115:四腕の侍女長vs強欲の悪魔です!
■エメリー ??歳
■【女帝の塔】塔主シャルロットの
【強欲の塔】九階層は連続大部屋のような形状になっていました。
いくつかの部屋を抜け、大ボス部屋に辿り着くと。
途中にはまたファットデーモンが悪魔部隊を引き連れて数体いましたが、ここまで来ればわたくし一人で片付けます。
そうして大ボス部屋の前まで来ました。
「そこで待機していて下さい。わたくし一人で行きます」
「分かりました」「心配するまでもないけど頼みますわぁ」
「万が一、何か起こったら一度退き、ターニアと合流後に攻め落として下さい」
「そ、それは……」
話に聞くSランクの大悪魔というのが未知数ですからね。油断はしません。
仮にわたくしの知る最上位の存在であった場合、わたくしでは勝てないですから。
まぁさすがにそんなものがCランクの塔主に召喚できてしまうと問題でしょうし、ないとは思いますがね。念の為です。
ここまで来れば出し惜しみなし。最初から【魔剣グラシャラボラス】を持ち、余った二本の腕には魔竜斧槍でいきます。
扉を開けた先――なるほど玉座の間ですか。
大きな玉座に鎮座するのはこれまた大きな
黒紫の肌、二本のねじれた角、長い顎鬚。背中には六枚の蝙蝠翼。
肥えすぎた身体とニヤケ顔は、欲と醜悪の象徴のようです。
それ――【強欲の悪魔マモン】は窮屈そうに肘をつき、こちらをマジマジと見て来ます。気色悪いですね。
「ヒヒヒ……【女帝の塔】の
「ええ、はじめまして。エメリーと申します。お見知りおきのほど」
「面白い武器を持っているな……【魔剣グラシャラボラス】か」
「!?」
<アイテム鑑定>!? ならば判明するのは名前のみ。魔剣に関しては<鑑定>しても効果は分かりません。
……いえ、この世界特有の<鑑定>があってもおかしくはない、ですか。ますます油断できませんね。
「それにそのステータス。余より強いとは分不相応ではないか? ヒヒヒ」
「なっ……!」
ステータスまで覗かれている!? だからわたくしの名前を……!
これはもう長引かせるわけにはいきません。即座に終わらせ――
「<強欲の掠奪>」
そうマモンが呟いた瞬間――わたくしの力と速度が急激に衰え、二腕に持っていた【魔剣グラシャラボラス】が消えたのです。
一瞬呆けた後、すぐに気付きました。
わたくしの魔剣を手にしたマモンが飛び掛かり、振り下ろして来る――。
「くっ……!」即座に回避、そして重い足で距離をとります。
「ヒヒヒ、不敬だなぁこの武器も、この力も、この速さも! 余が持ってこそ相応しいだろぉ!? なあ!」
そう言いながら、マモンは連続で斬り掛かってきます。
魔剣には闇の魔力が纏われている。つまりこの魔剣の使い方を知っている。
効果が『腐食』というのも知られていると思ったほうがいいでしょう。
わたくしは魔力に触れないように全力で避けるしかできません。なにせ足が思うように動かないのですから。
そんなわたくしを見たマモンは益々のニヤケ顔で見下しながら言います。
「不思議か? 何が起きたか理解できないか? ヒヒヒ、なぁになんてことはない。奪ったまでだ」
「……わたくしの武器と、力と、速さを……?」
「ヒヒヒ! そうだ! 余の<強欲の掠奪>により貴様はその三つを奪われた。今のお前は元々余の持っていた力と速さよ。光栄だろう? 下賜してやったのだぞ? ヒヒヒ!」
なんと……ふざけた能力を!
憤慨しながらも<並列思考>で打開策を練ります。
空いた腕でマジックバッグから【炎岩竜の小盾】を二つ装備。これで【魔剣グラシャラボラス】を防ぐしかありません。あまり保ちませんが。
そして持っていた魔竜斧槍で攻撃。足が遅いので遠距離ですね。
「<
「<
「くっ……!」
……参りましたね、これは。
■シャルロット 16歳
■第500期 Cランク【女帝の塔】塔主
『うそやろ!? なんやこれ!』
『いやぁっ! エメリーさぁん!』
『
私は今、画面の中の信じられない光景を見つめるので精一杯です。
エメリーさんの力と速さと武器が奪われた? なんですかそのデタラメなスキルは!
つまりマモンは今【筋力S】【敏捷S】。逆にエメリーさんは極端に下がっている……!
おまけにあの魔剣はエメリーさんご自身でさえ危険視していた武器です。
それが今、自分に向かって振られている――あの力、あの速度で。
もしあれが僅かにでもかすろうものなら、いえ、周りの闇魔力が触れようものならエメリーさんは……死――。
そ、そんな……。
私は頭を振って、目の前が真っ暗になっていくのを必死に抑えつけます。
ダメだ。目を背けちゃダメだ。信じなきゃダメだ。
わたしは塔主として、【女帝】として見守らなければ。
それにいざというときにクイーンの皆さんに指示出ししないと――。
『【強欲の悪魔マモン】は欲深き悪魔。他者が強きことを許さず、他者が優れたものであることを許さない。その全てを自分のものにせんと画策する――あの伝承は単に性格だけを表すのではなく……スキルのことだったのですわね』
それは図書館にあった本の一文。私も覚えています。
スキルならスキルと、そう書いていてくれれば……いえ、そう言ってももう遅い。
今はエメリーさんを信じ、同時に冷静に、頭を働かせなくてはいけません。
私は私にできることを――。
■エメリー ??歳
■【女帝の塔】塔主シャルロットの
「ほれほれほれぇぃ! ヒヒヒヒッ!」
――ガンッ! シュゥゥゥ……
いくら最硬を誇る【炎岩竜の小盾】であっても魔剣の力には負けます。
かと言って武器で受ければ武器が死ぬ。この世界に魔竜剣を直す技術などないのです。盾を犠牲にするしかありません。
足が遅くてろくに動けず、回避もおぼつかない状態ではいつものようには戦えません。
とりあえず距離をとるのを優先し、マジックバッグから投擲用のナイフや手斧、分銅などを投げます。
マモンはハルバードの扱いはそれほど上手くはありません。魔剣だけでそれらを防ぐことは出来ません。
しかし当たったとしてもわたくしの力も奪われている。ほとんどダメージにならない。
おまけに守ろうと思えば得意の闇魔法もあるのです。
今は魔剣を手にした喜びからか終始振り回していますが、いざとなれば怒涛の闇魔法で攻撃をもしてくるでしょう。
正直、今の状態で闇魔法のデバフを掛けられていたら、わたくしはとっくに死んでいます。
やはり接近戦に持ち込んで、なんとか防ぎつつ、魔竜剣で一発一発入れていく……という感じでしょうか。
もしくは超至近距離から魔法を放つか……どちらにせよ賭けになりますが。
わたくしより速い侍女との模擬戦を思い出しながらやってみるしかありません。
ただ魔剣の闇魔力が邪魔なのでそれを考えながらの回避となると――
――と、思考を巡らせていたところでそれは起きました。
「ぐっ、ぎゃあああああああ!!!」
気分良く魔剣を振り回していたマモンが突然転がり出したのです。
一瞬、何が起きたのか分かりませんでした。
――おそらく、足に闇魔力がかすった……?
悶え苦しむマモンはすでに魔剣を手放しています。
わたくしは急いで近づき、即座にそれを手にしました。
「はあっ!!!」
――ザンッ!
首をめがけて思いきり振り下ろします。
力はなく、その刃も首を落としはしませんでした。
しかし首から広がる腐食は、命を刈り取るには十分だったようです。
マモンの身体が塔の床へと消え、同時にわたしに力が戻るのを感じます。
良かった……奪われっぱなしにならずに。スキルの効果が切れたということでしょう。
慌ててクイーンたちが駆け寄ってきます。
そしてお嬢様からの通信も。
『エメリーさん、大丈夫ですか!?』
『ええ、心配ありません。どうやら奪われたものは帰って来たようです』
『よ、良かったぁ……』
奪われたのが『力』でなく『器用』だったら終わっていましたね。
【魔剣グラシャラボラス】ほど扱いづらい武器はこの世界にないでしょうから。
今回ばかりは悪魔の強欲さに感謝です。
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