、大変ですね、貴族というのは……』



 何にせよ私たちにとっては都合の良い合議だったと思います。

 これで一応は同盟戦ストルグが出来る状態になったので、あとは勝つためにどうするか。

 明後日に向けて最終的な作戦会議をしなければなりません。


 確かに条文は有利になりましたけど、全く油断は出来ないのですよ?

 【空城の塔】の戦力が私たちのどの塔よりも強いというのは分かっているのですから。


 皆さん、ちゃんと分かっているのですか? もう勝った気にならないで下さいよ?



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