281:これが侍女無双ってやつです!



■ファモン・アズール 35歳

■第493期 Bランク【轟雷の塔】塔主



 私は急ぎ、【女帝の塔】攻略のための部隊を整えた。

 防衛についている敵戦力は少ないとは思うが、最大限の警戒をしてもAランクの眷属とその配下が残っている程度。あとはCランク以下の雑兵だろう。


 しかし情報を得ている限りでも【女帝の塔】の塔構成は厭らしく、時間稼ぎのギミックや多数の罠があるという。

 つまりある程度の質と量に加え、斥候能力と速度が求められるというわけだ。


 そうして集めたのは計132体の攻撃陣。

 神造従魔アニマのサンダーファングもいれてAランクは12体にもなる。

 これならば例えAランク眷属が残っていようと関係ない。確実に斃せるはずだ。



 とにもかくにも時間との勝負ということで私は早速出撃を命じた。

 斥候のサンダーリンクス(C)を先頭に転移門をくぐっていく。


 画面に見えるのは【女帝の塔】一階層『帝都』の景色。噂に違わぬ見事な街並みだ。

 しかし悠長に景色を楽しんでいる暇などない。

 私はサンダーファングに命じ、帝都の探索を始めさせた。


 ――というところでまた凶報が入る。



『!? メイドが動いたッ! 【女帝の塔】の防衛に戻る気だッ!』


「なっ!? メイドだけですか!? 他の攻撃陣は!?」


『いやメイドだけだ! マンティコアからも下りたが……すごい速度で入口に戻っている!』



 防衛のために攻撃陣を戻すというのは考慮していたことだ。

 しかし敵の攻撃陣よりも私の攻撃陣のほうが足は速い。

 地の利があるので追いつくことは可能だろうが無理に追いつこうとしたら戦線がバラけ、こちらとしては各個撃破が可能となる。

 それは敵攻撃陣を削ぐことにもなるし、二塔を防衛することにも繋がると。それならばそれで良しとしていたのだ。


 ただメイドだけ戻すというのは意味が分からない。

 確かに即座に追いつけるだろうが、こちらはただ一人を迎撃すればそれで終わりだ。

 私の攻撃陣の陣容は【女帝】が見ているだろうし、それでメイドしか戻さないというのは明らかに不自然で――



『こちらも動いたぞ! 妖精女王ティターニアだ! それが単独で戻っている! ものすごい速度だぞ!』


「ええっ!? そ、そちらもですか!? 単独で!?」



 Sランク固有魔物である妖精女王ティターニア。たしかに強力な戦力なのだろう。

 しかしこれもまた単独で戻し私の攻撃陣に当てるというのは……。


 まさかそれで私の攻撃陣を斃せるとでも?

 メイドと妖精女王ティターニアだけで?


 さすがに甘く見すぎではないだろうか。

 仮にあのメイドがジータ級の武力を持っていたとしても132体もの軍勢を斃すなど不可能だ。

 万が一ジータ以上の武力だったとしてもAランク12体から攻撃を集中させれば全く問題はない。


 ともかくこれで【空白の塔】【氷海の塔】に侵入している敵攻撃陣、その指揮官二体がいなくなったのは間違いない。

 防衛は楽になったと見るべきだろう。

 私はサンダーファングに眷属伝達をし、敵援軍を斃すべく布陣させた。



 ――そのわずか数分後、私は戦慄することになる。


 ――【女帝】が信頼して遣わせたのだろうメイドと妖精女王ティターニア


 ――その力は私の想像を軽く超えていたのだ。





■エメリー ??歳 多肢族リームズ

■【女帝の塔】塔主シャルロットの神定英雄サンクリオ



「ではバートリ、こちらは任せましたよ。くれぐれも前に出たりしないように。じっくりと殲滅していて下さい」


「ああ、分かっている。さっさと行ってこい」



 心配ですね。バートリに総指揮を任すというのも。

 どのクイーンよりも血の気があって前に出たがる性格ですから。

 これで戻って来た時に部隊がバラバラになっていたらお説教しましょう。


 さて、とりあえず急ぎ戻りますか。

 マンティコアも預けまして、走って転移門へと向かいます。その方が速いですしね。

 飛行系魔物への対処が若干不安になりますがターニアも一緒に戻るようですしそちらは任せればいいですね。



「ターニア、そちらはどうですか?」


『あと二十秒ほどです~~』


「分かりました。私は先に向かっていますよ」


『エメリーさん、ターニアさん、敵は帝都の入口に布陣しました。お二人を迎撃するようです』


「好都合ですね。承知しました」



 下手に帝都の中に入られると面倒ですからね。スペースのある入口のほうが助かります。


 そんなことを考えながら転移門をくぐると――一斉に魔法が飛んできました。


 雷魔法というのはわたくしが元いた世界にはなかった属性魔法です。雷のブレスを吐く竜はおりましたがね。

 四属性にも分類されず六元素エレメンツにもその名がないという特殊な属性。水魔法に対する氷魔法とも少し違うようです。

 いずれにせよなかなか厄介な魔法でして、速さと威力があり、かするだけでも痺れるという性質を持っていると。


 まぁわたくしの侍女服の魔法防御であればある程度は無視できます。一応避けますがね。かすった程度では何も影響ありません。

 【魔術師の塔】にいたデュアルドレイクが雷のブレスを使っていましたね。あれと同じようなものです。


 とは言え転移門目掛けての集中砲火というのは非常に厄介でわたくしでも避けるのがやっとというところ。

 身を屈めつつ、最速で門を抜けて横に飛ぶといった対処しかできません。

 しかし一度抜けてしまえばあとは布陣している部隊を端から斬っていくだけですね。



 そしてすぐにターニアが入ってきました。

 敵はわたくしを一瞬見失ったことで魔法の手は止みましたから、その隙に飛び込んだ形です。

 ターニアは速度を維持したまま飛行戦力の掃討に移ります。


 しかしあの速度で飛べるというのは羨ましいものですね。マンティコアでは同じような真似はできません。

 敵の魔法では捉えられない速度で飛びながら、ターニアは魔法を放っていくと。

 わたくしが言うのも何ですが反則的に思えます。



「ターニア、鳥と精霊は任せますよ」


「は~い。任せて下さ~い」



 そんな感じで眷属伝達を行っておきました。空のほうはターニアに全てお任せです。

 わたくしは地上戦力――先にサンダーファング(A)とサンダーデーモン(A)をヤっておきましょうか。

 それさえ斃せば地上戦力は雑兵だけとなります。


 ……やはり雷貴精トール(A)三体が一番面倒ですかね。

 ターニアで無理そうならわたくしも後から参戦するとしましょう。


 全部で132体ですか……五分はさすがに厳しいですが、十分あれば問題ないでしょう。

 豪勢な魔物部屋と思えばなかなか楽しいものですね。





■シャルロット 16歳

■第500期 Bランク【女帝の塔】塔主



『『『『『うわぁ……』』』』』



 画面から漏れ聞こえる声は塔主の皆さんだけでなく、隣で見ているジータさん、ゼンガーさん、ウリエルさんなどなど、全てが合わさった声でした。もちろん私も発しています。


 どうやって雷魔法の集中砲火を潜り抜けたのかも分からないですし、今現在もその動きがよく見えません。

 とにかくエメリーさんは駆け回りながら魔竜斧槍を振り回しているらしく、部隊で布陣している敵の魔物がまとめて千切れ飛んでいきます。

 いくら相手の魔物が硬くはないと言ってもゴブリンじゃないんですから。

 そんな簡単に斃したら、それは「うわぁ」と言ってしまいますよ。



 空は空でターニアさんの独壇場です。

 敵はターニアさんを狙って魔法を中心に攻撃を放っていますが、単独で飛び回るターニアさんを捉えられません。

 その一方でターニアさんは群れに向けて魔法を撃ちまくると。


 ターニアさんは極端に近接攻撃に弱いですしご自身の攻撃力もないのですが魔法の撃ちあいとなれば右に出る者は……そんなにいません。

 少なくとも素早く飛んで魔法を連発するような戦い方は他に天使とかしかいないのではないでしょうか。

 その上、指揮ができたりするので、さすがはSランク固有魔物という感じです。

 ファムで探れることも考えればSランクにしても破格に思えますけどね。



『たった二人でこんなことが起こりえるのですか……?』


『シルビアちゃん、参考にしたらあかんで? こんなの普通無理やから』


『ちょ、ちょっと同情しちゃいますよね、これは……』


『Aランク12体からなる132体の軍勢じゃぞ? それをよくもまぁ……』


『勝てるとは思っておりましたけれどね。相性的にもエメリーさんとターニア様ならば問題ないでしょうし』



 エメリーさんが苦手なのはリッチやゴースト系などの物理無効の魔物や飛行系の魔物など。

 ターニアさんが苦手なのは素早くて近接特化の魔物。バートリさんとかが相性最悪ですね。


 で、【轟雷】の魔物は攻撃力と敏捷が高い代わりに防御力が低く、群れているせいで高い敏捷性も意味をなさないと。

 そうなればエメリーさんの攻撃力とターニアさんの魔法攻撃力の餌食となります。どちらも【轟雷】の魔物以上に素早いですしね。



 いずれにせよこれで一番戦力のある【轟雷の塔】から高ランクの魔物が大量に消えました。

 あとに残っているのは固有魔物がSとAの二体とイエローオーガキング(A)三体くらいです。

 かなり有利になりました……が、まだ例の限定スキルがありますからね。油断はしませんよ。




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