317:アデルさんは策を講じます!



■オーレリア・ブルグリード 43歳

■第488期 Bランク【黄神石の塔】



 あれから何度もレッドキャップ(E)の投入は続きました。すぐにやられ、時間を空け、また侵入してくると。


 鐘一つ分(約三時間)で七回ほどの頻度です。

 時折レッドキャップ以外の魔物もおりました。レッドインプ(E)三体だとか、レッドウルフ(E)三体だとか。


 その度にわたくしとランスロットも身構えたのですが、その動きにレッドキャップとの差はほぼなく、斥候の役目も果たせずに即殺されるという有様。雑魚を無意味に随時投入しているだけ、という結論は変わりません。



 なぜそのような真似をするのか。わたくしはランスロットとよく話し合いました。


 おそらく狙いとしては″邪魔″だろうと。先遣でも牽制でも偵察でもなく。

 こちらが攻めに転じるのを邪魔しているか、わたくしが策を講じる時間を邪魔しているか、それともただの嫌がらせか。その程度しか絞れません。

 もしかするとそうしてわたくしを悩ませるのが目的かもしれません。


 であれば何かしらアクションを起こすはず。

 その予想が的中したのは塔主戦争バトルが開始して鐘三つ分(約九時間)が過ぎた頃のことでした。



「来たっ! やっと来ましたか!」


「雑魚とはいえ魔物を百体以上も無駄に消費しやっとですか。ようやくこれで塔主戦争バトルになりますね」



 【黄神石の塔】へと入って来た敵攻撃陣。その姿を確認します。



=====


 ジータ、飛行する女性型固有魔物(不明)、ルサールカ(A)10

 炎貴精サラマンド(A)5、ブラッディウォーロック(B)30

 ブラッディナイト(B)30、ブラッディアサシン(B)30

 レッドリザードキング(A)1、レッドリザードジェネラル(B)5

 レッドリザードナイト(C)40、ファイアウルフ(C)30、オルトロス(A)5


=====



 Aが21、Bが95、Cが70、不明が1。計187体とジータ。ジータと固有魔物はSランクと考えたほうがいいですね。

 想像よりも多少弱く感じますが、半数以上がBランク以上と考えれば精鋭部隊には違いないでしょう。


 おそらく【赤】の固有魔物には竜もいるでしょうし、そうなると攻撃側に回せない巨大な魔物も多いはず。その中で攻撃陣を組もうとすればこうなると。



「どう見ます、ランスロット」


「十二階層までは順調に進まれるのではないでしょうか。ただ数は相当削れます」



 【黄神石の塔】は九階層からAランクの魔物――クリスタルゴーレム(A)が率いるミスリルゴーレム(B)部隊や、ミスリルガーゴイル(A)が率いるガーゴイル(B)部隊などが出始めます。


 それに対抗できそうなのはジータと固有魔物、あとは精々Aランクの魔物くらいでしょう。Bランクの魔物が群れで戦えばどうにかなるかもしれませんが、いずれにせよかなりの″削り″が見込めます。



「あの面子ですと十三階層のほうが対処に困りそうですが魔物の質が段違いですからね……私としては十三階層の主力を十四階層に上げて、一気に叩きたいところですが」


「しかし″猿″たちを活かすのならば″森″が最適ですからね。十四階層ですと普通に襲わせるくらいしかできませんし」


「ええ、戦果に大きな差が出ると思います。そうなりますとやはり従来配置で臨むべきでしょう」



 十三階層に配置しているのは【跳躍の塔】の召喚報酬、聖猿皇ヴァナラ(★S)、ハヌマーン(A)、キラーエイプ(B)、エイプウィザード(B)からなる猿部隊です。

 【黄神石の塔】の魔物とは全く異なる、敏捷と攻撃に長けた魔物たち。

 十二階層まで防御特化の魔物と戦ってきた敵攻撃陣からすれば戦いにくい事この上ないでしょう。


 おそらく十三階層が一つのポイント。ここでジータを斃せれば良し。

 斃せなくとも、十四階層でランスロットが斃せれば良し。



「もし十四階層に上がってきたらランスロットにはジータの相手をしてもらわなくてはなりませんわよ?」


「ええ。ですが一対一なんてしませんよ。ちゃんと部隊でお相手します」


「それでこそわたくしの塔の騎士団長ですわ」



 ″元″騎士団長、ジータの部隊はその頃どの程度残っているのですかね。

 ランスロットとジータの戦いを見たい気持ちもありますが、ここは勝利を優先させましょう。



「<黄神の加護>はどうされますか」


「Aランク以上の全て……と言いたいところですが十三階層以上の全ての魔物に優先させましょう」


「十二階層以下のAランクも外すということですね。承知しました」



 わたくしの限定スキル<黄神の加護>は『自塔内限定で指定魔物の魔法耐性・状態異常耐性を上げる』という効果。


 これにより、物理防御に特化したわたくしの魔物たちが魔法防御にも特化するということになります。

 そうなれば炎貴精サラマンド(A)の火魔法でも早々斃されることはありません。


 十三階層の猿部隊は物理防御が高いというわけではありませんが魔法には滅法強くなると。

 十四階層のランスロット部隊に関しては鉄壁ですわね。それこそジータくらいしかまともに戦えないのではないでしょうか。



 さて画面を注視しましょう。

 敵攻撃陣は一階層の『鉱山洞窟』を進軍中。

 ブラッディアサシン(B)やファイアウルフ(C)といった斥候を先頭に、前衛にリザード部隊、中央にジータ、後衛にオルトロス(A)。空に固有魔物とルサールカ(A)、ブラッディ部隊という編制。


 非常にオーソドックスと言っても良いでしょう。着実に探索し進軍するという感じですね。

 対するこちらの魔物はCランクが中心。下層ではボスにBランクを置いている程度です。


 ジータが指揮をとっている以上、下手な魔物を当たらせるようなこともしませんし、対処は間違えないと思ったほうがいいでしょう。


 魔法をほとんど使わせていないのも魔力の温存ですか。

 これでは削れてもせいぜい体力くらいのもの。罠もブラッディアサシンのせいで今のところ的確に避けられていますしね。



 ただこれが続くとも思えません。上層に行くに従って被害は大きくなるでしょう。

 出来ればそれまでにAランクの一体でも削って欲しいところですが……さすがに夢を見すぎですかね。

 まぁじっくり見させてもらいましょう。【赤の塔】の力とやらを。





■アデル・ロージット 19歳

■第500期 Bランク【赤の塔】塔主



 わたくしが考えていた策、同盟の皆さんから出てきた策、そしてレイチェル様とクラウディアさんにお聞きして頂いた策。

 それらを全て踏まえ、今回の塔主戦争バトルにおける作戦は決まりました。


 当初は勝てるビジョンが『完全防衛策』と『ジータでどうにかする』くらいしか見えずどうしたものかと思いましたが、色々と煮詰めていくにつれて『これならば確実に勝てる』という方法を見出せました。


 本当に皆様には感謝ですわね。特にわざわざお手紙で聞いて下さったシャルロットさんとフッツィルさんには頭が上がりません。


 バベルには似つかわしくない″同盟″という信頼関係。そこから圧倒的強者への繋がり。

 わたくしは周囲に恵まれたのだな、と深く感じました。改めてこの同盟に入って良かったと思いましたわね。



 レイチェル様にしてもクラウディアさんにしても長年に渡りバベルで勝ち続けている偉大なる先達です。

 そのご意見というのは非常に貴重で、わたくしからしても「なるほど、そう考えるのか」と思わされることが多くありました。


 わたくしの塔のことなどほとんど知らないお二人ですのよ?

 それなのに【赤の塔】はこういう塔でこういう戦力だろう、【黄神石の塔】はこのような感じだろう。ならばこういう戦いになるはずだからそれに勝つには――と予想して考えて下さっているのです。


 1位と4位は伊達ではない。本当に凄まじい塔主だと思いましたわ。



 【黄神石の塔】が完全防衛策で出ることはお二人も予想していました。

 わたくしはそこから、こちらも完全防衛策に出て我慢比べをし、意地でも自塔で敵戦力を削るという考えでおりました。


 しかしレイチェル様はこう仰います。


=====


 意地の張り合いは愚策です。無駄に体力を消耗しますし向こうが折れる保障もありません。

 従って私ならばある程度時間をかけてから【黄神石の塔】に侵攻します。

 向こうは「これで勝った」と思うはずですから、その綻びをつきたいですね。

 その方法ですが――


=====


 とのこと。そしてクラウディアさんも同様のご意見でした。


=====


 一度相手に有利と思わせてから徐々に焦らせてこちらの有利を築くというのが理想だと思います。

 気付いた時にはこちらの術中に嵌っていたという風に思わせたいと。

 速度をもってなぎ倒せる敵ではないですから、時間はどうしてもかかる。ならば尚の事余計に時間をかけて確実に攻略していくのが私の好みです。

 こちらに被害が出ず、じりじりと攻略すれば次第に焦ってくるでしょう。敵陣と言えども長期戦はこちらに有利となるはずです。


=====


 とのことです。

 完全防衛策の我慢比べが一番の勝ち筋と考えていたわたくしは間違いであったと、早々に思わされました。

 わたくしもまだまだ甘いですわね。



 そしてわたくしはまず完全防衛策に出ているを装いました。偽りの防衛策ですわね。

 本当は丸一日くらい待っても良かったのですが鐘三つ分程度で留めておきます。攻略にも時間をかけたいですから。


 レッドキャップの連続投入はあちらに緊張感を与え続けることで精神的消耗を狙ったものですが、それ以外にも大きな理由がありました。


 同盟で相談している時にシャルロットさんからこのようなご意見が出たのです。



『ファムで見られないのが痛いですよね……あ、クルックーを小さくしてファムみたいに使えませんかね?』と。


 ああ、その手があったかと。青天の霹靂でした。

 【魔術師】同盟戦の最後に見せたフェニックスクルックーの最小化。それはわたくしにとって奥の手でした。だからこそパレードでも小鳥サイズに留めておいたのですからね。


 最小化させたクルックーをファムのように扱う。つまりはSランク固有魔物という強大な戦力をただの斥候として扱うと。

 持ち主のわたくしでさえそのような勿体ない使い方は考えません。その柔軟さには恐れ入ります。



 デメリットもあります。

 あのサイズになったクルックーは水魔法の一発でもくらえば大ダメージとなりますし、ターニア様並みの<魔力感知>ならばバレてしまうと。おそらくエメリーさんの<気配察知>でも見つかるでしょう。ファムと全く同じとはいきません。


 しかし、それこそ【影の塔】のような斥候特化の塔でもない限り、ターニア様やエメリーさん並みの魔物がいるとも思えません。【黄神石の塔】は防御特化ですからね。

 ならばやる価値はあるだろうと。


 そしてクルックーを【黄神石の塔】に潜り込ませるためにレッドキャップを随時投入したのです。目くらましと陽動目的ですね。



 クルックーは天井付近に隠れながら鐘三つ分をかけて塔の内部を探りました。

 扉で塞がれていようがあのサイズのクルックーには関係ありません。わずかな隙間さえあればいいのです。

 塔構成、魔物配置などを調べ上げ、やっと最上階にまで辿り着いたのです。


 玉座の間にはオーレリアの姿と隣に立つ騎士の姿がありました。オリハルコンの鎧を纏った騎士。

 リビングアーマー系の最上位なのか亜人系なのかは分かりません。しかしこれがSランク固有魔物であるのは確実だろうと。



「ランスロット、ですか……察知能力は大したことなさそうですが」


「俺と戦うことになりそうだな。面白そうな相手だ」



 と、隣の戦闘狂はご満悦です。

 全身オリハルコンの騎士なのですから嬉しそうにしてもらっても困るのですがね。


 あまり油断しているとすぐにでもクルックーに宝珠オーブを砕いてもらいますわよ?

 この状況がすでにわたくしの勝ちなのですから。



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