169:ポッと出の敵について情報共有しておきます!



■アデル・ロージット 18歳

■第500期 Cランク【赤の塔】塔主



「はぁ? 【魔術師の塔】の同盟がエルフを?」



 同盟をつなげての通信でフッツィルさんからそんなことを言われた時、わたくしは思わず変な声を上げてしまいました。

 個人的にマークしていた塔ではありますが、いきなり名前が出て来ると驚くものです。



『【魔術師】同盟だけでなく【霧雨の塔】も、ということらしいがのう』


『【霧雨】は同盟の低ランク塔主から金を集めてるヤツやろ?』


『あ、あの、バベリオの大商会を使ってた【煙水の塔】の親玉みたいな……』


『【魔術師】同盟ってメルセドウ貴族なんですよね、アデルさん』



 【魔術師の塔】の同盟は三塔。うち二塔が貴族関係者ですわね。

 わたくしの知る情報をまとめて共有しておきましょう。



 筆頭は【魔術師の塔】ケィヒル・ダウンノーク。

 二十神秘アルカナのAランクで昨年のランキングでは9位。

 神賜ギフト神授宝具アーティファクトで杖でしたわね。


 元宮廷魔導士であり伯爵位を叙されていますが、ダウンノーク伯は『貴族派』の上位。

 わたくしのロージット公爵家が『王国派』の筆頭ですから、つまるところ敵です。



 二番手に【青の塔】コパン・メルンゲム。

 十色彩カラーズのBランクでランキングは28位。

 神賜ギフト神定英雄サンクリオの男性。素性は分かりません。

 もうそれだけで【魔術師の塔】より危険性が高く思えます。


 こちらはメルンゲム商会の商会長ですわね。本店はメルセドウの王都にある大店です。

 貴族派の連中とのつながりが太く、塔主となってからもダウンノーク伯の御膝元に収まり続けていると。

 まぁわたくしからすると【魔術師の塔】を防壁にしている印象ですが。



 そして三番手が【宝石の塔】ノービア・ウェルキン。

 過去に数度出ている既出の塔でCランクの70位。

 神賜ギフト神造従魔アニマでAランクのカーバンクルを引き当てた幸運な塔ですわね。


 ノービアは貴族派であるウェルキン子爵の長子。まだ二〇代のはずです。

 子爵がダウンノーク伯の下ですから必然的にノービアも傘下に入ると。

 ダウンノーク伯も無下にはできず一応同盟に入れたという感じではないでしょうか。



 ちなみに今期の新塔主となったジョセフォード・ランブレスタ子爵は紛れもなくダウンノーク伯の直下に当たるのですが、今のところ同盟には入っておりません。

 やはり【羽虫の塔】は引き入れたくないのでしょう。すでに見限っているかもしれないですわね。



『そう聞くと不憫やなぁ【羽虫】の人も』


「塔主に内定した時点でダウンノーク伯に連絡はしているでしょうからね。それで未だに同盟に入っていないということは即ちそういうことなのでしょう」


『【羽虫】を入れると貴族の汚点になるということか。なんとも薄っぺらい関係じゃの』


「貴族などそんなものですわ。デメリットしかない同盟など結ぶはずがありませんもの」



 しかしその同盟――と言いますかおそらく筆頭であるダウンノーク伯の意思ではあると思いますが、エルフを狙う意図が分かりません。

 仮に【忍ぶ者】と同じようにただのエルフ好きの変態だとしても、そんな趣向のために同盟の二塔を使い、自分は自分で上位の【緑の塔】に塔主戦争バトル申請までするものでしょうか。


 百歩譲ってそうだったとしても【青】のコパンが乗る・・とは思えないのです。

 大商人であるコパンはダウンノーク伯を利用しているはずですし、伯の趣味趣向の為に不利な戦いを仕掛けるわけがありません。


 まぁ【青】が申請しているのはBランクの【聖樹】やCランクの【紺碧】かもしれませんが、それとて同じことです。同盟として動いているわけですからね。



 もっと言えば、ダウンノーク伯にとって目の上のたんこぶなのは『4位のエルフ』ではなく『5位の中立派』。つまりは【節制の塔】のアズーリオ・シンフォニア伯のはずです。


 シンフォニア伯さえ斃せばバベルにおけるメルセドウのトップですし、貴族派にとって厄介な中立派を潰す一手になる。

 一番斃したいのは王国派のわたくしでしょうが、ひとまず置いておきます。



 ともかくそういった諸々を考えると、ダウンノーク伯が【緑の塔】とエルフたちを狙う意味が分からないのです。



『それこそ人間至上主義だからなのでは?』


「人間の国の貴族派である以上、ないことはないと思いますが、それにしても極端ですわよ。狙いやすい獣人やドワーフもいるのですし」


『ウチんトコには全く申請とか来とらんな。ゴルドッソさんの【土の塔】は知らんけど』


『み、【緑の塔】よりは【土の塔】のほうが狙いやすいですよね……多分』



 メルセドウ王国は神聖国家ペテルギアのように人間しか住まうことを許されていないというわけではありません。

 とは言えほぼ十割が人間ですし、どこかで他人種を目にすれば物珍しく思うものです。

 貴族は全てが人間ですから、貴族至上主義の者は平民と同じように他人種をも下に見るでしょう。

 特に貴族派はそういった考えを持っているだろうと容易に想像できます。


 しかし人間至上主義の者にとってはエルフだろうが獣人、ドワーフだろうが同じように下に扱うもの。

 バベルにはエルフ以上に獣人の方が数多いですし、狙いやすさは段違いでしょう。

 それなのに4位の【緑の塔】を狙うという意味が分かりません。

 まぁ申請した時には4位でなかったかもしれませんが。



『それもそうじゃが【霧雨】もじゃ。ここもエルフを狙っているという。それがどの程度の申請なのかは分からんが、クラウディアがそう感じるということはやはり分かりやすいのじゃろう』


「【霧雨】のザリィド自体、どこの出身であるとか情報がないですのよね。分かっているのは同盟を使って金を集めているというくらいですわ」


『バベルの塔主でありながら金を集める意味が分からんわ。TP稼いだほうが楽やろ』


『てぃ、TPをお金にしたほうがってことですよね……高ランクの塔でしたらその方が簡単でしょうし……』



 バベルの塔主でお金に旨味を感じるのは低ランクの新塔主くらいのものでしょう。

 数年でも保った塔であればTPを得ていて当然ですから、お金の価値がぐんと下がります。


 しかしお金というものが分かりやすい『財』『指標』には違いありません。

 お金を利用して価値を提示するというのはありえます。

 特に塔主以外、バベルの外に示すのならばお金は確かに必要でしょう。


 従ってザリィドもバベルの外で利用するためにお金を稼いでいる、現金として保有していると見たほうがよいでしょう。

 それが遊ぶ金なのか、商売の為なのか、よく分かりませんがね。あまり良い使い方をしているようには思えません。



 そしてそんなザリィドがエルフを狙うと。

 意図は分かりませんが、良からぬ想像しかできません。



『いずれにせよわしが探れるのは【宝石の塔】と【霧雨】以外の同盟塔くらいのものじゃ。そこから本命の狙いが漏れるのかは分からぬが一応は見張っておこうと思う』


『私もターニアさんに頼んでおきます』


「わたくしは実家経由でダウンノーク伯爵家とウェルキン子爵家を探ってみますわ」


『すまんな。よろしく頼む』



 フッツィルさんはエルフを守る為なのでしょうが、わたくしにとっても貴族派の動きは看過できるものではありません。

 そしてエルフを狙うことを人種差別と捉えるならば同盟にとっても敵となります。


 人間至上主義を大きく謳っているのは【聖の塔】同盟。

 ここも敵には違いないのですが、いかんせん敵が大きすぎる。Sランクはどうにもできません。


 それを考えれば次点となる敵が【魔術師】同盟と【霧雨】同盟となるのでしょうか。

 わたくしとしては【節制】同盟も敵なのですが中立派の扱いは難しいので置いておきます。


 他にも人間至上主義、貴族至上主義の者はいるとは思います。それが表立って敵となっていないだけで。

 まぁ潜在的な敵など探し始めたらキリがありません。

 塔主とはそもそも全てが敵同士なのですから。



 その中でこうして協力し合える同盟という環境がどれほど異端なことか。

 なんとも得難いものですわね。



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