412:【空城】同盟と戦うことになりそうです!



■マキシア・ヘルロック 50歳

■第477期 Aランク【空城の塔】塔主



『限定スキル使用不可を加えるなら神賜ギフト禁止にしても良い、ですか……』


『まさか神賜ギフト禁止を受け入れるとは……メイドが強いというのは噂にすぎないということでしょうか』


『マキシア様、どうされますか』



 私が塔主申請バトル申請を送った二日後、【女帝】から返答が届いた。

 却下は却下なのだが添付の手紙にて修正案の提示があったのだ。

 塔主戦争バトルに前向きなのはこちらにとって都合が良いのだが、その修正内容が問題だ。


 私はてっきり神賜ギフト禁止という一文を削除するよう言ってくると思っていた。仮に前向きであってもだ。


 あの同盟の強みは三人の神定英雄サンクリオだろう。

 それがあったから【傲慢】同盟や【魔術師】同盟に勝てたはずだ。

 と言うか、それ以外に勝てる理由を探すほうが難しい。



 しかし私が提示した条文を受け入れる姿勢を見せた。その代わりに限定スキルを使うなと。


 つまり神賜ギフト禁止による戦力低下より、こちらに限定スキルを使われるほうが嫌だということだ。

 もしかしたら諜報型限定スキルでこちらの限定スキルの詳細と総合戦力を把握しているのかもしれない。


 ……いや、少なくとも戦力の把握はないか。

 総合戦力ではこちらが上回る。それは間違いない。

 いかに大戦果を挙げ、莫大なTPをもらい、それによる戦力強化が為されていても、それでも私の【空城の塔】には及ばない。



 ならばこちらの限定スキルを掴んでいて、それを恐れているだけか?


 ノイアの<風波の潮目>は『自塔の風と波を操る』スキルだ。地形を使って敵への行動阻害や自軍に有利な状況を創り出すことが出来る。


 そして私の<空城の計>は『部屋内にて自軍の魔物を不可視・不察知とする』スキル。

 これを使えば相手が規格外の神定英雄サンクリオだろうと確実に奇襲が出来る。


 もし【女帝】側が神賜ギフト禁止を断ってきたとしても、【潮風の塔】さえ使えればその二つの限定スキルが使える。

 それによって神定英雄サンクリオを斃せれば、確実に勝てる――そのつもりでいたのだ。


 しかし予想外の返答が来た。これをどう考えるかだが……。



「……悪い話ではないな。元々限定スキルは敵の神定英雄サンクリオを対処するのが一番の目的であったわけだが、その神定英雄サンクリオが使えないとなれば、むしろ利はこちらにある」


『しかし<空城の計>が使えないというのは……』


「単純な力比べになるということだ。同盟同士、戦力のぶつけ合い。ならばこちらが有利だろう」



 限定スキルが使えないのは向こうも同じ。まぁ向こうに塔主戦争バトルで使える限定スキルがないだけかもしれないが。


 それにしても神定英雄サンクリオが使えないというのは非常に大きい。

 神賜ギフトなし、限定スキルなし、まるで新人塔主同士の塔主戦争バトルではないか。

 強い魔物を沢山持っていたほうが勝つ。なんともシンプルでバベルらしい塔主戦争バトルと言える。


 もちろん限定スキルを使えないのは痛いし、ついでに言えば私の神授宝具アーティファクト【忠誠の冠】が使えないのも痛い。

 これは全軍を統率し、私が直接指揮をとれるという代物だ。

 まぁ敵の神定英雄サンクリオと秤にかけて神賜ギフト禁止としたので仕方ないのだが。



「<空城の計>や<風波の潮目>は使えないが事前に<空虚なる城>は使うことが出来る。【女帝の塔】は確かに難易度が高いが【世沸者の塔】を使われるより断然マシだ」


『欲を言えば【赤】や【輝翼】のほうが良かったのですがね』


『ノイア殿、さすがにそれは欲をかきすぎでしょう。それでは向こうに手を引かれてしまいます』



 ランク差を合わせるために【潮風】と【女帝】を代表塔にしたのだ。向こうが少しでも有利と思うようにと。

 これでこちらから「【世沸者の塔】は使わないでくれ」などと言おうものなら弱みを見せているのも同じ。

 下手に制限するより【女帝】を代表としたほうが丸く進む。



「うむ、今回の塔主戦争バトルの第一目標はあくまで敵を戦場に立たせるということ。その為には条文も通さなければならないし多少の妥協もしなくてはならない。だからこそ向こうの修正案を受け入れるべきだと私は思う」


『なるほど……』


『マキシア様がそう仰るのであれば私に異論はありません』



 こちらのマイナスは限定スキルと神授宝具アーティファクトの使用禁止。

 向こうのマイナスは限定スキルと神定英雄サンクリオの使用禁止。

 魔物の総合戦力はこちらが上。

 ならば誰がどう見ても不利益を被るのは敵方だ。


 気になるのはなぜ【女帝】側がこのような修正案を出してきたのか……もっと自分に都合の良い案などいくらでもあるだろうに。

 単にこちらの限定スキルを使わせたくないというだけではあるまい。


 もしやここからさらに条文のやり取りを重ね、徐々に修正していくつもりなのか?

 であるならば、やはり現状の案を飲んだほうがいいだろう。

 早めに条文を決定し、塔主戦争バトルを成立させる。それが何より大事なのだから。





■シャルロット 17歳

■第500期 Bランク【女帝の塔】塔主



『――という考えもあるのですがね、本音で言えば【節制】同盟を見据えているのですよ、わたくしは』



 神賜ギフト禁止を受け入れる。

 そうアデルさんは仰ったわけですが、私としてはそこまで譲歩しなくても、もっとこちらに有利に進められるのではと思っていました。


 だってメルセドウの中立派粛清やラッツェリアの軍事進攻で時間がないのは向こうですからね。

 焦っているが故に私たちが戦いやすいような条文でも飲んでくれると思うのです。

 だからわざわざ神賜ギフト禁止にする必要はないだろうと。


 そう思っていたところに、アデルさんは言葉を繋げました。



「【節制】同盟戦ですか?」


『時間がなくて焦っているのは【空城】同盟より【節制】同盟に違いありません。条文では余裕のある感じを出していましたけれどね、本音は早くわたくしを斃したいと思っているはずです』


『それはそうやろなぁ』


『別に【節制】同盟を放置していても問題はないのですが、出来る限り叩いておいたほうが良いとわたくしは思っております。それはメルセドウの為でもありますが、その後に控えた【聖】同盟戦を考えた時に【節制】同盟は消しておくべきだと』



 【節制】同盟戦で報酬TPを得て、塔を成長させないと【聖】同盟と戦うことなど出来ないということですね。

 それは分かります。もしどことも塔主戦争バトルをせずに【聖】同盟と戦おうと思ったら、おそらく十年後とかになってしまいますからね。

 十年間も申請を却下し続けるとか、こっちだって精神的に参ってしまいますよ。



『そして【節制】同盟と戦うならばメルセドウが中立派粛清に動くタイミングが重要です。【魔術師】同盟戦と同じような形ですね。敵が危機的状況にあったほうがこちらは戦いやすいと。

 ですので【空城】同盟を早めに叩き、報酬TPをもらい、【節制】同盟戦に備えたいというのが一つあります』


「他にもあると?」


『今後の【節制】同盟戦、【聖】同盟戦を見据えれば、エメリーさんのいない状況というのも見ておきたいという、これはわたくしのエゴですわね。

 エメリーさんが攻守同時に戦えるわけもありませんし、【魔術師】戦の時のようにエメリーさんが封じられることも考えられます。その予行練習として今回の【空城】同盟戦はうってつけだと思っております』



 随分勝気ですねぇ……まぁアデルさんらしいと言えばらしいのですが油断できる相手ではないですよ? 【空城】同盟は。


 私も【節制】同盟よりはだいぶ下だと思っていますし、なんなら【死屍】のアンデッドと大悪魔がいる分【傲慢】同盟のほうが強いのでは、とも思っています。


 とは言え【空城の塔】は昨年のランキング16位ですからね。

 一昨年のランキングでも19位が【傲慢の塔】、17位が【空城の塔】だったわけで、当時から【傲慢】よりも上とされていたわけです。ちょっとの差ですけど。

 私としては強敵だと思っていますし、一対一の交塔戦クロッサーで戦いたいとも思いません。


 でもアデルさんは勝気の姿勢を崩しません。



神定英雄サンクリオの三名を抜いても、こちらの戦力が負けているとは思いません。Aランク固有魔物が十一体、Sランク固有魔物が十体おりますのよ?

 この陣容で【空城】同盟如き斃せずしてどうするのですか。これで苦戦するようなら【聖】同盟はおろか【節制】同盟でさえも戦えないという結論になりますわよ』



 うーん、そう言われれば確かに、となってしまいますね……。

 魔物の総合戦力を見れば【空城の塔】が飛び抜けているでしょうが固有魔物の数だけ見れば圧勝でしょう。

 局所戦闘での魔物の質を比べるならば確かにこちらが有利と言えます。



『限定スキル禁止の修正案を出すのはアリですわ。おそらく向こうも飲むと思います。

 そうなった時には戦力同士のぶつかり合いになりますけれど、そこを神定英雄サンクリオなしの状態でいかに被害を減らし、いかにして攻略するか。そこは策と連携の勝負になるでしょうね』


『なるほど、アデルが【空城】同盟戦を試金石にしたいというのはよく分かった。そういうことならわしも乗るかのう』


『ウチもええで。むしろ気合いが入ってきたわ』


『私はアデル様のご意思に従います』


『え、えぇと……じゃあ、はい、私も……』



 えぇ……私だけですか? 不安なのは。

 やっぱり今までずっとエメリーさんに頼り切っていたからですかね。すごく怖いのですが。

 でも皆さんのやる気を削ぐわけにもいかないですし……仕方ないですかね。



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