313:四腕の侍女vs影の女王、です!
■シャルロット 17歳
■第500期 Bランク【女帝の塔】塔主
敵攻撃陣は十四階層『ダンスホール』までやってきました。驚きの速さですね。まぁ素通しさせた場所も多いので狙い通りではあるのですが。
ここまでで削った敵攻撃陣は百体弱。予想よりも削れています。
とは言え残りは百五〇体ほどいますし、こちらがダンスホールに配置した戦力は数で言えば劣りますからね。油断はできません。
彼らは最初の分岐路で最初に『迷路』を選びました。
例の諜報型限定スキルがサミュエさんの仕業だった場合、選んで当然ですね。その時から階層の構成は変えていませんし。
しかし斥候と前衛が入ったところで扉が閉まりました。敵部隊が慌てているのが分かります。
どうやらここのトラップについては把握していなかった様子。
ということは塔構成の全てを覗き見ていたわけじゃないと。構成画面全体をしっかり見ていたわけではないんですね。
覗き見程度であればこの手の罠が知られることはない。これもまた一つの収穫です。
結局残った部隊はまとまって『大部屋』に向かったようです。これもまた正しい判断。
斥候なしで『罠の通路』に行くわけがないですから。これも構成を知っているという証拠です。
そしてダンスホールで大部隊同士がぶつかりました。
乱戦ですね。こちらはベアトリクスさんの指揮を見つつ、ロイヤル小隊同士の距離感や連携といったところも見なければなりません。忙しくなってきました。
「ではお嬢様、そろそろ向かいます」
「分かりました! よろしくお願いします!」
エメリーさんも出陣です。どうやら例の固有魔物が乱戦を抜け出して『罠の通路』に入ったようです。
それをどうやってエメリーさんが察知したのかは謎ですが……影の動きが見えたのですかね。
ともあれ、確かに『罠の通路』の突き当り、大ボス部屋の扉は開かれました。
そして扉は自動で閉まり、同時に部屋内にまぶしいほどの光が照らされます。
これは大ボス部屋の扉が開くことで発動させる照明罠です。今回の
そして明るくなった部屋の中央。そこに一人の女性が姿を現しました。
シルビアさんより高い身長。黒いドレスに黒い長髪。顔は半分ほど髪で隠れており不気味に見えますね。
爪が長く、その両手に持つのはククリナイフと呼ばれる大型の短剣。
この人が【影の塔】のSランク固有魔物ですか……。
エメリーさん曰く、<影潜り>に対する手段はいくつかあるそうです。
先に挙げた通り、ターニアさん並みの<魔力感知>であるとか、エメリーさん並みの<気配察知>であるとか。
ですが根本的な解決方法としては、影を消すことが一番楽だと言います。<影潜り>のスキルを無効化できると。
そういうわけで大ボス部屋にこのような仕掛けを準備したのですよ。
なにせ相手は【
別に十・十一階層の『砦』あたりで使っても良かったのですが、『海の神殿』での戦闘経験だとか、色々と見ておきたいところもありましたので結局は大ボス部屋にしようと決めたのです。
ちなみに天井だけでなく足元も光るようになっています。自分の影さえ作れないように。
固有魔物の女性は自分の姿が突然出てきてしまったことに驚いている様子でした。部屋が眩しすぎたのが原因かもしれません。
そこにエメリーさんが到着しました。すでに魔竜斧槍は抜いています。
『お待たせいたしました、【影の塔】の固有魔物の方。わたくし【女帝】シャルロット様の侍女でエメリーと申します』
『クッ……!』
女性の判断は早かったと思います。エメリーさんが階段を下りると同時に仕掛け――見えない速度ですが、多分回り込んで斬りつけようとしたのだと思います――そのままエメリーさんを斃せれば良し。斃せなくても体勢を崩させて階段を抜けられれば、即座に最上階へと駆けあがって私を斃すと、そういうつもりだったと思います。
しかし、エメリーさんはその女性の攻撃を受け止め、はじき返しました。微動だにしません。
『さすがの速さではありますが軽いですね』
『<
『なるほどそういう手もありますか。ですが――<気配遮断>を併用しないと意味がありませんよ』
『グアッ!!』
彼女が繰り出したのはおそらく<影魔法>というものだと思います。【青の塔】の
それが影の出来ないこの部屋で使えたことに驚きました。
影で作られた壁は女性とエメリーさんの間にそびえ立ちました。部屋を二分するように。
エメリーさんからは女性の姿が見えなくなる。そこを狙って、女性はエメリーさんを斃すか抜けるかしたかったのだと思います。
しかし少し離れたところから飛び出してきた女性の目の前にはエメリーさんが待ち構えていました。<気配察知>で分かっていたと。
魔竜斧槍の刃は確かにダメージを与えました。しかしまだ終わっていません。
影の壁の後ろへと逃げ帰った女性はすぐさま次の<影魔法>を発動。
『<
今度は壁から伸びた影がエメリーさんを包み込むように襲い掛かります。幾本もの影はまるで檻のように見えますが――
『行動阻害ですか? そういうのはご自身より遅い相手に使うものですよ』
逆じゃないですか? 速い人の足を止めるための行動阻害じゃないんですか?
そんな私の心の声を置き去りに、エメリーさんは影の檻から逃げ、同時に影の壁の向こうにいる女性めがけてナイフを投げたのです。
いつ魔竜斧槍から換装したのかは分かりません。高速換装はいつものことです。
いずれにせよエメリーさんが投げたミスリルナイフ四本は、的確に女性を貫きました。
女性からすれば自分で作った壁から急にナイフが飛んで来た恰好です。避けられるはずがありません。
すると影の壁も檻も、その形を失っていったのです。女性が魔法を行使できる状態ではなくなったということでしょう。
倒れ込む女性にエメリーさんが近づきます。
『またお会いしましょう』
それだけ告げると再び手にした魔竜斧槍で女性の首をおとしました。女性の身体が床に溶け込み、そこには魔石だけが残されます。
私はホッと一息……などしている暇はありません。これからが本番です。
『お嬢様、こちらは片付きました』
「了解です! こちらから皆さんを下ろしますのでダンスホールの制圧をお願いします! 皆さん! 急いで下に向かって下さい! エメリーさんの指示に従ってダンスホールの敵を斃して下さい!」
「「「はい!」」」
万が一、エメリーさんが抜かれることも考慮して最上階には魔物を集めておきました。召喚可能数が少なくてあまり戦わせたくなかった魔物も含まれます。
ヴァルキリー(B)、アスラエッジ(★A)、
それらを十四階層へと移動させ、急いで敵攻撃陣を制圧します。
今もベアトリクスさんたちが頑張っていますからね。すぐに救援をしなければ。
「ベアトリクスさん! 今からそっちに増援が行きます! もうちょっと頑張って下さい!」
『ん。了解。助かる』
敵は敵で守備意識が高そうでしたから、まだこちらの被害はそこまで多くない状態です。
やはり時間稼ぎだったのでしょう。乱戦を継続させてあの女性に私を暗殺させるという作戦だったはずですから。
一方こちらも時間稼ぎの防衛前提だったのですよね。エメリーさんがあの女性を斃すまでは守っておこうと。
しかしエメリーさんが解き放たれました。最上階の魔物も多くいます。
これらが一同に介してダンスホールを殲滅すると。……エメリーさんとベアトリクスさんだけで指揮はとれますかね。かなりごちゃ混ぜの大部隊になってしまいますが……まぁそこはお任せしましょう。
「バートリさん、ターニアさん、敵の固有魔物はエメリーさんが斃しました。今からダンスホールの掃討を行い、その後そちらに向かわせます」
『了解です~。思ったより早かったですね~』
『遅いだろう。こちらは暇で退屈なのだ。さっさと第二陣を寄越してくれ』
両極端ですねー。のんびり屋のターニアさんとガンガン行こうぜタイプのバートリさん。
これで部隊として成り立っているのが不思議です。
しかしお二人の指揮、攻撃陣の出来も今回のお試しの一貫なので、よく見られて良かったのではないでしょうか。
まぁエメリーさんからは間違いなく指導が入ると思いますがね。ご愁傷さまです。
■サミュエ・シェール 36歳
■第486期 Bランク【影の塔】塔主
「そ、そんな……スカアハが……まさか……」
わたくしはしばらく頭を抱えて項垂れていました。
本来であればすぐに影鬼(★A)に指示を出しておくべきでしたし、撤退させて【影の塔】で挟撃。その後攻撃陣を再編成するといった策をとるべきだったと思います。
しかしわたくしは茫然自失となってしばらく呆けてしまったのです。
スカアハの<影潜り>や<影魔法>というのは現代ではほとんど見られない希少なもの。その存在を知る者すら少ないと聞きますし、学院でも習いません。
それを知られていたばかりか、対策を知っていて用意していた。これがまず一つ。
メイドは異世界人でしょうからその世界にもしかしたら<影魔法>の類があるのかもしれません。
しかし仮に知っていてもあのように光を照らすといった対策がとれるでしょうか。
<影潜り>は影を消せば無効化する――そのようなことはわたくしも知りません。スカアハが知っていたのかも謎です。
なぜ実際に使っているこちら以上に詳しいのか。
そして<影潜り>状態のスカアハを″察知″していたのも謎です。あれは誰にも気付くことなどできないはず。それはスカアハ自身がそう言っていたのですから。
しかしメイドか【女帝】は察知した。だからこそあのタイミングで罠を仕掛け、メイドが登場したのです。
もっと言えば攻撃陣にスカアハがいると知っていなければ対処のしようがありません。となれば――
「……限定スキルですか。おのれ【女帝】めっ!!!」
それしか考えられません。おそらく自塔の何か――侵入者の動きか魔力か――を察知する限定スキル。それを【女帝】は取得していた。メイドに察知能力を付与する類のものかもしれません。
だからこそスカアハの存在に気付いていたし、だからこそあのタイミングで罠が発動し、だからこそメイドが出てきた。
暗殺に頼らず正面から戦ってもスカアハは強いはずです。Sランクは伊達ではありません。
しかしそれでもメイドが上回った……それもスカアハのお株を奪うような<気配察知>を使って……。
こんなことは許されません……! 【女帝】だけは……絶対に【女帝】は潰さなければ……!
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